2021.03.27
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

オープンイノベーションの課題とその解決方法

2020年5月29日「オープンイノベーション白書」の第三版が策定されました。同白書の概要版では、「日本企業の中で、オープンイノベーションの取り組みから成果とリソースを獲得している企業が現れている一方、オープンイノベーションの活動を実施していない企業も多く存在している」※と報告されています。オープンイノベーションの成果が両極化する状況において、どのような課題が生まれているのでしょうか。課題解決方法も合わせて解説していきます。

(※オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『オープンイノベーション白書(第三版)』, 2020,概要版 p32,「日本企業の経営におけるイノベーションに対する取り組み状況」より)

オープンイノベーションとは

ハーバードビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ博士が提唱する概念である、オープンイノベーション。2000年代に入りデジタル化が進展。市場ではグローバル化、コモディティ化が促進され、消費者ニーズや価値観の多様化も顕著になりました。時代の変化とともに、よりスピーディなイノベーション創出が求められる状況下において、オープンイノベーションが注目を集めるようになったといえます。
前述の「オープンイノベーション白書(第三版)」の概要版では、日本のイノベーション創出の特徴について日本企業や海外企業へのヒアリング調査や座談会での意見をもとに「スタートアップとの協業をはじめとしたオープンイノベーションを効果的に活用できておらず、新しい価値やアイデアの創出が停滞している」と報告。日本の現状を「大企業の技術、リソースが滞留している」状況にあると分析しています※。しかしこれは悲観的な状況ではなく、いいかえれば、スタートアップ企業との協業などオープンイノベーションをもっと活用でき、かつ挑戦できる可能性がおおいにあると捉えることができます。

(※オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『オープンイノベーション白書(第三版)』, 2020,概要版 p51,「日本のイノベーション創出に関する特徴と方策について」より)

 

オープンイノベーションの課題

オープンイノベーションを推進する際、具体的に直面する課題はどのようなものが考えられるでしょうか。“組織戦略”、“組織マネジメント”、“オペレーション”という3つのテーマにわけてポイントを解説していきます。

◆ 組織戦略
オープンイノベーションを推進するにあたっては、会社組織としての経営戦略・成長戦略に基づいた、オープンイノベーション戦略の位置づけが重要だと考えられています。

  1. 目的やビジョンの明確化
    組織の枠組みを超えて企業同士がイノベーションに取り組む際、必ず目的や期待する効果を明確にする必要があります。なぜオープンイノベーションという手段を採用するのかがあいまいになり、どう活動すればよいか、成果をどう評価すればよいかが具体化できず、プロジェクト自体が頓挫することを防ぐためです。またビジョンの明確化は、プロジェクトに関わるメンバーのモチベーション維持にも有効です。ビジョンには顧客視点で、社会に新たな価値やインパクトをどう与えるかという視点も必要といえます。
  2. 外部連携の判断基準の確立
    目的とビジョンが明確であると、自社組織にとって外部との連携が必要かどうかの判断基準も明確することができます。さらにプロジェクトの進行において、いつまでに何が必要かなど具体的なひとつひとつの事柄の採択基準も明確になるとされています。
  3. 外部連携することの全社的な合意
    オープンイノベーションで陥りやすい状況として、いろいろな側面で既存事業を優先してしまい、オープンイノベーションを推進する社内組織に十分な人員配置や予算配分がなされないケースもあります。オープンイノベーションの位置づけや意味合いが明確になり、外部連携について全社的な理解が深まれば、長期的にもオープンイノベーションという手法を自社の成長戦略のひとつとして活用しやすくなります。
  4. 経営トップのコミットメントが要に
    経営トップのオープンイノベーションに対するコミットメントは必要不可欠な要素です。トップが必要性や目的を十分に理解していないなどマインド面の課題も、阻害要因になりえます。経営トップが積極的に、オープンイノベーションの目的やビジョンなどを社外に情報発信して、外部メディアの認知度をアップすることも重要といえます。「オープンイノベーション白書(第二版)」でもオープンイノベーションの取り組みが活発化している企業は「経営トップ等による対外発信を行っている」という特徴をあげています。※
(※ オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『オープンイノベーション白書(第二版)』, 2018, p250, 第5章 図表5-3「オープンイノベーションの活発化状況から見る課題・阻害要因」より)

