ここ数年、日本においても市場を活性化させるようなユニークな製品やサービスが登場したり、社会課題を解決する事例が注目を浴びたり、オープンイノベーションに取り組み、実際に成果をあげたりする事例もみられるようになりました。
またコロナ禍などの急速な社会構造の変化で、企業は組織や体制の変革を迫られることになり、人材不足や在宅ワークのための環境整備にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を加速させています。こうした新たな課題に対しても、課題解決のアイデアを創出するという点で、オープンイノベーションの活用が期待できます。
ここでは、あらためてオープンイノベーションとは何か、さらにオープンイノベーションがもたらすメリットやデメリット、そしてそれらを踏まえたうえでの成功のポイントなどを解説していきます。
オープンイノベーションとは
ハーバードビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ博士が自著のタイトルにも掲げたことで広く知られるようになった「オープンイノベーション」。メリットとデメリットの解説にさきだち、その概要についてご紹介します。
◆ オープンイノベーションとクローズドイノベーション
社内外の枠組みに縛られることなく知識やアイデア、ノウハウ、技術を取り入れ、革新的な製品やサービス、新規事業、ビジネスモデルなど新たな価値を創造するのがオープンイノベーションです。たとえば、企業間の連携による事業推進、産官学連携による社会課題解決など様々な形やプロジェクトがあります。
一方、これまで日本企業の中心的なイノベーションの手法であったのが、クローズドイノベーション。研究開発のスタートから製品化まで、外部リソースは利用せず自社内ですべてが完結するイノベーションの手法です。自社で開発した技術やアイデアを独占・秘匿できますが、市場提供にいたるプロセスでは莫大な時間とコストがかかるといわれています。
オープンイノベーションが注目される理由
現代のグローバル化もあって加速的に変化する市場や、多様化し続ける顧客ニーズ、価値観に対応できるイノベーションの手法が、オープンイノベーションだといわれています。このような背景もあり企業にとっては、他社と協業しながら事業を進めることが、そのスピードに対応するための経営戦略のひとつとなっています。
オープンイノベーションの型
オープンイノベーションは、大きく3つの型にわけられます。
◆ インバウンド型
自社にない知識やアイデア、技術やノウハウ、人材などのリソースを、他社から取り込み補完します。社外技術のライセンスイン(他社の技術や特許権等に対して、対価を払って自社に導入すること)により、効率的に技術要素を採用できます。大学や研究機関と民間企業による産学連携などもインバウンド型のオープンイノベーションです。
◆ アウトバウンド型
既存技術など内部資源を外部へ提供し、新たなアイデアや発想を取り入れるスタイルのオープンイノベーションです。自社の開発技術のさらなる発展や市場化を目的とするライセンスアウトや、プラットフォームを提供して実施する共同開発なども該当します。
◆ 連携型
インバウンド型とアウトバウンド型の両方を組み合わせたスタイルです。アイデアソンやハッカソン、コーポレート・ベンチャー・キャピタル、さらにいわゆる事業提携も連携型のひとつです。ソニーが提供する新規事業支援プログラムSony Startup Acceleration Program(SSAP)が行う支援も連携型のオープンイノベーションです。
何をオープンイノベーションするのか? その対象は。
◆ 人材
経営資源の重要要素である人材は、重要な対象です。開発テーマに深い知識や技術などをもつ人材なら社内の所属部署に関係なく、また異業種企業であっても活躍を期待できます。
◆ アイデアやマインド
自社内で新たなアイデアや発想が生まれにくい状況の場合、自社の文化にない研究開発に対する新たなマインドや切り口を得て、開発のきっかけをつくるためにオープンイノベーションを利用するケースもあります。
◆ 特許技術などの知的財産
自社の特許技術など知的財産を他企業と共同で活用することで、新たな技術や既存概念にないビジネスモデルを創出できる可能性も期待できます。
◆ 研究開発(R&D)
他企業の研究部門や研究機関、大学などの教育機関と共同で行う研究開発も対象です。従来の共同開発との違いは、両者が明確なビジョンを持ち、同じゴールへ向けて取り組む姿勢だといわれています。
◆ まずは様々なケースを学び、インプットする
