2021.09.30
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

いまこそ企業に必要な アントレプレナーシップ(起業家精神)について

経済が低成長のまま推移し、社会に閉塞感が漂う今、企業が成長を続けるためには「アントレプレナーシップ(起業家精神)」が必要だといわれています。なぜ企業の中にもアントレプレナーシップが必要なのか、その理由と求められる資質などについて、ご紹介します。

アントレプレナーとは

◆ アントレプレナーが意味するもの
「アントレプレナー」という言葉はフランス語の「entrepreneur」(「始める」「企てる」の意)を語源に持ち、使われ始めた13世紀には「仲買人」「貿易商」を意味していたといわれています。産業革命が起きた18世紀にはフランスの経済学者が新しい産業を創出する人を「アントレプレナー」と呼ぶようになり、現在では「起業家」「企業家」「事業を自ら興す人」、とくにベンチャー企業を創業する人を指すことが多いようです。

アントレプレナーの類語

アントレプレナーには、よく似た意味の以下の類語があります。

◆ 社内起業家を指すイントレプレナー
「イントレプレナー」とは企業内で新規事業を立ち上げ、リーダーとなって事業を推進する人です。一会社員でありながら、事業の企画・立案から製品・サービス開発、人材育成、管理業務まで幅広く担当することが多いようです。

「社内起業家」について詳しくはこちらの記事もご覧ください>>#32イントレプレナー(社内起業家)の育成方法
 

◆ 連続起業家を指すシリアルアントレプレナー
「serial」とは「連続的な」という意味で、自ら起業した事業が軌道に乗った後、他社へ売却・譲渡し、その資金などをもとに新たな事業を起業する人のことです。米国では起業した会社がある程度資産価値を持つようになると大手企業などに売却することがごく当たり前に行われており、日本でもIT業界を中心にシリアルアントレプレナーが増えつつあります。

◆ 情報起業家を意味するインフォプレナー
「インフォプレナー」とは自らの起業経験やビジネスノウハウ、専門知識などをインターネットなどで公開し、収益を得るといった、近年米国で生まれたビジネスモデルで起業をする人を指すといわれています。複数の起業を経験した人が、講演会やセミナー、電子書籍などで経営の極意を公開したり、経営塾を開催するなどし、中小企業経営者の指導者的存在になることもあります。

 

アントレプレナーが求められている背景

◆ 従来の経営スタイルからの変革
日本の企業の多くは戦後に誕生し、終身雇用制度や年功序列、新人一括採用などに基づいた「日本型経営」をもとに高度経済成長期に発展を遂げました。多くの企業はこの成功体験から脱け出せないままバブル期を迎え、バブル崩壊後の長い不況の時代とそれに続く急速な情報化、人材の流動化、人々の価値観の変容などに対応が追い付いていないといわれています。そのため、従来とは異なる発想でビジネスを実践し、新たな時代のニーズを取り込んでいける起業家が求められています。

◆ 新たなビジネス創出の必要性
米国ではシリコンバレーを中心に次々にITベンチャーが生まれ、その中からGAFAのような巨大グローバル企業が誕生し、世界を席捲しています。日本経済を活性化させるためにはこうしたイノベーションが必要であり、新たなビジネス領域を開拓して、新産業を育て、雇用を創出する必要があるといわれています。

◆ グローバル化への対応
テクノロジーの発達や新興国の経済発展とともに、世界は急速なグローバル化を続けています。日本は国内市場の大きさや技術のガラパゴス化、グローバル教育の遅れ、若者の内向き志向など、さまざまな要因でグローバル化への対応が遅れているといわれます。人口減少で国内市場の縮小化がささやかれる今、海外市場を見据えての起業や、多様な人材を活用できるアントレプレナーが求められています。

 

アントレプレナーになるには

特別な資格は必要ありませんが、ゼロから新しい事業を興すには備えているほうがよいスキルはいくつかあります。

◆ 市場ニーズに気づき、ビジネスにつなげる
今、社会で不足しているものは何か。人々はどんな困り事を抱えているのか。どこを工夫すればもっと便利に、快適になるのか。起業を志す人は普段から視野を広く持ち、自由な発想でビジネスの種を集める姿勢が大切です。そのためにはワークショップやセミナー、異業種交流会に参加するなどし、さまざまな業界の人と交流を持ち、活発に意見交換をするほか、事業化するための具体的なノウハウも学んでいく必要があります。

◆ 事業の目標をしっかり見定める
社会的な課題を解決したい、身近な人の問題を解決したい、今よりもいい製品やサービスを提供したいなど、起業にあたって持つ目標は、起業後もアントレプレナーを支える精神的支柱になります。もちろん事業である限り、最終的なゴールは「利益を出すこと」ですが、「自分の事業は必ず社会の役に立つはずだ」という社会的な信念は、山あり谷ありの事業経営の大きな支えになるはずです。

◆ 失敗を次につなげることができる
事業には失敗がつきもので、「ビジネスの成功者ほど失敗の数が多い」ともいわれています。失敗を失敗のまま終わらせるのではなく、貴重な「経験」として捉え、自分なりにレビューして次につなげられる人がアントレプレナーに向いています。

アントレプレナーたちの起業ケースについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください>>#31 アントレプレナーの起業に学ぶ新規事業の起こし方

 

