2023.03.08
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

株式会社 KOALA Tech|世界初の革新的レーザー技術「有機半導体レーザーダイオード」

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。

株式会社 KOALA Techとは?

株式会社 KOALA Tech 代表取締役 藤原 隆さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。

藤原 隆さんの写真
代表取締役 藤原 隆さん

――会社のミッションを教えてください。

KOALA Techは、九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センターが世界に先駆けて実現した「有機半導体レーザーダイオード(OSLD:Electrically pumped Organic Semiconductor Laser Diode)」(※1)技術の実用化を目指して、2019年3月に設立された九州大学発のスタートアップです。私たちKOALA TechはOSLDを、センシングやディスプレイの次世代ソリューションとして九州からグローバル市場へ届けます。

九州大学は有機光エレクトロニクスで世界をリードする学術拠点です。大学に蓄積されてきた知見をもとに、有機EL素子の基本構造を維持しつつ微細な共振器構造(グレーティング)(※2)を導入することで、有機材料によるレーザー発振を可能にする技術を開発しました。

※1  外部から電気を与えることによって、原子、分子などをより高いエネルギー状態に移し、そのエネルギーをレーザー光として取り出す有機デバイス
※2 種々の波長が混ざった光(白色光)から特定の波長を選ぶ光学素子
株式会社 KOALA Techの会社ロゴ
株式会社 KOALA Techの会社ロゴ

――KOALA Techではどういった事業を展開していますか?

KOALA Techでは、世界初のOSLDの実用化を目指して研究開発を進めています。現在用いられているレーザーの多くは無機半導体レーザーであり無機物質を使ったものですが、KOALA TechのOSLDは有機物質を使った有機半導体レーザーです。OSLDは既存の無機半導体レーザーに比べて、将来的な低コスト化が可能であり、簡単に大規模な製造ができるポテンシャルがあります。

また無機半導体によるレーザーには材料や基板に起因する制約がある一方で、KOALA Techが開発するOSLDは、有機材料の特長である分子レベルの設計、有機デバイスの柔軟な製造方法を活かしてこの制約を突破できます。これからXRデバイスやウェアラブルヘルスケアデバイスが小型化・軽量化し、普及が進んでいく上で、重要なプラットフォーム技術となることが期待されます。

プラスとマイナスの金属電極にDFB構造が挟まれたイメージ図
有機半導体レーザーダイオード(OSLD)の図

――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?

KOALA Techが開発するOSLDは、理論的には開発の実現可能性があると長年注目されていたものの、学術的に実証がされてきませんでした。しかし、九州大学の安達千波矢教授をリーダーとするチームが2019年に世界に先駆けて実証に成功したことを発表し、学界に大きなインパクトを与えました。

KOALA Techはそのタイミングで、OSLDを自らの手で実用化することを目指し、実証に成功したチームのメンバーが参画する形で創業されました。無機半導体レーザー(VCSEL)(※3)は、1970年代に日本で発明されながら、産業化では欧米に大きく後れをとっています。そうしたことも踏まえ、OSLDを日本の産業として大きく育てることを志し、それに賛同いただいたベンチャーキャピタルなどの出資を得て、開発を進めています。

※3 デバイス面に垂直にレーザー光を取り出すことができる無機半導体レーザー

――今後の期待や展望は?

KOALA Techは、研究開発型スタートアップです。独力で実用化を目指すのではなく、グローバル企業とのアライアンスを通じてOSLDの早期実用化を目指します。現在、ソニーグループの企業とも共同研究開発を進めています。KOALA Techが創業以来蓄積してきた材料設計、グレーティング設計、デバイス設計の要素技術と、ソニーグループの多岐に渡る光デバイス関連技術、とりわけ半導体レーザーの技術領域における各種レーザーダイオード素子・モジュールの開発・実用化・高性能化の実績を合わせることで、OSLDの性能を向上させ実用化を加速したいと考えています。

現時点では、2026年頃に本格的な事業化を目指しています。XRデバイスやウェアラブルデバイスの普及に向けた小型化・軽量化の取り組みは世界で注目度が高く、OSLDをセンシング光源、ディスプレイ光源の新しいソリューションとして早期に提供できるよう、開発を進めています。

Sony Innovation Fund(SIF)が注目しているポイント

SIFは株式会社 KOALA Techに対し2020年3月及び2021年3月に出資を行っています。KOALA Techへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 富高 忠房より、注目ポイントをご紹介します。

注目ポイント 1. 有機EL分野を世界的にリードする安達教授が創業 2. グローバルな経営陣 3. レーザー分野での有機半導体の市場拡大

1. 有機EL分野を世界的にリードする安達教授が創業

KOALA Techは、世界に先駆けて有機半導体レーザーの発光に成功した九州大学の安達教授によって設立されたスタートアップです。世界の有機EL分野をリードする安達教授が、有機半導体レーザーの今後の可能性に注目しKOALA Techの技術の開発に携わっています。

2. グローバルな経営陣

創業時より、KOALA TechはCEO(現在は、藤原さんで2代目)やCTOをはじめとしたグローバルな人材が活躍しています。創業当初よりグローバルな市場を見据えているためです。実際にKOALA Techが開発する技術は、日本だけでなく、スマホやヘルスケア関連デバイスの市場が大きいと言われる欧米やアジアでの展開が期待されています。

3. レーザー分野での有機半導体の市場拡大

有機半導体の利点を応用して、レーザー分野の市場拡大が見込めると考えています。これまでも、電子コピーや太陽電池、ディスプレイなどが有機半導体に置き換わり、大幅に市場が拡大してきています。無機半導体の材料では、エネルギー準位(※4)の選択が限られているため希望する波長のレーザーを発振させることが難しいです。しかし有機半導体を活用するとこれが可能になり、また有機ELの中に、有機半導体レーザーを埋め込むことも製造プロセス上可能になります。こういった面からも、今後のビジネス拡大の可能性があり、注目しています。

※4 エネルギーをもつ量子状態

連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

 

※本記事の内容は2023年3月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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