実際のオープンイノベーションの事例には、様々な組み合わせやテーマ、プロジェクトがあり多種多様です。オープンイノベーションに決まったシステムやプログラムはありません。
たとえば、大企業や自治体がベンチャー企業やスタートアップ企業に出資や支援をする「アクセラレータプログラム」も、資金のオープンイノベーションといえます。
ポイントを理解し、着実にイノベーションを実践・促進していくには、社会に大きなインパクトを与えたリアルな実例を、体験者から数多く聴くことが近道かもしれません。身近に体験者がいるならインタビューをしたり、成功事例を紹介するようなイベントに参加したり、また経済産業省の「オープンイノベーション白書」などの資料からも体系的な知識を得られます。
オープンイノベーションの代表的なメリット
オープンイノベーションには様々なメリットがあるといわれていますが、その中でももっとも代表的な4つのメリットについて解説します。
◆ 外部の新たな知識や技術の獲得
社外組織との連携によって、日本企業が長年慣れ親しんできた自社内ですべて完結する研究開発体制では得られなかった、自社の得意分野以外の知識や技術、ノウハウなどの獲得が可能です。そしてオープンイノベーションで得られた知識や技術、ノウハウはけっして当該プロジェクト内に留まるものではなく、プロジェクトに関わった人材や組織の将来的な成長の基盤になるといえます。
◆ 外部のリソースを活用
外部のリソースを活用するオープンイノベーションの特徴自体が、ひとつのメリットだといわれています。連携する企業や組織、人材を選ぶ際に、自社の弱みを補うような技術やノウハウをもっているか、または、自社とは異なる分野の専門的な知識をもっているか、などの視点に注目し、弱みを補完しあう会社同士で協業できれば、オープンイノベーションの効果はより大きくなる可能性があります。
◆ 短期間・低コストでの開発
新規事業の立ち上げや新製品、新サービスの開発は、自社内でゼロから研究開発をしようとすると、開発にかかるコストも時間も膨大になりかねません。オープンイノベーションでは、開発段階の知識やノウハウ、技術、人材など外部のリソースを活用することで開発プロセスの短縮化、さらには自社内での投資コストの軽減にもつながるといわれています。
◆ 事業推進のスピードアップ
オープンイノベーションによって開発スピードが短縮化され、コストも抑えることができれば、それは自ずと事業推進の力となります。クローズドイノベーションでは実現するのが難しいと思われた期間で、新規の技術やアイデアを市場へ発信できる可能性があります。開発にかかる時間や費用を管理できる、つまりプロジェクトマネジメントの視点でも成果が期待できます。
オープンイノベーションの多彩なメリット
オープンイノベーションは、どのような組織、企業、人材と連携するか。どの部分を協業し、拠点はどこに置くか、どのような形で導入するかによってもメリットは変わってきます。メリットを理解したうえで、戦略的に導入のスタイルを考えることが大切だといわれています。
◆ 高付加価値技術の開発も可能
自社の技術やアイデアを提供する場合、連携先企業や組織、人材との間で想定外のいわゆる化学反応のようなことが起こり、これまでにない革新的な技術が生み出される可能性もあります。
◆ 自社の活用できていない技術を他社と商品化・サービス化
非常に優れた技術をもっていても、自社内に製品化のアイデアがない、製品化できてもマーケティングの知識やノウハウが不足しているというケースがあります。このような自社の弱みを補完しあえる企業や組織と組むことで製品化を実現できます。
◆ 多様化するニーズ・価値観への対応力が向上
前述のとおり、変化の速い現代社会において、刻々と変わる顧客ニーズや価値観を的確に捉えることは困難です。しかし異なる業界やエリアの外部組織と協業することで、多様化する顧客ニーズや価値観に関する情報を効率的に入手できるようになり、対応力の向上が期待できます。
◆ 異なる企業文化に触発される
オープンイノベーションにより、協業先の企業との人的交流が活発になります。物理的に、オフィス内や新たな拠点で人的交流が起こり、自社にはなかったアイデアや発想法、課題解決の手法、研究開発や事業に対する姿勢などにも自然に触れることができます。これは組織の活性化を促進し、人材の成長にもよい刺激となりえます。
◆ 企業の強みと弱みを整理する機会になる
オープンイノベーションを成功に導くためには、自社の強み弱みの分析が必要になります。お互いに不足を補い合える協業関係が、オープンイノベーションの目的達成には欠かせないからです。オープンイノベーションへの取り組みが、自社の戦略的な視点での棚卸しにもつながります。
◆ 自社のコアコンピタンスのアピール
