新規事業開発にはビジネスモデルの構築と検証が欠かせません。そもそもビジネスモデルとはどのようなものか、また自らのビジネスモデルをブラッシュアップし、人にわかりやすく伝えるためにはどうすればよいのか、解説します。
ビジネスモデルとは
ビジネスモデルとは、事業を通じて顧客に価値(商品・サービスなど)を提供し、それにより収益を生み出す仕組みを指します。同じ商品やサービスを提供する場合でも、ビジネスモデルが異なれば競合他社と差別化することができるといわれています。
◆ ビジネスモデルを構成する4つの要素
ビジネスモデルには一般的に「①Who」「②What」「③How」「④Why」の4つの要素があります。
- ①Who(顧客は誰なのか)
自社が価値を提供したい顧客、つまりターゲットのことです。想定する顧客像は既存のターゲット・潜在的なターゲットを問わず、顧客が属する母集団も含めます。顧客像を具体的に分析し、明確にすることで、提供すべき価値や的確な提供方法などを把握しやすくなります。
- ②What(顧客にとってどのような価値を提供するのか)
顧客に提供する商品やサービスを指します。自社の商品・サービスが顧客にとってどのような価値があるのか、また対価に見合う価値があるのか、明確にします。
- ③How(どのようにしてその価値を提供するのか)
顧客に商品・サービスを提供する手段や仕組みのことです。例えばオンライン販売か店頭販売か、単発の販売か継続的な販売なのか、などの選択肢が考えられます。提供方法に合わせて集客手段も広告手法も変わります。
- ④Why(なぜそれが利益に結びつくのか)
商品・サービスを提供することで、どのように自社の収益につなげるのか、具体的に検討します。収益を上げる仕組みの構築により、その事業を長く継続させることができ、顧客に価値を提供し続けることが可能になります。
代表的な6種類のビジネスモデル
ここでは、よく知られる6種類のビジネスモデルをご紹介します。
◆ ①販売モデル
自社で開発・製造した商品を顧客に販売するビジネスモデルです。古くからあるビジネスモデルで、代表例に米や野菜をつくり、販売する農家があります。社内で生産・販売するメーカーや、自社制作のアプリを販売するソフトウェア会社などもこれに当たります。
◆ ②小売モデル
メーカーや卸売会社から商品を仕入れ、自社で販売するもので、デパート・スーパーマーケット・コンビニ・通販サイトなどが該当します。自社内で商品開発・製造を行わない点以外は①の販売モデルと似ています。ただし、競合他社でも同じ商品が販売されることが多く、利益率が低くなる傾向があります。
◆ ③広告モデル
自社で運営する媒体に広告主を募り、広告主から報酬を得るビジネスモデルです。SNSや検索エンジン、民間テレビ放送のコマーシャルなどがその代表例で、購読料が必要な新聞・雑誌なども広告収入が収益の大きな柱となっています。
◆ ④従量課金型モデル
顧客の利用状況により、料金が変わるビジネスモデルを指します。電気・ガス、タクシー、鉄道、携帯電話などのサービスが、このモデルに当たります。
◆ ⑤サブスクリプションモデル
一定の年額・月額料金で顧客と契約を交わし、商品・サービスを提供するもので、「継続課金モデル」と呼ばれることもあります。従来からあるビジネスモデルの一部をサブスクリプションモデルに転換する事例もあり、近年注目を集めています。月額料金で動画や音楽を楽しめるサービスや、洋服・ブランドバッグなどをレンタルするサービスが代表例です。
◆ ⑥フリーミアムモデル
「フリーミアム」とは「フリー」と「プレミアム」を組み合わせた造語で、ある一定の商品・サービスまでは無料で提供し、これを超えるものは有料とするモデルです。新聞のオンライン記事が代表例で、無料サービスで顧客の興味を惹きつけ、有料サービスへとつなげる仕組みです。
ビジネスモデルをつくる4つのメリット
ビジネスモデルを明確にすることで、企業には次の4つのメリットがあるといわれています。
◆ メリット1. 事業についての理解が深まる
ビジネスモデルをつくり上げていく過程では、事業の全体像を把握したうえで、業界の状況、自社の強み・弱み、競合との差別化ポイント、収益の獲得方法などを考える必要があります。そのため、俯瞰的かつ戦略的な視点が身につき、事業への理解が深まるとされています。
◆ メリット2. 事業内容についての話題が共有しやすくなる
自社の社員やプロジェクトメンバーとビジネスモデルについて議論し共有する機会が設定されるため、ビジネスモデル構築後も事業内容に関する話題が増えるといわれています。結果として社内のコミュニケーションが進み、社員やメンバーの自主性、積極性にもよい影響を与える可能性があります。
◆ メリット3. 課題にアプローチしやすくなる
ビジネスモデルを構築する過程は収益構造を体系化する作業でもあるため、その問題点に気づきやすくなります。また、構築に参加するさまざまな人の視点から事業を見るため、新たな課題の発見や指摘につながりやすい利点があります。
◆ メリット4. 事業の原点に立ち返れる
ビジネスモデルは事業の設計図ともいわれています。そのため構築後にある程度時間が経過し、トラブルが起きたときや新たな課題が生じたときなどに、当初の設計図を振り返ることで、進むべき方向性が見える可能性があります。もちろん、ビジネスモデルは時代とともに変化するため、必要に応じて手を加えることもあり得ます。
新規事業のビジネスモデルのつくり方
ここからは新規事業開発における一般的なビジネスモデルのつくり方を解説します。
◆ 1. 業界を分析する
業界でよく採用されているビジネスモデルがあれば、「なぜ採用されているのか」を分析します。これにより、競合他社がそのビジネスモデルを採用するメリットや背景が見え、自社のビジネスモデル構築の参考になるといわれています。
◆ 2.アイデアを洗い出す
同じ業界でよく採用されているビジネスモデルを把握したうえで、他に収益化できるモデルがないか、アイデアを募ります。アイデアを集める方法はプロジェクトメンバーによるブレインストーミングやアイデア発表会、全社を含めたアイデア公募など、その企業が置かれている状況によりさまざまです。なるべく多くのアイデアを集めることが重要ですので、早い段階から「実現不可能」と切り捨てることは避けるようにします。
◆ 3.アイデアをブラッシュアップする
集めたアイデアについて、有用性を議論し、新規事業アイデアを絞り込んでいきます。有用性とは顧客にとって魅力的であり、「欲しい」と思わせる商品・サービスであることを指します。同時にビジネスモデルの内容をさらにブラッシュアップし、有用性を高めていきます。
◆ 4.実現可能なアイデアを選ぶ
その商品・サービスの提供が技術面・体制面・資金面で実現可能であるかどうかを議論します。どんなに斬新で魅力的なアイデアでも、実現可能性が低ければ、新規事業として採用するにはリスクを伴います。一方、何らかの障壁を超えることで実現可能であれば、超える方法を考えます。
<コラム> ビジネスモデルの理解とアイデア発想を支援する「StartDash」!
