Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
株式会社メトセラ 代表取締役 Co-Founder, Co-CEO 野上 健一さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
メトセラは“Revolutionizing the Way We Treat Heart Failure―心不全治療に、革命を起こす” をミッションに、既存の治療では十分な効果が得られない疾患に対して、新たな細胞治療を提供することを目指しています。線維芽細胞に関する優れた基礎研究力を武器に、細胞治療の実用化に取り組んでいます。
――メトセラではどういった事業を展開していますか?
メトセラは心疾患に対して患者さん本人の細胞を用いた自家移植による再生医療の実現を目指す創薬ベンチャーです。心臓線維芽細胞(VCF:VCAM1-positive Cardiac Fibroblast)(※1)と心臓内幹細胞(CSC:Cardiac Stem Cell)(※2)を用い、細胞治療の研究・開発を行っています。
当社では、臨床試験(※3)段階にある「MTC001」と「JRM-001」の2つのパイプラインの開発に取り組んでいます。
「MTC001」はVCFと投与用カテーテルを組み合わせた心不全治療向けの製品で、最小限の身体的負担で患者さんに細胞を投与できることを期待しています。現在、筑波大学にて第1相医師主導治験を実施しています。
もう1つのパイプラインである「JRM-001」は2022年4月にメトセラの傘下となった、株式会社日本再生医療にて開発を進めていた製品です。これは単心室症と呼ばれる小児の先天性希少疾患に対してCSCを投与する治療法で、岡山大学が実施した第1相、第2相臨床研究において、その安全性と有効性を示唆する研究成果が報告されています。現在はメトセラにて検証的試験(第3相臨床試験)を実施しています。
再生医療等製品の開発では、移植する細胞が移植先の臓器から拒絶されないことが重要です。「MTC001」と「JRM-001」は患者さん本人の心臓の細胞を使用するため免疫反応の影響がなく、免疫抑制剤を使用しないため副作用の懸念が低いことが期待されます。また、一般に心臓は免疫応答性が高い臓器と言われているため自家移植の親和性が高いと考えられ、長期的な治療効果が期待できます。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
メトセラの始まりは、2014年に私が外資系投資銀行に勤務していた頃、共通の友人を通じて共同創業者の岩宮 貴紘(ファウンディングサイエンティスト、Co-CEO)と出会い、別のスタートアップ企業の起業に共同で携わったことがきっかけです。その後、岩宮の研究テーマの事業化を目指すプロジェクトとしてスピンアウトしました。当初はマウス細胞による試験データをもとに、特許の出願や助成金の検討、投資家候補との協議など、技術シーズの見極めと事業化の準備を進めていました。その後2年以上の準備期間を経て2016年3月にメトセラを設立しました。
再生医療等製品は作用機序解明の難易度が高く、岩宮の研究チームが社内にあることが、継続的に創薬シーズを生み出し続ける当社の事業モデルの根幹となりました。また、臨床医や専門家との議論を繰り返し行い事業計画の合理性を高めることにも注力しています。
――今後の期待や展望は?
メトセラは、臨床開発ステージにある心不全患者さん向けの「MTC001」と小児先天性心疾患向けの「JRM-001」の開発を進め、いち早く、安価に患者さんへ製品を届けたいと考えています。医薬品の開発にはいくつもの乗り越えるべきハードルがありますが、細胞を理解し、寄り添った開発に挑戦し続けることによって、これまでの治療法では十分な治療効果を得ることが難しかった患者さんに新たな治療手段を提供すると共に、医療経済や社会保障負担の軽減という観点でも役割を果たすことを目指しています。
SIFは株式会社メトセラに対し2018年8月、2019年12月、2022年7月に出資を行っています。メトセラへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 鈴木 大祐より、注目ポイントをご紹介します。
1.日本人に多い死因「心疾患」に対する新たなアプローチ
日本人の3大死因の1つ(※4)である心疾患に対して、メトセラは「心臓線維芽細胞」を使うという全く新しいアプローチで治験を進めています。本来、心臓線維芽細胞は心臓の線維化を進めてしまう悪い細胞と思われていましたが、メトセラはその中に特定のたんぱくを発現するVCFと呼ばれる細胞があることを発見しました。これに関連する特許を取得し現在医師主導治験を実施しており、今後の展開にも注目しています。
2.自社IPを持つ純国産医療技術
メトセラは、投与細胞に関する幅広い要素技術を自社のIP(知的財産)で構築しています。メトセラが持つ技術は純国産技術であり、メトセラの取り組みが成功した際には、当社の価値には大きな期待が持てます。また現在、メトセラは株主である日本ライフライン株式会社(JLL)とも連携し、治療全体のバリューチェーンを設計しており、今後は製薬企業とのアライアンスにも注目しています。
3.サイエンスに長け、着実に進む作用機序解析・論文化
再生医療等製品は作用機序の解明が難しいのですが、Co-CEOの岩宮さんチームはその解明に日々全力を注いでいます。この研究が、継続的に創薬シーズを生み出す原動力になります。また、科学的解明が進むことは、臨床医や製薬企業との議論や交渉においても、当社のポジショニングを強化することに繋がります。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!