2021.09.30
Sony Startup Acceleration Program 新規事業の基礎知識

ビジネスの不確実性に立ち向かうプロトタイピング手法

プロトタイピング(prototyping)は、製品・サービス開発の初期段階で、簡単なプロトタイプ(試作品)を作り、機能やデザインを検証することです。主としてエンジニアやデザイナーなどが行うもの、と認識している方が多いと思いますが、モノづくり以外の人も行うことができ、幅広くビジネスに役立つ手法だといえます。その理由を解説します。

プロトタイピングとは?

プロトタイピング(prototyping)とは、必要最低限の機能を実装したモデル(プロトタイプ)を早期に制作する手法と、その過程を意味します。モデルを試したユーザーからフィードバックを受けて改善をすすめることで、完成に近づけます。

プロトタイピングについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください>>#33プロトタイピングとは?

 

プロトタイピングの定義は幅広い

プロトタイピングは、建築、インダストリアルデザイン、ソフトウェアデザインなど、幅広い分野で実践されています。モノづくりだけではなく、新たなサービスを作り上げる際にも有効とされています。用いられる分野が多岐にわたるため、プロトタイピングには多くのアプローチやツールがあります。

 

プロダクト開発だけでなく、サービスやビジネスモデルなどにも活かせる手法

プロトタイピングは、ビジネス上の課題を解決する手法である「デザイン思考」のプロセスの中でも用いられ、注目されています。形にしたアイデアやコンセプトなどを市場ニーズに合わせて素早く検証と改善を繰り返し、柔軟に開発を進めていく手法が、変化の速いビジネス環境に適していると思われます。

 

何のために行うのか?

プロトタイピング手法がビジネスで有効とされている点を挙げます。

◆ 不確実性の高いビジネス環境に立ち向かうため
世界的なパンデミックや気候変動など、これまでの常識を覆すような出来事が頻繁に起きており、「VUCAの時代」とよばれています。ビジネスでも不確実性の度合いがますます高まり、企業は予測できない事象をどう乗り越え、経営していくかが試されています。現状を観察し、そこから見えた課題から仮説を立て検証するという、プロトタイピングの姿勢が重要になっています。

◆ 事業アイデアをスピーディに具現化するため
事業は準備万端な状態から始めたいものです。スタートアップや新規事業では、なおさらかもしれません。しかし、様々な事態に備えようと多くの情報を集め、分析に時間を割いているうちに、市場機会を逃してしまう場合もあります。不確実性の高い状況では、行動の身軽さが必要になります。プロトタイピングの手法を用いれば、短期間、低コストで開発やマーケティングを行うことができます。仮説検証のサイクルを早く回し、消費者の消費傾向や市場特性をいち早く学ぶことで、事業アイデアの具現化を速められます。

 

事業のどの段階で行うのか?

プロトタイピングを行う主なフェーズを紹介します。検証によって期待した効果が得られないと分かれば、別の案に方向転換するなど、次の行動につなげていきます。

◆ ニーズの検証
市場参入する前に、そのアイデアが顧客のニーズに合っているのか、優れた価値を提供できているのかといったことを検証します。仮説をもとにユーザーインタビューなどを行い、具体的なニーズや課題を検証します。

◆ 課題に対する解決策の検証
課題に対して既存の枠組みにとらわれない視点や発想で解決策を模索します。解決策が定まったところで、その解決策が正しいのかを検証をします。

 

目的によって使い分ける

プロトタイピングを効果的に行うため、目的によってプロトタイプを使い分ける必要があります。プロトタイプの主な種類を紹介します。いずれも必要最低限を意識し、短期間で費用をかけずに作ることが重要です。

◆ 使うシーンがイメージできる:コンテクスチュアルプロトタイプ
コンテクスチュアルとは「文脈的」の意味で、ユーザーがどんなシーンでプロダクトを使うのかイメージできる動画や4コマ漫画などが例です。たとえばプロダクトを作っていない段階で「こんなものがあったら利用したいか?」を検証したい場合、コンセプトムービーなどを見てもらいユーザーがプロダクトを疑似体験することで、具体的な問題や解決策が見えてきます。

