自社が提供する製品やサービスについて消費者に認知してもらい、実際に購入に結びつけるためには、マーケティングが欠かせません。ここではマーケティング戦略の概要とともに、マーケティング戦略を考えるうえで重要なキーワード、「ポジショニング」について解説します。
マーケティング戦略の重要性
新規事業を成功に導くためにもマーケティング戦略を立てることはとても重要です。世の中には、多くの製品やサービスがあふれています。その中からどのように自社の製品・サービスを認知してもらい、どのように価値を感じてもらえるか。どのような市場でどのようなターゲットを狙っていくのか。より具体的な分析を行ったうえで、事業開発や製品開発に着手することが、失敗のリスクを減らすことにつながります。それでは、どのように新規事業のマーケティング戦略を考えればよいのでしょうか。
マーケティング戦略を考えるステップ
マーケティングとは、簡単にいえば「モノを売るための仕組みづくり」のことです。自社が勝負をかける市場を理解し、他社製品との違いを明確にしたうえで、優位な点(顧客にとってのベネフィットやメリット)をしっかりと訴求していくことができれば、消費者に受け入れられる可能性が高まるといわれています。
新規事業や新製品のマーケティング戦略を考えていくときに「フレームワーク」を用いると、必要な情報を漏れなく分析できるのでおすすめです。ステップごとに整合性が保たれているかをチェックし、疑問点が浮かんできたら、前のステップへとさかのぼって考え直すなど、試行錯誤を繰り返す中で戦略の精度は上がっていきます。では、マーケティング戦略を考える際の基本的な流れを解説します。
1. マーケットリサーチ (3C分析)
2. セグメンテーション (STP分析)
3. ターゲティング (STP分析)
4. ポジショニング (STP分析)
5. 戦術策定 (4P・マーケティングミックス)
6. 戦術実行・分析・改善
1. マーケットリサーチ (3C分析)
ビジネスを行う上で必ず利害関係がからんでくる、顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3者の視点で市場を分析するフレームワークが「3C分析」です。3つの要素の中で最も重視すべきは、「顧客」の視点です。市場にどのような消費者が、どれくらいのボリュームで存在しており、製品・サービスをどのように見ているのか、顧客環境の客観的な情報を集めて分析します。続いて、競合環境や自社環境についても以下のような視点で分析していきます。
3Cで分析すべき要素
■顧客環境:顧客特性・ニーズ・行動特性・市場規模・成長率・市場構造・成熟度など
■競合環境:競合各社の数とシェア・経営資源・強みと弱み・戦略・差別化要素
■自社環境:企業理念・企業規模・業績・経営資源・強みと弱み・差別化要素
2. セグメンテーション (STP分析:Segmentation)
市場環境の分析が済んだら、次の段階では市場を細分化し、狙うべき市場を決めていきます。この時に使われるフレームワークが「STP分析」です。
まずSTPのS(セグメンテーション)のステップでは、現状の市場を細分化していきます。次に、細分化した市場の中から自社が戦える市場を選んでいきます。
3. ターゲティング (STP分析:Targeting)
細分化した市場のどこを選んで戦いを挑むのか、標的(ターゲット)となる市場を決めます。この時、自社の経営資源や外部環境をあわせて考慮することが重要となります。
4. ポジショニング (STP分析:Positioning)
ターゲティングで選んだ市場で、競合と差別化できる独自の位置取り(ポジショニング)を考えます。製品やサービスで、他社と差別化を図れる独自のポジションを見つけることができれば、その後のマーケティング活動や広告表現も進めやすくなります。
5. 戦略策定 (4P:マーケティング・ミックス)
STPを決定したあと、標的として選んだ市場において目標とした成果を達成するために有効なのが「4P」と呼ばれるフレームワークです。企業がコントロールできる要素である、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)の4つを効果的に組み合わせ、売るための仕組みを考えていきます。このような4Pの適切な組み合わせによる戦略の検討を指して「マーケティング・ミックス」と呼びます。
6. 戦略実行・分析・改善
マーケティングリサーチの結果を活用しつつ、STP分析やマーケティング・ミックスを実行に移しても、必ずしも確実に目標を達成できるとは限りません。市場環境の読みが間違っていた、選ぶべき市場や戦略が誤っていたといったこともありえます。また、競争環境の変化に加え、消費者のニーズや行動、ライフスタイルの変化によって、戦略立案当初の整合性が薄くなってしまうことも考えられます。
