世の中の製品・サービスは誕生から撤退まで、人の一生のように「ライフサイクル」を辿るといわれています。自社で開発した製品が市場ではライフサイクルのどの段階にあるのか、客観的に見極めて事業計画を練ることで、新規事業が成功に近づく可能性があります。
プロダクトライフサイクル(PLC)とは?
製品が市場に投入され、顧客を得て成長した後、衰退・消失していく過程を、「プロダクトライフサイクル(PLC)」と呼びます。プロダクトライフサイクルには「導入期」「成長期」「成熟期」「飽和期」「衰退期」の5つの段階があり、それぞれの特徴に合わせたマーケティング戦略が必要だとされています。
◆ 導入期の特徴
新しい製品を市場に投入した直後の段階を指します。まだ製品の認知度が高まっていないため、売上も顧客数も少ない状態です。一方、研究開発や広告宣伝などにコストがかかっているため、この段階では利益がほとんど見込めないといわれています。
◆ 成長期の特徴
製品が認知されるようになり、それに伴い市場自体も拡大するため、急速に売上や顧客数が伸びる時期です。この段階では導入コストが低下するため、利益も増大しやすくなります。
◆ 成熟期の特徴
市場の成長スピードが鈍化し、少数の企業が市場シェアの大部分を獲得している段階です。市場シェアが安定しているため、一般的にこの段階になるとシェア下位企業が上位企業を逆転することは難しいとされています。また、類似商品が多く出回るようになり、価格競争が激しくなるため、売上や利益も頭打ちの状態になるケースが多いようです。
◆ 飽和期の特徴
ニーズを持つ顧客のほとんどが製品を入手済みのため、顧客数が頭打ちになり、リピーターの確保が重要になります。売上・利益も停滞します。
◆ 衰退期の特徴
値引き競争が激しくなり、売上・利益が減少していきます。市場規模も縮小するため、資金力のある大企業を除いて、撤退する企業が増えるといわれています。
プロダクトライフサイクルは短くなっている
近年、幅広い業界でプロダクトライフサイクルが短縮化の傾向にあります。その理由は、価値観の変化などから人々のニーズが多様化したことや、SNSの普及などにより製品情報が広まるスピードが速い分、飽きられるスピードも速いことなどが挙げられています。また、POSデータによる売れ筋商品分析が浸透し、売上が見込めない商品の取り扱いは打ち切る販売策をとることで、結果的に製品寿命が短くなる傾向も指摘されています。
プロダクトライフサイクルを知るメリット
プロダクトライフサイクルの理解を深めることは、新規事業開発においてもメリットがあります。
◆ 既存製品や他社製品のステージを把握し、新規事業開発に活かす
新規事業を検討するにあたり、マーケティング戦略の精度を高めるにはターゲットとする市場や分野を正しく選定することが重要です。参入しようとしているマーケットはいまどのような状態にあるのかを分析するため、既存の自社製品や他社製品がプロダクトライフサイクルのどのステージにあるのかを把握することも一案です。既存の製品が今後どのようなプロセスを辿る可能性があるのか、ある程度予測をすることにより、商品を発売するタイミングなど的確なマーケティング戦略を立案できることもあります。
プロダクトライフサイクルにおける「キャズム」を捉える
プロダクトライフサイクルに似た考え方に「イノベーター理論」があります。
◆ 製品の普及プロセスを分析するイノベーター理論
イノベーター理論とは、新しい製品が普及する際のプロセスを次の5つの顧客タイプに分けて考えるものです。
- イノベーター(革新者)
新しいものに価値を見出す層で、新しさを感じることができればコストパフォーマンスはあまり気にしないといわれています。
- アーリーアダプター(初期採用者)
情報に対して常にアンテナを張り、新しい製品を早い段階で購入する層です。購入後、積極的に情報を発信するためインフルエンサーやオピニオンリーダーになる可能性があり、マーケティング戦略上もっとも重要な顧客タイプといわれています。
- アーリーマジョリティ(前期追随者)
