2021.10.29
Sony Startup Acceleration Program 新規事業の基礎知識

VUCAの時代を生き抜くために 企業や私たち個人には、どんな力が必要か?

「VUCA(ブーカ)」という言葉を耳にすることが増えました。
テクノロジーの進化や気候変動、パンデミックなどにより、未来がますます予測しづらくなっている現代。市場の動向やこれまでの常識も目まぐるしく変化し、ビジネスにおいては新たなニーズへの対応や新規事業開発の重要性が高まっています。これから社会はどうシフトしていくのか、自分自身はどういった力を備えておけばいいのか、不安に感じている人も多いのではないでしょうか。今回は、そんな「VUCAの時代」を生き抜くために、企業や私たちに必要なものは何かを考えていきます。

「VUCA」とは?

VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。もともとは1990年代に生まれた軍事用語で、米ソ冷戦が終結し、核兵器ありきだった戦略が不透明な戦略へと変化する状況を指した言葉でした。その後、2010年代に入って社会情勢の変化が再び激しくなる中で、ビジネス界でも使われるようになりました。まずは一つ一つのキーワードを紐解いていきます。

◆ Volatility(変動性)
VUCAの一つ目のキーワードである「変動性」とは、その名の通り「変化の激しい状況」を指します。次々に生まれるイノベーションやテクノロジーにより、短期間で社会の在り方や価値観ががらりと変わることもめずらしくなく、先の読めない状況が続くことです。

◆ Uncertainty(不確実性)
急激な変化が生じることで、これまで当然のように機能していたシステムや、当たり前だと思われた価値観は、確実なものではなくなります。それが、VUCAにおける「不確実性」です。ビジネスにおいては事業計画の見通しが立てづらくなり、世界的パンデミックや経済危機が起これば国家のシステムそのものにも影響を及ぼすこともあります。

◆ Complexity(複雑性)
グローバル化によって文化や習慣、価値観などのボーダーが解放され、世界では多様化が進んでいます。その中でさまざまな要素・要因が複雑に絡み合い、単純な解決策を導き出すのが難しい状態になっていることを「複雑性」と言います。

◆ Ambiguity(曖昧性)
上記の3つが組み合わさった結果、一つの物事に対してさまざまな解釈が考えられるようになり、それはときに私たちを惑わせます。過去の実績や成功例が通用せず、かといって絶対的な解決方法も見つからない、「曖昧性」の高い状態です。

 

なぜ今が「VUCAの時代」と呼ばれるのか

現代が「VUCAの時代」だと広く認識されるようになったのは、2016年に開催された「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で「VUCAワールド」という言葉が使われたことがきっかけだとされています。先にも述べた通り、VUCAとはもともと、冷戦後の刻々と変化する戦況や複雑化した国際情勢を表すために生まれた言葉です。それが再び使われるということは、今の世界が、当時に匹敵するほどの混沌とした状況なのだと言えるかもしれません。
その背景にあるのは、テクノロジーの急速な発展やグローバル化、気候変動、そして新型コロナウイルスの影響などです。未知の事態を迎え、既存の価値観やビジネスモデルの多くが通用しなくなったことで不確実な未来に直面しているといわれています。

 

VUCAの時代に、日本が目指す姿とは

こうした時代において、各国・各地域の政府はただ手をこまねいているわけではありません。日本はVUCAに対し、どのように向き合おうとしているのでしょうか。

◆ 企業に必要なのは、人材戦略を重視した成長
まず企業に向けては、2019年に経済産業省が「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言~日本企業の経営競争力強化に向けて~」を発表し、グローバル化、デジタル化、少子高齢化が進む時代において企業が取るべき経営姿勢を明示しました。そこでは3つの原則として、下記が挙げられています。

  1. 経営戦略を実現する重要な要素として人材および人材戦略を位置づけること
  2. 個人の多様化・経営環境の不断な変化の中で個人と企業がお互いを選びあい、高めあう関係を構築していくこと
  3. 経営トップが率先してミッション・ビジョンの共有と実現を目指し、組織や企業文化の変革を進めること

2で書かれている「個人の多様化・経営環境の不断な変化」とは、まさにVUCAの時代を指しています。従来の日本型雇用システムが変化しつつある中で、個人のスキルや専門性を最大限に引き出すために、多様な人材の成長や活躍につながる機会の必要性を提言しています。

◆ 「新たな価値を創造する力」を育む教育を
教育においては、2015年からOECD(世界経済開発機構)が主導する「OECD Education 2030 プロジェクト」に参画しています。そこでは「VUCA(不安定,不確実,複雑,曖昧)が急速に進展する世界に直面する中で、教育の在り方次第で、直面している課題を解決することができるのか、それとも解決できずに敗れることとなるのかが変わってくる」と明言されており、カリキュラムや学習評価などについての検討が進められています。
その中で「私たちの社会を変革し,私たちの未来を作り上げていくためのコンピテンシー(高い成果を発揮するための行動特性)」として示されているのは下記の3点です。

  • 新たな価値を創造する力
  • 対立やジレンマを克服する力
  • 責任ある行動をとる力

こうした力は子どもたちだけでなく、私たち社会人にとっても必要だと思われます。

 

日本の企業や組織はどう変わる?

