2022.08.29
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

フレームワークで考える、新規事業におけるビジネスモデル 9セルフレームワーク・ビジネスモデルキャンバスの具体的な書き方を紹介

新規事業におけるビジネスモデルを構築していく際、フレームワークを活用するとアイデアが整理でき、人に伝えやすくなるといわれています。そこでビジネスモデルのフレームワークとはどのようなものか、解説します。

ビジネスモデルづくりに使う、フレームワーク

新規事業のビジネスモデルの代表的なフレームワークに、「9セルフレームワーク」と「ビジネスモデルキャンバス」があります。それぞれの特徴と使い方、メリット・デメリット、どのようなビジネスシーンで活用するとよいのかをご紹介します。

 

9セルフレームワーク

9セルフレームワークは兵庫県立大学の川上昌直教授(経営学博士)が考案した手法で、ビジネスに必要な9つの質問に答えることで、発想したビジネスにストーリー性を持たせることができるといわれています。

◆ 9つの質問内容
9セルフレームワークは3×3のマトリクスからなる9つのセルで構成されています。マトリクスの縦軸は「ビジネスをつくり出す要素」で、「顧客価値」と「利益」と「プロセス」の3つがあります。横軸は「ビジネスに必要な疑問」である「Who」「What」「How」の3つです。進めていくうえでもっとも基本的なルールは、横軸の整合性です。横軸を埋めたら、次に縦軸で整合性があるか確認しながら、アイデアをブラッシュアップしていきます。

9セルフレームワーク
  • 顧客価値の行
    顧客価値では、「顧客のニーズをどのように満たすのか」「顧客の悩みをいかに解決するのか」を考えます。具体的には「どのような顧客なのか(Who)」「どのような商品・サービスを提供するのか(What)」、そしてそれを「どのように実現するのか(How)」を突き詰めていきます。ビジネスでは顧客価値を追求して社会をよりよくしていくことが重要だといわれているので、ビジネスプランを練るにはこの行を確立させる必要があります。ソニーの新規事業支援プログラムSony Startup Acceleration Program(SSAP)では顧客価値の絞り込みを特に重視しており、MVP(※)仮説構築・精査では商品の特徴や競合他社との差別化要素を洗い出し、ターゲットとなる顧客の人となり・悩みを掘り下げ、その悩みを過不足なく解決できる明確な提供価値を定めます。
※MVP:Minimum Viable Productのこと(顧客に必要最低限の価値を提供できるプロダクトのこと)
詳しくはこちら>>【SSAPのサービスメニュー】MVP仮説構築・精査/ニーズ検証 
  • 利益の行
    上段の「顧客価値」の質問の答えを踏まえて、利益について考えます。左から「誰から儲けるか(Who)」「何で儲けるか(What)」「どのように儲けるか(How)」を考えるわけですが、これらの設問は「誰からは儲けなくてもよいか」「儲けを取らなくてもよいものは何か」「どのタイミングで儲けるか」に言い換えることができます。
     
  • プロセスの行
    プロセスの行はビジネスアイデアを実行に移し、成功に近づけるための質問とされています。プロセスの質問を言い換えるなら、「どのようなパートナーと組むのか(Who)」「自社がもっとも強みを発揮できることは何か(What)」「どのような手順で取り組むか(How)」ということになります。

◆ 9つの質問への答え方
ビジネスは「顧客価値」と「利益」を同時に生み出さなければ成立しないとされています。そのため、「顧客価値」の行と「利益」の行の質問に的確に答えられないビジネスアイデアは実現可能性が低いといわれており、9セルフレームワークでは「顧客価値」と「利益」を関連づけて考えていくことを目指しています。「顧客価値」と「利益」のストーリーに一貫性が見られたら、実現可能性を高めていく「プロセス」の質問に取りかかるようにします。

◆ 回答の順番
質問への回答の順番は必ずしも「Who」「What」「How」の順ではなく、ビジネスの性質により異なります。一般的には、「顧客価値」と「利益」の行では左から順に、「プロセス」の行では右から順に考えると、取り組みやすいとされています。

◆ 9セルフレームワーク事例
例として、架空のビジネスモデルを、9セルフレームワークで表しました。
子育て中の共働き夫婦で「忙しくて買い物をする時間がなく、いつでも、どこでも、思い立ったらすぐに買い物がしたい人」をターゲットに、仕事中や帰宅途中でも食材をスマホから注文できるビジネスモデルだと、以下のような回答が考えられます。

