2024.04.25
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

ラピュタロボティクス株式会社|ロボット技術の発展と社会への応用で、人々の生活を豊かに

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、ラピュタロボティクス株式会社クリシナムルティ・アルドチェルワンCFO(アルル)さんと、ソニーベンチャーズ株式会社 北川 純と原 孟史の対談インタビューをお届けします。

ラピュタロボティクス株式会社 代表取締役CFO クリシナムルティ・アルドチェルワン さん
ソニーベンチャーズ株式会社 マネージングダイレクタージャパン 北川 純
ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメント マネジャー 原 孟史

ロボットを連携させることで生産性の向上を目指す

――まず、ラピュタロボティクス株式会社のミッションを教えてください。

アルルさん:英語で「Empowering Life with Connected Machines」と呼んでいるのですが、世の中にあるロボットと、ロボット以外の機械やセンサーなど全部を結び付け、お互いに協調させることによって、世の中の人々の生活をもっと豊かにしていきましょう、というのが我々のミッションになっています。

――マシンとマシンを協働させるのですね。具体的に、ラピュタロボティクス株式会社の事業概要を教えてください。

アルルさん: ラピュタロボティクスは、人工知能(AI)を活用したクラウドロボティクスプラットフォームである「rapyuta.io」と、プラットフォームを活用したソリューションとしてのロボットを開発しています。ラピュタロボティクスのプラットフォームは、一つのロボットを制御して動かすのではなく、群制御技術で複数台のロボットを協調制御させられます。例えば50台、100台、1000台規模のロボットを繋ごうとすると、それらをどう協調制御させるかということがポイントになりますが、ラピュタロボティクスのプラットフォームは、複数のロボットを制御できる技術が強みになっています。また、このプラットフォームを活用したソリューション提供も差異化のポイントになっています。

――群制御技術が強みということですが、他社製のロボットでも制御可能ということでしょうか?

アルルさん:はい、そこがポイントです。使用している群制御は、もともとヨーロッパで、ロボットのサッカーゲームをやるために作られたアルゴリズムです。例えば数台のロボットのチームが対戦するとして、相手の動きを見ながら、ロボットをどう動かせば、一番ゴールを達成できる可能性が高いかを考える技術です。ソリューションを固定しないでプラットフォームを作っているので、自社のロボットだけでなく、他社のロボットでも問題ありません。ロボットの様々なタイプにも対応できるというのもポイントで、AMR(自律走行搬送ロボット)であろうが、フォークリフトであろうが、ロボットアームであろうが、関係なく対応できるというのが特長になっています。ロボット工学における標準インターフェースであるROS(Robot Operating System)に対応しているので、第三者のロボットを制御できるのです。

――共通のインターフェースとして使われているROSに準拠しているから、様々なロボットが繋げられるのですね。

アルルさん:ROS準拠で通信が可能になります。お互いに話す言葉が一緒になるので、例えば他社のロボットでもROSのインターフェースを採用していれば、通信ができて、指令が出せたりと、ロボット同士を簡単にインテグレーションできるようになります。

自動化で物流現場を改善するロボットの可能性とは?

――開発されたロボットについて教えてください。

アルルさん:群制御をどこで一番活用できるか、いろいろ探索した結果、人がたくさんいて、協調して仕事をしている場所が我々の価値を提供できると考えました。一つは工場、もう一つは物流現場です。ただ工場の場合はかなり自動化が進んでいるので、なかなか入りづらいという状況でした。そこで物流現場を選び、物流倉庫に向けて我々のプラットフォームでどういったソリューションを提供できるのかを考えました。

物流現場には大きく二つのタイプの作業があり、一つは1メートル四方の板である荷物を載せるパレット(荷役台)にフォークリフトを差し込んで移動や荷役を行う作業と、もう一つが該当する商品を出荷最小単位でピッキングする作業です。パレットの上の段ボールなどに箱詰めされた状態から取り出し、最小単位となった個々の商品を取り出すため非常に込み入った作業になります。パレット単位のピッキングをパレットピッキング、ケース単位のピッキングをケースピッキングと言います。オペレーションの規模感でいうと、全体の3割ぐらいがパレットピッキング、残りの7割の作業がピースピッキングでの作業となります。現在主力の商品になっているピッキングAMR「ラピュタPA-AMR」は2018年から開発をスタートし、2019年に複数の大手物流会社と一緒に実証実験を行い、2020年に製品化しました。

――ラピュタPA-AMRはどんな特長があるのか教えてください。

アルルさん:この製品の特長を簡単に説明すると、ピッキングにかかる工数・時間を削減できるということです。個々の商品を取り出す、ピースピッキングというオーダーが入ってくると、そのオーダーに応じて人が台車を押して倉庫をぐるぐる回って、適切なものをピッキングして持ってくるオペレーションになっていますが、一つのものをピッキングするために平均16秒くらいの時間がかかり、ピッキング作業場所に移動するために倉庫内を人が歩く時間は56秒くらいになります。ラピュタPA-AMRを導入するとだいたい半分くらいに削減できます。

ロボットが人と一緒に歩き回ることによって、人が今まで歩いていた時間を大幅に削減することができ、ピッキングの生産性を2倍まで上げられます。導入するための一番のポイントは、倉庫の棚などはそのままに、ネットワークの導入などインフラ整備を行えば倉庫内は何も変えずに、すぐ導入できることです。稼働現場を止めずに導入が可能で、大きな設備投資も必要ないというのが大きなメリットです。

――お客様からの反応はいかがですか?