アーリーアダプターの影響を受けて製品を購入する層で、新しさよりも実績を重視します。市場全体の約3分の1を占めるため、アーリーマジョリティまで浸透すれば、商品全体の普及率が上がるとされています。
- レイトマジョリティ(後期追随者)
新しいものに消極的で、周囲に普及してから後を追うタイプです。アーリーマジョリティと同様に、市場全体の約3分の1を占めるといわれます。
- ラガード(遅滞者)
新しいものを好まず、古いものに固執する層です。この層まで浸透した製品は世の中で定番化したものといえます。
イノベーター戦略では上の5つの顧客層を攻略していくことで、新しい製品を普及させることができると考えます。また、自社の製品の売上を伸ばすためには、イノベーター理論の中にある「キャズム」を超えることが重要とされています。
◆ 市場全体に普及させるためのキャズム理論
「キャズム」とは「深い溝」という意味で、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在するとされています。アーリーアダプターは新しい製品の技術や価値を理解すれば実績や口コミがなくても購入しますが、アーリーマジョリティは実績や事例を確認し、安心感を抱くことで初めて購入に至るため、両者の間には深い溝があるといわれます。
また、イノベーターとアーリーアダプターを合わせたものは「初期市場」と呼ばれ、全体のごく一部だといわれています。一方、アーリーマジョリティからラガードまでの市場は「メインストリーム市場」と呼ばれ、大部分を占めています。つまり、初期市場に終わらせず、市場全体に製品を普及させていくためにはキャズムを超える必要があり、その戦略が重要であることがわかります。
プロダクトライフサイクルマネジメントにおける段階ごとの戦略
プロダクトライフサイクルの段階には、それぞれに適したマーケティング戦略があります。とくに新規事業においては、導入期と成長期の戦略が重要だとされています。
◆ 導入期の戦略
導入期は、製品の特長やベネフィットを消費者に伝え、製品の認知度を高めていくことに注力します。そのため、試供品提供やデモンストレーション、展示会出展、CM、Web広告、記事広告などで消費者にアピールします。この段階でおもなターゲットとなるのはイノベーターです。イノベーターは「新しさ」や「他にないもの」を求めるため、自社製品の先進性や独自性をアピールすると効果的だといわれています。
- 導入期の事例
事例のひとつが「自動運転機能付き自動車」で、ハンズオフ機能などを搭載した自動運転機能付き自動車の発売が一部で始まっています。メーカー各社は発売前から多くの技術情報やベネフィット情報を消費者に提供し、「いずれ本格的に市場導入される」ことを期待してもらい、一般発売後のスムーズなスタートを目指しました。同時に法整備や細部の技術革新も進み、安全性や使いやすさのアピールを続けています。
◆ 成長期の戦略
製品の認知度が上がり、市場シェアや売上の急速な拡大が期待できるのが成長期です。ただし、競合他社の参入も増え、市場競争が激しくなるため、他社にない独自の機能やベネフィットを用意するなどして、差別化を図ります。この段階でのおもなターゲットはアーリーアダプターです。そのため、他の多くの人が経験していない新機能や、製品を利用することで得られる新しいベネフィットなどを打ち出した、アーリーアダプターの興味を惹きそうなプロモーションや広告が効果的だとされています。
- 成長期の事例
2020年頃から「成長期にある」といわれる製品が「スマートテレビ」です。スマートテレビとはインターネット接続機能のあるテレビを指し、オンライン動画やSNSでの交流をTV画面で楽しむことができます。当初はハイスペック機種にしか搭載されない機能でしたが、近年では全価格帯に搭載されるようになり、年々普及率が上がっています。
◆ 成熟期の戦略
