自社が持つコア技術や人的リソースを使って新規事業を立ち上げることは、多くの企業にとって理想とするところでしょう。しかし、研究開発から事業化に至るまでの道のりには、多くの難問が立ち塞がっています。R&D部門の方々が新規事業を生み出す際に活用いただけるポイントをご紹介します。
R&D(研究・開発)の重要性
今後の企業の存続を左右するR&D部門
人口減少による国内市場の縮小、個人消費の多様化、グローバル競争の激化など、従来のように「よい商品・サービスを提供する」だけでは企業の持続的発展は望みにくい時代が到来しています。そのため生き残りを賭けて、多くの企業が新製品・サービスを展開するためR&D部門に投資しています。なぜなら研究開発を成功させることは、中長期に渡り企業に利益をもたらすだけでなく、そこから派生する新事業が将来的に柱のひとつとなり、企業の持続的発展に直結する可能性が高いと考えられるからです。
【研究開発投資の現状―3年前と比べた現状】
新規事業に関する商品・サービス開発の「増加」が39.8%と最も多い。
R&D部門の投資で新規事業の成功へ
当然のことですが、R&D部門には先行投資が必要です。メーカーが新製品を生み出すときや、サービス事業者が新サービスを提供するとき、社内では相応の時間とコストをかけて研究開発のシーズを発掘・育成し、商品化への道を探ります。一方、そのシーズがもたらすものが果たして社会のニーズと合致するのか、マーケティングの観点から調査・検証することが大切です。さらに生産方法を確立し、販売に至るまでにも、さまざまな投資が不可欠です。新規事業が陥りやすい関門を乗り越えるためにも、必要な投資を行うことが求められるといえます。
研究開発に成功した企業は営業利益率が増加
研究開発の活動の成否が、特に顕著に企業業績に反映されるのが製造業だといわれています。経済産業省が中小製造業の2002年度から2014年度までの売上に占める研究開発費の割合を追った調査によると、売上高に占める研究開発費の割合が高い企業ほど、営業利益率も高水準に維持されています。このことから、研究開発の活動と営業利益率は切っても切れない関係にあることが推測できます。
R&D部門が抱える課題
ノウハウ不足
R&D部門が抱える課題のひとつに、事業化に至るまでのノウハウ不足が挙げられます。自社が持つコア技術をどのように事業化すればよいのか。あるいは開発担当者が持つ新たなアイデアをどのように検証し、育成すればよいのか。技術が確立されたとしても、社会のどこにニーズがあるのか。販路をどのように確立すればよいのか。コスト面での課題をどのように乗り越えればいいのか。必要な人材をどのように確保すればよいのか―研究開発を新事業につなげるには、あらゆる局面で洗練されたノウハウが必要です。
人材育成
研究開発に関わる人材は短期間で育成するのは容易ではありません。有望な人材の採用・育成から始まり、開発チームをまとめるリーダーシップの醸成、社会全体を俯瞰して判断する視野・視座の獲得など、本人の素質や努力とともに人材育成環境の整備が求められます。また、技術だけでなくデザイン面やマーケティング面でも、人材の獲得・育成が不可欠となります。
マインドセット
新規事業の立ち上げは、スタートアップの起業に似た部分があります。起業家におけるマインドセットにおいて重要なことは、「その事業がどのように社会に役立つのか」という点だといわれています。これに加えてR&D部門の場合は、事業として「利益が出るか」という視点が欠かせません。新事業が社会的ニーズと一致しており、かつ利益が生み出せることはR&D部門の事業開発において重要なポイントとなります。
コスト
R&D部門による新規事業を成功させるためには、コア技術の研究開発費のみならず、マーケティング費やデザイン費、知的財産権関連費、販路の構築費やそれに伴う賃料・人件費などの固定費、流通費、広告宣伝費など、さまざまな費用が必要です。必要な費用は企業や事業により異なりますが、研究開発段階よりも商品化に漕ぎつけた後の方が、コストがかかることもあります。そのため、コスト配分など経営的な視点に精通した人材の伴走が重要となります。
多くの企業が経験する「死の谷」とは
新しい事業を成功させるまでに立ちはだかる3つの関門
研究開発からスタートし、製品化に至るまでの道のりには、一般的に「研究」「開発」「製品化」「事業化」というフェーズが存在します。フェーズからフェーズへと移行する際に、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれる関門が立ちはだかるケースが多いといわれています。
「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」
「魔の川」は研究・技術シーズを製品開発へとつなげる際の関門です。自社の技術を活かしたいが、市場のニーズと一致しない、どこにターゲット顧客が存在するのかわからない、などの理由で研究のまま終わってしまうことも少なくありません。
「死の谷」は開発した製品・サービスを実際に市場へ投入する際に立ちはだかる壁です。生産ラインの確保、販路の整備などがこれに当たり、往々にして研究開発よりも大きなコストがかかります。
「ダーウィンの海」は上市した製品・サービスが他社との競争や顧客の厳しい要求に晒される状態を指しており、つねに進化を続けなくては市場の荒波にもまれ、淘汰されてしまうことから「ダーウィンの海」と呼ばれています。
「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」を乗り越えるために
