2024.01.22
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

株式会社ミライロ|「歩くこと」を願った社長が仲間と始めた、バリアをバリューに変えるソリューション

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉さんと、ソニーベンチャーズ株式会社 岡田 康彦の対談インタビューをお届けします。

株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉さん
ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメント マネジャー 岡田 康彦

障害のある方とその家族の未来をデザインする

――まず、株式会社ミライロのミッションを教えてください。

垣内さん:ミライロのミッションは「自らの色を描ける未来、自らの路を歩める未来をデザインする」です。これは実は社名の由来にもなっていて、「未来の色」と「未来の路」を掛けて「ミライロ」としました。

ミライロは2010年に設立した会社で、設立当初は障害のある子ども達のための家庭教育事業を行っていました。私自身、生まれつき骨が弱く折れやすい病気で、幼少期の5分の1以上を病室で過ごしました。学校に通えない分、どうしても周囲から勉強が遅れてしまいます。この経験から、障害のある子ども達の教育を充足させるためには教育の機会を創る必要があると考えたのです。また子ども本人だけでなく、そのご両親も将来を不安に思い悲観的になってしまっているケースが多いです。そんな方々にも前を向いてほしい、未来に向けてそれぞれの色を描き自らの道を歩んでほしいといった切実な想いを込めると共に、ミライロとしてやるべきことを言語化したものが我々のミッションです。

――ミライロは、垣内さんご自身の経験や想いから生まれたのですね。現在はどのような事業を展開していますか?

垣内さん:障害者と事業者の声から生まれたソリューションをメインで展開しています。幅広いサービスがあるのですが、今日は中でも代表的なものを2つご紹介できればと思います。

1つがデジタル障害者手帳「ミライロID」です。障害のある方に向けた、人と企業を繋ぐスマホ用アプリです。従来は紙媒体だった障害者手帳を手軽にスマホで表示でき、障害者割引のチケットや電子クーポンを受け取れたり、障害種別に応じたお役立ち情報が配信されたりします。ミライロIDは、手前味噌ながらとても革新的だったと思っています。
ソニーとの関わりという面では、ミライロIDはタクシー配車アプリ「S.RIDE」(※1)とも連携していて、配車の際、事前に運転手に有効な障害者手帳をミライロIDに登録していることを通知でき、スムーズな乗車が実現したり割引が適用されたりします。

ミライロIDの概要
ミライロIDの概要

もう1つが、「ユニバーサルマナー検定」です。これは障害者に限らず高齢者やベビーカー利用者など、自分とは違う誰かの視点に立ち、行動する人になるための検定です。ミライロでは多様な方々へ向き合うためのマインドとアクションをユニバーサルマナーと呼んでいます。このプログラムでは、例えば某テーマパークの企業に対してオーダーメイドの従業員研修を実施したこともあります。研修内容をどの企業に提供しても学べる内容に一般化したのが「ユニバーサルマナー検定」で、2013年のスタートから現在まで約18万人以上の方に受講いただきました。

岡田:ミライロはソニーグループとの関わりが以前からあり、S.RIDEとミライロIDの連携もそうですし、ユニバーサルマナー検定を受講したりしたこともあります。これらの事業は法改正を控えた昨今では、特に企業からのニーズが高い領域ですよね。

※1 ソニー・ソニーペイメントサービスとタクシー会社5社の合弁企業「S.RIDE株式会社」によるタクシー配車アプリ。
ユニバーサルマナー検定のイメージ
ユニバーサルマナー検定のイメージ

革新的な“アプリ”と、約18万人が受けた“検定”とは?

――「ミライロID」と「ユニバーサルマナー検定」、アプローチは違えどミライロのミッションを体現するサービスですね。まずは「ミライロID」が生まれた経緯や狙いを教えてください!

垣内さん:障害のある方は外出時、常に障害者手帳を持ち歩く必要があります。手帳・カードを提示することで、例えば電車やバス、タクシーなどの公共交通機関、レジャー施設などで割引やサポートが受けられます。しかし大きな課題が1つあります。障害といっても、身体・精神・知的と種類がありそれぞれ手帳が違う上、都道府県や政令市などの自治体でそれぞれ発行されるので、日本国内で280種類を超える手帳・カードが存在しているのです。この課題は障害者のためにも、手帳・カードの確認作業を行う事業者のためにも解決する必要がありました。

加えて、障害者手帳の提示をもっと気軽で明るいアクションに変えたいと思っていました。私自身も4歳で手帳を交付されているわけですが、提示する時はどうしても枕詞が「すみません」になります。「すみません、障害者手帳があります」と。担当の方に手帳を確認いただく手間をかけて申し訳ない気持ちになるからです。そうではなくて「電子マネーで」「バーコード決済でお願いします」くらいの気軽な感覚で、障害者手帳を使える世の中に出来ないか?と考えました。

これらの大きく2つの背景からミライロIDの構想を始めましたが、実現にあたって「障害者手帳は現物でなければならない」という慣習がハードルになりました。そこで私は政府の方々に直接お会いし交渉を重ね、課題を解消したのちに、ミライロIDをリリースしました。

岡田:ミライロIDは他社には実現できないソリューションだと思っています。サービスの特性はもちろん、国の各省庁をはじめ会社・団体という多くのステークホルダーを、時間をかけて協議を重ね仲間にしていった、その熱量に私も惹かれて投資を決めさせていただきました。

垣内さん:そう言っていただけて本当に嬉しいです!マネタイズの面でも、障害者をターゲットにした製品・サービスのプロモーションの場としてミライロIDを活用いただいたり、外部の機関と連携したシステム開発を行ったりなど、幅が広がりつつあります。

インタビュー風景

――次に、「ユニバーサルマナー検定」についても詳しく教えてください!