アーリーマジョリティが購入するようになり、市場が安定する段階です。顧客が増えることでその属性も多様化し、さまざまなニーズが生まれ、同時にリピーターが増加します。リピーター獲得にはDMやメールマガジン、ポイント制度などが効果的だとされています。また、競合他社との競争も激化し、価格競争が始まります。すでに認知度は高まっているため、ブランディング効果を期待した広告宣伝や、顧客のニーズを深掘りするモニター調査を活用し、製品に反映させる戦略などが考えられます。
- 成熟期の事例
スマートフォンは国内の所有率が約9割に及び、成熟期に達した製品といえます。今後は5Gの普及とともに新たな用途の開拓が見込まれており、他社に先駆けた新機能の追加や独自性のあるサービスの提供が求められます。すでに大きなシェアを獲得している企業なら、シェア下位の企業や新規参入企業が打ち出す施策をカバーし、シェアを守る戦略が必要だといわれています。シェア下位の企業なら、ターゲット層を絞り込んで大手が目を向けないニッチなサービスを提供することで、シェアを伸ばせる可能性があるとされています。
◆ 飽和期の戦略
世の中に製品が行き渡った飽和期は、類似製品が数多く市場に投入され、価格競争に陥りやすくなります。そのため、広告宣伝や販売促進を行っても以前より反応が鈍く、コストに見合った成果が得られにくくなります。この時期はマーケティングコストを抑えるかたわら、製品の機能やサービスを絞り込んでスリム化を図り、利益を維持するとよいといわれています。また、ユーザー調査をもとに製品やサービスを改良し、リピーターの確保に努めることが重要です。
- 飽和期の事例
コロナ禍をきっかけに爆発的に需要を伸ばした「フードデリバリーサービス」が挙げられます。外資系企業の参入も相次ぎ、たちまち市場が飽和し、レッドオーシャン化。撤退を余儀なくされる企業も出てきました。各社それぞれ、地域密着型のサービスや配達員の質を上げるなどして、差別化戦略を図っているといわれています。
◆ 衰退期の戦略
市場における製品へのニーズが減り、自社製品も他社製品も売上・利益ともに低下します。そのため、資金力・ブランド力のあるシェア上位の企業を除いて、撤退時期の検討を始めることが多いようです。事業を継続する場合は、商品コンセプトを大胆に変更する、専門性の高い製品に絞り込む、などの戦略を検討します。
- 衰退期の事例
フィーチャーフォン(ガラケー)は2010年代初頭のスマートフォン登場までは携帯電話市場の主役でしたが、2020年度時点で約15%まで利用率が下がっています(※)。多くのメーカーがフィーチャーフォンから撤退していきましたが、その一方で「使い慣れたフィーチャーフォンを使い続けたい」というラガード層が、現在も高齢者を中心に一定数存在します。しかし、3G回線の廃止もあり、国内の携帯電話会社はフィーチャーフォンからすでに撤退済みか、撤退時期を決定しているといわれています。
プロダクトライフサイクルの注意点
プロダクトライフサイクルの進行スピードは業界や製品により異なります。一般的なサイクルとは異なる動きを見せる製品もありますので、以下の点に注意しながら分析を進めます。
◆ 一般的なサイクルに当てはまらない製品・サービスもある
例えば炊飯器や洗濯機などの生活必需品の場合、その分野でのイノベーションが起きない限り、必ず必要なものなので飽和期が長く続きます。老舗企業のロングセラー商品で独自のブランドが確立されているものも、固定ユーザーが長期間使い続けるため、衰退期が訪れにくいとされています。反対に、一部のイノベーターやアーリーアダプターが飛びついたものの、メインストリーム市場には受け入れられず、消えていく商品もあります。
◆ ひとつの判断基準として捉える
プロダクトライフサイクルはあくまでも自社製品や競合製品のポジショニングを確認するものであり、新規事業開発におけるひとつの判断基準に過ぎません。現実には理論と異なる動きを見せる商品もありますので、その時々の売上高・利益高・顧客数などリアルな数値分析やユーザー調査などを続けることが重要だと考えられます。そのうえで複数パターンの予測を立て、マーケティング戦略を立案するようにします。
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