2021.09.30
Sony Startup Acceleration Program 新規事業の基礎知識

イントレプレナー(社内起業家)の育成方法

新規事業を立ち上げる際、要となる人材がイントレプレナー(社内起業家)です。少子高齢・人口減少社会では国内市場が先細りすることが予想され、既存事業を維持するだけでは業績が伸び悩む可能性があります。そこで企業が持続的な生き残りを図るための策のひとつとして、新規事業を創り出すイントレプレナーを意識的に社内で養成する方法があります。本編ではどのような人材がイントレプレナーに向いているのか、企業はどのように育成するべきなのか考えます。

イントレプレナー(社内起業家)とは

アントレプレナーがゼロから新しい会社を創業する「起業家」を指す一方、企業内で新規事業を立ち上げ、そのリーダーとなって新事業を牽引する人を「イントレプレナー」と呼びます。会社員ではありますが、事業の企画からマーケティングの実施、ビジネスモデルの立案・検証、製品・サービスの開発・販売・営業活動という起業に関する一連の流れを統括し、人事や予算にも関わることが多い立場です。そのため、一社員ではあっても事業を俯瞰的に見渡す経営者的な視点が必要とされています。
 

イントレプレナーとアントレプレナーの違いと共通点

イントレプレナーとアントレプレナーも「新しい事業を起こす」という意味において、求められる能力やスキルは共通しており、マネジメント力、人的ネットワークの構築力、創造性、強い精神力といった資質を含む「アントレプレナーシップ(起業家精神)」が必要とされています。
また、両者の決定的な違いは、「企業」という組織の中で起業するか、既存の組織とは関係なく独立独歩で起業するか、です。そこから生まれる違いについてまとめました。

◆ 資金
  イントレプレナー
  企業の後ろ盾があるため、資金調達がしやすい。
  イントレプレナー自身やメンバーの給与も最低限保証されている。

  アントレプレナー
  自力で資金を集め、起業する必要がある。
  事業が軌道に乗るまで、アントレプレナー自身が給与を受け取れる余裕がないこともある。

◆ 人材
  イントレプレナー
  社内ネットワークが利用できる。制約はあるが、企業の人的資源を一部利用できることが多い。
  ただし、イントレプレナー自身の社内人脈や交渉力も必要。

  アントレプレナー
  採用、スカウト、人脈を通じての紹介など、イチから行う必要がある。

◆ モノ・設備
  イントレプレナー
  企業の既存の設備や資材など、資源を利用できるが、
  既存事業に影響のない範囲に限られることが多く、社内での調整が必要。

  アントレプレナー
  自社を立ち上げたばかりのため、設備や資材が自社内にない場合があり他社から借りる必要がある

◆ ブランド力
  イントレプレナー
  自社を立ち上げたばかりのため、設備や資材が自社内にない場合があり他社から借りる必要がある。

  アントレプレナー
  著名アントレプレナーでない限り、創業直後からブランドをつくる必要がある。

◆ 自由度
  イントレプレナー
  企業の成長戦略の一環のため、活動範囲は企業の理念や現業などに抵触しない範囲に収められることが多い。
  経営陣の考え次第で方向転換や事業打ち切りなどの可能性もある。

  アントレプレナー
  資金提供してくれる投資家などの意見を反映する必要はあるが、
  基本的にアントレプレナー自身の意思を優先することができる。

◆ リスク
  イントレプレナー
  これまで企業が培ってきた経営資源やノウハウなどが使えるため、比較的リスクは小さいといえる。

  アントレプレナー
  アントレプレナー自信がすべてのリスクを背負う。

 

イントレプレナーが注目されている理由

◆ 新規事業開発、市場開拓のため
社会の変化のスピードが早く、製品の入れ替わりが激しい現代では、従来の売れ筋商品や顧客を守っているだけでは、業績が先細りになるリスクがあります。新規事業開発を進め、新しい売れ筋商品やサービスを生み出し、これまでになかったターゲット層へと顧客を拡げていくことが売上の維持・拡大、ひいては企業の持続的成長につながります。

◆ 優秀な人材を育成するため
グローバル競争が進む中、日本企業の国際的競争力の低下が懸念されています。グローバルの場で海外企業に肩を並べるためには、いわゆる「大企業病」に捉われていない、自由な発想と大胆な行動力を持つ人材の育成が必要といえます。イントレプレナーを意識的に育成することで、広い視野と柔軟な思考力、マネジメント力、リーダーシップなどを備えた人材を社内で養成することが可能です。

 

イントレプレナー人材に必要なスキルと資質

◆ 1. 事業計画の策定能力
企業内起業は従来にない事業を社内に創り出すことなので、「どのような事業を始めたいのか」「その事業を立ち上げることで、会社にどのようなメリットがあるのか」などの内容を具体的に事業計画書にまとめ、関係者に理解してもらう必要があります。そのため、専門的な内容もできる限りわかりやすく説明し、データに基づいて根拠を挙げながら説得する姿勢が求められます。

◆ 2. 実務能力
イントレプレナーとして起業した場合、事業計画の策定から資金計画、マーケティング、販路の開拓、人事・労務面での事務など、多方面の実務をこなす必要があります。既存事業では「開発ひと筋」「営業が得意」など専門的な業務に就いていた人も、起業後は幅広い能力が求められます。

◆ 3. 調整能力
社内で事業を立ち上げるには、既存事業との共存を図り、「いかにその事業が会社に貢献できるか」相手が納得するまで説明を繰り返す必要があります。そのため、相手を説得する、社内のリソースを利用するために交渉・調整する、既存部門と協業するなど、さまざまな場面で調整能力が求められます。

