フレームワークとは、ビジネスで何かを思考するときや課題解決を図りたいときに、頭の中を整理するためのツールです。一定の枠組みを使って思考や検証を行うため、情報が整理しやすく、目標達成への解決策を見つけやすいのが特徴です。新規事業創出において、アイデア出しから始まり、その内容を分析・検討し、事業計画を立案・推進していくというプロセスで活用できるフレームワークとは何かを、ソニーが提供する新規事業支援プログラムSony Startup Acceleration Program(SSAP)がご紹介します。
なぜ新規事業を開発するのか?
フレームワークを活用する際、前提となる「新規事業を創出する意義」については、次のような点が挙げられます。
◆ 新規事業創出は企業の持続的発展のため
事業環境の変化は目まぐるしく、先が読みにくい時代です。新たなテクノロジーが次々生み出され、新たなプレーヤーが登場する中、いまは安定している企業でも同じビジネスモデルで収益を上げ続けていくことが容易ではない時代になっています。
このような事業環境の中、中長期的に発展を続けるための打開策の一つが新規事業の開発です。
◆ 次世代の経営人材育成につながる
企業の発展という点では、優秀な人材が集まり協力しあうことも重要な要素の一つです。「人を育てる」という意識が、企業経営には必要といえます。新規事業の立ち上げにおいて、ソニーの新規事業支援ではアイデア出し、アイデア出し、内容を分析・検討、事業計画を立案・検証・推進していくというプロセスを経ていきます。チームを率いてさまざまな困難を乗り越えていくという経験は極めて重要で、将来の幹部を育てるうえで非常に有効な方法です。
新規事業を開発するまでのステップとは
ここでは、新規事業をゼロから立ち上げ、事業化するまでの一般的なステップを整理します。それぞれのステップで活用できるフレームワークを記事後半でご紹介します。
◆ 1. 新規事業のアイデアを考える
どのような事業も、最初は小さなアイデアのタネから生まれます。事業アイデアを考えることが最初のステップです。
◆ 2.マーケットニーズの調査・分析
アイデアの方向性が見えてきたフェーズで行うべきなのは、その分野の市場調査です。自分の感覚を頼りにするのではなく、関係者のインタビューやアンケート、資料収集などを通じて正確な情報を集めて分析します。
◆ 3.事業内容を構築する
アイデアが決まったら、事業化ができるかどうかを検討します。そのアイデアは顧客の課題を解消できるのか、市場に受け入れられるのか、競合優位性が確保できるのかなどを問いかけながら、ビジネスモデルをつくりあげていきます。さらに、その収益性や実現性などを検証して、いかにして事業を立ち上げるかを検討。その結果を、事業計画へ落とし込みます。
◆ 4.事業スタート後も修正・改善を続ける
事業計画にGOサインが出たら、いよいよ新規事業のスタートです。しかしここがゴールではなく、事業が軌道に乗るまで修正や改善を続ける必要があります。
以上、新規事業開発のステップについてまとめました。続いてそのステップごとに活用してみたい代表的なフレームワークをご紹介します。
フレームワークとは?
フレームワークとは日本語で「枠組み」のことを指します。なにか考え事をする時に、ひたすら「ああでもない、こうでもない」と悩むより、一定の枠組みに沿って考えた方が検討事項に漏れが生じないうえ、思考がまとまり問題解決につながりやすくなります。
◆ 新規事業の立ち上げにフレームワークを活用するメリット
適切なワークフレームを上手に組み合わせることで、新規事業のさまざまなフェーズで意思決定をスピーディーに行うことができます。また、説得力のある事業計画を作る際にも、フレームワークを使った分析・検討は大いに役立ちます。
「アイデア出し」のフレームワーク
◆ アイデアを8倍にふくらませる「マンダラート」
「マンダラート」とは、3×3の9つのマスを書き、真ん中にテーマを記入し、そのテーマに関連するアイデアを周囲に書き込んでいくだけで、発想を広げることができるフレームワークです。最初のテーマに関連するアイデアを周囲に8つ書き込んだら、次にそれぞれの関連アイデアの周囲にさらに8つのアイデアを書き込むことで、発想を広げていくことができます。
◆ アイデアを展開していく「SCAMPER(スキャンパー)法」
SCAMPER法は、7つの切り口をもとにアイデア発想を助けるフレームワークです。「SCAMPER」とは、「Substitute(代用)、Combine(結合)、Adapt(応用)、Modify(修正)、Put to other uses(転用)、Eliminate(削減)、Reverse・Rearrange(逆転・再編成)」の略で、これらの質問に答える形で発想を促すというフレームワークです。考案者の名前をとって「オズボーンのチェックリスト」とも呼ばれます。
SCAMPER法の7つの切り口
- Substitute(代える) 他のものに置き換えられないか?