垣内さん:ユニバーサルマナー検定は、企業や団体の従業員向けの「教育研修」から始まりました。例えばとあるレジャー施設から、障害のある方からクレームが多いことに関してご相談いただいたことがあります。その時に「すごく不幸なことが起きているな」と思いました。障害のある方は施設に期待を寄せるがために声が大きくなるし、従業員も何とかしたいと思っているのに施設の構造などハード面を変えることはなかなか難しい状況でした。その時に私が施設の方々に伝えたのは「“ハード”は変えられなくても“ハート”は変えられる」ということでした。このコンセプトのもと、障害がある当事者が講師となり、従業員に対して教育研修を行いました。これによって、障害のある方への接し方がわからなかった従業員のマインドが変わり、スキルも身に付き、施設の方からもご満足いただけました。

教育研修に加えて生まれたのが「ユニバーサルマナー検定」です。教育研修がメディアなどで取り上げられ、個人の方からも受けたいという声が集まり、民間資格という形をスタートしました。現在は1級から3級まであり、高校・大学の授業として取り入れられたり、障害のある方と接することがある企業や団体に活用いただいたりしています。

岡田:この取り組みは日々お客様と接する交通機関、小売業、運送会社、保険や銀行などはもちろんのこと、ソニーのように新たなプロダクトをユーザーに提供する企業にも必要とされています。アクセシビリティの観点であらゆる人が使用できるデザインになっているのかを常にテストする必要があり、その際に研修や検定の知識が役立つのです。ミライロが展開するサービスは障害のある方々の声を拾い社会に反映できる仕組みであり、ものづくり大国日本において価値の高いものだと思っています。

――今の話に関連して、岡田さんはミライロのどこに注目していますか?

岡田:2023年7月にSIFからミライロに出資させていただいており、先ほど紹介した点も含めて、注目しているポイントは3点あります。

1. 垣内さんの圧倒的な当事者意識 2. 障害に関連する多面的・豊富なソリュ ー ション 3. ミライロの情報発信カ

1つ目は「垣内さんの圧倒的な当事者意識」。垣内さんはご自身の幼少期からの経験をベースにミライロを創業しています。ミライロが展開するサービスには当事者目線が活かされており、それがミライロの成長を支える1つのポイントになっていると思っています。

2つ目は「障害に関連する多面的・豊富なソリューション」。垣内さんが先ほど紹介したミライロID、ユニバーサルマナー検定に加えて、障害者専門の調査サービス「ミライロ・リサーチ」や施設のユニバーサルデザイン監修を行う「ミライロ・アーキテクチャー」などもミライロの代表的な事業です。障害のある方に留まらず、多様な方の生活しやすい日常を叶える豊富なソリューションが揃っています。

最後は「ミライロの情報発信力」。垣内さんはご自身で書籍を出版したりイベントに登壇したりと情報発信力が高く、業界でも知名度が高い方です。発信力は事業を展開し拡大していく上で必要なポイントで、既にミライロは高いレベルでそれを実現しています。

副社長との出会いが人生を変えた

――ミライロを創業したきっかけを教えてください!

垣内さん:最初のきっかけは17歳、病室のベッドの上でした。当時は「歩きたい」「走りたい」「普通になりたい」という願いを叶えるべく、入院して治療やリハビリに励んでいました。しかし結局、願いは叶いませんでした。目標を失った私は長い間無気力の状態になりました。しかしそんな中、歩けなくても車いすでも出来ることがあるんじゃないか?と考え抜いた先にあったのが、自ら起業をして会社を経営するという道でした。

病室で無我夢中で勉強をし、立命館大学の経営学部の中でアントレプレナーシップを学べるコースに進学しました。実はミライロを共に創業した副社長の民野とは大学の授業で知り合い、民野との出会いは私のその後の人生に大きな影響を与えました。「民野と何か事業を創りたい」という想いこそが起業のきっかけであり、彼がいなかったらミライロは生まれていません。

インタビュー風景

――副社長の民野さんとの出会いが大きなきっかけとなったのですね。どのような方なのでしょうか?