◆ 組織マネジメント
実際にプロジェクトを運用していく際に、重要だとされているポイントについて解説していきます。

  1. 専門組織を設置
    オープンイノベーションを成功に導き、健全に運営していくためには、明確なミッションとミッションを遂行するために必要な「権限」「人材」「予算」の3つが十分に配分されている専門組織を設置する必要があるといわれています。オープンイノベーションの目的にもよりますが、兼任者による組織ではなく既存事業の影響を受けにくい、独立した組織として存在することで、より実行力のある機能的な組織に成長できる可能性があります。
  2. キーマンとなる人材の確保
    オープンイノベーション導入時の課題として、人材不足もよくあげられます。しかし、特に関わる人数も規模も大きくなると推測される大企業のオープンイノベーションを実施する際は、推進役を担うキーマンとなる人材は欠かせません。社内外を問わず情報の橋渡し役でもあり、またプロジェクトを推進し、社内にオープンイノベーションの必要性を浸透させる重要な役割もあります。会社側も、キーマンとなる人材への組織的なバックアップが必要です。
  3. 獲得・活用すべき外部リソースの把握
    外部リソースとして何が必要か、何を活用したいのかが明確でない場合、プロジェクトの途中で「それは社内でも調達できるのではないか」と社内の指摘によってオープンイノベーション事業そのものが中断してしまうケースもみられます。経済産業省がまとめたオープンイノベーションの課題に関する資料でも「外部から獲得すべき経営資源、又は外部で活用すべき経営資源の把握」が重要であると示されています※。
  4. 研究開発部門の理解
    自社内に研究開発部門がある企業においては、外部の研究開発機関を活用することは、なかには存在意義を見失った研究開発担当者のモチベーション低下にもつながりかねません。また競争心に火がつけば、本来共創すべき連携先に対して競合意識を抱いてしまうことも考えられます。自社の開発力を衰退させないためにも、全社の理解はもちろんですが、研究開発部門の理解は必須といえます。
  5. 新たな仕組みを活用した連携先の獲得
    これまで日本企業が技術などの外部連携先を探す際に、展示会等で見つける、論文や学会情報から情報収集するなどがありました。既存事業の延長線上のイノベーションと一線を画すためにも、新たな仕組みの活用が有効だといわれています。2000年以降に生まれた新たなイノベーション手法であるオープンイノベーションのメリットを活かすには、ビジネスコンテスト、ハッカソン・アイデアソン、ベンチャーキャピタルなどがあります。
(※ オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『オープンイノベーション白書(第二版)』, 2018, p248, 第5章 図表5-2「オープンイノベーションを推進するための課題例の整理」より)

◆ 推進・進行面でのオペレーション
3つめの視点として、オペレーション上に考えられる課題について解説していきます。

  1. アイデア・技術流出の問題
    これはクローズドイノベーションと比較される際に、必ず追求されるポイントでもあり、オープンイノベーションにとって切り離せない課題です。しかし、この点は事前にセキュアな体制と研究開発環境を整えておくことで解決しやすくなります。企業同士のマッチング支援を専門的に行う外部機関などはこの分野に長けています。支援を依頼するという解決策もあります。
  2. コアコンピタンスの保護
    自社のコアコンピタンスを守るという点は、オープンイノベーションでは意識しておくべき要素だといわれています。様々な知識や情報、ノウハウを共有する前に、オープンにしてよい領域の明確な線引きが必要です。
  3. 費用分担や収益分配、知財の取り扱いの合意形成
    オープンイノベーションの課題のひとつとして、「オープンイノベーション白書(第二版)」でも取り上げられているのが、費用分担や知財の取り扱いにおいて合意が困難であることです。※ しかし、この点が解決されない限り、プロジェクトを進めることは望ましくありません。収益分配についても同様ですが、お金や利益にまつわる部分について、協業を開始する前に明確な取り決めをしておくことで、後々の大きなトラブルを避けやすくなります。
  4. 協業で目指す目的やスピード感の不一致
    「オープンイノベーション白書(第二版)」がもうひとつ課題として指摘しているのは、協業先が大学や公的研究機関の場合、オープンイノベーションを進めるうえで「目指すところやスピードが合わないこと」です。常に社会の急速な変化に対応し、結果を求められる企業にとっては、このような不一致感が生まれる可能性が想定されます。産官学の連携などのケースでは、あらためてビジョンを確認し、プロジェクト進行するうえでマイルストーンを設定するなど、共通認識を徹底することが大切です。
(※ オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『オープンイノベーション白書(第二版)』, 2018, p250, 第5章 図表5-3「オープンイノベーションの活発化状況から見る課題・阻害要因」より)

