新たな製品やサービスを生み出すために、企業が「社内ベンチャー」を立ち上げて新規事業創出を進めるケースが増えています。社内ベンチャーを立ち上げるメリットはどこにあるのでしょうか。成功確率を高めるためのヒントもあわせて解説します。
様々な大手企業で実施されている「社内ベンチャー」とは?
「社内ベンチャー」とは企業が新規事業を生み出すためにつくる独立した組織のことを意味します。社内ベンチャーによって新規事業を生み出そうとする取り組みは「社内ベンチャー制度」と呼ばれ、すでに多くの企業で採用されつつあります。ベンチャー企業のように新しいアイデアや技術を生かし、ビジネスを立ち上げることが主な目的とされていて、企業の利益拡大や風土改革などを期待して導入されることが多いようです。
ここ最近注目されている社内ベンチャーの成功例としては、大手商社の社内ベンチャー制度を利用して設立された子会社が経営する飲食店の業績拡大、メディア・人材派遣事業を行う企業内での新規事業提案制度を利用して誕生した、ラーニングアプリでの登録者数の拡大などが挙げられます。
社内ベンチャーで展開されている新規事業は、既存事業のリソースを利用できるもの、新たな事業領域への進出が期待できるものなど多種多様です。社内起業家(イントレプレナー)が企業の人材、資金、ノウハウなどの経営資源を利用して新しい製品・サービスの事業化を推進しています。
企業が社内ベンチャーを行う目的
なぜ大手企業を中心に社内ベンチャー制度を導入するケースが増えているのでしょうか。主に4つの目的が考えられています。
◆ 新たな事業領域で利益を拡大させるため
時代が激しく変化し人々の価値観も大きく変わり続ける現代では、企業は既存事業を継続するだけでは利益を上げにくくなり、新しい市場での収益源を確保するために新規事業を立ち上げることがあります。その際、社内ベンチャー制度をとり入れることも多いようです。
◆ 資産を有効活用するため
企業には人材、資金、ノウハウなどの経営資源があります。しかし「ただ所有しているだけ」では利益を生み出さないため、有効活用することが必要です。そこで、資産の投資先として社内ベンチャーを活用するケースもあります。
◆ 人材を育成するため
企業が成長するためには人材の育成は不可欠です。社内ベンチャー制度を活用すれば従業員が様々な経験を積むことができ、イノベーション創出やマネジメントなどのスキルを身につけた人材育成につながる可能性があります。
◆ チャレンジできる風土づくり、ポジティブな企業文化の醸成のため
新たな事業への挑戦は、企業文化にもポジティブな影響をもたらします。社内ベンチャーを発足することは、一人ひとりの社員が手を挙げやすい雰囲気、チャレンジを応援する風土、時代に合わせて組織を変えていこうとする気運などの醸成につながりやすく、社員のモチベーションも高まると言われています。
社内ベンチャーはどのように立ち上がるのか
社内ベンチャーには、主に2つの種類があります。それぞれの特徴を解説します。
◆ トップダウンタイプ
経営者自身もしくは経営者から命じられた事業開発・新規事業創出部門などの組織が主導して社内ベンチャーを立ち上げるパターンです。一般的に、取り組むテーマはトップから提示され、メンバーがそのテーマに合わせて技術・サービスの開発やビジネスモデルの構築を行います。トップがテーマ設定を行う際に、現場や市場のニーズをしっかりと反映できるかどうかが成功の鍵になると言われています。
◆ ボトムアップタイプ
事業テーマの社内公募や社内ベンチャー制度を利用し、社員自らがテーマを企画して事業化に取り組むパターンです。企画テーマの中から、企業にとって有益になりそうなもの、将来性が期待できるものを企業側が選定し事業化を目指します。ボトムアップタイプの場合、発案する挑戦者の情熱が強い傾向があり、事業化への強い推進力を持つだけでなく、企業にとって未知の可能性を広げられるメリットがあると言われています。また社員の自主・自律性を大切にした活動により、イノベーション創出に携われる人材育成やポジティブな企業風土の醸成にもつながりやすいようです。
社内ベンチャーがもたらすメリット
社内ベンチャーは、新規事業に携わる運営側と社内ベンチャーを後押しする企業側にどのようなメリットがあるのかを見ていきます。
◆ 運営側のメリット
- 企業の名前を使って運営でき、信用を得やすい
スタートアップの場合、いくら画期的な技術やアイデアがあっても組織の認知度はほとんどないため最初から信用を得るのが難しいと言えます。しかし親会社の認知度が高い社内ベンチャーの場合、そのブランド力やネットワークを活用できるため信用獲得から始める必要性が低いと言われています。 - 人材、資金、ノウハウなど必要なリソースが揃っている
新たな事業を立ち上げるには、資金や開発に必要なリソースを用意する必要があると言われています。スタートアップの場合は自己資金を投資してリソースを確保しますが、社内ベンチャーは企業から資金援助を得られ、リソースの活用も可能になります。
◆ 企業側のメリット
- 新規事業によって新たな収益源を得られる
