2021.12.28
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

ニーズとは? 新規事業開発に重要なマーケティング視点を「ウォンツ」「シーズ」の違いとともに解説

「ニーズ(Needs)」は「欲求」「需要」「必要」という意味の英単語から生まれたマーケティング用語で、ビジネスシーンにおいてよく耳にする言葉です。しかし、誤った意味で使われるケースも多いため、改めて「ニーズ」の本来の意味と「ウォンツ」「シーズ」との違いを解説します。

ニーズとは?

マーケティングで使われる「ニーズ」という言葉には、「顧客が商品やサービスに対して求める欲求」という意味があります。ニーズは「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」に大きく分かれます。

◆ 顕在ニーズと潜在ニーズ
「顕在ニーズ」とは、消費者が「〇〇したい」という欲求を自覚しているものを指します。一方、「潜在ニーズ」は消費者が自覚しないまま何かしらの欲求を持っている状態を指します。顕在ニーズは消費者が言葉や態度や行動で明らかに表現するため、比較的把握しやすいですが、潜在ニーズは消費者自身が「自分がどうしたいのか」を理解していない場合、明確な言葉や態度や行動に現れず、把握するには一歩進んだマーケティングが必要とされています。

◆ ニーズを把握できるかが、事業の行方を左右する
CB Insightsが実施した調査「スタートアップが失敗した理由」(※)によると、"NO MARKET NEED"「市場ニーズがなかった」と回答したスタートアップ企業は35%にのぼり、事前に「ニーズの検証をすること」がいかに重要であるかが分かります。

※ 出典: CB Insights(https://www.cbinsights.com)/The Top 12 Reasons Startups Fail August 3, 2021付け記事より

 

ウォンツとは?

ニーズとよく似た言葉に「ウォンツ(Wants)」があります。「ウォンツ」はユーザーがニーズを満たすため、具体的な商品やサービスを欲しいと感じる状態を指します。
例えば、「業務の効率化のために最新のパソコンを導入したい」という顧客の声があったとき、「最新のパソコンを導入したい」はまさにウォンツです。この場合のニーズは「業務を効率化したい」だと確認できます。

 

ニーズとウォンツの違い

混同しやすいニーズとウォンツですが、以下の違いがあります。

◆ ニーズは代替できない
ウォンツは具体的な商品・サービスであるため、他のもので代替することができます。前述の例でいえば、ニーズは「業務を効率化したい」ですので、例えば「現状の業務を棚卸し、ムダな業務をなくす」「ハードウェアではなく、ソフトウェアの変更で対応する」「人の配置を変える」「職場のレイアウトを変更する」など、最新パソコンを導入する以外にもさまざまな解決策が考えられます。しかし、「業務を効率化したい」というニーズ自体は動かしようがなく、このニーズを満たせるかどうかが重要な点だとわかります。

◆ ニーズは価格競争に陥りにくい
ウォンツは欲しい商品やサービスが顕在化しているため、競合企業も察知しやすく、結果的に価格競争になりがちです。一方、ニーズは消費者自身が具体的な商品やサービスを思いつく前の段階のため、本質的なニーズを把握して的確なソリューションを提案できれば、競合先も少なく、ひいては価格競争に陥りづらくなります。

◆ ニーズはアンケート調査ではつかみにくい
具体的な商品やサービスが明確なウォンツならアンケート調査でユーザーの満足度評価や属性をつかむことができますが、そもそもニーズは消費者自身が把握していない内容も多く、解決策もわからないため、雲をつかむような話になりがちです。そのため、アンケート調査でも明確に言語化されにくいとされています。

 

ニーズをウォンツへ転換するには

ビジネスで成果を挙げるためには、ニーズをウォンツへと転換する作業が必要です。

◆ 見込み客の購買検討熟度に合わせたアプローチが重要
見込み客がニーズを感じ、解決策を探している場合、直接的な営業活動やさまざまな営業ツールを使って、まずは自社の商品やサービスを認知してもらうことが先決です。さらに競合他社との比較になったときは、自社商品・サービスの優位性を効果的にアピールし、「欲しい」と思ってもらう必要があります。最終的には自社商品・サービスのブランド力を高めて、「〇〇ならA社」と自然に連想される存在になることが理想です。
一方、「そのうち検討を始めるつもりだが、まだまだ購入には至らない」見込み客には、自社の商品・サービスを知ってもらうための長期的なマーケティング戦略が必要だといわれています。

イメージ図

 

「潜在ニーズ」を探ることで、消費者の本質的なニーズが見えて来る

ウォンツから「潜在ニーズ」を導き出す方法をご説明します。

◆ 欲しい理由を質問する
ウォンツが明確な場合、単に商品・サービスを提供するだけでなく、「なぜ、その商品・サービスが欲しいのか」という理由を質問するとニーズが見えやすくなります。例えば、「新しいパソコンが欲しい」というウォンツがある場合、パソコン自体がニーズだと考えると顧客との間に認識のズレが生じやすくなります。ウォンツの奥には、パソコンの場合であれば「業務を効率化したい」など、そこに至るまでの顧客ニーズが隠れています。

