デジタル化が進み、技術革新のスピードが急速に高まっている現代。商品やサービスのライフサイクルが短縮化するなか、生まれたアイデアをいかにスピーディーにカタチにできるかが、新規事業開発の成功を左右すると言われています。今回は、そんな“ものづくり”の可能性や速度を高めるのに効果的な「ハッカソン」について解説します。
「ハッカソン」は何をする場?
技術者がチームでものづくりに没頭
ハッカソンとは、プログラマーやデザイナーなどの専門技術者が集まって、一つの目的を実現するために集中して作業するプロジェクトのことです。プログラミングやエンジニアリングを行うことを意味する「ハック」と「マラソン」から成る造語で、1日~1週間ほどの決められた時間内で、文字通りマラソンをするようにひたすら作業に没頭します。
ハッカソンとアイデアソンの違いとは
ハッカソンとよく似た言葉に「アイデアソン」があります。これは「アイデア」と「マラソン」を掛け合わせた造語で、ハッカソンが具体的な“ものづくり”の作業であるのに対し、アイデアソンは発想を広げたりブラッシュアップしたりするために行われます。
最初にテーマに関するアイデアソンを行い、そこで出てきたアイデアをハッカソンで具現化する、といったように、ハッカソンの下準備としてアイデアソンが使われることも一般的です。
ハッカソンが広まった経緯は
「ハック」という言葉からもわかるように、ハッカソンはもともとIT業界で始まりました。2000年代にデジタル技術が飛躍的に進歩し、一般企業や行政でも技術革新が盛んに行われるようになってからは、IT業界にとどまらず、さまざまなシーンや目的でハッカソンが活用されるようになりました。大企業や大手IT企業が主催・出資するハッカソンイベントも開かれ、ハッカソンから誕生したアプリや機能が数多く誕生しました。身近なところでは、フェイスブックの「いいね」ボタンなどがハッカソン発の機能として有名です。
日本でも毎年数多くのハッカソンが開催
ハッカソンは、一般の技術者が自由に参加できるものから、企業や大学が内部向けに行うものまで、さまざまな種類があります(※詳しくは後述)。国内でも毎年数多くのハッカソンが開催されており、「人気企業が積極的にハッカソンを実施して自社のサービスに活かすなど、知らないところでその成果は私たちの暮らしにもつながっています。
ハッカソンを行う目的
新規事業の創出に向けて
今ある技術を活かして新しいものを生み出したり、技術そのものを進化させたりできることから、ハッカソンは主に新規事業や新商品の開発を目的として活用されます。
最新技術や知識の習得のため
ハッカソンはテーマによってさまざまな技術やフレームワークが使われ、それらに精通した技術者たちが参加します。そうした中で何日間も作業に没頭できるので、技術者にとってはこの上ない最新技術取得やスキル向上の場となると言われています。
コミュニティの形成を目指す
多様なバックグラウンドを持つ技術者が参加するので、企業や年齢を超えた技術者同士の交流が生まれ、ハッカソン終了後も技術協力や情報交換をし合えるネットワークを築くこともできます。
ハッカソンの種類
一般のハッカソン
ハッカソンは、開催形態や対象者、テーマによっていくつかの種類に分類されます。一般のハッカソンとは、企業や団体が外部のプログラマーやデザイナーを対象に行うもので、参加者やテーマに細かい制限を設けない場合がほとんどです。そのため人も集まりやすく、主催者側も自分たちの組織や技術をアピールすることもできるので、大規模に開催されるものが多々あります。
企業内ハッカソン
社内の技術者を集めて行われるハッカソンです。新規事業や商品開発を目的とする場合もあれば、勉強会の一環として行われる場合もあります。また、部署を超えた交流の場としても活用されているようです。
産学協同ハッカソン
一般企業と大学などの教育機関が連携して行うハッカソンです。若い力を事業開発などに活かすことはもちろん、人材育成の側面も強く、次世代に向けた技術者の育成や才能の発掘の場として活用されます。
課題解決型ハッカソン
例えば「防災システムの構築」や「交通システムの改善」といった特定の課題に対し、技術やプログラミング言語にとらわれず、広い視野から決策を考えるハッカソンです。
データ連動型ハッカソン
特定のデータを用いて、その新たな活用法などを探るハッカソンです。人口や交通量、観光情報や気象情報などのオープンデータを使い、地域の利便性を向上させるツールを作る自治体主催のハッカソンなどが該当します。
新技術体験型ハッカソン