企業を成長させるには、既存事業を継続するだけでなく新規事業の開拓も必要です。社内ベンチャーによる新規事業の立ち上げは、新たな領域に参入するきっかけになります。成功すれば収益源の拡大も期待できます。 - ポジティブな企業文化を醸成できる
社内ベンチャーによって、社内の誰もが技術やアイデアを生かして新たなビジネスを生み出せる文化が浸透すれば、社内ベンチャーに関わっていない人材のチャレンジ精神も生まれることが期待されます。対外的に取り組みを発信すれば、活力ある人材が転職などを通して集まるようになり、ポジティブな企業文化もいっそう醸成されやすくなるかもしれません。 - 優秀な人材を育成できる
本業では経験することが難しい社内ベンチャーでの刺激的な日々や挑戦を通して、携わったメンバーは発想力、思考力、実行力、社内外とのつながりなど様々なものを得て、大きく成長することが期待されます。事業化に成功した場合も、残念ながら事業化が実現しなかった場合でも、人材育成の側面ではメリットがあると考えられます。
社内ベンチャーによるデメリット
多くのメリットがある一方、デメリットもあります。運営側・企業側にどのようなデメリットの可能性があるのかご紹介します。
◆ 運営側のデメリット
社内ベンチャーは企業の持つ人材・資金・リソースを活用できますが、無尽蔵に使えるわけではありません。既存事業への影響やリスクを抑えるために早期の成果を期待されプレッシャーがかかる点は、運営側のデメリットになるかもしれません。またスタートアップとは異なり個人資金の投資や生活上のリスクを伴わないため、熱量が少なくなってしまうケースもあるようです。
◆ 企業側のデメリット
社内ベンチャーは成功すると得られるメリットは大きいですが、必ずしも成功するとは限りません。事業化できなかった場合、投資した資金やリソースがそのまま無駄になり、損失となってしまう場合もありえます。
社内ベンチャーを推進する上でのポイント
社内ベンチャーを成功させるためにはいくつかポイントがあると言われています。成功率アップの参考になる推進のヒントを整理してみました。
◆ 「チーム」で新規事業経験を積む
アイデアから製品やサービスを生み出すプロセスでは、コンセプトメイキング、技術検証、プロトタイプ製作、ビジネスモデル構築など実に幅広い作業が発生します。作業を分配するためにも「チーム」で推進することが勧められています。チームで新規事業創出に取り組むことで仲間意識が生まれ、目の前に立ちはだかる多くの壁を乗り越える力にもなると考えられています。
◆ 一つの「会社」としての機能をすべて持たせる
社内ベンチャーは親会社のリソースを利用できる点が大きな強みです。しかし人事・経理・総務といった会社としての機能を親会社からの“借り物”のまま事業化を進めてしまうと、既存事業のやり方に影響を受けてしまうことがあります。そのため、社内ベンチャーは小さくても一つの会社としての機能をすべて持ち合わせておくことが大切だと言われています。そうすれば既成概念に縛られずに新しいビジネスモデルを構築しやすくなります。
◆ 管理業務を重視する
「会社」として備えておく機能のうち、もっとも重視したいことのひとつが管理業務だと考えられています。とくに契約・取引に携わる法務的な手続き、アルバイトの人事管理や支払い処理など社外と関係する管理業務は、会社の信用を保つために非常に重要な仕事です。社内ベンチャーという強みを活かし、親会社から管理業務に強い人材をアサインすることなども有効とされています。
◆ 人事権は社内ベンチャーの責任者が持つ
どんなメンバーを起用し、メンバーをどう評価するかは社内ベンチャーの責任者に委ねる方が良いとされています。目指すビジョンを実現するための「チームづくり」も、社内ベンチャー責任者の大切なミッションです。人事権を一任することで、独立した組織としての意識を責任者とメンバーがしっかり持てるようになるメリットもあります。
◆ ビジョン・ミッションを明確にする
新規事業を立ち上げる際は、様々な障壁が立ちはだかります。正解を自分たちで見つけなければならない中、模索するメンバーの“心のよりどころ”となるのが、「ビジョン」と「ミッション」だとされています。どういった到達点を目指すのかを表す「ビジョン」、そしてそのために何を行うのかを示す「ミッション」を明確にしてチームで共有することが大切です。そうすれば困難にぶつかった際も道筋を見失いにくく、全員で前へ進む力を得やすくなるかもしれません。
◆ スタートアップに負けない覚悟を持つ
前述したように社内ベンチャーとスタートアップでは抱えるリスクがまったく異なり、リスクが低く抑えられる社内ベンチャーでは熱量が不足しがちだと考えられています。社内ベンチャーであっても「失敗すれば後はない」という強い気持ちを徹底して持つことで、チームの団結力を強くすることに繋がります。
◆ 社内外との「協働」を心がける