「魔の川」を乗り越えるには、技術シーズと顧客ニーズを一致させる必要があります。そのため、マーケティングチームによりターゲット顧客を絞り込み、他社との差別化ポイントを明確にします。同時に、研究開発チームは技術シーズを試作レベルにまで仕上げていきます。
「死の谷」を乗り越えるには、生産・流通・販売などの各チャネルに資金と人材を適切に配分する必要があります。その上で小規模で事業をスタートさせ、テストマーケティングを繰り返しながら製品をブラッシュアップし、事業運営を安定化させていきます。
「ダーウィンの海」を乗り越えるには、競合先との競争に勝ち抜く必要があります。そのため、自社製品・サービスの付加価値を高め、他社との差別化をしっかり図ることが重要だといわれています。
これからの研究開発とは
自前主義から、必要な人材やノウハウを外部から調達する方向へ
かつての日本企業は自社の中で技術シーズと人材を育成し、製品化・事業化へと結びつけることが一般的でした。ところが、技術革新とグローバル競争が加速化する時代において、社内の芽が育つのを待つ時間は限られています。また、社会のニーズが多様化した今、イノベーションを起こすためには多様な人材による開発チームが必要とされています。例えば、これまで社内にいなかった分野の研究開発職や、異なる性別や国籍など多様な視点を持つ人材、さらに多様な能力や価値観を持つ人材をまとめるためのリーダーシップも必要だと考えられます。これらの人材を社内で育成するには多大なコストがかかるため、広く社外から必要な人材やノウハウを調達することが広まってきています。
中小企業庁の調査でも、外部リソースを活用した企業の多くが、「必要な技術・ノウハウや人材の補完」「必要な人材、体制を確保するコストの削減」などが可能になったと回答しています。
【外部リソースの活用による効果】
外部リソースを活用した企業の多くが、活用効果を感じている
外部リソースを活用する方法のひとつに、他企業・大学・研究機関などと共同で研究開発を行う「オープンイノベーション」があります。中小企業庁の調査によると、新事業展開に成功した企業にはオープンイノベーションを活用した企業が多いことがわかっています。また、オープンイノベーションを活用することで売上高や利益が増加するだけでなく、「技術力の向上」「自社の知名度向上」「人材育成」など、数値で測れない効果が現れていることも見て取れ、結果として新事業展開の成功に結びつく可能性が高まると考えられます。
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、研究開発に伴う壁を乗り越えるために、ソニーで培ったノウハウを活かし、R&D担当者と伴走しながら事業化推進の支援をしています。
SSAPの事例
SSAPの事例①「当初の課題が全て解決されました」(マイクロソニック株式会社)
自宅で簡単に乳がんチェックできる小型医療機器の製品化において、魅せ方に課題を感じ、SSAPに問い合わせをいただきました。ブランド力、デザイン、製品のネーミングなどの支援を行い、最初のご相談から9か月後の2020年7月、「MAMMOECHO」を発表しました。
「おかげさまで当初課題に感じていた点が、全て解決されました。MAMMOECHOのデザインが出来ていく過程で、SSAPのアクセラレーターやデザイナーの方々と何度もディスカッションし、段々と私たちの構想が形になっていくという体験は、とても勉強になりました」(マイクロソニック技術顧問)
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SSAPの事例②「社内にはないアプローチで迅速な設計を実現」(株式会社LIXIL)
ペルソナが見えづらい新しいバリアフリー商品、電動ドアオープナーシステムの開発に向けて、SSAPではトレーニング、ビジネスモデルの仮説の構築と検証、マーケティング支援、コミュニケーションデザインをサポートしました。社内メンバーわずか2名のプロジェクトチームで「通常3年かかる」といわれた商品開発を、約1年で実現させることに成功しました。
「これまで社内で担当してきた商品では、全てのユーザーニーズにマッチするような商品開発をするというのが主流でした。一方SSAPでは、実在するアーリーアダプターを見つけ、彼らが抱える課題を“超具体的に”絞り込むことで、全てのコミュニケーション設計を考えました。結果として早い段階で、我々が提供すべき“Must Have”な機能が明らかになり、完成度の高いカスタマージャーニーマップを作り上げられました」(LIXIL担当者)
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SSAPの事例③「SSAPは既存の事業カテゴリーにないものを生み出す」(十和田オーディオ株式会社)
SSAPでは、ともに新規事業の成長を支援する企業との協業も行っています。SSAPから生まれたインナーウェア装着型冷温ウェアラブルデバイス「REON POCKET」の量産支援を行っています。
「SSAPはソニーの中でも既存の事業カテゴリーにない新しいものを生み出し続けているプログラムだと考えています。新しいものが世の中に出て行く過程のお手伝いが出来るという点を、本当に嬉しく思っています」(十和田オーディオ代表執行役員社長)
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研究開発から新規事業を生み出すには
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、世の中に新しい価値を生み出し、それを社会に持続的に提供することを目指しています。
R&D部門で新規事業開発を検討しているご担当者に向けて、SSAPの活用方法をオンライン説明会で詳しくご説明いたします。ぜひお気軽にご参加ください。