- Combine(組み合わせる) 複数の製品をどのように組み合わせることができるか?
- Adapt(適応させる) 他に類似したものはあるか?過去のアイデアは使えるか?
- Modify(修正する) 大きさや色の変更は可能か?
- Put to other uses(他の使い道) 他の使い方がないか?
- Eliminate(削減する) 現在の製品から取り除けるものはないか?
- Reverse・Rearrange(逆転・再編成) 逆にしても可能か?並べ替えをしても可能か?
◆ アイデア発想や課題発見には「5W1H」
抽象的なテーマを、より具体化するときに有効なフレームワークです。What(なにを)、Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How(どうやって)という6つの要素で具体的に考えることができます。
◆ 情報を具体化する「6W3H」
上記の5W1Hでは、When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのようにして)の項目で構成されていました。6W3H は、これにWhom(だれに)、How many(どれだけ)、How much(いくらで)の3つの分析項目を加えたフレームワークです。抽象的なテーマや曖昧な情報をはっきりと具体化させたい時などに使いやすいツールです。
◆ チームのベクトルをあわせる「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」
プロジェクトを進めていくにあたって、最終的に何を実現したいのかをメンバーが共有することはとても重要です。「MVV」は、自社が社会において存在する意義や役割を定義し、チーム内で共有するためのフレームワークです。
◆ ターゲットを具体的に想定する「ペルソナ分析」
新規事業を開発する際には、消費者のニーズを絞り込み、そのニーズに対応するコンセプトを設定します。その際「どんな人がこの製品やサービスを買うのか」を検討します。ペルソナとは、年代や性別、職業、価値観など、新規事業のターゲットとして想定している具体的な顧客像のこと。ペルソナを明確にすることで、提供する製品やサービスの軸が決まります。
「マーケット調査・分析」のフレームワーク
◆ 自社の立ち位置を定める「ポジショニングマップ」
ポジショニングマップは、ターゲットとなる市場において、各社の商品やサービスがどのような立ち位置にあり、自社がどの位置を目指すのかを明確にするフレームワークです。
まず、顧客が商品を購入する場合に重要視する要素を2つ選び、それをタテとヨコの軸に設定します。次に、競合他社の商品がどこにあるのかをマッピングし、自社商品がどこを目指すべきなのかの検討材料にします。
◆ 事業の方向性を定める「3C分析」
3C分析とは、Customer(顧客・市場)、 Company(自社)、Competitor(競合他社)という、経営に重要な利害関係のある3者の視点で分析し、バランスのよい経営戦略を立てるためのフレームワークです。
3つの要素のうち最も大事なのは、もちろん顧客です。顧客に焦点を当てながら競合と自社を比較してどのように優位に立てばいいのかを検討する際に用いられます。
◆ 経営資源の価値を判断する「VRIO(ヴリオ)分析」
VRIO分析は企業の商品やサービス、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の価値を見極める時に使うフレームワークです。ある事業が競争優位性を保つためには、その事業が持つ経営資源とそれを活用できる能力にかかっています。他社にないユニークな技術や人材があり、それを活用できる組織であるかを判断し、競争優位性を保てるかどうかを確認します。
VRIO分析の4つの項目
- Valuable (価値)
- Rare (希少性)
- Inimitable (模倣困難性)
- Organized (組織)
◆ 事業の可能性を評価する「アドバンテージマトリクス」
アドバンテージマトリクスは、業界の競争環境を分析して、自社事業の可能性を評価するフレームワークです。タテ軸を「競争要因の数」、ヨコ軸を「競争優位性を構築できる可能性」とし、事業を4領域に分類します。
アドバンテージマトリクスの4領域
- 分散型事業
競争要因が多く、優位性確保の可能性が低い事業タイプです。小規模な事業者が多く、大規模にスケールさせると収益性の維持が困難になる傾向にあります。 - 手詰まり型事業
競争要因は少ないものの、優位性確保の可能性が低い事業タイプです。差別化を図り、特化型事業になることが求められます - 特化型事業
競争要因が多いものの、他社との差別化ができる強みを持っていれば優位性確保の可能性が高い事業タイプです。 - 規模型事業
競争要因が少なく、優位性確保の可能性が高い事業タイプです。シェアを向上させることで、優位性を持つことが可能です。
◆ 市場構造を把握しターゲットを絞る「STP」
市場構造を把握し(Segmentation)、狙うべきターゲットを絞り込み(Targeting)、自社のポジショニングを考える(Positioning)というプロセスで分析を進めていくフレームワークです。
