2022.11.29
Sony Startup Acceleration Program 新規事業の基礎知識

キャズムを超えて、新規事業を普及させる戦略とは

企業が新製品・サービスを世の中に普及させていく過程で、障壁となる可能性がある「キャズム」。ここでは、どのようにキャズムを超えていけばよいのか、超えた後にどのような戦略があるのか、解説します。

「キャズム」とは

「キャズム(chasm)」とは英語で「深い溝」「巨大な裂け目」を意味します。米国の経営コンサルタントであるジェフリー・ムーア氏が初期市場とメインストリーム市場の間にはキャズムが存在するという「キャズム理論」を提唱して以降、広く知られるようになりました。

 

キャズムの理解に必要な知識

キャズム理論は「イノベーター理論」を前提に構築されています。

◆ 「イノベーター理論」について
イノベーター理論はイノベーションが普及していく過程を体系化した理論で、米国の社会学者エベレット・M・ロジャース氏が提唱しました。先進の技術や概念、新製品・サービスがどのように世の中に普及していくのか分析したものです。

◆ イノベーター理論における5つのタイプ
イノベーター理論では、新しい製品、サービスを採用するタイミングが早い順に消費者を次の5つのタイプに分類しています。

  • イノベーター(革新者)
    市場全体の約2.5%存在し、情報感度が高く、積極的に新製品を手に入れようとする層。
     
  • アーリーアダプター(初期採用者)
    市場全体の約13.5%存在し、流行に敏感で周囲がまだ利用していない段階で取り入れようとする層。
     
  • アーリーマジョリティ(前期追随者)
    市場全体の約34%を占め、すでに広まっているものに乗り遅れないようにしようとする層。口コミなど周囲の意見に影響を受けやすいといわれます。
     
  • レイトマジョリティ(後期追随者)
    市場全体の約34%を占め、周囲の人が利用しているのを確認してから導入する層。
     
  • ラガード(遅滞者)
    市場全体の約16%存在し、世間の流行や新しい製品、サービスに関心を示さない層。

◆ キャズム理論とイノベーター理論の違い
イノベーター理論では新しい製品・サービスの消費者を5つのタイプに分け、特にアーリーアダプター層が重要だと考えます。一方、キャズム理論では、イノベーターとアーリーアダプターを「初期市場」、アーリーマジョリティとレイトマジョリティを「メインストリーム市場」と捉え※、その間に大きな溝「キャズム」が存在するとしています。キャズムを超えるためには戦略が必要であり、キャズム理論ではその方法が提示されています。
※ラガードまでを「メインストリーム市場」とする説もあります。

キャズム理論

 

なぜキャズムが発生するのか?

初期市場の顧客とメインストリーム市場の顧客では、購買心理が大きく異なるとされています。初期市場の顧客は「新しさ」や技術の斬新さに惹かれて購入するため、多少使い勝手が悪くても自分で創意工夫し、使い続けることがあります。
一方、メインストリーム市場の顧客は実績重視の慎重派で、その製品・サービスによりどのようなベネフィットを享受できるのか、具体的に目に見えてから初めて購入行動を起こすといわれています。そのため初期市場の顧客と同じマーケティング手法ではメインストリーム市場の顧客を惹きつけることができず、キャズムが発生しやすくなると考えられています。

 

どのようにしてキャズムを超えるか?

キャズムを乗り越えるためには、次の5つの方法があるとされています。

◆ ①現在地の把握
まず、自社の新製品・サービスがどの段階にあるのか、イノベーター理論に照らし合わせて把握します。まだ初期市場にいるのか、それともメインストリーム市場に達しているのかにより、その後のマーケティング手法を変えていく必要があるとされています。

◆ ②リリース直後の先進性の強調
キャズムを超えていくためには、初期段階で製品・サービスの先進性を強調することが望ましいとされています。イノベーターやアーリーアダプターに受け入れられるためには、発想の斬新さや技術の優位性を感じてもらう必要があります。リリース直後にその点をアピールしておくことで初期市場を獲得しやすくなり、その後のメインストリーム市場にもアプローチしやすくなる可能性があります。

◆ ③ユーザビリティ(使いやすさ)の向上
自社の新製品・サービスがまだアーリーマジョリティ層に受け入れられていないと判断したら、ユーザビリティの向上を検討するのが1つの方法です。イノベーターやアーリーアダプターにはある程度、専門的な知識や技術を持つ人が含まれているといわれており、ユーザビリティが良くなくても自分なりに工夫して使い続けることがあります。一方、アーリーマジョリティ以降の層は専門的な知識や技術をほとんど持ち合わせていないことが多いため、ユーザビリティが良くないと使い続けてくれず、「使いづらい製品だ」「購入は失敗だった」と判断されがちです。そのため、ユーザーアンケートやインタビューなどで改善点を的確に把握し、ユーザビリティを向上させることが必要だと考えられています。

◆ ④アーリーマジョリティを意識したアプローチ
アーリーマジョリティはユーザーの中でも多数を占める層であり、ここに浸透させることでレイトマジョリティやラガードへの普及が加速するといわれています。アーリーマジョリティは世の中の評価や実績を重視するため、「すでに業界で〇〇社が導入済み」「導入により、〇%のコストを削減」など、具体的な実例を数値とともに掲げたアプローチが効果的だとされています。また、失敗を恐れる気持ちがアーリーアダプターより強いため、一般ユーザーが理解しやすい説明書や購入後のアフターサポートなどに力を入れ、安心感を抱いてもらうことも1つの方法です。

