PoCとは
PoC(Proof of Concept)とは日本語で「概念実証」という意味で、新しい技術や理論、アイデアなどが実現可能かどうか、ユーザーにとってどのような価値があるのか、などを検証するものです。
PoCについて詳しくはこちらの記事もご覧ください>PoC(概念実証)とは?メリットやデメリット、成功のポイントを解説
PoC開発のメリットと重要性
プロトタイプ製作や実証実験の前にPoCを実施することで早期に課題が見つかり、改善につなげることができます。また、比較的早い時期に開発中の製品・サービスの実現性を見極めることができ、無駄にコストや時間、工数を重ねる失敗を防ぎ、リスクを回避します。さらに、PoCを実施することで新規事業への社内外や投資家の理解が深まり、協力が得やすくなる可能性があります。
PoCを活用している業界例
PoCはさまざまな業界の研究開発、事業開発で導入されています。最近ではAIやIoT導入のためにPoCが活用される事例も少なくありません。
製造業界
常に新製品が企画・開発されている製造業は、PoCと親和性の高い業界です。アイデアの検証、技術の検証、ニーズの検証、ユーザビリティの検証など、プロトタイプ製作や実証実験に至る前のさまざまな局面で小規模にPoCを実施し、課題を一つひとつ解決して製品化へ進みます。特に研究開発では多額のコストがかかるため、PoCにより実現可能性を示し、デモンストレーションを実施することで社内外の理解や予算を獲得するケースが多いといわれています。
情報技術(IT)業界
IT業界では新しいシステムの導入やセキュリティの検証などで、しばしばPoCが行われます。流れとしては、仮説を立て、それに基づいたモデルタイプを作製し、実際の現場でPoCを実施し、システムやセキュリティの有効性を検証します。また、大規模なシステムを構築する際はパーツごとに分かれてチームを組んでプログラミングを進めていくため、各チームで小規模な検証を重ね、最終的にパーツ統合後の検証へとつなげていくことが多いといわれています。
医薬品業界
薬品業界では、新たな薬剤や医療機器、治療法の開発シーンにおいて安全性や有効性などが慎重に検討されます。一般的に新薬の開発には10年以上の歳月を要し、膨大な研究開発費が必要といわれるなか、PoCは開発に欠かせないプロセスになっています。研究段階で構想した薬効の安全性・有効性などを小規模の患者を対象に調べる臨床試験を「PoC試験」と呼び、期待される効果が出た際は「PoCを取得した」として、ヒトへの大規模臨床試験へと進むことができます。
金融業界
DX化が進む金融業界では、ブロックチェーン技術やデジタル通貨の実証などにPoCを活用しています。社会的重要度が高く、信頼性が何よりも重視される業界で、PoCを用いてセキュリティ性の向上や取引の効率化が図られています。
エネルギー業界
太陽光・風力などの再生可能エネルギーや、今後利用の拡大が予測される水素エネルギーなど、エネルギー業界では「つくる・運ぶ・貯める・使う・省エネする」などの各局面で新しい技術やアイデアが必要とされています。PoCを活用しながら、日進月歩の技術革新が進んでいます。
小売業界
人手不足や人件費高騰により、小売業界ではセルフレジやレジなし店舗が増えており、レジのスキャンミスや万引きなどのトラブルの解決策に新技術が誕生しています。たとえばカメラとAIによる映像分析技術を実店舗へ導入するには相当なコストがかかるため、費用対効果の検証などにPoCが行われています。
交通・物流業界
交通業界では自動運転技術の進展、高齢化によるドライバー不足、MaaSやライドシェアの登場などにより、次世代交通サービスへの模索が続いています。物流業界ではAIによる日々の需要予測や、それを活かしたスマート倉庫などが登場しており、いずれもPoCを繰り返しながらソリューションを追求していくことが重要とされています。
PoCで検証する内容
PoCでは、その新製品・新サービスがユーザーにとってどれほど価値があるのか、実現可能性はどの程度か、事業スタート後どの程度ビジネスの継続性があるのか検証します。
PoCの流れ
PoCは次のプロセスで進めます。
目標を設定する
PoCを通じてどのようなデータを収集したいのか、どのような結果が欲しいのか、具体的な目標を定めます。目標が具体的でないとPoCを行う目的自体がブレてしまい、結果が出ても的確に分析することができません。また、目標を明確に設定することで、「PoC自体が目的になってしまう」事態を避けることにつながります。
検証する
目標が設定できたら、具体的な検証内容と検証方法を決定します。できる限り、本番に近い環境やスキルのある人的リソースを確保し、精度の高い検証を進めていきます。