前述のメリットにある「自社の活用できていない技術を商品化・サービス化」が実現できた場合、さらに大きなメリットを創出する可能性があります。その製品やサービスがまだ市場にない創造的な価値を生み出し、社会に大きな利益を生むようなものになれば、それは自社のコアコンピタンスをアピールするまたとないチャンスになります。
◆ 組織強化につながることも
自社のコアコンピタンスを広く市場へアピールできれば、さらなるメリットが考えられます。もしスタートアップ企業や中小企業であれば、自社の強みを発信できたことで、新規ビジネスや事業の資金調達につながるかもしれません。協業や連携というスタイルだけではなくM&Aや企業統合など、組織そのものが強化される可能性も生まれます。
◆ 経営資産の棚卸しと新たな成長戦略へ
オープンイノベーションの取り組み過程で、自社の強みや弱みを整理分析する機会そのものがメリットであると述べました。メリットはその先もあります。自社内の経営資源はもちろん、市場で競争力となり得る技術や特許、知的財産などをあらためて整理することで、自然と自社の進むべき道も見え、それらの分析をベースに将来の経営戦略、成長戦略を構築するまたとないチャンスになりえます。
オープンイノベーションのデメリット
多くのメリットを紹介しましたが、デメリットについて知っておくことも必要です。メリットとデメリットの両面をバランスよく知ることで、リスクを最小限に抑え、オープンイノベーションを成功へとつなげる可能性が高まるといわれています。
デメリットを回避するために、まずは自社が検討しているオープンイノベーションに対して、役立つ知識やスキル、情報をもつ外部機関を事前に探しておく必要があります。
◆ アイデアや技術などの情報漏洩・流失のリスク
自社内で開発から市場投入まですべて完結するクローズドイノベーションと比較すると、アイデアや技術の情報漏洩・流出のリスクは高くなります。リスクを減らすためには、連携する際には、人材や資金、物理的な拠点をどこにおくかなどといった、どのような環境を構築できるのか合意を得て明確にしておくことも重要です。合わせて、協業する企業間で、データの管理方法・アクセス権限などセキュリティ面などの具体的なルールづくりも事前に決めておく必要があります。
◆ コミュニケーションコストの増大
お互いに異なる企業文化をもつ組織同士が連携するため、基本的な業務フローを含む様々な点での違いが想定されます。そのため、プロジェクトのスタート段階の組織や体制づくり、さらにプロジェクトの進行において、お互いのコミュニケーションコストが増加する可能性があります。報連相の徹底やデジタルツールなども活用しながら、プロジェクトチームの柔軟な意思疎通をはかることをおすすめします。
◆ バリューチェーンの複雑化
他社と協業する場合、自社からは見えない組織や活動が増えてしまうなど、バリューチェーンが複雑になることも事前に理解しておくとよいといわれています。マッチングの段階でお互いの事業内容や活動について、共有できる部分や課題などを洗い出して対応することにより、後々に起こりうる利益や費用負担など金銭面のトラブルを未然に防ぐことにつながります。
◆ 利益率の低下
自社にすべての利益を還元できるクローズドイノベーションと比較すると、オープンイノベーションではビジネスパートナーと利益分配が必要となるので利益率は低くなる傾向があります。しかしオープンイノベーションはコストや時間の投資が減る部分があり、そこの捉え方によっては、一概に利益率が低いとはいえないという見方もあります。
◆ 利益分配トラブルのリスク
オープンイノベーションを通じた事業創出で、検討事項となるのが利益分配です。後々トラブルにならないように、事前に契約を交わしておくと安心です。
◆ 費用負担トラブルのリスク
分け合うのは利益だけではなく、費用負担も同様です。立ち上げ前にそれぞれの社内でプロジェクトの準備のために投資をしているケースもあるかもしれません。プロジェクトが進む中で、どのようなコスト負担が生まれるのかも想定したうえで事前に協議しておく必要があります。
◆ 社内の理解不足
はじめてオープンイノベーションに取り組む場合は、社内の意識改革も大切です。特に研究開発に外部リソースを活用する際は、社内の開発部門のモチベーションを低下させないよう、目的を明確にしておきましょう。社内の理解は必須といえます。
メリットとデメリットを把握して、うまく活用するには
以上のようなメリットとデメリットをうまく活用してオープンイノベーションを成功に導くために、“組織”という視点で注目するとよいと考えられている3つのポイントを解説します。
◆ 社内の理解、組織体制の構築