◆ ⑤小さい市場から開拓する
最初から大きい市場をターゲットにすると、その製品・サービスを真剣に求めている一部の顧客を発見しづらくなります。そのため、まずはニーズが高いと思われる市場に限定してシェアを伸ばし、その後徐々にターゲット市場を広げていくことが望ましいとされています。

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キャズム超えの成功事例・失敗事例

キャズムを超えた事例、超えられなかった事例を紹介します。

◆ キャズムを超えられた製品・サービス
スティック型掃除機は1980年代には登場していましたが、「重い」「バッテリーの持続時間が短い」などの要因もあって、掃除機市場は長くキャニスター型が中心でした。ところが2000年代以降、複数の海外メーカーがスティック型製品で日本国内の市場に参入。2010年代には軽量化やバッテリー駆動時間の改善も進み、シェアが拡大。近年では掃除機市場の半分以上を占めるようになりました。

◆ キャズムを超えられなかった製品・サービス
現在、世界中でさまざまなSNSが利用されていますが、アーリーアダプター層までは利用したもののアーリーマジョリティ層へ拡がらず、普及が進まなかったものも複数存在します。例えば、新しい機能が初期市場ではプレミアム感を生み、一時的に流行。しかし、一部の人たちだけが頻繁に利用している状況が逆にメインストリーム市場では敷居が高く受け取られ、その後の普及を難しくするケースなどが存在しました。

 

キャズムを越えた後の戦略

キャズムを超えた後には、次の戦略があるとされています。

◆ ボーリングレーン
「ボーリングレーン」とは、新製品・サービスをリリースする際、市場を細分化し、もっとも攻略しやすいと思われるニッチ市場に的を絞って集中的にマーケティングを実施。そこで大きなシェアを獲得後、次に隣接するニッチ市場へとターゲットを広げていくという戦略です。もっとも攻略しやすい市場をボーリングの1番ピンに、隣接する市場を2番ピン、3番ピンに例えて「ボーリングレーン」と名付けられました。

◆ ホールプロダクト
「ホールプロダクト」とは、コアな製品・サービスだけでなく、利用する際に便利な補助製品や付帯サービスなどを含めた完全パッケージのことを指します。広い意味では、配達方法や保証制度、アフターサービスなどをホールプロダクトに含めることもあります。アーリーマジョリティ層は使いやすさと安心感を求めるため、ホールプロダクトを提供すると受け入れられやすい傾向があるとされます。

◆ ホールプロダクトの理解を深める「プロダクトライフサイクル」とは?
「プロダクトライフサイクル」とは、製品やサービスにも人の一生のように誕生から撤退に至るライフサイクルがあるとする考え方で、導入期⇒成長期⇒成熟期⇒飽和期⇒衰退期という5つの段階があり、それぞれに適したマーケティング戦略があるとされています。ホールプロダクトの観点からプロダクトライフサイクルを見た場合、導入期・成長期は基本的な性能を備えたコア製品だけで勝負することも可能ですが、成熟期に入るとブランディング、デザイン、パッケージングなど総合的な評価が購入の決め手となるといわれています。

 

製品の開発から普及戦略まで一気通貫のご支援も可能です。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)へご相談ください

SSAPでは新規事業開発においてキャズムを超えるための戦略はもちろん、開発からマーケティング・販売戦略まで幅広く支援します。新規事業に関して「リリース時は好評だったが、その後伸び悩んでいる」「マーケティング戦略を変更しなければならないが、どのように方向転換すればよいのかわからない」など、さまざまな課題にお応えします。SSAPの経験豊富なアクセラレーターに、ぜひご相談ください。

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◆ 事例紹介
SSAPは、2014年にソニーグループ内の起業用の仕組みとしてスタート。2018年からは社外へもサービス提供を開始し、アイデアの芽を新製品・サービスの開発につなげ、プロトタイピングからデザイン・マーケティング・発売まで、一気通貫でサポートを提供しています。ここでは主な事例をご紹介します。

京セラ株式会社 Possi
SSAP は京セラ株式会社様の音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」のデザインから販売マーケティングまでを支援しました。ソニーのデザイナー集団であるクリエイティブセンターと共に、顧客が求めているものは何かを起点に発想を実施。ユーザーのニーズから“子どもにハミガキを好きになってもらう”=“歯ブラシを生き物に見立てる”という世界観を提案し、プロダクトからロゴ、Webページまで一貫したデザインを提供しました。その後クラウドファンディングを行い、2020年12月に事業化を実現しています。

【連載】「ソニー・京セラ・ライオン」大企業の三社共創、9か月でアイデアが形に
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REON POCKET
ソニーグループ株式会社の冷温両対応のウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」は、SSAPの社内オーディションにより誕生した新規事業です。プロジェクトチームはSSAPからコーチングやピッチ演習、品質観点でのサポートなどの支援を受け、2020年7月一般販売に至りました。

【連載】「REON POCKET」舞台裏
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ソニーの新規事業支援プログラム SSAP紹介パンフレット 無料ダウンロード

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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