◆ 動きや機能が確認できる:ファンクショナルプロトタイプ
ファンクショナルとは「稼働」を意味し、最低限の機能を持たせ、動きのシミュレーションができるものです。実際に動くものではなく、紙に書いて機能を確認する「ペーパープロトタイピング」も含まれます。

◆ デザインが確認できる:デザインプロトタイプ
見た目を検証するためのプロトタイプです。求められるデザインの精度はそれぞれで、フェーズによって使い分けます。大きさやボタンの配置などが分かるレベルのものもあれば、リアルさがほしいときは3Dプリンターで作ることもあります。

 

プロトタイピングを行うときのポイント

プロトタイピングを始めるときに意識しておきたい点をまとめました。

◆ 失敗を恐れない(失敗することが前提)
プロトタイピングで得られたフィードバックは失敗ではなく、成長のための学びとして次に生かす糧になります。プロトタイピングでは失敗することが前提となるため、「失敗は許されない」という意識を取り払って進めることがポイントです。

◆ 完璧を目指さず、素早く作る(省コストで進める)
プロトタイプを作るからには完璧なものを目指したくなりますが、目的は早く検証し、フィードバックを得ることです。必要な部分に力点を置き、作り込みに時間をかけすぎないよう意識する必要があります。

◆ 仮説を構築し、検証すること(仮説を立てずに進めない)
仮説の構築は難しい作業かもしれませんが、仮説がなければ何を検証するのかが極めて曖昧なものになります。仮説が実証できなかったとしても、そこに気づけたことが価値になります。

◆ 1回で終わらせず、試行錯誤を繰り返すこと
事業を成功させるには、多くの試行錯誤が不可欠です。一度では十分な学びは得られません。失敗して当たり前という認識のもと次の案に向けてプロトタイピングを回し、いかに早く学習するかが重要です。

 

プロトタイピングで習得できること

プロトタイピングを行うことで、プロトタイプを作る技術的なスキルのほか、幅広くビジネスに活かせる力が身につくと考えられます。

◆ アイデアを形にする力
頭の中に描いていたアイデアを形にするには、ある程度の経験が必要です。モノづくりの経験がなくても、プロトタイピングを重ねることで、最適なプロトタイプを作る手法がわかるようになります。言語だけでは伝わり切らないことを伝える術として役立ちます。

◆ アウトプットの質の向上(価値を伝える力)
アイデアを相手に分かりやすく伝えることは意外と難しいものです。プロトタイプでアイデアを可視化することで伝わりやすくなり、良質なフィードバックが得られます。何を伝えたいのかを考え、発信を重ねることで、アイデアと価値を相手に伝える力も向上します。

◆ 様々な状況に適応して乗り越える能力(再起力)
事業を行ううえで、不確実性をゼロにすることはできません。こうしたビジネス上の困難や不確実性と向き合い、適応していくためにプロトタイピングの重要性が増しています。プロトタイピングを重ねるうちに、不確実性に対応する力が養われると考えられます。レジリエンス(回復力、再起力)ともいわれ、変化の激しいビジネス環境を生き抜くために高めておきたい力です。

 

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)の事例紹介

◆ リーンスタートアップで事業化へ:「DOAC(ドアック)」開発
プロトタイピングの「作る→検証→フィードバック」と共通し、事業開発に用いられる用語に「リーンスタートアップ」があります。これは必要最小限の機能だけを入れた商品・サービス(MVP※)を素早く開発し、ユーザーの反応を見ながら事業アイデアを軌道修正していく手法です。この手法でSSAPが支援をした事例に、株式会社LIXIL(以下、LIXIL)の電動オープナーシステム「DOAC」があります。

※MVP:Minimum Viable Productの略。

「DOAC」は、玄関ドアに部品を後付けするだけで開き戸が自動ドアに簡単にリフォームできるという画期的な製品です。LIXIL内での新規事業を「リーンスタートアップ手法」で始めた最初の製品です。通常3年かかるとされる商品開発を約1年間で実現しました。

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ソニーの新規事業支援プログラム SSAP紹介パンフレット 無料ダウンロード

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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