ポジショニングを検討する時は、すでに紹介したポジショニングマップを利用するとわかりやすく分析できます。
STPの3項目
- Segmentation 市場を細分化して分析し、顧客ニーズや特性といった全体像を把握します。
- Targeting 市場でどんな顧客を狙うべきかを検討します。
- Positioning 競合他社の商品とサービスを調査し、自社が狙うべきポジションを検討します。
◆ 自社の環境を把握し戦略に役立てる「SWOT(スウォット)分析」
SWOT分析は、自社の置かれた状況や市場や競合の状況を明らかにして、経営戦略を考えるためのフレームワークです。Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの項目で、自社商品が該当する要素を洗い出し列挙します。次に、自社商品の強みや弱みを整理し集約し、外部環境と照らし合わせながら戦略を練っていきます。
◆ SWOT分析をさらに深化させる「クロスSWOT分析」
SWOT分析では、4つの要素に関して自社商品の外部環境と内部環境を列挙しました。クロスSWOT分析ではこれを活用し、抽出した要素を「強み×機会」、「強み×脅威」、「弱み×機会」、「弱み×脅威」といった要素を組み合わせ、それぞれの項目でどのような戦略が成り立つのかを考えていきます。
「事業内容構築」のフレームワーク
◆ 顧客視点で事業を捉える「4C分析」
顧客側の視点で事業を捉えるフレームワークが、4C分析です。顧客にとっての価値、かけるコスト、利便性、コミュニケーションのレベルといった視点で事業を分析することで、より受け入れられやすい事業の構築を図ります。
◆ 企業視点で事業を捉える「4P分析」
4P分析はマーケティングにおいてよく使われるフレームワークですが、顧客視点の4C分析と異なり、視点を企業側において分析を行ないます。顧客にとっての価値を最大化する方策は何かを検討するときなどに用います。
◆ 業界の構造を分析する「5フォース(ファイブフォース)」
ファイブフォースは、競合他社や業界全体の状況を明らかにする中で自社の収益性を分析するためのフレームワークです。以下の5つの項目を検討する中、自社の事業が十分な収益をあげられるか、優位なポジションを確保できるかどうかを検証します。
ファイブフォースの5つの項目
- 業界内の競合(既存企業との競合)
- 新規参入の脅威(新たなプレーヤーの参入)
- 代替品の脅威(自社のサービスや商品に代わる代替品)
- 売り手の交渉力(原料や部品を提供するサプライヤーからの要求)
- 買い手の交渉力(顧客からの値下げや品質向上の要求)
◆ 事業環境を可視化する「ビジネスモデルキャンバス」
ビジネスモデルキャンパスは、ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークです。ビジネスモデルを9つの要素に分類し、それぞれがお互いにどう関わっているのかをひと目で確認することができます。
◆ ネット時代の購買行動を知る「AISAS(アイサス)」
AISASは、顧客が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの購買行動のプロセスを示したフレームワークです。従来は「AIDMA(アイドマ)」が代表的な購買行動モデルとして認知されていましたが、インターネットやSNSの普及により「検索」や「共有」といった行動が加わった状況を反映しています。
◆ 成長戦略の立案に役立つ「アンゾフの成長マトリクス」
アンゾフの成長マトリックスとは、事業の成長・拡大を図る際に用いられるワークフレームです。事業の成長を「製品」と「市場」の2軸におき、その2軸をさらに「既存」と「新規」に分けて表されます。自社事業の情報を分析するのか、既存事業とのシナジーを活かすのか、リスクをとって新規参入をするのか、成長戦略を立てる時に使われるフレームワークです。
アンゾフの成長マトリクスで分類する4つのカテゴリー
- 市場浸透(既存の市場×既存の製品) 既存事業でシェアアップを目指す
- 新市場開拓(新規の市場×既存の製品) 既存事業をベースに他業種へ参入する
- 新製品開発(既存の市場×新規の製品) 既存事業で新製品開発をする
- 多角化(新規の市場×新規の製品) 全く新しい事業で新たな市場を目指す
「事業の修正・改善」のフレームワーク
◆ 製品の一生を可視化する「PLC(プロダクトライフサイクル)」
製品が市場に投入されてから消えていくまでに、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という4つのプロセスを経ていきます。PLCはこのステージをS字のカーブで表したもので、現在の製品がどのステージにあるかを確認し、将来の戦略を講じる時に役立ちます。
◆ 業務の改善を図る「ECRS(イクルス)」
ECRSは、以下の4つの視点に基づき業務改善を図る時に用いるフレームワークです。実践する時には、E・C・R・Sの順に検討すると、より改善効果が高くなるとされています。
ECRSの4つの視点
- Eliminate(排除) 不要な仕事、手順をやめる