企業が開発したAIやIoTなどの最新技術を参加者に公開し、その技術を使ったシステムやサービスを考えるハッカソンです。
【SSAP支援事例】LINEで在日外国人の課題を解決!「オンラインシビックテックハッカソン Powered by SSAP」
一般財団法人品川ビジネスクラブが主催したこのハッカソンのテーマは、「日本で暮らす外国人の課題をLINE Botで解決しよう!」。アプリやWebサービスを作ってみたい人、自分のアイデアを形にしたい人、プロジェクトに取り組みたい品川区民などさまざまな参加者が集まり、LINE botを使用したプロトタイプが開発されました。
このハッカソンのテーマになったのは、品川女子学院の学生が発案したアイデア。産学協同ハッカソンと課題解決型ハッカソンが融合した一事例です。>>詳しくはこちら
ハッカソンのメリットと注意点
メリットはプロトタイプ開発だけではない
技術者が自らアイデアを出し、それをカタチにするボトムアップ型のイベントであるハッカソン。自分たちで何かをつくり上げる経験は、プロダクトやサービスのプロトタイプ開発以上のメリットをもたらすかもしれません。
- チーム力や帰属意識が高まる
単独ではなくチームを組んで開発に取り組むため、コミュニケーションや協力し合うことを通じてチーミングスキルを高めることもできます。自分がプロジェクトに参加しているという当事者意識も得やすいため、社内で開催する場合は帰属意識の向上にもつながることが期待できます。 - 業務スキルの幅が広がる
ハッカソンのメインはプログラミングなどの技術系作業ですが、一連のプロセスの中ではディスカッションをしたり発表用に成果をまとめたりと、さまざまなタスクが発生します。普段は自分がやらない業務を経験することができれば、専門技術以外の業務スキルも身につけるチャンスとなり得ます。 - オープンイノベーションの可能性が高まる
社外と協同で行う場合、異なるスキルや専門分野を持つ技術者たちが集まって作業を行うので、新たな発想やブレイクスルーが起こりやすく、オープンイノベーションにつながりやすいという特徴があります。
ハッカソンの注意点
ハッカソンを行うこと自体にデメリットはありませんが、成功させるには以下の点に注意して企画することをおすすめします。
- テーマとゴール設定を明確に
ハッカソンだけでなくアイデアソンにも共通することですが、テーマや目標が曖昧だと方向性が決められず、迷走しやすくなります。かといって、ゴール設定や成果物を限定しすぎてしまうと、アイデアが広がらず新たな開発につながらない場合も。テーマや要件は企画段階で慎重に設定することが大切です。 - 参加者が限られてしまう場合も
ハッカソンはその性質上、参加者にはプログラミングやデザインなどの専門スキルが求められます。そのため対象者が限られてしまい、参加者が集まらないケースも生じてしまいます。そうした弊害をなくすためには、年齢制限をなくしたり、社外とのコラボレーションで行ったり、開催形態に工夫を持たせることが有効です。
プロのノウハウでメリットを最大化! SSAPの支援サービス
ハッカソンをアイデアソンやコンセプトメイキングなど他のワークショップと組み合わせ、一連のアイデア創出プロジェクトとして取り組むと、そのメリットを最大限に得ることが可能です。一方企画・運営の難易度は上がりがちなので、プロの支援サービスなどを活用するのも一つの手段です。
新規事業開発や課題解決を目指す企業や団体、大学などを支援するSony Startup Acceleration Program(SSAP)では、そうしたアイデア発想を促すプログラムを多数ご用意しています。これから初めてハッカソンに取り組みたいという場合には、ぜひ一度ご相談ください。
一般的なハッカソンの流れ
【当日までの流れ】事前準備は特にしっかりと
当日までに、テーマ設定、会場手配、可能であればチーム分けまで準備します。テーマや使用技術によっては、チューター役となる技術者などもアサインします。
- ①企画・テーマ設定
どのような目的に対し、どのような種類のハッカソンを開催するかを決め、使用技術や参加者などの詳細を設定していきます。 - ②参加者募集
対象者をある程度絞り込んだら、インターネットやSNSなども活用して告知を行い、参加者を集めます。 - ③会場手配
開発を行うのに十分な設備が揃っているか、数日間利用できるか、リラックスして取り組めるかなどのポイントから、適切な会場を手配します。 - ④チーム分け
1チーム5~6名を目安に、技術者のスキルやレベルが偏らないようにチーム分けをしておきます。
【当日の流れ】実施中はメリハリが肝心!
