Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2019年7月からは株式会社LIXIL(以下LIXIL)にサービス提供を開始し、2020年7月には電動オープナーシステム「DOAC」を発表しました。
どのような経緯でSSAPがLIXILへサービス提供をするに至ったか、どのようなドラマがあったのか等、本プロジェクトを連載にてご紹介してまいります。
今回は、DOACのプロジェクトメンバーである株式会社LIXIL(以下LIXIL)LIXIL Housing Technology Japanビジネスインキュベーションセンター プロデューサー 今泉 剛さん・大澤 知自さんと、SSAPのプロデューサー 善積 真吾に、「DOAC」誕生の背景やプロジェクトの全容をインタビューしました。
LIXILのプロジェクトメンバー2人と、SSAPのプロデューサー・アクセラレーターで駆け抜けた1年間。
――LIXILの今泉さん・大澤さん、SSAPの善積さんのそれぞれのご所属と今回のプロジェクトでの役割をお教えください。
今泉:DOACプロジェクトでは、プロジェクトリーダーを担当しています。社内のプロジェクトメンバーは私と大澤さんの二人という小さなチームでしたが、その分マーケティングから商品企画、設計、そしてプロモーションまで、自分達で意思決定しながら進め通常3年かかるとされる商品開発を約1年間で実現しました。それは、思いを共有した二人で抜群のコンビネーションで活動ができたからだと思っています。
大澤:私はDOACプロジェクトで、社内外のオペレーションやコスト管理、社外パートナー様との契約など、ローンチに向けて必要なサポートを一手に担っています。既存カンパニーの中では取り組めていなかった「福祉分野」への挑戦に向けて、今回SSAPからの支援を受けることによって、新たな取組みへの一歩を踏み出せたと感じています。
善積:私はSSAPのプロデューサーとして、今回のプロジェクトでのトレーニングや新規事業創出プランの全体コーディネート、メンタリングを行いました。
――DOACのアイデアが生まれたきっかけをお教えください。
今泉:今回発表した電動オープナーシステム「DOAC」は、玄関ドアの自動開閉を実現する商品です。実はこういった“スイングドアの自動化”は、住宅の玄関ドアを何十年も前から作り続けているLIXIL社内で、幾度となく検討されてきたテーマでした。しかしながら毎回上手く商品化することができず、玄関ドアの自動化は社内では不問の領域になってしまっていました。それは、今思えば「一体だれが使うのか?」「いつ欲しいのか?」「いくらなら買えるのか?」を、突き詰めて考えきれていなかったからだと思います。
今回はSSAPの協力のもと、多くの障がい者の方々に実際にお会いし、それぞれの体験談や思いをインタビューしました。玄関ドアを自力で開けられないがゆえに、毎日ヘルパーさんと待ち合わせて帰宅されている方、ロープで引っ張る・杖や車椅子でドアをこじ開けるなど大変な苦労をされている方等、課題は様々でした。しかしインタビューさせていただいた方々は、それでも自立への希望をあきらめない前向きな姿勢をお持ちで、そんな姿に私たちは感銘を受けました。
実際にユーザーとなり得る方々の話を聞いたのは、DOACという商品のペルソナ像を明確にするだけではなく、玄関ドアメーカーの社員として、強い使命感をもってリーンに取り組む原動力になりましたね。
本当に欲しいと思ってくれるお客様は? ”超具体的”に考えること。
――今回のDOACはSSAPが一部支援させていただいておりますが、具体的にどのようなことを行いましたか?
善積:2019年7月に最初のトレーニングを開始し、8月からはビジネスモデルの仮説構築を行いました。9月からはビジネスモデルの仮説検証。11月から、DOACの発表に向けたマーケティング支援を開始しました。2月から、DOACのコミュニケーションデザイン支援をさせていただきました。
――約1年間のプロジェクトなのですね。LIXILのお二人は、SSAPと連携する中で既存ビジネスとのギャップなどを感じられたことはありますか?
