2024.06.25
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

株式会社CROSS SYNC(クロスシンク)|より多くの命を救うため、AI技術と医療データの活用で医療現場を変革

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、株式会社CROSS SYNC(クロスシンク) 代表取締役 医師の髙木 俊介さんと、ソニーベンチャーズ株式会社 田附 千絵子の対談インタビューをお届けします。

株式会社 CROSS SYNC 代表取締役 医師 髙木 俊介さん
ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメントダイレクター 田附 千絵子

テクノロジーの力でどこでも最良の集中治療を

――まず、株式会社CROSS SYNCのミッションを教えてください。

髙木さん:医療の今を変えることを目指しています。ICU Anywhereというビジョンを掲げていて、「患者の急変や死亡リスクを減らしたい」という想いがあります。ICU(集中治療室)では、集中治療専門医が重症患者さんをモニタリングしながら治療にあたります。専門医の不足などの課題があり、予期せぬ急変などが起き、本来なら助かったはずの患者さんが亡くなってしまうことがあります。「救えるはずの命を救うことのできない」現代の医療現場を変えなければならない。AIやテクノロジーを活用して、医療現場を変革していくというミッションを持っています。

株式会社CROSS SYNCの会社ロゴ
株式会社CROSS SYNCの会社ロゴ

――具体的に、株式会社CROSS SYNCの事業概要を教えてください。

髙木さん:患者管理の質と情報共有を加速するソリューションである“生体看視アプリケーション iBSEN DX(イプセン ディーエックス)”という医療機器プログラムを開発、販売をしています。iBSEN DXは、ICUや急性期病床(※1)で必要とされる患者さんのバイタルデータ、つまり血圧や心拍数、呼吸数などのモニター情報を集めて、そのデータを元に、患者さんの状態変化を監視し、患者ケアを支援する指標を提供します。スマートフォンアプリを使って医療従事者間で情報を共有し、何かあったら早く気づけるような仕組み、「“気づき” を与え、“情報共有” を支援する」ソリューションです。

また、ICUや急性期病床で取得している患者さんのバイタルデータの解析と患者さんの映像データを用いた画像解析により患者さんの急変を予測するアルゴリズムを研究開発しており、将来的に製品への搭載を目指しています。

※1病気を発症して間もない時期など患者の状態が急速に悪化する時期(急性期)に必要な医療を提供するための病床

――iBSEN DXのお客様は病院などの医療機関、B2Bが中心となるのでしょうか?

髙木さん:はい、病院で製品を購入いただき、医療現場で使っていただくのが第一歩です。その先には介護施設やホスピスなどにも広げ、患者さんやその家族向けのサービスなど、将来的にはB2Cへの展開も考えています。

――事業として特にユニークなのはどのような点でしょうか?

髙木さん:CROSS SYNCは私が所属している横浜市立大学発のベンチャーで、横浜市立大学付属病院で試験的に使用しながら開発を進めてきました。初期のプログラムには課題やニーズとのギャップがありましたが、アップデートを早期に行える環境があることで、改善し、製品化することができました。臨床現場と医療従事者の経験を合わせた開発環境・体制があることが大学発ベンチャーならではの特長です。

iBSEN DX(スマートフォンとPCアプリ)
iBSEN DX(左:スマートフォンとPCアプリ、右:スマートフォン画面)

iBSEN DX(スマートフォン画面)

 

集中治療医としての原点

――起業することになったきっかけを教えてください。

髙木さん:20年くらい前、研修医時代に急変した患者さんを救えなかった経験がきっかけです。すぐに命にかかわるような病気の手術ではなく、手術自体は無事に終わったのですが、後に急変しお亡くなりになりました。医療現場では、患者さんの表情や体動を観察しながら疼痛・精神管理を臨床的判断の補助として行いますが、亡くなられた患者さんは手術前にすごく不安がって泣いておられました。周りは誰も気づいていなかったけれど、本人には何か違和感があったのかもしれない。私は元々は整形外科医を目指していたのですが、その経験をきっかけに、救急、集中治療に進路を変更しました。患者さんの急変を気づけるような仕組みを作りたいという想いから、事業化を目指しました。

株式会社 CROSS SYNC 代表取締役 医師 髙木 俊介さん ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメントマネジャー 田附 千絵子

