顧客の価値観やライフスタイルの多様化に伴い、マーケティングや新規事業開発において「ペルソナ」が重視されるようになりました。見込客のことを考える際によく使われるこの言葉、そもそも「ターゲット」とは何が違うのか? そしてどのように設定すればよいのか? 今回は、ペルソナの概要と作成方法を具体例とともにご紹介します。
ペルソナ設定とは、典型的なユーザー像の具体化
マーケティングやビジネスで「ペルソナ」という言葉を使う場合、それは「商品やサービスを利用する(あるいは利用してほしい)典型的なユーザー像」のことを意味します。つまりペルソナ設定とは、ユーザー像を具体化することです。それだけ聞くとターゲット設定と同じようですが、ターゲットが「20代/男性/会社員」といった「属性」で設定されるのに対し、ペルソナはより具体的な「個人」を想定して設定されます。どれだけ詳しく設定するかは、このあと作成方法とあわせてご説明します。
なぜペルソナを設定するのか?
一般的に、ペルソナを設定する目的やメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- ユーザーのニーズや困りごとをより明確に把握できる
ユーザー像を具体的な1人の人物として描くことで、その人がどういった暮らしをしているのか、その暮らしの中でどのような機能やサービスを求めているのかを想像しやすくなります。
- ユーザー視点のマーケティングコミュニケーションができる
一般的なペルソナ設定ではその人の価値観や消費傾向、普段どのように情報収集を行っているのかなども想定します。そうすることで、適切なメッセージやメディアが選択でき、より深く届くコミュニケーション設計が可能になるといわれています。
- プロジェクトを効率的に進められる
大まかなターゲット属性だけでは、プロジェクトに関わるメンバー間でイメージする人物像が一致しないことがあります。しかしペルソナを細かく設定しておけば、ブレのない人物像を全員で共有することができ、企画やクリエイティブの方向性を定めやすくなります。
◆ 新規事業開発にもペルソナ設定は有効
自社内で新規事業を考えていると、物事を想像したり判断したりする際、自社の常識や都合にとらわれてしまうことが少なくありません。既存の考えからブレイクスルーできず、新たな顧客や市場を開拓することが難しくなる場合もあります。
ペルソナの視点から新規事業を考えることは、これまでとは違う物の見方が得られ、ビジネスの新たな扉を開くうえで、有効な手段になると考えられます。
ペルソナ設定の方法
ペルソナを実際に作成して事業に活かすには、次のようなステップが一般的です。
◆ 「人」の前に、自社や商品・サービスの立ち位置を把握
ペルソナ設定は、何もないところからいきなり行うわけではありません。まずは業界・市場における自社の立ち位置やイメージを確認し、商品やサービスの強みや優位点を洗い出し、狙うべきポジションを絞り込みます。自分たちがどういった領域で、どういったターゲット層に価値を提供できるか定めてから、具体的なペルソナの設定に入ります。
◆ ペルソナ設定の第一歩は情報収集から
狙うべき領域とターゲット層を絞り込んだら、次にその範囲に該当する人たちの情報を収集します。ペルソナ設定で大切なのは、想像だけで進めず、可能な限り「リアルな声」を集めることです。例えば次のような方法があります。
- 既存顧客のお客様アンケートやコメントを参照する
すでに商品やサービスがある場合、既存顧客の声はもっとも説得力のあるペルソナのソースになります。お客様アンケートの結果を参照するほか、顧客と直に接する機会の多い営業担当者に話を聞くのも手です。
- ターゲット層に該当する人へインタビューする
顧客に直接ヒアリングやインタビューをすることができれば、さらに多くの意見が得られます。既存顧客はもちろん、「商品を買っていない人(ノンユーザー)」に話を聞くのも、商品やコミュニケーションの課題点を見つけるうえで効果的です。
- SNSやオープンデータから声を集める
ターゲット層がよく接しているメディアやSNSは、ペルソナ設定の参考になるコメントの宝庫といえます。また、インターネット上で公開されている政府や調査機関の調査データも、ターゲットの価値観や行動の傾向を知るのに役立ちます。
◆ 情報を集めたらしっかり分析
データを集めたら、年齢・性別・職種・家族構成などの属性や、人格・価値観・興味・ライフスタイルなどの視点からグルーピングします。
数の少ない特殊な声や事例をペルソナのベースにするのは、あまり効果的とはいえません。ターゲットとする人たちの中にどういった傾向が見られるかを分析し、ペルソナに採用する属性や考え方を慎重に選択していきます。
◆ 具体的な人物像に落とし込んでいく
ペルソナ設定に採用する要素が見えてきたら、いよいよ具体的な人物像を描いていきます。下記の例に記載されている項目などを設定していきます。
<ペルソナプロフィール>
・名前:山田慎一
・年齢:30歳
・職業:Web制作会社勤務(ディレクター)
・居住地域:東京 阿佐ヶ谷
・家族構成:独身 1人暮らし
・趣味:写真
