ポジショニング(positioning)とは
ポジショニングとは、「位置(ポジション)を決める」を意味する英語です。マーケティングの世界では、市場における競合他社との位置関係を明確にしたうえで、差別化すべきポイントを探し出し、自社の立ち位置を確かなものにすることを指します。その上で自社が持つ独自性を効果的に顧客にアピールし、競合に比べ優位に立つことが目標となります。ポジョニングをイメージしやすくマップ化したものが「ポジショニングマップ」で、市場全体のビジネスを俯瞰する時に役立ちます。
新規事業を創出するときにも、参入予定の市場の状況を前もって把握し、自社製品が目指すべきポジションを明確にした上で商品開発や事業開発を行うことは失敗のリスクを減らす意味でも有効だと言われています。
◆ 「ポジショニング」はSTP分析のひとつ
ポジショニングを行うためには、まず市場を正しく把握し、どのような顧客を狙うのかをはっきりさせる必要があります。その時に用いられるのがSTP分析というフレームワークです。ポジショニングは、この中の「P」のステップにあたります。
STP分析では、マーケティング戦略を策定するときに、市場を細分化して捉え(Segmentation:セグメンテーション)、その中で狙うべきターゲットを定め(Targeting:ターゲティング)、自社独自の位置取りを考える(Positioning:ポジショニング)といったステップで分析を進めていきます。以下、それぞれについて解説します。
◆ S:セグメンテーション
製品があふれ人びとの価値観が多様化している現在において、実効性のあるマーケティング戦略を立てるには、顧客やその特性に基づいて市場を細分化(セグメンテーション)する必要があります。この時、年齢や性別、職業、年収といった属性で分類するだけでなく、「顧客のニーズ」は何かをしっかりと捉え、同じニーズを持つ顧客層をベースに分類することで、より本質的なニーズが見えてくる可能性が高まります。例えば、「外出手段に不満や不便を感じている層」という属性でくくるのと、「65歳以上の高齢者」という属性だけで消費者をくくるのとでは、見えてくるニーズが大きく異なることがおわかりいただけると思います。
◆ T:ターゲティング
次に、細分化したいくつかの市場のどこを選ぶのか、標的(ターゲット)となる市場を決めます。この時、自社の経営資源や外部環境を考慮し「最も魅力的な市場」を選択することが重要となります。その市場の成長性・規模・競合状況などを考慮しながら、ターゲットとなる市場を決定します。
◆ P:ポジショニング
ターゲティングのプロセスで選んだ市場で、競合と差別化できる独自の位置取り(ポジショニング)を考えます。製品やサービスで他社と差別化を図れるユニークなポジションを見つけることができれば、その後のマーケティング活動にうまく結びつけていくことが可能になります。この時、「企業視点」に偏ることなく、あくまでも「顧客にとっての魅力」という視点から考えることが大切です。
ポジショニングの目的
数ある製品群の中から自社の製品を選択してもらうためには、顧客にとってどれだけ魅力的な価値を提供しているのかを明確に示し、それを認識してもらうことが大切です。その価値を見つけるために必要となるのが、ポジショニングです。市場の中で競合と差別化できる自社の位置を知ることが、ユーザーにしっかりと伝わるマーケティング戦略の策定につながります。
ポジショニングを成功させるポイント
STP分析を通じて他社と差別化できるポジションを見つけるときに、いくつか注意したい点があります。
◆ 「企業視点」ではなく「顧客視点」で考える
ポジショニングを行ううえで基本としたいのが「顧客視点」で検討することです。他社と比較して自社製品がどう優れているかという「企業視点」ではなく、「顧客が自社の商品を魅力的で価値あるものと認知しているか」という顧客視点で考えることが非常に大切になります。
◆ ポジショニングで成功するための注意点
続いて、有効なポジショニング戦略を進めるうえで重要となる、4つのポイントを紹介します。
- ポジショニングのターゲット規模が適切か
選んだ市場に自社が利益を確保できるだけの規模があるのかどうかは、不可欠なチェックポイントです。市場の規模が小さすぎたり、そもそも需要がないポジションを選んだりすると、事業として成り立たない可能性があります。
- 選んだポジショニングに、顧客が共感できるか
他社との差別化を重視するあまり、顧客にとって魅力のないポジションを選んでしまっては意味がありません。自社製品やサービスが、顧客にとって“価値あるもの”と思ってもらえるポジションかどうかがポイントになります。
- 選んだポジショニングが、顧客に正確に伝わるか
最適だと思われる市場を見つけ、ポジションを選んだとしても、市場のユーザーに自社製品やサービスの魅力が伝わらなければ、当然売上は伸び悩みます。選び出したポジションをどのようにメッセージとして打ち出し伝えていくか。その戦略策定がキーとなります。
- 製品のポジショニングと自社の企業理念やポリシーに整合性があるか
選ぶ製品ポジションは、自社の企業理念やポリシーと整合性が取れているかも意識する必要があります。例えば、これまで自社が「高品質で価値の高いものを提供する」という理念を掲げてきたにもかかわらず低価格帯のポジションを設定すると、理念とポジションの間に一貫性がなくなります。その結果、長期的なブランド形成を棄損したり、顧客からのイメージが悪化したりするリスクがあります。