垣内さん:大学時代から、彼は他の人と違いました。例えば学食では、トレーを持って好きなものを取って会計に行くという一連の動作があります。周りの大多数の友人は私のトレーを持って運んでくれましたが、民野だけは違いました。そそくさと自分のトレーだけを持ち会計まで済ませた後、食べ終えると「じゃんけんで負けた方が2人分片付けよう」と言うのです。民野は私のことをちゃんと見て、出来ること出来ないことをわかってくれているんだな、フラットな視点や姿勢を持っている人だな、と強く実感しました。だからこそ、この人となら良いバランス感覚で事業を創れるんじゃないか、と思ったのです。

創業後しばらくして、私は病気の影響で2013年に心肺停止になり入院し、2016年にも長期入院をしたのですが、私が入院すると彼は一切仕事の連絡をしてきませんでした。それは彼なりの「治療に集中しろ」というメッセージだと捉えています。当然その期間は民野の負担が重くなってしまったわけですが、2016~2017年は結果的に増収増益だったんですよね、彼をはじめとする社員が踏ん張ってくれたことに心から感謝すると共に、私もしっかり報いていかなければならないと思っています。

岡田:私も何度も民野さんと会話させていただきましたが、垣内さんと民野さんは互いに全幅の信頼を置いてらっしゃるように見えます。おふたりの事業構想や考えは常に一致していて、完全に同じ方向を向いていますよね。

ミライロは会社の規模に対しては比較的多くの事業を手掛けています。しかし2人で役割分担し互いの領域を守りながら経営されているからこそこのスタイルを実現できていて、2人のさすがの手腕だと思っています。共同経営はリスクだと言われることもありますが、ミライロの場合はむしろ2人だからこそ高め合って会社を成長させられると確信しています。

垣内さん:岡田さんにこの点を評価いただけるのは本当に嬉しいです。私は攻めの姿勢で、民野は冷静な守りの姿勢で、という役割分担ではありつつも、私に何かあった時は彼に私の役割も担ってもらわなければなりません。だからこそお互いのバックアップ体制も常に意識していますし、こんなに良いパートナーに恵まれたことが、人生の中での一番の幸運だったと心から思っています。

株式会社ミライロ 副社長 民野さんの地元にある鳥取砂丘にて(左:民野さん、右:垣内さん)
株式会社ミライロ 副社長 民野さんの地元にある鳥取砂丘にて(左:民野さん、右:垣内さん)

目指すのは、バリアをバリューに変える社会

――会社を創業してからこれまで一番苦労したことは?

垣内さん:会社を成長させることは、イコールお客様を獲得することだと思っています。一番苦労したのは、創業直後の頃に行った飛び込み営業ですね。

大学などの教育機関にも、ホテルの結婚式場にも、あらゆる場所に飛び込みで営業をして駆けずり回りました。当時のメンバー総出で自転車を借りて営業先を回って、そんな日々を4年程続けました。門前払いされずとも「ユニバーサルマナー、バリアフリーは大切だよね、必要だよね」と言われて話が終わってしまうことが多かったですが、その中でも対価を払ってくださる企業や団体が1件1件と増えていきました。その実績をもとにまた営業をして、1社、10社、そして今の1000社以上への導入実績に繋がっています。一番辛かった日々ですが、あの日々が無ければ今のミライロはありません。

――最後に、ミライロの今後の展望は?またSIF岡田さんの、ミライロに対する期待も教えてください!

垣内さん:大義としてはミライロの企業理念でもある「バリアバリュー」、すなわちバリア(障害)をバリュー(価値)に変えることを、多くの障害のある方に実感いただける社会をつくることを目指しています。

私は17歳の時に治療やリハビリが上手くいかずに無気力状態に陥りました。私の親族にも同じ病気の方が何人かいて、中には自ら命を絶ってしまった方もいました。しかし、将来もし自分に子どもが出来た時には「死にたい」とは思ってほしくない。歩けないから、障害があるから辛いではなく、障害があるからこそ、車いすだからこそ逆にこれが出来たんだ、大切な人に出会えたんだと、胸を張って前を向けるような社会をつくりたいです。

まずは日本をメインに事業を展開していますが、グローバル市場に進出できた暁には、世界に約18.5億人いると言われる障害者とそのご家族に、少しでも明るく生きてもらうために、その一端をミライロが担えたらいいと願っています。

岡田:個人的に、実は垣内さんは同世代で親近感を覚えていますし、熱量や行動力にはいつも心を動かされています。

先ほどご紹介した通りソニーグループにもミライロのサービスが導入されたり、連携している事例は多いです。また、ソニーグループは障害者の活躍推進に取り組む国際イニシアティブ「The Valuable 500」に加盟しており、署名企業の中でも、次の取り組みをリードする13社に選ばれています(※2)。ミライロとソニーの協業によって、この取り組みをさらに加速していくことも可能だと思っています。

未来の社会に向けてダイバーシティ&インクルージョン(※3)を、いわゆる“題目”から“現実的なもの”にする必要があると思っており、ミライロにはそれが出来ると確信しています!今取り組んでいる事業を「社会全体の当たり前」にするための世界をつくっていただきたいですし、SIFとしてもそのサポートをしていきたいです。

※2 引用元:https://www.sony.com/ja/SonyInfo/diversity/report/05_39.html
※3 多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方
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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2024年1月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により620件以上の支援を23業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年1月末時点)

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