――iBSEN DXは患者情報(バイタルデータ)に加えて、独自の画像解析による身体観察所見重症度評価を開発中とのことですが、どのように開発しているのか教えてください。

髙木さん:重症度評価のアルゴリズムを作るため、まず看護師が患者さんの意識状態をどうやって評価しているかヒアリングし、その内容を解析しロジックツリーを作りました。その中から動画像解析で代替、自動化できるという部分を抽出してAI化を図りました。

患者さんの意識状態の評価の仕方を可視化すると、例えば寝ているという判断も看護師によっては目をつぶっているだけで判断する人もいれば、血圧、心拍は落ち着いているとか、体が動いていないとかを見る人もいます。その中から必要な項目を選び、アルゴリズムにして機械学習させるということをしています。実装では、カメラで動画を撮影し動画解析するのと、バイタルデータを合わせたものがAI用の教師データ(※2)となります。

※2 機械学習アルゴリズムが学習するために必要なデータ

――SIFは、CROSS SYNCのどこに注目していますか。

田附: 医療現場の負担が増加している中、重症患者さんを24時間365日で診ているICUの業務負担は特に大きな課題になっています。専門医が全国的に不足しており、さらに2024年4月から始まった医師の働き方改革によって、人材不足がさらに深刻化しています。その状況を、テクノロジーで解決するソリューションを開発している企業であるため、投資することにしました。出資にあたり特に注目したポイントはこの3つです。

1. 現場のペイン、最新の研究に対する深い理解 2. 強力なマネジメントチーム 3. グローバル展開のポテンシャル

1. 現場のペイン、最新の研究に対する深い理解

創業者で代表取締役の髙木先生は現役のICU専門医であり、横浜市立大学附属病院集中治療部の准教授でもあります。現場でどのような悩みがあるのか、どのようなプロダクトだと現場が使いやすいか、世界で実践されている集中治療のトレンドはどのようなものか、などを理解した上で、製品開発に反映することができるのが魅力です。

2. 強力なマネジメントチーム

もう1名の代表取締役CEOの中西氏は、日立でMRIを始めとした医療機器やソリューション開発に長く携わり、本部長を務めていた方であり、製品を上市し、販売する力に対しての信頼感があります。

3. グローバル展開のポテンシャル

日本では競合がいない状況で、海外でもCROSS SYNCのような製品を導入した病院はごくわずかであり、日本の病院と同じペインを抱えていることから、アジアを中心に世界展開することに期待をしています。

 

多様な視点を活かし、今よりもっと良い未来を提供する

――起業したきっかけは急変した患者さんを救えなかった経験とのことでしたが、起業までの経緯を教えてください。

髙木さん:起業前から救急医として患者さんの重症度を自動で判定できないかと考え、いくつかの企業と共同研究をしていました。しかし、私が単純に医療者でしかなかったので、それぞれの立場や目的の違いをすり合わせることが出来ず、共同研究は上手くいきませんでした。その後、日本医療研究開発機構(AMED)の研究費をもらって研究を続けていたのですが、AMEDは事業化がゴールとなっており、そのためのメンタリングで事業化を意識するようになりました。そうした経緯を経て、2019年10月に自分たちで会社を起こしました。

――会社を創業して苦労したことは?

髙木さん:1年目は事業としては何も進みませんでした。総合診療科の同期の医師と、後輩研修医など5人で立ち上げましたが、研究費を取りに行くか、資金調達をするか悩みながら、横浜市のアクセラレーションプログラム(YOXO)の支援を受けたり、ビジネスピッチに出たりしました。残念ながらビジネスピッチに出ても構想段階で前に進まなかったのですが、日本政策投資銀行から資金調達の機会を得て、事業計画やモノづくりが進むようになりました。

経営面でいうと、2021年1月の資金調達後に、外部から数人のスタッフに入ってもらうことになりました。医療者は利益より必要性から始めるという発想が強いため、医療者とビジネスマンの考え方は大きく異なり、約1年半は社内での方針をめぐってもめ続け、なかなか進展がありませんでした。私自身が医療者寄りの考え方で、両者の言語の違いをうまく調整できずにいました。そこでMBAを取得してビジネスの知識を学んだ結果、少しずつ会話ができるようになりました。

医療現場の課題解決に向けて

――iBSEN DXの導入側のメリットについて教えてください。患者さん、医療従事者のみなさん、病院にとってどういう利点があるのでしょうか?