優れたポジショニングを導き出すコトラーの6つの基準
ポジショニングを考える時に重要となるのが、どのような軸でポジションを検討するかです。「現代マーケティングの父」とも呼ばれるフィリップ・コトラーは、優れたポジショニングを導くための基準として、以下の6つを紹介しています。
1. 特定の製品特性に基づいたポジショニング
自社製品の特性に基づくポジショニングです。例えば、「価格」で勝負するのか、「品質や高級感」を売りにするのかなど、製品自体の特性に関わる基準です。
2. 製品が提供するベネフィットに基づいたポジショニング
「顧客はその製品にどのような期待をしているか」「顧客が期待するニーズを満たすことができるか」など、顧客にもたらすことができるベネフィット(便益)に基づいた基準です。
3. 製品が使用される機会によるポジショニング
その製品がくらしの中のどんなシーンで使われるのか、またどんな人が使うのかといった「機会」を基準にすることも有効です。例えば「昼か夜か」、「屋外か屋内か」、「男性か女性か」、「大人か子供か」などがあげられます。
4. 競合製品との関係を使ったポジショニング
自社製品と競合製品との関係性から、対立構造をつくる方法もあります。ライバル製品との対立関係を明確にし、「ブラインドテストの結果、00%の人が当社製の飲料がおいしいと答えました」といった切り口の比較広告キャンペーンなどが例としてあげられます。
5. 競合製品との距離を置いたポジショニング
競合製品にはない自社製品の特性に基づいてポジショニングすることで、顧客に違いを認識してもらう方法です。例えばトクホのお茶なら、「苦い製品が多い中、当製品は苦みが少なく普通のお茶のように飲める」などのポジションが考えられます。広告展開でこういったベネフィットを効果的に伝えることで、従来の他社製品に満足できなかった消費者にアピールしやすくなります。
6. 製品の種類別のポジショニング
同じ製品でも、全く別の用途でポジショニングすると効果的なことがあります。海外の例では、それまで料理に使われていた重曹をゴミ箱や冷蔵庫の脱臭剤としてポジショニングし、成功したという事例もあります。自社製品の機能などを見直し、別のカテゴリーにポジショニングすることで新たな価値を提供できる可能性があります。
ポジショニング戦略の作り方
ポジショニング戦略を検討する際には「ポジショニングマップ」を作成し、視覚的にイメージしやすいかたちで自社と競争相手との位置関係を確かめることがおすすめです。ポジショニングマップでは、タテとヨコの2つの軸に沿ってマッピングを行います。この軸を設定するためには、まず顧客のKBF(購買決定要因)を洗い出すことから始めます。次に、洗い出したKBFに優先順位を付け、重要なものについて競合他社と自社の比較を行います。
次に重要なKBFの中から2つの要素を選び、ポジショニングマップのタテ・横の軸とします。この時、それぞれ独立性のある2軸を用いてマッピングしていくことが重要なポイントです。
◆ 結果が出ない場合はリポジショニングも視野に
ポジショニング戦略を実践したものの、具体的な成果につながらないケースもあり得ます。また、市場環境の変化などによって現在のポジションを維持することが難しくなることも考えられます。そんな場合は戦略を見直し、ポジショニングを変更する「リポジショニング」も視野に入れて、柔軟な対応を行うことも必要だといわれています。セグメントした市場が間違っていたのか、自社製品やサービスの魅力がうまく伝わっていないのかなど原因を突き止め、競合や市場環境を再度分析しながら新たな戦略の策定へとつなげていきます。
◆ ポジショニングは必要に応じて見直していく
STP分析の段階で、どのように市場をセグメントするか、そこからどの市場を選ぶか、ポジショニングでどの軸を選ぶかなど、データの捉え方や考え方しだいで自社製品の位置づけはどのようにでも変化します。思うような結果が出ない場合は、STP分析の段階にさかのぼって検証することをおすすめします。
アイデア創出から事業化まで、貴社の新規事業開発に伴走し支援します
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)ではアイデア創りから事業運営、販売・事業拡大まで一気通貫で支援する仕組みが整っています。社内に新規事業のアイデアを生み出す仕組みを導入したい、取り組みたいテーマはあるがアイデアがまとまらない等のお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
◆ ビジネスモデルの仮説立案方法を学び実務に役立てます
SSAPでは、専任のプロデューサーが貴社の現状・課題・ゴールを確認し、最適な支援を設計。新規事業開発に必要なサービスを網羅しています。アイデア探索・用途探索にはじまり、ビジネスモデルの仮説構築・検証、アイデアの可視化、ニーズ検証といったプロセスを経て、事業計画策定、サービス開発、PR・製品発表に至るまで。ワークショップやトレーニングなどを通して、実務に役立つ新規事業創出プロセスを学ぶことができます。