↓ - Combine(結合と分離) 重複している要素をまとめる
↓ - Rearrange(入替えと代替) 別の方法に変える、アウトソーシングする
↓ - Simplify(簡素化) 時間・工程・ルートを効率化する、仕様を簡素化する
◆ 活動の価値を分析する「バリューチェーン分析」
バリューチェーンは日本語で「価値連鎖」と訳されます。事業を「主活動」と「支援活動」に分類し、どの工程で付加価値(バリュー)を出しているかという分析するためのフレームワークです。企業は、さまざまな活動の連鎖で成り立っています。その中で、それぞれが生み出す価値とコストを分析することで、どの活動を強化すべきか、どの活動を効率化すべきかの判断材料とすることができます。
◆ 論理の展開を明解にする「ピラミッドストラクチャー」
ピラミッドストラクチャーは、プレゼンテーションをはじめビジネスのさまざまなシーンで使われており、「論理展開のフレームワーク」とも呼ばれています。メインメッセージを頂点に置き、その根拠を階層状に置くことで、論理展開を明解にすることができることが特徴です。自分の主張を論理的に構成できることで、矛盾点をつけやすくなるメリットもあります。
◆ 改善サイクルを循環させる「PDCA(ピーディーシーエー)」
PDCA は、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)のプロセスを循環させ、行動管理・生産管理・品質管理など品質を高めていくフレームワークです。このサイクルは1度で終わるのではなく、何度も循環させ、継続的に改善を続けていくことが求められます。
◆ 顧客にとっての価値を検証する「AARRR(アー)」
AARRRとは、顧客の状態をAcquisition(獲得)、Activation(活性化)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益)の5つの要素で表したフレームワークです。顧客の獲得や収益化だけに注目するのではなく、より幅広い取り組みを行うための改善を図る指標になります。
AARRRの5つの項目
- Acquisition: 獲得 顧客をどこから獲得しているか?
- Activation: 活性化 顧客はどれくらい好ましい経験をしているか?
- Retention: 継続 顧客は継続して商品やサービスを利用しているか?
- Referral: 紹介 顧客はまわりの人にこの商品やサービスを伝えているか?
- Revenue: 収益 顧客の行動が収益化されているか?
フレームワークを使う時の注意点
◆ 時間をかけすぎない
フレームワークは問題解決のために使うツールであり、あまりに細かい分析をすることで時間を使いすぎてしまっては意味がありません。手間をかけすぎないよう、時間を決めて作業を行うなどの工夫が大切です。
◆ 自社の状況に合ったフレームワークを使う
フレームワークの定義は幅広く、種類もたくさんあります。その中から自社の状況に応じて適切なものを選び、目標を達成できるようにするのがポイントです。また、複数のフレームワークを組み合わせて使うことも有効です。
◆ 客観的に分析する
フレームワークを使って分析をする時には、とにかく客観的な視点で取り組むという姿勢が大切です。事業への思い入れが強すぎて、主観や思い込みが入り込んでしまえば、導き出される結果が信頼性の低いものになってしまいがちです。
机上だけではなく実務でフレームワークを活用するために
新規事業創出を進める際には、さまざまな課題が立ちはだかるものです。スピーディーな問題解決のために、ご紹介したフレームワークを活用するのもよいかもしれません。フレームワークをうまく使いこなせれば、仕事の生産性の向上や、組織をとりまくさまざまな問題の解決にも役立ちます。まずは、身近な業務上の課題解決に、気になるフレームワークを使ってみてください。そして、単に要素を書き出すだけで終わらず、実務に落とし込むと効果を実感できるかもしれません。
◆ フレームワークでビジネスアイデアを整理できる無料のWebアプリ「StartDash」もおすすめ
「StartDash」は、SSAPが運営する事業化支援Webアプリです。はじめての方にもわかりやすい「アイデアの見つけ方」講座から各種フレームワークを使ったドキュメント作成まで、新規事業を始めるために必要な準備を効率よく進めることができます。>>事業化支援Webアプリ「StartDash」はこちら
◆ 成果を求められている新規事業開発ご担当者様へ。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)の説明会に参加してみませんか
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では2014年から7年間で、67件以上の事業化検証、17の事業を創出(2021年2月末時点)した実績があります。培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業化検証、事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援しています。