大澤:これまで社内で担当してきた商品では、ペルソナを明確にしきれていないことが多く、全てのユーザーニーズにマッチするような商品開発をするというのが主流でした。一方SSAPでは、実在するアーリーアダプターを見つけ、彼らが抱える課題を“超具体的”に絞り込むことで、ユーザーとなり得る人の視点をもとに全てのコミュニケーション設計を考えました。これらの作業により、搭載すべき機能を明確にしつつ、その機能がユーザーにとって良い課題解決になっているかを、アーリーアダプターの方々と一緒に検証することができました。結果として早い段階で、我々が提供すべき“Must Have”な機能が明らかになり、完成度の高いカスタマージャーニーマップを作り上げられたと思っています。
多くのユーザーの方へと訪問させていただき、叱咤激励されながらインタビューを重ねた経験は、今後の様々な活動の糧になると感じています。
――善積さんが今回プロデューサーとして、一番こだわった点はどこですか?
善積:DOACチームは、プログラム開始から1年以内で商品発表と、とにかく全てが早かったんです。元々お二人とも起業家精神が旺盛であったため、リーンスタートアップ的な進め方の学習速度が速く、通常3か月かかるSSAPトレーニングも1か月半でやり切りました。
前半戦はそのスピード感を大事にし、「本当に欲しいと思ってもらえるお客様を見つける」ところだけにフォーカスしていただきました。絵に描いた架空の顧客を想像するのではなく、商品化されたら真っ先に導入させて欲しいというお客様を見つけること、そこにこだわったのです。実は、ある統計データでは、新規事業の失敗要因のNo.1は”No Market Need(顧客から必要とされていなかった)”と言われていることもあるんですよ。
このように顧客像を明確にすることにこだわった結果、顧客インタビューの過程でアーリーアダプターとなり得る、DOACを熱望するお客様を見つけることができ、一気にメンバーに自信がつき、ミーティングで飛び交うセリフも変わっていきましたね。「こういう客だったらこんな仕様がいいのではないか」から「〇〇さんや△△さんは**だから、こういう仕様が最適なんです」のように、”超具体的”なディスカッションに変わりました。
後半戦は、マーケティング・クリエイティブの支援を行い、全体の世界観から細かい商品紹介のテキストまで、多面的に準備を進めました。
ドアをドアマンに。日本の玄関ドアを変えていきたい。
――DOACの商品としての特長、こだわったポイントをお教えください。
今泉:DOACは、高齢化を背景に年々増加する障がい者とその家族の暮らしを快適にできる商品として開発しました。インタビュー等を通じてわかったことは、ケガや病気など予期せぬタイミングで障がいを負い、突如としてバリアフリーリフォームを余儀なくされる人が多いこと。玄関ドアをスライドドアにリフォームすることは、建築的・費用的な負担が大きく、不便な生活を強いられている方がたくさんいます。
しかしDOACなら、玄関ドアや鍵はご自宅にあるものそのままで、ドアを簡単に自動化できます。また、一緒に暮らす家族の負担も軽減できるよう、オートアシスト機能も搭載しました。住まいに1つだけの玄関だからこそ、障がい者自身のアクセシビリティだけではなく、家族みんなで使いたくなる新しいバリアフリーリフォームを目指したのです。
――今回のプロジェクト、DOACにかける想いをお教えください。
善積:ある打ち合わせの中で、今泉さんが「ドアをドアマンにしたいんです」って言ったときに、未来の日常の光景が目に浮かんだんです(笑)。最初は足を悪くして外出を躊躇している方々に使ってもらうことを想定していたのですが、その言葉を聞いてから、自分自身も近い将来、車のドアを自動で開けるように自然にDOACを使っている姿がイメージできました。家を出るとき・帰るとき、ドアをそっと開け閉めしてくれて、住んでいる人に安心感を与えるようなドアマンが、各家庭に届いたら素晴らしいことだなと思います。
今泉:今回のDOACプロジェクトは、社内外の多くの方々に協力をいただくことができ本当に感謝しています。それは、「日本の玄関ドアを変えていきたい」というプロジェクトのビジョンに共感していただけたからこそだと思います。今後は、その期待を裏切らない様に、さらなるスケールアップもリーンに進めていきたいと思います。
大澤:毎日苦労していた玄関の出入りがラクになって良かったとお客様に早く言っていただけるよう、現在、最終準備を行っています。車のカギや窓がスマートロックやパワーウィンドに置き換わっていったように、いつしか住宅の玄関ドアも“自動が当り前でしょ”となるように製品の進化を実現していきたいと思います。
>>DOACの詳細はこちらから
※本記事の内容は2020年7月時点のものでSSAP