◆ ウォンツに質問を重ね、ニーズを掘り下げる
顧客のウォンツに対して、簡単なヒアリングをすることで本質的なニーズが見えて来ることがあります。「なぜ、このパソコンが欲しいのか」という質問に対して、「動作が速い」「バッテリー駆動時間が長い」「重量が軽い」などの回答が返ってきたとします。一つひとつの回答に対してさらに質問を重ねると、「お客様を待たせたくないので、動作が速いパソコンが欲しい」「客先に持ち出して使うので、軽くてバッテリーが長持ちするパソコンがいい」など、社外に持ち出してパソコンを使うシーンが多い様子が見えてきます。

◆ ニーズを掘り下げることで新たな解決策が見えることも
前述の例で「実は社外にパソコンを持ち出して使うシーンが多く、そこでの作業を効率化したい」という本質的で具体的なニーズが見えてくると、新たな解決手段の提示も可能になります。例えば、「タブレット型パソコンで代替できるのではないか」「効率的なアプリケーションを提案できるのではないか」といった解決策の提示も可能ですし、パソコン付属品や通信用デバイスの追加販売に結びつけることができるかもしれません。
顧客は長年の習慣や慣習の影響を受けやすいため、潜在ニーズに気づいていないことがあり得ます。外部の立場から改めてニーズを掘り下げることで新たなニーズへの気づきになり、複眼的な提案へとつながる可能性があります。

 

シーズとは?

「シーズ(Seeds)」とは文字通り「種」を意味し、企業や研究機関が持つ技術やノウハウ、企画力、アイデア、それらにより生まれた商品の価値や強みを指します。

◆ ニーズ志向とシーズ志向の違い
ニーズ志向とは顧客のニーズをもとに商品やサービスを提案することを指します。市場に需要があることが明らかなため、売れる可能性が高いですが、その反面、競合他社もすでに参入済みで、レッド・オーシャンでの厳しい競争になることもあります。
シーズ志向とは企業が持つ独自の技術やアイデアをもとに商品やサービスを提案するものです。成功すればブルー・オーシャンを実現できますが、そもそも市場にニーズがあるのかどうか、消費者がその商品・サービスに興味を持つかどうかが焦点となります。ニーズの仮説構築とニーズ検証の実施が重要です。

◆ シーズ志向では消費者の潜在的なニーズを満たしているかがカギ
シーズ志向では「こんな技術・ノウハウがあるから活かしたい」という提供する側の想いが強くなりがちですが、なにより求められるのは「この技術・ノウハウが消費者の潜在ニーズを喚起するだろう」という見通しです。例えば、Apple社が生み出したiPhoneは「音楽も聴けてインターネットも使える携帯電話」として、消費者も意識していなかったニーズを喚起し「スマートフォン」という新たなカテゴリーを生み出しました。市場に存在しない新しい価値を提供するわけですから、消費者の興味を惹くことができるかどうか、事前のマーケティングが重要です。

 

SSAPでのニーズ探索、シーズ探索の手法

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、技術の用途探索の支援も行っています。専門のアクセラレーターが、ソニーグループはもちろん様々な業種の企業への技術紹介や、アイデア発想のワークショップを実施いたします。過去には、企業が保有する技術の新たな用途探索を支援する「技術シーズアイデアコンテスト」も開催しました。
SSAPでニーズ志向・シーズ志向から事業化につなげた事例をご紹介します。

◆ ニーズ志向の事例
株式会社LIXILの新規事業担当者が「車いすユーザーの方々が自宅の玄関ドアを自由に開閉できるようにしたい」という同社の長年の課題に挑戦。リーンな形で事業と商品を立ち上げられる協業先を探していたとき、SSAPが企業内での新規ビジネス立ち上げノウハウを持つことを知り、支援を要請しました。新規事業を進めるうえで必要なレクチャー、ワークショップ、プロジェクトの進捗アドバイスをはじめ、ニーズ仮説の検証として「ユーザーインタビュー」を実施し、ユーザーへの価値の深掘りを行いました。具体的なユーザー像を見据えたうえで開発を加速、支援から約1年で自動ドアオープナー「DOAC」を発売しました。発売後の購入者の約半数は健常者で、購入目的はベビーカーやロードバイクをスムーズに出し入れするため、感染症対策のためなど、新しいニーズも見えてきました。

DOAC誕生ストーリー連載ページ
【連載】オープンイノベーションによるDOAC誕生スーリー

◆ シーズ志向の事例
2018年、上海出張で屋外の暑さと冷房が効いた屋内との温度差に驚いたソニーグループ株式会社の新規事業開発担当者が、自社内で長年モバイル機器の開発で培われてきた独自の熱設計技術を活用し、個人に合わせた温度設定ができるウェアラブルデバイスを発案。2019年夏に社内の新規事業オーディションを通過し、専門家からのコーチング、ピッチ演習などSSAPのさまざまな支援を受けながら製品開発を続けました。2020年7月にはクラウドファンディングにて目標資金6,600万円を達成。ポケットサイズのインナーウェア装着型冷温ウェアラブルデバイス「REON POCKET」を事業化し、一般販売を実現しました。

REON POCKET舞台裏 連載ページ
【連載】REON POCKET舞台裏

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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