オープンイノベーションを成功させるカギ

様々な課題について解説してきましたが、ここでは特に重要と思われる成功のカギを3つ取り上げました。

◆ メリット・デメリットを十分把握する
オープンイノベーションの課題をあらためてこのように網羅すると、自社で取り組みを進める場合のメリットとデメリットが見えてきたかもしれません。オープンイノベーションには、メリット・デメリットの両方があります。成功に導くためには、自社のケースでは「何がデメリットになるのか」に対する深い理解は欠かせません。事前の詳細な把握こそがデメリットの対策につながるといえます。

◆ 目的を定めて支援サービスを選択する
はじめてオープンイノベーションに取り組む場合は、マッチング支援を専門とする外部機関を活用することも、成功につながる選択肢のひとつです。適切な連携先を見つけられるかどうかは、オープンイノベーションの成否を左右しやすいため、連携先の見極めには慎重さが必要です。幸いオープンイノベーションの活発化に比例して、マッチング支援サービスを提供する専門機関も増えてきました。利用する企業が増えることで、より出会いの可能性も高くなっています。事前に、何を外部リソースとして活用したいのか、反対に何を提供したいのかを明確にした上で活用するとよりよい効果が期待されます。

◆ オープンイノベーションの担当者を固定する
プロジェクトを推進する専任の担当者の存在も重要です。現場担当者として「イノベーター人材」と、経営層と現場担当者をつなぐ中間的な位置にいる「コーディネーター人材」がカギになると言われています。「イノベーター人材」には、ゼロから1を生み出すような起業家マインドを持った方が向いています。コーディネーター人材には、社内では各事業部の状況や技術に精通し、社外では適切な技術や人材のネットワークを構築できるような資質が求められます。

 

協業先や提携技術を探すために

オープンイノベーションの成功に大きな影響を及ぼすビジネスパートナー選び。異分野、異業種で見つけようとしても、そもそもネットワークがなければ難しいといわざるをえません。ソニーが提供する新規事業支援サービスSony Startup Acceleration Program(SSAP)がおすすめするパートナー問題を解決するヒントをご紹介します。

◆ ハッカソンやアイデアソンへの参加および開催
ハッカソンとはハック(hack)と、アイデアソンはアイデアとマラソンを掛け合わせた造語です。いずれも特定のテーマについて、新しい製品やサービス、アイデアを生み出しイノベーションを起こすために、多種多様なメンバーが集まるイベントのことを指します。パートナーを探すためにハッカソンやアイデアソンを自社で開催して、ビジネスパートナーを見つけるという方法もあります。

「アイデアソン」について詳しくはこちら >>アイデアを生み出す注目メソッド! 「アイデアソン」とは? 
「ハッカソン」について詳しくはこちら >>アイデアをカタチにするイノベーション手法 「ハッカソン」とは? 