顧客価値:1.顧客は「誰」ですか? 忙しくて買い物をする時間がなく、いつでも、どこでも、思い立ったらすぐに買い物がしたい人 2.「何」を提供しますか? インターネットを活用した食材の販売サービス。スーパーマーケット並みの豊富な品揃えが、スマホから注文できる 3.「どのように」実現しますか?  自社のデータ管理技術と運送パートナーを連携させ、サイト上に豊富な品揃えとスピード売買、配送を実現 利益:4.「誰」から儲けますか? 共働きで働く、子育て中の父親・母親 スーパーマーケット 運送会社 5.「何」で儲けますか? 食材の販売、会費、マージン 6.「どのように」儲けますか? スーパーマーケットに出かける手間がないかわりに、製品価格を5%高く設定。また、スーパーマーケット、運送会社への機会提供によるマージンを設定 プロセス:7.「誰」と組みますか? スーパーマーケット 運送会社 8.「何」が強みですか? データ管理技術、スピード決済技術 9.「どのように」取り組みますか? 食材が探しやすい商品検索機能、レコメンド機能を開発。また、迅速な物流、アフターフォロー体制を構築する

もちろんこの回答は、あくまでビジネスモデルを検討しはじめた段階の記述であり完成形というわけではありません。ここからさらに検討を重ね、ブラッシュアップしていく必要があります。

◆ 9セルフレームワークのメリットとデメリット
9セルフレームワークは、9つの質問に答えるだけでビジネスモデルの全体像を把握しやすくなり、ビジネスをどのように展開していけばよいのか見えてくる可能性があります。また、「利益を得るタイミングを変えることで差別化できないか」「自社に足りないリソースは何か」など、多角的な視点からビジネスモデルにアプローチしやすいともいわれています。さらに、9つのセルの中で課題が見つかったら、セルの内容に応じて4P分析や3C分析、SWOT分析など従来の分析方法を使って深掘りしていくことができます。

◆ 9セルフレームワークが適している利用シーン
質問に答えていくだけでビジネスモデルを考案できるため、新規事業開発に慣れていない人にも取り組みやすいとされています。また、プロジェクトチームや組織内で議論する際、「顧客価値」と「利益」に関して営業・マーケティング担当者と財務・経理担当者の間で意見が対立することも考えられますが、9セルフレームワークでは縦・横の一貫性を持たせて考えるため、ビジネスアイデアを相手の理解や納得を得られるようにまとめやすくなる可能性があります。一方、質問に答えるという受け身の方法のため、斬新なビジネスモデルの考案につなげるには工夫が必要という意見もあります。

 

ビジネスモデルキャンバス

アレックス・オスターワルダー氏とイヴ・ピニュール教授により考案されたフレームワークで、2012年頃より日本でも知られるようになりました。ビジネスモデルの要素を9つのブロックに分け、順序に従って要素を書きこんでいきます。収益の流れに関する要素が右側に、コスト構造に関する要素が左側に配置されています。

ビジネスモデルキャンバス
「ビジネスモデルキャンバス」について詳しくはこちら>>#02 ビジネスモデルキャンバスの活用法とは?

◆ ビジネスモデルキャンバスのメリットとデメリット
ビジネスモデルキャンバスは世界的に認知度が高く、実績のあるフレームワークとされています。9つのブロックを書き入れる際、一つひとつの要素を断片的に考えるのではなく、近くのブロックと紐づけて考えることでビジネスプランの検討が進みやすいといえます。また、プロジェクトメンバー全員がビジネスモデルキャンバスに書かれている言葉を使うことで認識を共有しやすいというメリットがあります。
一方、ビジネスの構成要素の知識がないと使いづらいため、新規事業開発の初心者にはやや難しく、時間がかかるかもしれません。

◆ ビジネスモデルキャンバスが適している利用シーン
企業内のさまざまな職種の人が集まるプロジェクトチームでは共通言語が微妙に異なる場合がありますが、ビジネスモデルキャンバスに書かれている言葉を見ながら議論をするとスムーズに進むといわれています。ビジネスモデルの検証と修正を繰り返す際も、キャンバス上に課題を書いた付箋を貼るなどしながら議論すると、視覚的に問題点を捉えることが可能になります。

 

ビジネスモデルを構築したら事業計画書へ発展させよう

ここでご紹介したフレームワークはあくまでもビジネスモデルを構築していくためのツールなので、ある程度ビジネスモデルが固まったら事業計画書を作成する必要があります。事業計画書は社内外の関係者を説得し、金融機関や投資家に出資や投資を募るために不可欠なものです。そのため、「競合状況」や「リスク状況」など、各フレームワークにはないものであっても、事業スタートや投資を判断するために必要な項目を事業計画書に盛り込んでいくことが求められます。また、フレームワークには入れられないデータ類やアンケート分析結果なども事業計画書には記載することをお勧めします。

「事業計画書」について詳しくはこちら>>#27起業に欠かせない「事業計画書」とは

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、740件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年9月末時点)

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