「ビジネスモデルをつくる重要性は理解したが、具体的にどうすればよいのかわからない」「新規事業のアイデアが上手くまとまらない」…。そんなお悩みを抱える人には、ビジネスモデルの理解とアイデア発想をサポートする無料アプリがあります。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)が提供する事業化支援Webアプリ「StartDash」は、既存の商品・サービスを題材にアイデア整理や事業提案を疑似体験後、自分自身のアイデア発想や事業計画作成へとつなげていくことが可能です。自身のアイデアからビジネスモデル構築への事業立ち上げに必要な過程を、効率よく進めることができます。
フレームワークで考える、新規事業のビジネスモデル
ビジネスモデルを考案する際、フレームワークを活用し、項目や流れに沿うことで、専門知識がなくてもビジネスモデルが作成でき、考えが整理されるだけでなく、自プロジェクトメンバーや上層部などに説明する際に伝わりやすい利点があるといわれています。使用するフレームワークは1つに限る必要はなく、説明する相手や事業への理解度の深さなどに応じて使い分けることもできます。今回はその代表的な2つをご紹介します。
◆ 9セルフレームワーク
9つの質問に答えていくことでビジネスモデルを見える化するものです。横軸に「顧客価値」「利益」「プロセス」を、縦軸に「誰が(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」を置くことで、ビジネスの有効性や実現性、社内リソースで不足する点などを把握できるといわれています。
◆ ビジネスモデルキャンバス
「顧客セグメント」「顧客価値」「チャンネル」など9つの項目を設定していくことで、ビジネスモデルを可視化するフレームワークです。収益に関する要素を右側に、コストに関する要素を左側に配置し、各要素の関連性を考えながら埋めていきます。新規事業開発のプロジェクト活動において多人数で意見を出し合い、事業内容をブラッシュアップしていく際に向いているといわれています。
新規事業におけるSSAPのビジネスモデル構築事例
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では事業化経験豊富なアクセラレーターがビジネスモデル初期仮説の構築をサポートします。ビジネスモデル構築に必要な理論だけでなく、検討を加速化するツールや、以下のようなリアルな支援実例も用意しています。
◆ 株式会社LIXIL
障がい者に向けて玄関ドアを自動化するアイデアは、長く検討されながら製品化に至らない領域でした。そこでSSAPがアーリーアダプターになり得る複数のユーザーを探し出し、新規事業担当者が何度もアプローチして「顧客はどのような人なのか(Who)」「どのような価値を提供すればよいのか(What)」を明確化。本当に必要な機能が具体的に把握できるようになり、わずか1年で玄関ドア用電動オープナーシステム「DOAC」の商品開発が実現しました。さらに担当者が商品企画だけでなく、事業全体としてどのように発展させていくのかビジネスモデル全体を考えて実行したことが、社内の人材育成にもつながったといいます。
◆ マイクロソニック株式会社
医療系ベンチャーのマイクロソニック株式会社は自宅で簡単に乳がんチェックができる「MAMMOECHO」の商品アイデアを持っていましたが、技術・開発面での課題を抱え、SSAPに支援を依頼。そこでSSAPがコンセプト・ビジネスモデル整理からUX・UIデザインまでを支援しました。「乳がんチェックにネガティブな印象を持つ女性」をターゲットに、同社の技術を活かしつつ女性に抵抗感なく受け入れられやすいデザインを実現しました。
ビジネスモデル構築で仮説をしっかり検証し、新規事業を加速させよう
ビジネスモデルの構築とそのブラッシュアップは、スタートアップの創業や新規事業開発の道程で欠かせない作業です。「自分のアイデアを人にわかりやすく伝えたい」「今、考案しているビジネスモデルにひと工夫したい」など、新規事業開発に悩んだときは事業化経験豊富なSSAPのアクセラレーターがサポートします。