髙木さん:2024年6月に遠隔集中治療(遠隔ICU)は保険収載(※3)となり、保険診療で点数化がされました。遠隔ICUというのは、集中治療の専門医がいる支援センターから遠隔で30~40人の患者さんをモニタリングして、集中治療を支援するというものです。遠隔ICUを提供するためには、ビデオ⾳声通話やコンピュータシステムなどを⽤いた診療⽀援システムが必要になります。

iBSEN DXを導入することで、患者さんの見守り、重症度や介入の判断に必要な対象患者さん情報を参照してシステム的に注意喚起が得られるようになりますし、保険点数化されているので適正な診療報酬で提供されます。

田附:モニタリング対象の患者さんというのは、大体何院ぐらいの病院にまたがるのですか?

髙木さん:大体4病院ぐらいです。ICUは6~8床ぐらいなので、将来的に8施設、60床ぐらいまで遠隔ICUで支援できるようにすることを目指しています。

※3国民皆保険の適用範囲に含まれる医療のことで、有効性や安全性が確認されたものが基本

――iBSEN DXを導入してみて、新たな気づきはありますか?

髙木さん:医師の不在時に患者さんの状態に変化があると、電話で院外にいる医師に患者さんの状態を口頭で説明する必要があります。患者さんの表情や体動、モニターの波形が見られればすぐ分かることも、患者さんの状況を電話だけで伝えるのは本当に難しく、伝える方も伝えられた情報だけで判断する方もすごくストレスになります。電話をかけるのが夜中の1時とか、夜明け前になると、双方にさらにストレスになります。それがiBSEN DXのアプリを使うと、お互いが同じ情報を確認できるので、想像以上にコミュニケーションが円滑になりました。院外にいる医師は夜中に電話を受けずに済むようになり、ICUの現場では夜中に電話するというプレッシャーがなくなり、現場のコミュニケーションが良くなったことで、ちょっとしたことを相談しやすくなったりと、思っていなかった効果がありました。

多様な視点を活かし、今よりもっと良い未来を提供する

――ソニーやSIFに期待することを教えてください。

髙木さん:ファンドという意味では、やはり資金調達は期待しています。また、我々は画像を使って解析していますが、今はまだ単純な解析をしているだけなので、発展させて例えばVRやARなど、将来的に新しい見せ方ができると面白いかなと思っています。ソニーはゲームなど多様な分野で事業を展開されているので、医療現場にいない人たちからのアイディア、新しい見せ方など、観点が違うところから面白いものが生まれると思うので、そういうところを期待しています。

株式会社 CROSS SYNC 代表取締役 医師 髙木 俊介さん ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメントマネジャー 田附 千絵子

――今後の目標について教えてください。

髙木さん:まずは現在の製品の改良に取り組んでいきたいと思っています。私たちの製品はまだ発展途上にあるので、機能強化や使いやすさの改善をして、顧客のニーズに応えていきたいです。

例えば、画像認識の精度を上げたり、解析アルゴリズムを改良したり、より正確な判断ができるようにしたいです。また、アプリのUIを洗練させることで、医療従事者がストレスなく使えるようなシンプルな操作性を目指します。その上で、新しい製品としては、在宅医療向けのウェアラブル端末の開発を視野に入れています。病院内だけでなく、在宅での見守りを実現できるような製品を提供できればと考えています。

さらに、海外展開も視野に入れています。アジアを中心に製品のグローバル展開を図っていきたいです。日本国内だけでなく、世界中の医療現場で活用されることを目指します。

以上のような方向性で、引き続き製品開発と改良に注力していきたいと考えています。

――読者へのメッセージをお願いします。

髙木さん:読者のみなさんは医療従事者というよりは、患者さん側、もしくはその家族側として医療現場に触れたことがある人たちだと思います。そういう側からの目線で病院での体験から、医療現場にもっとこうして欲しい、こうなったら良いのにというアイディアがあったらぜひ教えてほしいです。医療現場側だけの目線は、どうしても医療従事者の立場になってしまいます。例えば面会でいえば、わざわざ病院に来て病院の個室からウェブ面会するということがあったりしますが、今はVRでリハビリなども進んでいますし、他の事業で活用されているもの、技術の進化を取り入れていく必要があると思っています。試してみたいものがあれば、ぜひ相談してほしいなと思います。

 

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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2024年5月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により710件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年6月末時点)

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