起業家に必要なアントレプレナーシップについて

◆ アントレプレナーシップとは
「アントレプレナーシップ」という言葉自体は18世紀から存在したといわれていますが、現在のように一般社会まで広めたのは経営学者のピーター・ドラッカーです。ドラッカーは著書の中で、「アントレプレナーシップとは、イノベーションを武器として、変化の中に機会を発見し、事業を成功させる行動体系である」と定義しました。近年では日本でも重要な能力の一つとして、アントレプレナーシップを備えた人材育成を強化する動きが強まっています。大学ではアントレプレナーシップ教育の学部や専門プログラムを設けて、実際に学生に起業をさせるなど、アントレプレナーを育てる実践的な教育が行われています。では次に、アントレプレナーシップに必要な力についてみていきます。

※『イノベーションと企業家精神』(1985年)より
 

◆ アントレプレナーシップを持つために必要な力

  • マネジメント能力
    ゼロから事業を立ち上げ、利益を生み出すまで育てるためには、「ヒト・モノ・カネ」のマネジメント能力が求められます。マネジメント能力とは管理する能力であり、効率的な組織運営を行うために、組織構造の設計や人員配置、具体的な事業計画の立案、予算管理や実績管理などを行い、問題があれば解決する力を指します。
  • 人脈・人的ネットワークを構築する力
    新規事業を立ち上げ、継続していくためには、資金調達や技術育成、人材採用、環境整備など、あらゆる局面でさまざまな人の協力が必要です。とくに共同経営者や役員、幹部社員、優秀な技術者など、会社の肝となる人材には一般的な採用ルートではなかなか出会いづらいものです。日常から人脈づくり・ネットワークづくりを心がけ、これと思う人材とは積極的に交流を持ち、互いに協力し合える関係を構築しておくことが理想です。
  • イノベーションを生み出す創造性
    新規事業を成功させるためには、既存のビジネスモデルの踏襲ではなく、新たな製品・サービスを市場に送り出す必要があるといわれています。そのためには独自性のある技術やアイデアを社会に提供したり、社会のニーズを満たすサービスや製品を生み出したり、既存のビジネスモデルに工夫を加えて差別化するなど、創造性が求められます。
  • リスクにも前向きに取り組める精神力
    企業経営はともすれば困難の連続であり、乗り越えなければならない課題が次々に立ちはだかるものです。起業時や事業拡張期には資金調達やサプライチェーンの構築面、人材確保面などのリスクがあるなか、粘り強く課題を解消し、ときには臨機応変に対応して事業を進めていく姿勢が求められます。

◆ 企業人にも起業家精神が必要な時代に
現代はかつて経験したことがないスピードで社会変革やデジタル化、グローバル化が進む時代です。企業が生き残るためには、これまでと同じ方法を踏襲するだけでなく、新しい試みへの挑戦や、異なる視点で事業を見つめ直して顧客に提案する主体的な姿勢が必要です。自ら考え、行動するこうした姿勢こそ、起業家精神に通じるものがあるといわれています。

アントレプレナーシップを発揮しやすい企業とは

◆ 企業体制を整えて発言しやすい環境をつくる
それまで社内になかった新規事業や製品・サービスを考案する人材がいても、発表する場や発言する機会がなければ、日の目を見ることはありません。そこで日頃から自由に発言できる新規事業アイデア発表会や社内オーディションを開催するなど、意見を出しやすい風通しのいい環境を整えておくことが重要です。また、アントレプレナーシップはそれまで企業内に存在しなかった製品やサービスを生み出すものなので、これまでになかった発想や手法で仕事に臨む人から生まれる可能性が高いといえます。そのため、多様性のある人材(例えば、女性、外国人人材、障がい者など)を積極的に登用し、新しい価値観を採り入れていく必要があります。さらに社内だけでなく、社外や異業種の人材と交流する機会を設けることや、有望な人材を社外セミナーや研修などへ積極的に参加させるのもひとつの方法です。

◆ 新しいアイデアを否定しない
どんな時代においても、新しいビジネスモデルやアイデアは新奇性を感じさせ、一見荒唐無稽に見えがちです。しかし、時代を切り拓いてきたのはイノベーションであり、新しい発想を持つ人材です。「前例がなかった」というだけで否定することはせず、新しいアイデアに耳を傾け、「どうすれば実現できるか」をチームで考える風土があれば、アントレプレナーシップの醸成につながりやすくなります。こうして、社内で事業を立ち上げた人をイントレプレナー(社内起業家)と呼びます。

 

企業内でのアントレプレナーシップの成功事例

Sony Startup Acceleration Program (以下SSAP)が企業内のアントレプレナーシップ育成を支援した事例をご紹介します。

◆ 事例 長年の課題だった電動ドアオープナーの製品化に成功(株式会社LIXIL)
住宅設備のトップメーカーである株式会社LIXILの新規ビジネス部門の担当者が、「車いすユーザーが自由に玄関ドアを開閉できる電動ドアオープナー」の開発に着手。長年、同社が製品化できなかった課題であったため、SSAPがサポート依頼を受けました。新規ビジネスに関するレクチャーとワークショップ、プロジェクトの進捗アドバイスを実施し、約1年をかけて2020年7月、電動オープナーシステム「DOAC」の発売を実現しました。

オープンイノベーション DOAC誕生ストーリー連載まとめページへのリンク
【連載】オープンイノベーションによるDOAC誕生ストーリー  株式会社LIXIL

◆ 手法や事例など、説明会で詳しくご説明します
オンライン説明会では、SSAPがご提供している支援について、事例をご紹介しながら詳しくご説明します。ぜひお気軽にご参加ください。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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