国・地域の方針を理解したところで、日本の企業や組織はこれからどう変わっていくべきなのか、さらに詳しく考えていきます。

◆ 日本企業が抱える課題
これまで日本企業は「終身雇用」を前提とした長期的・安定的な雇用システムのもと、競争力を強化してきました。しかし少子高齢化による労働人口の減少が進み、市場のニーズや価値観も多様化・複雑化する中、私たちに必要なのは現状を維持することよりも既存システムからの脱却、つまり変化・変革への対応力です。変化への対応力を高めるために必要だと思われる要素を挙げます。

◆ アジリティ(機敏性)を高める
アジリティとは、機敏さ、素早さ、敏しょう性といった意味の言葉です。ビジネスにおいては、意思決定のスピードや効率、チーム編成や役割分担のフレキシビリティなどを含めた概念で使われます。現代ではあらゆる市場において、新サービスやこれまでにない事業モデルが次々登場しています。そうした情報をいち早く掴み、分析し、すみやかに行動へと移すことが、アジリティの向上へとつながります。

◆ イノベーション・新規事業を起こす
ニーズや価値観が変化し、これまでの成功例では通用しない市場において、イノベーションや新規事業創出はもはや不可欠となっています。今までの常識や固定観念を打ち破り、新しい価値や答えを生み出していく、つまり「ゼロからイチを生み出せる力」を身につけなければ、企業としてVUCAの時代を生き抜くことは難しくなっていくかもしれません。

◆ 多様性に富んだ組織へ
VUCAの時代においては、すでに世の中の大きな流れになっている「ダイバーシティ」の考えが非常に重要となります。一つの考えや価値観に固執していては、変化に対応し、不確実な未来に新たな答えを見出すことは困難です。多様な人材が組織に集まり、多様な価値観を認め合う風土が醸成されることで、変化に柔軟に対応し、変革を起こしやすくなります。

◆ 人材マネジメントの刷新
先にも述べた通り、安定的な終身雇用を目標としていた従来の雇用システムは、すでに変化を迫られています。そして多様化が進めば進むほど、画一的な人材マネジメントでは対応が困難になると予想されます。企業や組織は、これから必要な人材やリーダー像をはっきりとイメージし、多様性に応じた新たなマネジメント方法へとシフトしていくことが求められます。

 

ビジョンを描けるリーダーシップを

組織と人材を考えるとき、重要となるのはリーダーの存在です。先が読みにくいVUCAの時代、組織を導いていくリーダーにまず求められるのはビジョンを描く力。進むべき道筋をしっかりと照らすことが、リーダーの大きな役割になります。
また、そのビジョンに向かってメンバーが自発的に行動できるよう、動機付けをして促したり、スキルを育成したりする役目も重要です。描いたビジョンを着実に新規事業へと結び付けていくには、複雑で困難な状況を乗り切る力や、決断力も不可欠だといえます。

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「VUCA時代」のリーダーシップとは?詳しくはこちらの記事もご覧ください>>#37一人一人が身につけたい、VUCA時代のリーダーシップとは?

 

一人一人に、どんなスキルが必要か

ここまでVUCAの時代を生き抜くために組織やリーダーに求められる要素を見てきましたが、こうした要素は、組織を構成する一人一人にとっても必要なものです。ここからは、個人として身につけたいスキルに落として考えていきます。

◆ 迅速かつ的確な意思決定
目まぐるしく変化する社会において、計画を立てることや指示を待つことばかりに時間を割いていては、それだけでビジネスチャンスを逃しかねません。ただし注意したいのは、何事も闇雲に速く決めるというよりも、日頃から市場・社会動向や最新テクノロジーにアンテナを張り、判断材料を持ったうえで、迅速かつ的確な意思決定を行うことが重要です。