◆ 4. 新たな市場を見出す能力
世の中には数えきれないほどの課題があり、多くの潜在ニーズがあるといわれています。しかし、身の回りの業務だけに捉われたり、社内で慣習的に行われてきたことを当たり前のように継続しているだけでは、新たな動きや普段との違いに気づけず、その価値を見過ごしてしまいがちです。つねに好奇心を持って情報収集し、世の中のニーズをキャッチする能力が重要です。

◆ 5. 全体を見通す視点
イントレプレナーは企業の中で小さな会社をマネジメントする経営者のような存在です。そのため、普段から広い視野を持ち、自分たちの事業の魅力だけでなく、自分の事業が会社や業界や社会全体にどのような好影響を及ぼし、どのように貢献できるのか、論理的に語れることが理想です。また、「研究開発だけ」「営業活動だけ」といった部分的な視点ではなく、事業全般をバランスよく見渡し、問題や綻びがあったときは適切に対処する能力も求められます。

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イントレプレナーを育成する企業側のメリット

◆ イノベーションを起こす風土の醸成
イノベーションを起こしやすい企業の要件には、社内の交流が活発で意見を言いやすい社風であること。多様な人材が在籍し、異なる価値観の意見がよく出る環境であること。リーダーシップを持ったイントレプレナーが存在し、メンバーとともに新規事業を創造していけることなどがあげられます。イントレプレナーを育成する過程は、多くの場合、企業風土が徐々に変革していく過程とも重なりやすいものです。

◆ 社員のモチベーションアップ
企業の規模が大きくなったり、歴史が長くなったりすると、過去の成功体験にこだわる企業風土が生まれがちです。その結果、斬新な企画が通りづらくなり、若手の意見が社内のさまざまな障壁に阻まれるなどし、社員のモチベーションが下がるケースがあります。イントレプレナーを育成する企業では、新規事業の社内募集やアイデア発表会の定期開催など、社員の意見を吸い上げる制度や能力を評価する制度が整えられており、社員のモチベーションアップにつながります。

◆ 幹部候補が育つ
イントレプレナーを育成する過程は、ひとりの経営者を育てる過程と似ています。さらに新規事業の進展と表裏一体であり、一連の起業の流れを実際に経験することで、経営センスとノウハウを身につけた将来の幹部候補の育成へとつながります。

 

イントレプレナー(社内起業家)を育成するポイント

◆ トップが新規事業の重要性を伝える
新規事業を生み出すためには、「自社の将来の発展のために新規事業が必要である」ことをトップが繰り返し全社員に伝え、イントレプレナー育成を本気でバックアップする姿勢を見せることが望ましいといえます。経営者自身が新規事業開発のテーマを設定し、イントレプレナーを指名してトップダウンで指示するのも、ひとつの方法です。

◆ アイデアが集まる仕組み・育つ仕組みをつくる
ある社員が新規事業のアイデアを持っていても、発表の場がなく、職場で相談する相手もいなければ、日の目を見ることなく消えていってしまいます。会社が主体となってアイデアを集めて育てる仕組みをつくり、社員に参加を呼びかけることで、イントレプレナー育成のきっかけをつくることができます。

  • 社内コンテストなどの開催
    アイデアを集める仕組みとしては、定期的に社内で新規ビジネス公募やアイデア発表会、ハッカソンなどを実施することが考えられます。企業や業界の枠を超えた異業種交流会やワークショップなどに若手社員を派遣し、多様な才能に触れて刺激を受けさせることもひとつの方法です。

◆ 新規事業に専念できる環境をつくる
イントレプレナーとして抜擢される人材は、往々にして既存事業でもリーダー的役割を果たしていたり、職場で欠かせない人材であったりします。そこで従来の業務と新規事業をかけ持つケースもありますが、新しい事業を採算ベースに載せるにはかなりの時間と労力を伴います。メンバーが集まり、事業が具体的に動き出したときには、新規事業の部署を立ち上げて専用オフィスを設け、イントレプレナーやメンバーをその専属にするなど、専念できる環境を用意するのが理想です。

 

イントレプレナーの成功事例

ここではSony Startup Acceleration Program(以下SSAP)の事例をご紹介します。新規事業創出の支援を通じて、イントレプレナーの育成につながっています。

◆ SSAP事例 音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ハブラシ「Possi」
これまでBtoB事業を中心に事業を進めてきた京セラ株式会社が、BtoC事業を強化するためイントレプレナーの育成に力を入れることになり、BtoCのノウハウを豊富に持つSSAPを活用。SSAPの支援のもと、育児中の社員の発案で生まれた「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間にする歯ブラシの開発」というテーマにライオン株式会社との共同開発で挑みました。SSAPはプロジェクトの立ち上げから事業創出支援までを提供し、クラウドファンディングを活用した市場導入を実現しました。

【連載】「ソニー・京セラ・ライオン」大企業の三社共創、9か月でアイデアが形に へのリンク
【連載】「ソニー・京セラ・ライオン」大企業の三社共創、9か月でアイデアが形に

◆ 多数の成功事例を説明会でもご紹介しています
SSAPでは2014年の立ち上げ以来、イントレプレナーの育成支援を行ってきました。説明会では新しい分野への挑戦や社内だけではクリアできなかった課題を解消した事例、他社とのマッチング事例など、さまざまな事例をご紹介しています。ぜひ一度ご参加ください。

ソニーの新規事業支援プログラム SSAP紹介パンフレット 無料ダウンロード

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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