2021.11.30
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

レジリエンスの高め方 〜不確実な時代を生き抜く力「レジリエンス」を向上させるには?〜

「外からの力にうまく適応し再び元に戻れる力」を意味するレジリエンス。昨今では、危機的な状況・困難な問題などに対する「適応力」「回復力」「復元力」「しなやかな強さ」といった概念で使われ、ビジネスにおいても重要視され始めているキーワードです。この記事では個人のレジリエンスを高める方法について詳しく解説します。

レジリエンスとは

レジリエンス(resilience)とは本来、英語で「弾力性」「柔軟性」を表す言葉。レジリエンスのある状態を指す形容詞として「レジリエントな」と表現する場合もあります。レジリエンスは、ストレスのかかる状況に単に“耐える”“負けない”といった硬質な強さではなく、うまく受け止めながら逆境を前進の力として活かせる柔軟な力を指す際に使われることが多いと言われています。変化の激しい現代、とくに多くのストレスにさらされているビジネスパーソンにとって心理学的・精神的に健やかな状態を保つために不可欠な力だと言われています。

詳しくは「ビジネスにおける『レジリエンス』の重要性について>>#39レジリエンスとは?

 

レジリエンスを高める目的

レジリエンスを高める目的として、主に2つが考えられます。1つは前述したようにビジネスパーソンの心の健康を保つためです。厚生労働省の調査(「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」)によると、仕事で強いストレスを感じているという割合は半数以上に上り、多くの人が心理的なストレスに直面していることがわかっています。ストレスは心身の不調を引き起こすとされ、ストレス社会で働くビジネスパーソンにとってレジリエンスを高めることは、メンタルヘルスの維持に不可欠だと言えます。もう1つは困難な状況を自己成長につなげるためです。危機に対して立ち止まったり背中を向けたりするのではなく、レジリエンスを発揮して難しい状況にうまく適応して向き合い、やるべきことを成し遂げることができれば、自身の成長をより加速させることができるはずです。

◆ 新規事業立ち上げにおけるレジリエンスの重要性
レジリエンスは新規事業立ち上げにおいても不可欠な要素だとして注目が高まっています。なぜなら新規事業の立ち上げには、新たな挑戦に伴うさまざまな困難や乗り越えるべき壁に直面することがあるからです。新規事業創出メンバーが高いレジリエンスを備えていれば、不測の事態が起こっても柔軟に対応し、逆境に対してもメンタルを回復させながら立ち向かえます。万が一失敗したとしてもそこから次のビジネスの種を見出すなど、何らかの成果につながる可能性が高くなると考えられます。
世の中の価値観やニーズが刻々と変わる今、企業は組織・人材・ビジネスモデルの刷新を余儀なくされています。そんな中、従業員のレジリエンスを高めることは企業が時代を生き抜き、持続的に発展するための“鍵”を握っていると言っても過言ではありません。

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レジリエンスの高い人の特徴

レジリエンスの高い人にはどのような特徴があるのでしょうか。レジリエンスは内面的な特性ですが、目に見えて表れる要素もあるようです。6つの特徴についてご説明します。

◆ 柔軟性の高い思考力を持っている
レジリエンスの高い人は目の前の状況だけを見て狭い視野で物事を判断したりせず、“全体”で状況を捉えようとする傾向があります。誰もがもう無理だと思ってしまうような状況でも、人とは違う視点で状況を客観的に観察し、プラスの要素を見出すことができます。「他に方法があるかもしれない」と前向きな姿勢で柔軟に考えるのが、レジリエンスの高い人の特徴の一つとされています。

◆ 失敗しても挑戦を続けられる
レジリエンスが低いと、仕事で失敗すると次の挑戦を諦めてしまうケースが見られます。一方、レジリエンスが高い人は自己肯定感が高い傾向にあり、「自分ならできる」と何ごとにも自信を持って取り組むことができます。失敗しても、精神的にダメージを受けるよりも、失敗を課題と捉え「どうすれば次は乗り越えられるか」「他に方法はなかったか」とポジティブに考える傾向があり、成長の糧にすることができると言われています。

◆ 気持ちの切り替えが早い
落ち込んだり肩を落とすことがあったりしても、すぐに気持ちを切り替えられるのがレジリエントな人の特徴です。失敗やストレスに直面しても、「自分ならできる」のマインドでそこに突破口を見つけ出そうと強い気持ちを持って物事に向き合う習慣を身につけています。外部からの力を次に進むパワーに変えようとする姿勢こそ、レジリエンスの高い人の大きなポイントだと言えます。

◆ 周囲と信頼関係が築けている
レジリエンスのある人は、周囲の人に信頼感を持っているので、自分の力でどうしようもない状況でも周囲の励ましや協力を自らの力に変えることができ、困難に立ち向かえます。家族・友人・職場の仲間との良好なつながりにより精神的にも安定し、レジリエンスが高い状態を維持しやすいと考えられています。

 

「レジリエンス」能力を構成する6つの要素とは?