日本企業は長年に渡りクローズドイノベーションが中心の時代を生きてきたといわれています。企業のトップである経営層や社員の中にオープンイノベーションに抵抗のある方がいてもおかしくありません。オープンイノベーションは、プロジェクトチームだけの力では成り立ちません。新たなイノベーションへの取り組みに、社内の理解は不可欠であり、理解のうえでこそ、協力的な組織体制が構築できるといえます。
◆ 専門組織を設置してミッションを明確にする
プロジェクトチームのメンバーを、もともとの所属部署に在籍しながら兼任という形でアサインするケースがあります。しかし二足のわらじではなくオープンイノベーション専任人材による組織を設置し、ミッションを明確にする方が、ほどよいプレッシャーにもモチベーションにもつながり、成功の可能性を高めるといわれています
◆ イノベーションを生み出す文化や風土づくり
オープンイノベーションは新規の製品やサービス、事業をゼロから立ち上げるため、社内に前例がないことが多々あります。そのため失敗を恐れてなかなか進まないケースもあります。失敗を推奨するのではありませんが、まずは失敗を恐れない勇気、失敗を受け入れる文化や土壌などをつくることも大切だと考えられています。
自社のコアコンピタンスを守るために
オープンイノベーションには“コアコンピタンス”という視点でのメリットが大きいと解説しました。一方で“コアコンピタンス”を保護することもオープンイノベーションを成功させるか否かの重要なポイントとなります。
◆ 自社リソースの調査
コアコンピタンスを維持するためには、まず自社内のリソースの棚卸しが必要です。次々とスタートアップ企業、ベンチャー企業が起業する中で、自社が提供できる“競合他社にはマネできない圧倒的な技術”は何かを見極めることからはじめます。そのためには幅広い視点で、社会で必要されている技術やリソースは何かを知る洞察力も必要だといわれています。
◆ 提携企業のピックアップ
自社のコアコンピタンスを明確にしたうえで、提携する企業や組織などビジネスパートナーを探します。その際、自社のコアコンピタンスと掛け合わせて、どのような成果を出せるか、どのような価値を創出できるかなどを、青写真を描いておくことは重要です。提携企業をピックアップする際に、大企業・中小企業・スタートアップ企業など企業規模や業種、国内か海外かというような先入観にとらわれず、吟味することがポイントです。
◆ 提供リソースの選定
実際にどの領域まで社外にオープンにしてよいか。オープンイノベーションでは、提供するリソースの範囲の見極めも肝心です。自社そのものの成長戦略を照らし合わせたうえで、オープンイノベーションの目的にも応じた適切な判断が求められます。
SSAPのオープンイノベーション事例紹介
ここではSony Startup Acceleration Program(以下、SSAP)が支援をしたオープンイノベーションの成功事例とともにSSAPの活動についてご紹介します。
2020年に京セラで事業化が正式に決定した音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」は、SSAPを活用して事業化に至った成功事例です。2018年10月、京セラ株式会社(以下、京セラ)がSSAPを活用してゼロからスタートし、ライオン株式会社(以下、ライオン)と共同開発しました。京セラのコア技術と、ライオンのデンタルケア分野での実績が掛け合わさり、当初の課題解決だけでなく、新たな消費者ニーズを引き出した事例です。>>事例について詳しくはこちら
京セラでは、他にも支援事例があります。用途アイデアを外部から募集するコンテストの企画・実施です。
「技術シーズアイデアコンテスト(薄型軽量太陽電池モジュール)」>>事例について詳しくはこちら
また、医療・ヘルスケア領域の事業創出を目指す企業の事業化支援も行っています。>>事例について詳しくはこちら
オープンイノベーションで新たな開発スタイルを手に入れる
これまでクローズドイノベーションによって成長を続けてきた日本国内の市場。いまオープンイノベーションによって、多くの日本企業が新たな事業創出スタイルを構築し挑戦しはじめています。
多くの企業や組織が、まだまだ未知の部分が多いと感じているかもしれないオープンイノベーション。SSAPはこれまで、数々の企業や人材を支援し、オープンイノベーションを実現するための知見やノウハウを積み上げてきました。社内に新規事業のアイデアを生み出す仕組みを導入したい、取り組みたいテーマはあるがアイデアがまとまらない等のお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。ビジネス拡大を力強く推進します。