Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
エコナビスタ株式会社 代表取締役社長 渡邉 君人さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
エコナビスタの企業理念は「今と未来を見える化し 次世代の安心を創造する」です。この理念に基づき、社会課題の解決に資するビジネスを展開しています。現在は、まずは大きな課題の一つである「介護業界の担い手不足」への貢献を目指しております。
――エコナビスタではどういった事業を展開していますか?
「介護業界の担い手不足」は、国内だけでなく海外においても深刻化していますが、当社はその介護施設の業務効率化をサポートするサービスとして「ライフリズムナビ+Dr.」を提供しています。
これまで介護業界で提供されてきたサービスは、見守り機器を単体で使用して「問題や事故が起きた後に気づく、事後的対応の介護」が一般的でした。ライフリズムナビ+Dr.は、自社の強みである睡眠データ解析技術、センサフュージョン技術(※1)、医学的知見を統合し、SaaS型高齢者施設見守りサービスとして展開しており、「事故が起こる前に対処できる、先回りの介護」を実現しています。ライフリズムナビ+Dr.をご活用いただくことで介護現場の業務を削減し、介護スタッフの負担を定量的に軽減することで、担い手不足の問題を解決することを目指しています。
サービスの中核となるのは、睡眠・バイタルデータを取得するセンサー「SleepSensor」です。このセンサーを施設入居者のベッドのマットレス下に設置することで、睡眠データだけでなく、心拍数、呼吸数、体動などを取得することができます。このセンサー情報に、居室内の人感センサーやドアのあけしめセンサーの情報を組み合わせることで、睡眠中の状態や入居者の室内での動きなどの様々な情報が得られます。これらの情報はクラウドを経由しスタッフのスマートフォンなどに即時表示されるため、直接訪室をしなくても居室内の様子をリアルタイムで知ることができるのです。そのため夜間帯の定期巡視(見回り)を削減することも可能となりますので、現場の業務負担を大きく軽減することに繋がっています。
さらに、ライフリズムナビ+Dr.上でセンサー情報に基づく各種アラートを設定しておくと、転倒事故やオムツ外しなどの予兆段階で変化に気付くことができ、先回りをして介助を行えるようになっています。このようにアラートを適切に使用することで、事後の対処に追われずに済みますので、こちらもスタッフの負担軽減に大きく寄与しています。
このライフリズムナビ+Dr.のシステムでは、クラウドAIに加え、SleepSensorに新たにエッジAIも搭載することでデュアルAIを実現(※2)しています。これにより、見守りセンサーにありがちな誤検知や誤発報、通知遅延等のリスクを最大限回避していますので、現場スタッフの方々から本当に使いやすいサービスですね、とご好評をいただいております。導入施設数は150を超え、累計ご利用者数も10,000人を突破し、SaaS型高齢者施設見守りシステムとしてNo.1(※3)の実績も積んでおります。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
エコナビスタの創業者であり医師でもある取締役会長の梶本が、親の介護を経験したことがきっかけでした。介護をする過程で梶本は、介護をする側・される側両方が人としての尊厳を保ちつつ、お互いの心理的・肉体的負担を軽くするソリューションが必要だと痛感しました。そのためには、介護には従来の「問題が起きた後の事後的対応」だけではなく、「変化の予兆を把握し先回りした対応」が重要であると考えたのです。予兆を把握するための手段として、人の手に頼らず、最新のICT技術を取り入れることに可能性を見出しました。
事業立ち上げ後は、エコナビスタのコアコンピタンスである「サービスの中で蓄積してきた睡眠や生活習慣に関する膨大なビッグデータ」、「ビッグデータを元に、健康状態推移を予測するAIを開発する睡眠データ解析技術」、そして「ハードとソフトの両方を自社開発し、そこに新規開発したAIを実装してソリューション化するメソッド」の3つを中核に、常に現場のお客様の声に寄り添いながらライフリズムナビ+Dr.を発展させてきました。
――今後の期待や展望は?
まずは介護業界の課題解決のため、介護DXの推進に注力します。当面は介護施設を対象にライフリズムナビ+Dr.のシェア拡大に努めつつ、睡眠データ解析により創出した認知症予測AI(特許取得済み)などを活用し、居宅介護、地域包括ケアシステムの中での総合的なソリューション事業者へと変革を目指します。
またインフラ、エネルギー、住まい、家電など、様々な事業パートナーと連携・共創し、介護に至る前の日常の暮らしも含めて社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
SIFはエコナビスタ株式会社に対し2021年5月及び2022年7月に出資を行っています。エコナビスタへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 鈴木 大祐と深田 陽子より、注目ポイントをご紹介します。
1. 堅実な黒字経営と黒字幅の拡大
エコナビスタはこれまで、堅実に黒字経営を実現しており、出資時の予測を上回るスピードで事業を成長させています。この背景として、経営チームがサービス提供の量と質を上手くコントロールしており、その点にも注目しています。
ライフリズムナビ+Dr.は、ソニー・ライフケア株式会社が保有する施設などを含め延べ1万人以上の利用実績があります。導入時にはカスタマーサクセス部門がトレーニングやサポートをしっかりと行っているため、現場のオペレーションに早期に定着。その結果、介護施設の業務改善を実現できるため長期的な契約が多く、堅実な経営を実現しています。介護・医療現場での人手不足に悩まれている施設も多いため、この課題解決のためにエコナビスタのサービス導入を行う施設も今後増えてくると予測しています。
2. 徹底的な現場視点によるユーザーペインの解決
エコナビスタが提供するサービスは「実用的なソリューション」として、導入先である介護・医療現場から好評です。
これを実現しているのが、徹底的な現場目線でのプロダクト開発です。エンジニアの方々は積極的に現場に足を運んで介護のオペレーションの実態を学び、どのようなリアルタイム制御やチューニングが必要か、肌感を常に磨いています。介護業界にはまだテクノロジーが普及していないと言われており、その業界で本当に必要とされるソリューションを現場に落とし込む地道な努力を惜しまないことは魅力です。
3. 独自の解析アルゴリズムで「見守り」以上の価値を提供
エコナビスタは高齢者の見守りサービスに留まらず、独自の解析アルゴリズムを用いて介護される一人ひとりに適した医療・介護ケアを実現するテクノロジーを持っています。
具体的には、自社で所有する高齢者の睡眠データやバイタルデータを活用することで、認知症や高齢者に多い疾患(熱中症、睡眠障害など)の予兆の可視化を実現。これにより体調不良を早期に発見するだけでなく、訪問医師による診察や処方内容・ケアプラン作成時のエビデンスとして使用されるなど、介護に関連する全ての方々のユーザーエクスペリエンス向上に貢献しています。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2022年10月時点のものです。