評価する
PoCで得られたデータをもとに結果を評価します。実現の可能性はどの程度あるのか、工数はどの程度かかりそうか、費用対効果はどの程度なのか、などを評価した結果、プロトタイプ製作や実証実験に進むこともあれば、「事業実現の可能性が低い」と開発中止を決定することもあります。また、PoC前に立てた仮説が成立しないことがわかり、新たな仮説を立てて再度PoCをやり直すこともあります。
PoCの進め方について、詳しくはこちらの記事をご覧ください>PoC(概念実証)はどうやるの?進め方を4つのステップで解説
PoC開発を成功させるためのポイント
PoCを成功へと導くポイントを解説します。
目的を明確に
PoCを始めるとPoC自体が目的となってしまい、当初に立てた目的やゴールを見失うケースがあります。「なぜPoCを行うのか」「このPoCでどんなデータを入手したいのか」といった焦点がブレないように、目的・目標・ゴールを明確に設定することが重要です。
スモールスタートで
PoCを始めるにあたって、「あれもこれも」と結果を欲張るとPoC自体が大規模化してしまい、コスト・時間・工数などが予想外に膨らんでしまうケースがあります。PoCは実現可能性や事業性を探るためのものですので、目的やゴールを絞り、小規模でスピーディにPDCAサイクルを回転させることが理想です。有効なPoCを積み重ねることで、より効果的な検証へと近づいていきます。
本番に近い環境で
PoCを実施する際は、できる限り本番に近い環境と条件で、本番で関わるスタッフに多く参加してもらうように努めます。参加するスタッフに偏りがあると、PoCですべての課題をあぶり出すことができず、PoC後のプロトタイプ製作や実証実験の段階で初めて課題に気付く事態になりかねません。また、本番に近い環境での検証は社内外や投資家を説得する際の好材料となります。
自社だけで実施が難しい場合は、経験のある企業に依頼する
PoCの目的や実施内容を決める際は、プロジェクトチームのメンバーだけでなく、周囲の意見にも耳を傾けながら進めることをお勧めします。一般的に、企画段階から関わるメンバーはプロジェクトへの思い入れが強いため、思わしくない結果が出ても認めようとしなかったり、欲しい結果が出るまでPoCを繰り返したりするケースがあるといわれています。コストや時間の無駄を防ぎ、PoCの効果を最大限に引き出すためにも、PoCの実績やノウハウが豊富な外部企業に協力を求めることも検討します。
新規事業の立ち上げにはPoCが重要
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)ではさまざまな業界の企業に向けて、PoC支援を実施してきました。その実績の一部と、SSAPが新規事業開発を立ち上げた企業に取材したPoCの事例をご紹介します。
SSAPの支援事例
サントリーの研究から生まれた、前代未聞のウェアラブルデバイス
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社が開発中のウェアラブル端末「XHRO(クロ)」は首の後ろに装着することで、日常生活を送りながら脳波・心電・脳波・血糖・血圧などの数値を24時間365日記録することを目指すデバイスです。SSAPではハードウェアの開発と組み込みのソフトウェア開発を支援。モックアップの作成によるPoC検証を重ね、首の後ろに貼り付けるという現在の方向性が定まりました。作製した試作機は、「CES2023」でCES 2023 Innovation Awardを受賞しました。
詳細はこちらの記事をご覧ください サントリーが切り拓く未来 ―生体データ計測デバイス「XHRO」―
オーディションで起業アイデアを発掘し、製品化を実現したREON POCKET
インナーウエア装着型の冷温両対応ウェアラブルデバイス「REON POCKET」は、地球温暖化による猛暑に直面したソニーグループ株式会社の社員が「環境課題をテクノロジーで解決する」ことをコンセプトに立ち上げた新規事業で誕生した製品です。SSAPの新規事業アイデアのオーディションを通過後、2019年4月にプロジェクトが発足。SSAPとともに事業仮説の構築からPoCによる事業化検証や技術検証を進め、クラウドファンディングを経て事業化に成功。2021年には次世代モデルも発売されています。
詳細はこちらの記事をご覧ください 「REON POCKET」舞台裏
SSAP取材による大企業の新規事業 事例紹介【資生堂】
スタートアップ企業との連携で起こす、ビューティイノベーション