◆ 変化に動じない臨機応変さ
自然災害やパンデミックなど、予期せぬ不可抗力が多発するVUCAの時代において、計画通りに物事が進まないのはもはや当然と考えたほうがよいかもしれません。そのうえで、リスクマネジメントをしっかりと行い、変化を恐れない姿勢と対策を考える力を養う必要があります。

◆ 多様性を受容するコミュニケーション力
たとえ組織が多様性を重視して人材を採用したとしても、現場で摩擦やディスコミュニケーションが生じては新たな可能性は生まれづらくなります。一人一人が他者へのエンパシー(立場や価値観の異なる相手のことを想像し、理解する力)や対話への積極性を持つことが、ダイバーシティにおけるコミュニケーションの基本だといえます。

◆ より良い答えを導く問題解決力
曖昧性に満ちたVUCAの時代では、「これが最適解だ」と断言できることは多くありません。その中で求められるのは、いかに“より良い”ソリューションを導き出せるか。仮説を立てる力や論理的に考える力は不可欠ですが、それ以上に、全体を見渡す広い視野や物事を学び続ける意欲、状況変化に応じてすばやくプランBに切り替えられる柔軟性が大切です。

 

VUCAの時代に適したフレームワーク「OODAループ」

以上で述べたようなスキルを身につけるために、最近注目が高まっているフレームワークがあります。それが、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字を取った「OODA(ウーダ)ループ」です。

◆  OODAループとは?
OODAループとは、下記の4つのステップを繰り返すことで、意思決定と行動の精度・スピードを高めるフレームワークです。

  • Observe(観察)
    OODAループは、市場や顧客といった対象物をしっかり観察することから始まります。目の前にあるものを見つめ、“生きた情報”をより多く集めます。
     
  • Orient(状況判断)
    収集した情報をもとに、現在何が起こっているのか・どういった状況にあるのかを分析して明確にします。
     
  • Decide(意思決定)
    明確になった状況に対して、具体的な方針やアクションプランを決定します。
     
  • Act(実行)
    決定したプランを実行に移します。

◆  なぜOODAループが有効?
実はこのOODAループも、もともとはVUCA同様に軍事の現場から生まれました。アメリカの航空戦術家でもあるジョン・ボイド氏が提唱した理論で、戦地という先の見えない状況の中でも迅速に意思決定を下し、迅速に行動に移すために考えられたという背景があります。このことからも分かるように、OODAループはまさにVUCAの時代にこそ効果を発揮するフレームワークだといえます。

「OODAループ」について詳しくは、こちらの記事もご覧ください>>#38先の読めないVUCAの時代、「OODAループ」で迅速な判断を!

 

何をする? どう育てる? VUCAの時代の人材育成

企業がVUCAの時代を生き抜くには、上記のようなスキルや行動理論の重要性を理解したうえで、効果的な人材育成を実施することがとても重要になります。

◆  実践型の研修で自発的な行動を促す
明確な答えがないVUCAの時代、座学形式の研修だけでは、変化に対応できる人材育成として不十分だと思われます。正解が見えない中で、情報を集め、自ら考え、行動する。この一連の流れを体験できる実践的な研修を行うことが、思考力と行動力をより高めるポイントになります。

◆  学び続けられる環境を用意する
変化は一度きりではなく、急激な速さで生じ続けます。すでにある知識や経験だけで対応しようとするのではなく、常に新しい情報を吸収し、学び続ける姿勢が求められます。企業としても、社員の自発的な学びを支援することで、組織に新たな視点や発想を取り入れることができます。社内の勉強会を盛んに行ったり、外部の研修の受講補助を提供したりと、これまで以上に人材育成に力を入れ始める企業も増えています。

 

人材育成に迷ったら、ノウハウ豊富な支援サービスを活用

VUCAの時代に合わせた人材育成の在り方やプログラムを検討したくても、自社内だけで考えるには、ノウハウや知識が十分でないことも考えられます。そうした場合は、外部の人材育成支援サービスを活用するのも一つの手です。

◆ 実践的なプログラムが豊富! SSAPの人材育成支援
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)がご提供する人材育成支援サービスは、新規事業開発を視野に入れた実践的なプログラムです。市場の変化に対応した新たな価値提供を目指す新規事業開発は、VUCAの時代では特に必要とされます。新規事業開発の実践を通じて人材育成を図ることで、今を生き抜く力を着実に養うことができます。
顧客や市場の情報分析から商品企画を考えたり、実際にビジネスモデルを構築したり、チーム作りやプレゼン方法を学んだりと、新規事業創出で求められるスキルの習得を経験豊富なアクセラレーターたちがサポート。実践しながらスキルを学ぶスタイルなので、すぐに仕事に活かせる力がスピーディーに身につきます。

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Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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