前項でご紹介したレジリエンスの高い人の特徴は、どのような行動特性に基づいているのでしょうか。科学的に検証されているレジリエンス・コンピテンシー(行動特性)を解説します。

◆ 自己認識
自分がどのような思考、感情、行動、生理的反応を取る傾向にあるかを客観的に認識し、受け入れる特性を持っています。さまざまな状況において自分がどう振る舞うかを知ることで、臨機応変に適切な対処方法を取りやすくなると言われています。

◆ 自制心
自制心とは、感情や言動を自身でマネジメントできることを指します。困難な状況や危機的な事態に陥った際にパニックになったり怒ったりするのではなく、自分を律して精神を整えることで適切な判断ができるようになるのです。

◆ 現実的楽観性
裏付けなしに「なんとかなるだろう」と考える楽観性ではなく、物事の全体を的確に捉え困難な状況を打開するポジティブな面を見つけるなどの現実に基づいた楽観性を意味します。具体的には「この部分を活かせば、難局を乗り越えられそうだ!」と考えたり、「大変だけど自分を成長させられる機会になるはず」と意欲を持って取り組んだりする姿勢が挙げられます。

◆ 精神的柔軟性
物事の一つの面だけに固執していては、困難な状況を打開する新たな方法は見つかりにくくなります。精神的柔軟性を持つことで、状況を多角的に観察して全体像や本質を捉え、柔軟に対応する糸口を見つけやすくなります。

◆ キャラクター・ストレングス
キャラクター・ストレングスとは、「自分ならできる」という自己効力感を持っている状態を指します。これにより、失敗やリスクを恐れたりネガティブな思考に囚われたりすることなく自分の能力を最大限に発揮できるようになり、逆境に打ち勝ちやすいというメリットにつながります。

◆ 関係構築力
オフィスでともに働く仲間と強い信頼関係を築き、それを維持する能力を指します。他者の良い面に気づき、コミュニケーションを通して関係を深めることで、突発的なトラブルが発生した際にも協力を仰ぎやすくなります。また相談できる友人や家族の存在は、ストレス環境下で気持ちを和らげてくれ、心理的安全性の中で安心感や前向きな気持ちを取り戻す力になります。

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個人のレジリエンスを高める方法とは?

「レジリエンスの有無は、生まれつきの特性では?」と思われる方も多いかもしれませんが、実は、レジリエンスは先天的な能力ではなく、今日からでも高めていくことができます。私たちが今後の人生においてレジリエンスを高める5つの方法をご紹介します。

◆ 思考パターンを理解する
前項のレジリエンス・コンピテンシーで最初に触れた「自己認識」を養うためには、自分の思考傾向を理解することが必要です。例えば物事をマイナスに捉えてしまいやすい、「〜すべき」など固定化された思考に陥りやすい、「普通は〜だ」など考えを一般化しやすい、感情的になり根拠なく結論を出しがち、自分に関係ないのに勝手に責任を感じてしまいがちなどの思考パターンがあります。自分の思考パターンを客観的に分析して認識し、それを捨て去ることがレジリエンスを高めるために重要だと言われています。

◆ 感情をコントロールする
「自制心」を養うためには、自分の感情をコントロールすることが必要です。レジリエンスの高い人は、目の前の出来事に一喜一憂するのではなく、最終的な目標達成に向けて落ち着いて物事に向き合う傾向があると言われています。困難や危機に対して「もうダメだ」とマイナスの感情に支配されてしまうと、冷静な判断ができなくなって成果を出せなかったり、諦めてしまって成長の機会を逃したりする可能性も否定できません。
感情コントロールにぜひ活用したいのが、アメリカの臨床心理の権威であるアルバート・エリス博士が提唱した「ABCD理論」です。ある出来事(A:Activating event)は、個々の受け止め方や考え方(B:Belief)によって解釈が変わり、それにより感情や行動(C:Consequence)が引き起こされます。もし受け止め方や考え方(B)が否定的だと、それによって必要以上の悲しみの感情や見当違いの怒りなど、ネガティブな感情・行動(C)が引き起こされやすくなります。しかし自分の考え方(B)を客観的に見つめ直し反論すること(D:Dispute)で、適切な感情や行動(E:Effect)が生まれるという考え方です。
自分の受け止め方を客観的に認識し、もし必要以上にネガティブだと気づいたらそれに対して反論すること(D)を意識することが、感情コントロールの面でもっとも重要だと考えられます。