◆ アクセラレータープログラム等の活用
大企業や自治体などが、スタートアップ企業やベンチャー企業を対象に募集を実施し、出資や支援をするのがアクセラレータープログラムです。コアコンピタンスとなる技術がある場合は、一般的なアクセラレータープログラムを活用して出資を得ることも可能です。資金提供をする大企業側も、スタートアップ企業やベンチャー企業のビジネスの柔軟性や迅速性などを得るなどのWin-Winの関係を築くことができます。
一方でSSAPは一般のアクセラレータープログラムとは違い、大企業やスタートアップに起業のノウハウを提供することで、社会課題の解決ができる人材が増えることを目指しています。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、新規事業の立ち上げから販売・拡大までをサポートします。新規事業担当者向けのオンライン説明会を開催しています。>>詳細はこちら

◆ 産学官との連携 
大学などの教育機関や研究機関、政府や地方自治体などと連携する方法もあります。文部科学省の「オープンイノベーション機構の整備事業」には、政府が「2025年度までに大学に対する企業の投資額を3倍(2014年度比)とするという高い目標を定めました」とあり、積極的に支援していく方針が示されています。この事業には東京大学、京都大学をはじめ12の大学が採択されています。

◆ コワーキングスペースの活用  
コワーキングスペースなどのフレキシブルオフィスを活用して、異業界・異業種の会社との交流を深めるのも手法のひとつです。コワーキングスペースは、他社のビジネスモデルやノウハウなどの情報共有や新規アイデア創造の場として活用されています。オープンイノベーションで成果をあげている企業などは、大企業、中小企業、スタートアップ企業など会社の規模に関係なく、コワーキングスペースを活用しているケースが見受けられます。

2020年12月、SSAPがソニーグループ本社にオープンしたコワーキングスペース>>詳しくはこちら

◆ スタートアップ企業とのオープンイノベーション
提携先とのマッチングの方法を様々ご紹介しましたが、ここでは特にスタートアップ企業とのオープンイノベーションについて解説します。

  1. スタートアップ企業との連携
    もしあなたの会社が歴史も技術もあるが、なかなか新しいアイデアや柔軟な発想力がないという場合は、スタートアップ企業と連携するスタイルのオープンイノベーションが適しているかもしれません。前述のようにイベントやビジネスコンテストの開催や、コワーキングスペースの活用で出会いの機会を生むことができます。
  2. スタートアップ企業への投資
    出資という形でオープンイノベーションに取り組みたいという場合は、アクセラレータープログラムやVCと呼ばれるベンチャーキャピタル(ベンチャー企業に出資する会社)を活用することもできます。VCによって出資の方針なども異なるので、VCを活用する場合は、まず事業戦略などを事前に確認しておくとよいといわれています。
  3. スタートアップ企業とのM&A
    M&Aというとオープンイノベーションとは無関係に思えるかもしれませんが、有望な技術やアイデアをもつと判断したスタートアップ企業を自社グループに経営統合もしくは合併するのは、M&Aをした企業側から見ればオープンイノベーションといえます。この場合は、スタートアップ企業の知識や技術、人材とさらに顧客基盤もすべて取り込むことになります。優秀な人材を確保できる手段のひとつですが、合併後の人事制度や処遇について適切な対応が重要です。

 

オープンイノベーションを創出するエコシステム

近年、イノベーションを創出するためのエコシステムの重要性が、認められるようになってきています。エコシステムとは、もともと自然界における生態系を表す用語ですが、それをビジネス領域に置きかえ、複数の企業や事業が互いに協業や連携しながら成長していく仕組みのことを指しています。実際に、企業やベンチャー企業、大学などの研究機関、政府や自治体など公的機関が連携したエコシステムをつくりあげている地域からは、多くの起業家やベンチャー企業が生まれ、活発なイノベーションが創出されています。この傾向は世界においても同様で、「オープンイノベーション白書(第三版)」には、エコシステムの取り組み事例としてドイツやアメリカ、中国、そして日本国内では渋谷区、大阪市などのエコシステムが紹介されています。

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進化し続けるオープンイノベーション

オープンイノベーションは21世紀に入ってから活発化してきた、新しいイノベーションの形です。そのため課題も多くあるかもしれませんが、それを上回るような可能性も秘めています。オープンイノベーションを成功させるための知識やノウハウも日進月歩だといえます。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、新規事業の立ち上げから販売・拡大までをサポートします。
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)ではアイデア創りから事業運営、販売・事業拡大まで一気通貫で支援する仕組みが整っています。社内に新規事業のアイデアを生み出す仕組みを導入したい、取り組みたいテーマはあるがアイデアがまとまらない等のお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、740件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年9月末時点)

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