ハッカソンは数日間にわたって行うことが多いので、中間発表などを挟みながら集中力やモチベーションが途切れないようメリハリよく進行するのがおすすめです。
- ⑤テーマ説明
ハッカソンのテーマを全員に説明します。使用する技術やプログラミング言語などを限定する場合は、それらの説明も最初に行います。 - ⑥アイスブレイク
初対面の参加者同士が話しやすいよう会話と頭の準備体操をします。
※事前のアイデアソンを行っていない場合は、アイスブレイクの後でアイデア出しを行います。 - ⑦開発
アイデアをもとに、プロトタイプの開発・製作に着手します。 - ⑧中間発表
プロトタイプを完成させる前に、開発しているプロトタイプの概要や作業の進捗状況などをチームごとに発表します。技術的なサポートが必要かどうかも各チームにヒアリングし、残りの開発が順調に進むように調整します。 - ⑨プレゼンテーション・審査
プロトタイプが完成したら各チームから発表し、審査員が各グループへの講評や優れたプロトタイプの表彰を行います。
ハッカソンを成功に導くポイントは?
企画は慎重に
先述の通り、ハッカソンはテーマとゴール、そして成果物の要件設定が非常に重要とされています。初めて行う場合は経験者や支援サービスのアドバイスなども受けながら、慎重に企画を組み立てるのがおすすめです。
募集方法は対象者によって変える
参加者の募集を行う際には、対象者によって募集方法を変えると期待通りの参加者を集めやすくなります。ハッカソンを検索するインターネットサービスなどもあるので、もし技術や知識レベルの高いエンジニアやプログラマーを集めたい場合は、そうしたプラットフォームから募集をかけるのもおすすめです。学生や一般市民など参加者の層を広げたい場合は、大学や自治体と連携し、直接参加を呼び掛けるという方法もあります。
ハッカソンは会場選びが重要
テーブルと紙・鉛筆さえあればできるアイデアソンに比べ、ものづくりを行うハッカソンにはパソコンや通信ネットワーク、3Dプリンターや工作機など、なるべく多くの設備が揃っていることが望ましいです。下記のように、ハッカソンなどのワークショップ向けにつくられた会場などを活用すると、最低限の準備でスムーズに行えます。
- 社外の方でも利用可能! ソニー本社1階の「Creative Lounge」
「Creative Lounge」は、ソニーの本社ビル1階に設けられた、SSAPが提供するクリエイティブ空間です。「共創」を目的として作られ、高度なデジタル設備が揃う空間で最大約70名のイベントが可能。ソニー社員の紹介があれば一般の方も利用が可能なので、ハッカソンの会場候補としてぜひご活用ください。
※新型コロナウイルス感染症の拡大状況により利用制限がございます。詳しくはお問い合わせください。
>>詳細はこちら
チーム分けは参加者のスキルを把握したうえで
プログラマーやデザイナーなどさまざまな技術者を募るハッカソンでは、チームごとに技術レベルや専門性が偏らないようにバランスよくチーム分けすることがとても重要になります。事前にアンケートなどでスキルや経験に関するヒアリングを行っておくと、チーム分けに役立ちます。
中間発表・最終プレゼンにあたって
チームごとにばらばらの成果物ができ上がったり、プレゼンの発表方法が異なっていたりすると、進行管理や審査のしづらさにつながります。あらかじめフォーマットを決めておくと、参加者も開発を進めやすくなります。また、審査に市民投票や参加者投票などを取り入れると、モチベーションアップにもつながるかもしれません。
事後フォローを忘れずに
せっかくプロトタイプを開発したのに、1回のイベントだけで終わってしまうケースも見られます。成果を実際の事業につなげていくためには、ハッカソンの様子や結果をホームページなどで一般公開したり、事業化へ結びつけるための勉強会を継続したりと、開発と交流が途切れないための事後フォローを行うのが望ましいです。
優れた技術や才能を、もっと活かすために
新規事業開発やイノベーションを目指すだけでなく、技術者同士の交流やモチベーションアップ、技術向上の場としても機能するハッカソン。ものやサービスをつくり上げることはもちろん、人を育て、活かすための機会として企業活動に取り入れるのもおすすめです。アイデアソンなどのワークショップと組み合わせながら、ぜひ活用してください。
ハッカソン実施のサポートをお探しなら、Sony Startup Acceleration Program(SSAP)へご相談ください。