Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
Varinos株式会社 代表取締役社長 桜庭 喜行さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
「ゲノム解析技術を通じて、家族の未来をつくる」をミッションに掲げています。Varinosという社名には「Variant for Diagnose」(遺伝的多様性を診断へ生かすこと)という想いが込められており、診断や治療方針にゲノム情報を活用する「ゲノム医療」の社会実装を目指しています。
現在は生殖医療領域でゲノム解析技術を応用し、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」などを提供しています。
――Varinosではどういった事業を展開していますか?
ゲノム解析技術による臨床検査サービスの開発と提供を行っています。子宮内の超微量な細菌を解析する「子宮内フローラ検査」は、Varinosが世界で初めて独自開発・実用化した、ゲノム解析技術を用いた検査です。不妊治療クリニックを中心に多くの医療機関で導入されており、2022年6月30日に、厚生労働省より「子宮内細菌叢検査2」という技術名で先進医療にも認定されました。
その他にも「着床前ゲノム診断」(※1)や「次世代POCゲノム検査」(※2)など、ゲノム技術を応用した検査を医療機関に提供しています。
また、大学や研究機関、医療機関からの受託解析や共同研究も数多く行っています。一般の方向けには、自宅で簡易検査ができる「腟内検体採取式 子宮内フローラCHECK KIT(株式会社ファミワンとの共同事業)」の提供や、サプリメント「子宮内フローラのためのラクトフェリン」の販売をしています。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
きっかけは、2016年に海外で発表された論文です。
2015年まで子宮内は無菌だと言われていたのですが、その論文では子宮内には複数の細菌が存在し、かつ、その子宮内の細菌が妊娠率や生児獲得率に影響していると発表されました。
論文が出た当時、私はイルミナ株式会社という、高速でDNAを解読できる機器を販売する会社で産婦人科分野の遺伝学的検査の市場開発を行っていました。当時関わりがあった医師の方々に「子宮内の細菌が調べられる検査があったら導入したいか」と聞いてみたところ、多くの医師が「したい」と答えました。
Varinosの共同創業者である長井は、イルミナ時代の同僚で、遺伝統計解析やデータベース構築のスペシャリストでした。2人でタッグを組めば、まだ世の中にない新たな検査を医療現場に届けられるのではないかと考え、2017年2月にVarinosを設立しました。
子宮には超微量しか細菌がいないため、臨床検査として提供できるまでには様々な課題がありましたが、開発にあたったメンバーたちの尽力のおかげで、2017年12月、世界で初めて「子宮内フローラ検査」を独自開発・実用化できました。
――今後の期待や展望は?
「子宮内フローラ検査の海外展開」と「子宮内フローラ検査を応用した新規プロダクトの開発」に積極的に取り組みたいと考えています。
まず、海外展開については、アジア、欧州、米国、中国をはじめ、全世界を視野に入れています。2027年を目途に、国内・海外の売り上げが半々になるくらい、海外での売り上げを伸ばすことが目標です。
子宮内フローラ検査を応用した新規プロダクトの開発については、子宮内フローラと慢性子宮内膜炎や子宮内膜症、子宮頸がんの関係性も示唆され始めていることから、この領域での検査も考えています。
中長期では、がんや新生児疾患など、未だ有効な治療法が示されていない領域で、ゲノム情報が貢献できる検査の開発も行っていきたいと思っています。
SIFはVarinos株式会社に対し2022年7月に出資を行っています。Varinosへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 深田 陽子、田附 千絵子、富高 忠房より、注目ポイントをご紹介します。
1. 不妊治療の保険適用もあり、マーケットは拡大傾向
不妊治療への保険適用が2022年4月から開始されたことにより、治療に取り組む患者が大幅に増えていると言われています。海外では既に、ゲノムを活用した様々な生殖医療領域での検査が進んでおりますが、日本でもその効果に対して徐々に注目が集まっています。
今後は、不妊治療全体の認知度向上と市場拡大に伴い、Varinosが提供する最新のゲノムテクノロジーを応用した「子宮内フローラ検査」や、流産の原因の大半を占めているといわれている染色体異常を胚移植前に調べる「着床前ゲノム検査」などの利用者の増加が予想されます。
2. 妊娠成功率を大きく向上させるソリューション
日本は不妊治療大国(※3)であるにもかかわらず、治療の成功確率が低いことが課題だと言われています。その要因の一つとして、不妊治療に取り組む方の年齢の高さが考えられますが、晩婚化をすぐに改善することは難しいため、違うアプローチで成功確率を上げるソリューションが急務だと感じておりました。
Varinosでは、「子宮内フローラ検査」「着床前ゲノム検査」「ラクトフェリンサプリ」の3種のソリューションを組み合わせることで、体外受精において通常10~30%だと言われている妊娠成功率を、70~80%まで引き上げることを目指しています。成功確率を大幅に上げることのできるVarinosのソリューションは、患者の時間的・金銭的・精神的・身体的な負担を軽減できる、素晴らしい技術だと思います。
3. 生殖医療領域のゲノム解析スペシャリスト揃いのチーム
会社を代表するプロダクト「子宮内フローラ検査」は、Varinosが世界に先駆けて実用化に成功しました。「子宮内に含まれるラクトバチルス菌が90%以上の割合を占めている方は、そうでない人と比べて妊娠率・妊娠継続率・出産率がそれぞれ圧倒的に高くなる」というエビデンス(※4)を基に独自の検査手法を確立し、その高い精度と品質は他社を圧倒しているのも魅力です。
Varinosには創業者をはじめ、国内屈指のゲノム解析スペシャリストが揃っており、今後の更なる研究開発にも期待しています。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2022年12月時点のものです。