マーケティング目標の達成に向けては、戦略の実行後もしっかりとモニターし、結果に応じて戦略の見直しや軌道修正をしていく必要があります。
マーケティング戦略でも重要なキーワード「ポジショニング」とは
ポジショニングとは、「位置(ポジション)を決める」を意味する英語です。マーケティングの世界では、市場における競合他社との位置関係を明確にしたうえで、差別化すべきポイントを探し出し、自社の立ち位置を確立することを指します。その上で自社が持つ独自性を効果的に顧客にアピールし認識してもらい、競合に比べ優位に立つことが目標となります。ポジョニングを考えるには「顧客視点」が欠かせません。ポジショニングをイメージしやすくマップ化したものが「ポジショニングマップ」で、市場全体のビジネスを俯瞰する時に役立ちます。
これから新規事業を創出するときにも、参入予定の市場の状況を前もって把握し、自社製品が目指すべきポジションを明確にした上で商品開発や事業開発を行うことは失敗のリスクを減らす意味でも有効です。
◆ ポジショニングを見直して成功した事例
一度決めたポジショニングで成功した製品でも、時代の変化とともに市場自体が縮小してしまったり、ニーズに変化が出てしまったりすることがあります。このようなときは、ポジショニングを見直すことも有効です。これを「リポジショニング」といいます。製品のポジショニングを見直して成功した例として、あるボディケア製品があります。
1980年代にマリンレジャーを楽しむ若者の間で大ヒットしたこの製品は、「日焼け後のスキンケア」や「マリンスポーツ後の爽快感」といった要素でポジショニングをしていました。ターゲットは10代~30代の男性で、広告宣伝もこの層を狙ったものでした。
しかしその後、マリンスポーツ人口が減少し売上は低下し始めます。そこで、メーカーはリポジショニングを行い、ターゲットを女子高生などの若い女性に変更。日焼け後のスキンケアではなく、日常の「汗のケア」にポジションを移しました。
この戦略変更は成功し、製品は若い女性に人気のブランドとなりました。その後もデオドラント効果を高めた機能的な製品や、カラフルなパッケージデザインの製品などが続々登場しています。
ポジショニングを可視化する「ポジショニングマップ」
ポジショニング戦略を検討する際には「ポジショニングマップ」を作成し、視覚的にイメージしやすいかたちで、業界における自社と競争相手との位置関係を確かめることがおすすめです。
1. STP分析を行う
ポジショニングを行うためには、まず市場を正しく把握し、どのような顧客の獲得を狙うのかをはっきりさせる必要があります。その時に用いられるのが、先述したSTP分析というフレームワークです。ポジショニングは、この中の「P」のステップにあたります。ポジショニングマップ作成では、市場の細分化(セグメンテーション)と、その中で狙うべき標的を定めたうえで(ターゲティング)、自社の位置取りを考える(ポジショニング)を考えていきます。
2. ポジショニングマップを形成する2つの軸を設定する
マッピングを行うためのタテとヨコの2つの軸を設定するには、まず顧客のKBF(購買決定要因)を抽出することから始めます。次に、洗い出したKBFに優先順位を付け、重要なものについて競合他社と自社の比較を行います。
重要なKBFの中から2つの要素を選び、ポジショニングマップのタテ・ヨコの軸とします。この時、それぞれ独立性のある2軸を用いてマッピングしていくことがポイントです。というのも、例えば「低価格~高価格」と「低品質~高品質」といった関連性の高い2軸を選んだ場合、価格が上がれば普通は品質も向上するので、右肩上がりに製品が並び、差別化要素が見つけにくいマップができあがってしまいます。
3.自社と他社のポジションをマッピングする
続いて自社製品と競合製品が位置するポジションを検討しながら、マッピングしていきます。
4.ポジショニングマップから今後の戦略を立てる
ポジショニングマップの目的は、今後のマーケティング戦略に生かすことです。作成したマップから情報を読み取り、新規事業や新製品で狙うべきポジションなどを検討します。
「フレームワーク」を使いこなして施策の精度を高める
マーケティング戦略を作成するときに役立つのが、今回ご紹介した「フレームワーク」です。フレームワークは、ビジネスで何かを思考するときや課題解決を図りたいときに、頭の中を整理するためのツールです。一定の枠組みを使って思考や検証を行うため、情報が整理しやすく、目標達成への解決策を見つけやすいのが特徴です。新規事業創出やマーケティング戦略の立案や検証、事業計画の策定といったプロセスなどで活用できるフレームワークの数々をこちらで紹介しています。>>詳しくはこちら
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