2022.11.29
Sony Startup Acceleration Program 新規事業の基礎知識

新規事業推進のために乗り越えるべき「キャズム」とは

企業が新規事業を展開していく過程で、導入期は順調に伸びていた売上やシェアが途中から伸び悩むことがあります。その原因の1つとして考えられているのが「キャズム」と呼ばれる現象です。新規事業をスムーズに進めるために、キャズムについて詳しく解説します。

「キャズム理論」とは?

「キャズム(chasm)」とは「深い溝」や「裂け目」を意味する英単語で、新規事業や新製品を市場に普及させていく過程で現れる壁を指します。1991年に米国の経営コンサルタントのジェフリー・ムーア氏が著書の中で「キャズム理論」を提唱し、広く知られるようになりました。

◆ 「キャズム」が新規事業の推進や新製品の普及を左右する
新しい事業や製品をリリースし、市場でのシェアを徐々に拡大させるプロセスで、導入期は新しい機能や目新しさ、話題性などで順調にシェアを伸ばしていくものの、成長期に入ると「キャズム」に陥るケースがあります。キャズムに陥ると売上やシェアの伸びが鈍化し、なかには最終的に淘汰されてしまう事業や製品も存在します。新規事業や新製品を普及させていくためには、キャズムを超える必要があるといわれています。

 

キャズム理論の前提となる「イノベーター理論」について

キャズム理論のベースになっているのが、1960年代に米国の社会学者エベレット・M・ロジャース氏が提唱した「イノベーター理論」です。イノベーター理論は、新規の製品・サービスが市場へ普及していく過程を表したものです。

イノベーター理論への理解が深まる「プロダクトライフサイクル」についてはこちら>>新規事業の戦略にも役立つ「プロダクトライフサイクル(PLC)」とは?

 

イノベーター理論における5つのタイプとそれぞれの訴求ポイント

イノベーター理論では、新しい製品・サービスが普及していく過程を、時系列で5つの消費者タイプに分類します。それぞれのタイプの特徴と訴求ポイントは次のとおりです。

◆ イノベーター(革新者)
新製品・サービスや最先端の機能、斬新な使い方やライフスタイルなどに価値を見出す層です。新しい機能や性能を試すこと自体が目的である場合もあり、コストパフォーマンスにはあまりこだわらないといわれています。

◆ アーリーアダプター(初期採用者)
新製品・サービスを常に探しており、それが自分のニーズや欲求に合う場合は早い段階で導入する層です。周囲がまだ導入していない段階で試し、その情報を積極的に発信するため、インフルエンサーやオピニオンリーダーになる可能性があるとされています。

◆ アーリーマジョリティ(前期追随者)
新製品・サービスに関心があり、「流行に乗り遅れたくない」という思いがある一方で、安心感や実績を重視する層です。周囲の人の口コミや、インフルエンサーやオピニオンリーダーの意見に影響されやすい特徴があるといわれています。5つのタイプの中で、次に紹介するレイトマジョリティと並んで比率が高いため、アーリーマジョリティに浸透すると一気に新製品・サービスの普及率が高まるとされています。

◆ レイトマジョリティ(後期追随者)
新製品・サービスの導入に消極的で、周囲の人が導入しているのを確認してから自身も追随するタイプです。アーリーマジョリティと同程度の比率で存在するといわれています。

◆ ラガード(遅滞者)
新製品・サービスにあまり興味を示さない、もっとも保守的な層です。製品・サービスがこの層まで浸透すると、世の中に定着したといえます。

 

イノベーター理論とキャズム理論の違い

イノベーター理論では、アーリーアダプター層がマーケティング上もっとも重要な顧客タイプと考え、この層への浸透に力を注ぎます。一方、キャズム理論では、イノベーターとアーリーアダプターを「初期市場」、アーリーマジョリティとレイトマジョリティを「メインストリーム市場」と考え※、その間に「キャズム」(製品・サービスを普及させるときに障害となる大きな溝)があるとされています。

※ラガードまでを「メインストリーム市場」とする説もあります。

キャズム理論

 

キャズムはなぜ超えにくいのか

初期市場の顧客は「新しさ」や「革新性」に重きを置くのに対して、メインストリーム市場の顧客は「安心感」「信頼性」「実績」を求める傾向があります。そのため、メインストリーム顧客層は新しいものや今まで世の中に存在しなかったものに不安を感じ、周囲の人が導入していない製品・サービスには様子見をしてしまう傾向にあることから、キャズムが生まれてしまうと考えられます。この傾向は製品・サービスが革新的であればあるほど強まる可能性があります。

 

キャズムを超えるヒント

キャズムを超えるには、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの特徴と違いを把握し、それぞれの層に合った攻略方法を考える必要があるといわれています。

◆ アーリーアダプターとアーリーマジョリティのニーズの違いを理解する
アーリーアダプターは高い情報感度と強い好奇心を持ち、「新しさ」になによりも魅力を感じるとされています。他の人々に先んじることが重要で、それが導入のきっかけになる可能性もあります。また、斬新な製品・サービスであれば、多少使い勝手が悪くても、自分なりに工夫して利用し続けることもあります。
一方、アーリーマジョリティは新しいものに興味はあるものの、「信頼できる製品なのか」「どんな人が購入しているのか」など、安心できる情報を集めてからでないと導入に踏み切りづらい傾向があります。使い勝手が悪い場合は、アーリーアダプターのように自分で工夫するよりも、使い勝手が改善されてから導入を検討するといわれています。キャズムを超えていくためには、こうした両者の違いを理解し、それぞれに適したマーケティング手法を展開していくことが必要だとされています。

キャズムを超えていくための詳しい説明はこちら>>キャズムを超えて、新規事業を普及させる戦略とは

 

キャズムを読み解く

どのような場合にキャズムが生じるのか、一例を各種データからご紹介します。

◆ キャズムを超えた事例
今やスマートフォンは多くの人が利用している情報通信機器として浸透しましたが、個人保有率の推移(図1)を見ると同じペースで増加し続けたわけではないことがわかります。2012年から2013年にかけて保有率が23.1%から39.1%へと急速に伸びており、ここでキャズムを超えたことが推測できます(図1)。その背景には、スマートフォンそのものの利便性が広く知られるようになったことはもちろん、LTEが普及して移動通信の方法がスムーズになったことや、SNSがコミュニケーションや情報収集の手段として急速に定着したことがあると考えられます。

図:スマートフォン個人保有率の推移
図1

◆ 世代により存在するキャズム事例
消費者のタイプだけでなく、世代などによってもキャズムは存在します。世代間で明らかなキャズムが存在していた例としてネットショッピングが挙げられます。総務省の調査(図2)によると、1世帯あたりのネットショッピング支出額は世帯主の年齢が50歳代と60歳代の間に大きな隔たりがあります。同じ世代でスマートフォンやタブレット端末の所有数(図3)を見ると、やはり50歳代以下の世代に比べて60歳代以上の保有率が低く、ここに世代間のキャズムがあったことがわかります。

年代別1世帯当たりのネットショッピング支出額
図2
世帯主年代別スマートフォン携帯電話所有数量
図3
世帯主年代別タブレット端末所有数量
図3

 

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【連載】「猫壁(にゃんぺき)」な人たち ~LIXILから生まれたキャットウォール~
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Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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