・情報収集方法やSNSの活用:●●●が中心(具体的なアプリやサービス名を記載)
・好きな雑誌、テレビ番組、音楽など:テレビは観ず、オンライン動画(具体的なアプリやサービス名を記
載) が中心
・友人や家族との連絡方法:●●●(具体的なアプリやサービス名を記載)
・休日の過ごし方:アートの展示会や映画、基本1人行動派
・よく買い物をする場所:高円寺、新宿
・買い物をする際の判断基準:商品の機能や背景を慎重に調べ納得したものを買う
以上は一般的なペルソナ設定で想定される基本的な項目です。これらに加え、商品やサービスの特性に合わせて追加の項目を足していきます。例えばこの山田さんを「電子レンジ」商品のペルソナと想定する場合、以下のような項目を追加することが想定されます。
・料理の頻度:ほぼ毎日、ただし得意ではない
・家電の購入場所:量販店で実物を見て、ネットで購入することが多い
・家電の消費傾向:デザインに惹かれて買うが、結局使わなくなることが多い
各項目の設定は上記のような概要から始め、より詳細を詰めていくことをお勧めします。
なおペルソナ設定では、文字だけでなく人物像の写真やイラストもあわせて設定するのがよいといわれています。ビジュアルイメージがあれば、ファッションや雰囲気など、言語化しづらい部分のイメージを共有しやすくなります。
◆ ペルソナのストーリーを作る
以上のプロフィールを設定するだけでは、ペルソナは十分ではありません。そこからさらに、この人物が今どういった状況に置かれているのか、どのような悩みを抱えているのかを書き出していきます。
ペルソナストーリーは、商品・サービスと関係のないことを書き連ねてもあまり意味がないとされています。なぜその商品に興味を持ったのかという動機や、抱えている不安、情報収集や購入の障壁となっているものなどを、最初に集めたデータを参考にしながら盛り込みます。
<山田慎一のストーリー例>
これまでは仕事が忙しく外食中心。休日も出歩くことが多かったが、コロナ禍で在宅勤務になり生活が一変。初めの頃はデリバリーサービスや出前も活用していたが、コストパフォーマンスとカロリーが気になり自炊をするように。とはいえ業務の合間なので十分な時間もなく、SNSで時短レシピを探したところ、電子レンジを活用したレシピ動画に行き着く。料理には特に興味がなかったので、いま家にあるレンジは「温められればいい」最安のもの。買い替えようと調べ始めたが、機能の差がわからず決め手に欠けている。友人たちはほとんど自炊をしないので、電子レンジに詳しい人がまわりにいなくて参考にならない。
年齢による体形の変化や在宅ワークによる運動不足も気にしている。特にオートミールにはまり、今ある最安レンジではもっぱらオートミールの温めをしている。ノンオイル調理や蒸し物系にも挑戦してみたい。
上記をペルソナシートにまとめたものです。
ペルソナシートはプロジェクトに携わるメンバー間で共有します。ターゲットを理解し、ズレや認識違いを防いで、施策を進めやすくなります。
◆ ペルソナを運用する
ペルソナは、設定してからが始まりです。この人物のカスタマージャーニーマップ(商品やサービスを認知してから購入にいたるまでの一連の購買行動)を作成し、プロモーション施策を考えたり、商品の機能や仕様決定の判断材料にしたりと、業務に活用することが大切だといわれています。
用意したペルソナをもとにプロジェクトを進めていくと、想定とは異なる事実が見つかることもあります。つくり上げたペルソナに固執せず、定期的に設定を見直すことで、よりリアリティのあるペルソナをつくることができます。
ペルソナ設定の注意点は、やりすぎないこと
以上の手順からもわかるように、ペルソナ設定はそれなりに時間がかかる作業です。興味深いあまり夢中になってしまうかもしれませんが、不要な項目まで細かく設定する必要はありません。また、「どのような人に買ってもらいたいか」を考えていくと、どうしても自社にとって理想的な顧客像をイメージしがちですが、先入観や思い込みだけで考えず、データなどから客観的に人物を考えることも大切です。
自社だけでは視野を広げることが難しい場合や、経験がなく不安な場合は、外部の支援サービスなどを活用するのも1つの手です。
ペルソナを活用し、新規事業開発をサポートします
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、商品・事業開発に必要なプロセスを一気通貫でサポートする事業開発支援サービスを提供しています。支援においてペルソナを設定し、商品仕様への落とし込みやプロモーション施策なども一緒に考えていきます。
◆ 【事例紹介】飼い主の気持ちに寄り添った、キャットウォールのマーケティング施策
ペルソナを活用した支援例の1つが、株式会社LIXILのキャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」の販売マーケティング支援です。「誰に/何を見せて/その結果どのような行動をとってもらいたいか」を整理することから着手し、ペルソナやカスタマージャーニーを検討。「猫壁」があることでユーザーに楽しくなる毎日を想像させるWebサイト・コンセプトムービの制作を行いました。