会社としての機能をすべて持つことは必要ですが、一方で社内外のリソースをうまく活用することも重要です。達成したいビジョンとその理由を自分の言葉で語り、それに共感してくれる味方を社内外に増やすことが大切です。困ったときにヒントをくれたり、アイデアを出してくれたり、資料づくりやイベント運営を手伝ってくれたりと協働できる仲間は事業化を推進する上で大きな力になると考えられます。
ここまでは、社内ベンチャーの一般的な考え方についてご紹介してきました。近年では社内ベンチャーを推進する上で、社外の新規事業支援サービスを使用するケースも増えています。ここからは、ソニーが企業などに提供している新規事業支援プログラム「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」が、社内ベンチャーをどのように推進しているのか、その特徴について解説していきます。
SSAPが提供する社内起業サポートプログラム
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、もともとソニーの社内起業用の仕組みとして発足したプログラムです。5年をかけて社内のアイデアを事業化へと結びつける仕組みを構築し、共通の課題を持った社外の方からのお問い合わせを受け、2018年10月より新規事業支援プログラムとして、社外へのサービス提供を開始しています。
ソニー社内での事業化実績をもとに社外に展開されるようになったSSAPの特徴は、アイデア創出から事業化に結びつけるだけでなく、ビジネス拡大のためのマーケティング、販売、協業支援まで幅広くサポートする点にあります。様々な専門分野のアクセラレーターが社内起業家に伴走することで、短期間で成果を出すことをコンセプトに、一般企業、教育機関、NPOなど、様々な組織にサービスを提供してきました。実際にSSAPの支援により事業化を実現した事例の一部をご紹介します。
◆ 京セラとタッグを組み、コア技術を一般消費者向けに商品化した
音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」
音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」は、京セラ株式会社にて事業化された商品です。京セラ株式会社ではコア技術である圧電セラミック素子の技術を活用して、ユーザーに新たな体験を提供できる製品を考えており、SSAPの支援の下ライオン株式会社との共同開発に着手。「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間に変える」をコンセプトに、歯ブラシのヘッド部分に搭載した小型圧電素子の働きにより、歯磨き中に骨伝導で音楽を楽しめる商品を開発しました。SSAPはプロジェクト立ち上げから事業創出支援を提供し、クラウドファンディングを活用した市場導入を実現しました。
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◆ LIXILが持つアイデアの事業化を実現した
玄関ドア用電動オープナーシステム「DOAC(ドアック)」
自宅の玄関ドアを簡単に自動化できる「DOAC(ドアック)」ドアに触れることなく、リモコンひとつでカギの施解錠から開閉までができる新しいバリアフリー商品です。車椅子を利用されている方はもちろん、両手が荷物などで塞がった方など誰でもラクに開閉して自由に出入りができます。長年日の目を見なかった玄関ドアの自動化というアイデアを事業化したいと、株式会社LIXILがSSAPの支援を受けて開発をスタートしました。SSAPでは、障がいを持つ多くの方々へのインタビューを通じて、実際にユーザーとなり得る方々の課題と必要な機能の絞り込みなど、ビジネスモデルの仮説構築・検証を支援しました。またマーケティング・クリエイティブの支援も行い、全体の世界観から商品紹介のアプローチなどもサポート。ユーザーのニーズを明確化したことが商品開発のスピードアップにもつながり、わずか約1年での商品発表・事業化を実現しました。
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2021年2月末時点で、SSAPの社外向け事業化支援サービスの提供実績は85件を突破。一般企業、ベンチャー企業、大学などの教育機関、NPOなど、様々な組織にサービスを提供しています。>>詳しくはこちら
社内ベンチャーに興味のある方へ
社内ベンチャー制度を組織にとり入れてみたいものの、「早期に成果が出せるか不安で躊躇している」「そもそも何から始めたら良いのかわからない」といった悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。SSAPでは新規事業に携わるご担当者向けに、3か月で経営陣に報告できる成果を作ることを目指して組織の課題・規模・資金などの状況に応じた最適なプログラムを提供しています。
どのような業界でSSAPを利用できるのか、費用はどのくらいかかるのか、どういったプログラムを実施するのかなど、様々なご質問・ご相談にお答えするオンライン説明会も開催しています。ぜひ一度ご参加ください。