◆ 自己効力感を高める
自己効力感とは、困難や危機に直面しても「自分ならできる」と自分を信じる力のこと。自己効力感の高い人は、難しい状況になっても途中で諦めることがなく、目標の達成率・実現率が非常に高い傾向があります。
自己効力感を高めるために効果的なのは、まずは小さな成功体験を積み重ねること。最初から大きな目標を掲げるのではなく、小さなステップを一つひとつ確実にクリアすることで、モチベーションを維持しながら「自分ならできる」という自信をポジティブな経験を通して積み重ねられます。また、身近にいる先輩や同期など他者の成功体験を見聞きして目標達成・実現のプロセスを参考にするのも効果的だと言われています。

◆ 自尊感情を高める
自尊感情とは、ありのままの自分を受け入れ「自分には価値がある」と認識できることを指します。他人と比較して自分の価値を見出すのではなく、長所・短所を含めて自分を認めることがレジリエンスを高めるために必要だと言われています。自尊感情がしっかりと培われていると、トラブルに巻き込まれたりストレスを受けたりした際も「自分がこうだからダメなんだ」と自分を否定するのではなく、「自分の特性や強みを活かしてどう対処できるか」を前向きに考えやすくなります。
自尊感情を高めるために効果的なのは、自分の強みをしっかりと把握することと、それと同時に弱みも強みとして捉えることが大切です。

◆ 他者の良い影響をとり入れる
自分だけでレジリエンスを高めるのには限界があります。周囲との関わりを深め、温かな人間関係を構築することが大切です。家族や友人だけでなく上司やチームメンバーなど自分の周りにいる人たちは、ストレスフルな状況下で物理的・精神的なサポートをもたらしてくれる存在です。またレジリエンスを高めるプロセスにおいても、自分自身の思考パターンの傾向に気づかせてくれたり、自尊感情を高めてくれたりすることも。他者の良い面に刺激を受けそれをとり入れようとすることも、レジリエンスを高めるのに効果的な方法の一つです。

レジリエンスは個人としてだけでなく、リーダー・組織としても高めることが必要です。詳しくは「レジリエンス経営とは」の記事へ>>#41レジリエンス経営とは?

 

困難がつきものの新規開発にこそ、レジリエンスを

ビジネス環境は日々激しく変化しています。既存の価値観やビジネスモデルの多くが通用しづらくなり、不確実さ・複雑さ・曖昧さに満ちた昨今の社会情勢は「VUCA(ブーカ)※1の時代」と呼ばれ、組織・人材・ビジネスモデルの刷新が急務となっています。生き残りをかけ、新規事業創出にすでに挑戦している/これから挑戦しようとしている会社も増えています。
新たな技術・商品・サービスを世の中に生み出す新規事業開発のプロセスには、多くの困難がつきまといます。昨今のビジネス環境で新規事業開発を成功させるための“鍵”として注目されているのが、「レジリエンス」です。一人 一人の社員が高いレジリエンスを備え、さまざまな困難やストレスフルな状況にうまく適応し、各自の能力をいきいきと発揮することができれば、未来を拓く大きな力になるはずです。

※1 VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。

◆ SSAPでは人材・組織のレジリエンス向上をサポート
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、お客様の新規事業創出をトータルにサポートしています。ビジネスモデル構築や事業計画策定の支援、プロトタイピング・デザイン支援、マーケティング支援、品質支援だけに留まらず、新規事業創出に携わる人材・組織にも注目。人材のスキルアップや組織風土・文化醸成の支援にも力を入れています。例えば新規事業創出のためのマインドを醸成するワークショップやセミナーの導入、事業開発スキル向上のためのトレーニングやアイデアソンの実施、実践型の社内オーディション開催など参加型のプログラムを提供。活動を通して人材・組織のレジリエンスを高め、新規事業創出を達成できるベースを育むサポートを行っています。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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