資生堂は「世界で勝てる日本初のグローバルビューティーカンパニー」をゴールに掲げ、2019年より資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)内でオープンイノベーションを加速させるプログラム「fibona」をスタート。研究員が多く在籍する研究所の中にスタートアップ企業やユーザーと交流できる場を用意し、「Beauty Wellness」や「Medical Beauty」をテーマに連携。PoCを実施してきた実績があります。2022年には中国の研究所で「fibona China」が誕生し、現地のスタートアップ企業などと協業して複数のPoCを進めています。
詳細はこちらの記事をご覧ください 【資生堂編 #1】資生堂の研究所発、”美”のオープンイノベーションプログラム
SSAP取材による大企業の新規事業 事例紹介【JAL】
SSAPの活動も参考に、一人で立ち上げた新規事業プロジェクト
日本航空株式会社(JAL)は2017年6月よりJAL Innovation Labを拠点に新規事業創出のオープンイノベーションを実施しています。社内には約200人のラボ会員がおり、新規事業や業務改善のアイデアを持ち寄り、空港や飛行機の中ではできないPoCや実証実験をラボで行っています。新規事業プロジェクトの進め方については「3か月ルール」を設け、ひとつのプロジェクトに3か月で区切りをつけるよう指導。さらに「将来のゴール」と「足元のゴール」を明確にし、「将来のゴール」を語ることで関係者を巻き込み、3か月間でできる「足元のゴール」を具体化させます。その結果、よりスピーディにPoCを回せるようになり、「将来のゴール」へと近づけています。
詳細はこちらの記事をご覧ください 【JAL編 #1】経営破綻からの再生、1人で始めた"新規事業組織"
SSAP取材による大企業の新規事業 事例紹介【ニチレイ】
食のフロンティア企業が新規事業で社会課題にアプローチ
株式会社ニチレイでは、新規事業開発組織から多数の新規事業が誕生しています。代表例のひとつが献立自動生成アプリ「me:new(ミーニュー)」。「献立を考えるのが大変」というユーザーの悩みを、1週間分の献立を自動生成することで解消するものです。類似サービスを展開するスタートアップ企業と協業し、ともにPoCで仮説検証を行うことで事業化に成功。ニチレイ初のアプリサービスとなりました。また、2022年1月に発売を開始した新しい主食「ごはんのみらい」は米に糖質50%カット・食物繊維約10倍の独自加工を施した製品で、現在もユーザーの声を聴きながらPoCで改善を図っています。
詳細はこちらの記事をご覧ください 【ニチレイ編 #3】初のアプリサービスに、糖質50%オフのパーソナライズできる主食まで?
新規事業におけるPoCをSSAPがサポートします
新規事業開発において、実現可能性や事業性を的確に判断するには、各種の検証を実施し、広い視野で評価を行う必要があります。「事業アイデアの検証方法がわからない」「事業性検証の結果が、事業化・投資判断ができるレベルまで至っていない」「PoCを取得したいが、PoCを進めるリソースとスキルが不足している」など、企業が抱える悩みにSSAPが寄り添い、PoCの計画策定から実行までをサポートします。
SSAPのサービスメニューの一部をご紹介>>
事業立ち上げの経験者が4つの視点から事業性検証を支援:事業性検証支援
客観的に投資判断ができる事業性検証レポートを提示:事業性検証代行
PoCに関するよくある質問
PoCに関する疑問にお答えします。
PoCはどのタイミングで実施しますか?
PoCはプロトタイプ製作や実証実験の前に実施するのが一般的とされています。ただし、PoCでプロトタイプの改善を進める事例もあります。
PoCを実施する理由は?
プロトタイプ製作や実証実験は実際に試作品を作り、現実に近い環境で実験をするため、それなりにコストとリソースがかかります。PoCはプロトタイプ製作や実証実験の前に、実現可能性に絞って検証するため、「実現可能性が低い」と判断されたときにその後のコストや時間の削減、工程の無駄を省くことができます。
PoCとPoBの違いは?
PoCは新規事業の実現可能性を早い段階で探るものです。一方、PoB(Proof of Business)はその新製品・新サービスが新規事業としてどれほど持続可能か、収益性やコスト構造面から分析するものです。ただし、プロジェクトの現場では、PoBも含めてPoCを実施するケースがあります。
SSAPではPoCの豊富な知識とノウハウを蓄積しています。詳しい内容をお知りになりたい方はお気軽にお問い合わせください。