アルルさん:おかげさまでピッキングアシストロボットの市場調査(※1)でトップシェアを獲得できました。国内のマーケットにおいてはこの製品で約7割のシェアを獲得していて、昨年からアメリカにも進出し、大手のお客様を獲得し導入を進めている状況です。

※1デロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社「サービスロボットソリューション市場展望 2023年度版」

――ラピュタPA-AMR以外の2つの製品についても教えてください。

アルルさん:次に開発したのが、市場の3割を占めるパレットピッキング向けの自動フォークリフト「ラピュタAFL」です。パレットピッキングにはフォークリフトを使用しますが、フォークリフトの運転者の採用も非常に困難になっていて、高所作業による墜落・転落、不安定な場所での転倒、挟まれ・巻き込まれ事故など事故が多いのが課題です。現場を改善したいという思いもあって、自動フォークリフトを、当社のクラウドロボティクスプラットフォームを活用して開発し、昨年の展示会で発表させていただいて、お客様から好評を得ています。

今までバレットピッキングではフォークリフトのオペレーターが1人必要だったのが、ラピュタAFLの導入によって置き換えられるようになります。人ほど速くはできませんが、人の6~7割程度の生産性を発揮できるようになっています。

3つ目の製品は、我々の最も革新的な自動走行システムである、自動倉庫「ラピュタASRS」です。物流現場向けに我々のプラットフォームとAMRで培った技術を使って開発しました。従来からある自動走行システムに対し、我々は多層式の保管システムを開発し、積載能力を高めて倉庫に荷物を保管して、AMRで人のところまで運ぶというコンセプトです。これまでになかった全く新しいタイプの自動倉庫になっています。

この自動走行システムは倉庫内でのピッキング作業で人が歩く時間を完全にゼロにします。人はピッキングステーションに立っていれば、ロボットが次々と荷物を運んできます。人はそれを受け取って箱に入れるだけの作業になるので、先ほどの56秒の歩行時間は全てなくなります。16秒のピッキング時間も6秒程度に短縮できます。ロボットが直感的に「ここからピックして、ここに入れて」と教えてくれるので、誰でも簡単に作業できるようになるからです。

これまで歩行とピッキング作業で70秒近くかかっていた時間を6秒程度で済ませられるようになるので、生産性が格段に向上します。保管効率の面でも、我々のシステムは天井までのスペースを活用でき、2.5倍以上の改善が可能です。柔軟なレイアウト設計もできるなど、大幅なコストパフォーマンスとフレキシビリティの向上が実現できます。 お客様からは高い期待を多く寄せていただいており、大きな可能性を秘めた製品といえます。

以上が我々の主力製品です。ソフトウエアプラットフォームをベースに、物流現場の課題解決に資するソリューションを次々と市場に投入しています。

――ラピュタASRSは特に物流現場の改善が期待できる製品というわけですね。

アルルさん:はい、生産性向上の観点ではおよそ10倍程度の効果が期待できます。例えば100人規模の作業が10人ほどで運用できるようになると言えます。保管効率の面では2.5倍ほどの改善が見込めます。

お客様からすると、圧倒的なパフォーマンス改善とコスト改善が、柔軟性を持った形で実現できる革新的なソリューションを手に入れられることになります。これらの製品は国際物流展などで発表させていただき、すでに複数のお客様から受注もいただいているところです。今後もプラットフォームを活用しつつ、物流現場の課題解決につながる新しいソリューションを市場に投入していく方針です。

――SIFのお二人は、ラピュタロボティクスのどこに注目していますか。

北川: SIFが設立された頃、日本で非常にユニークなロボティックス関連のスタートアップがいるということで注目していました。投資実行に至るまでには数年間の助走期間がありましたが、有望なスタートアップと捉えていました。

非常にユニークなバックグラウンドの方々で、CEOのガジャンさんが技術的に非常に素晴らしいバックグラウンドを持っていらっしゃるのが注目点でした。ロボット OS(ROS)をベースとしたテクノロジーを、自律移動のハードウエア、例えばドローンや街上を走るロボットに実装しようという、試みをする日本の会社としては少なかった時期に創業された会社でした。出資にあたり特に注目したポイントはこの3つです。

1. ユニークなバックグラウンド 2. 技術力の高さ 3. グローバル展開のポテンシャル
  1. ユニークなバックグラウンド
    CEOのガジャンさん、共同創設者兼CFOのアルルさんは共にスリランカ出身ですが、ガシャンさんは日本の高専、東京工業大学、そしてスイスのチューリッヒ工科大学で勉強され、アルルさんは東京工業大学、コロンビア大学を卒業後、野村証券でアナリストとして勤務された後に日本で起業されています。会社もバックグランドが多彩でインターナショナルなチームで構成され、優秀な人材が揃っているのが魅力です。
  2. 技術力の高さ
    ガジャンさんは、米アマゾン・ドット・コムが買収したロボットベンチャーの共同創業者でもあり、チューリッヒ工科大学の世界中が注目する研究者、ラファエロ・ダンドレア氏のもとで研究されており、ガジャンさんご自身とラファエルさんの研究所の技術力の高さに対しての信頼感があります。
  3. グローバル展開のポテンシャル
    日本では既にサービスロボットソリューション市場において販売シェアでトップを獲得しており、日本の物流倉庫向けのAMR(自律走行搬送ロボット)で約7割の市場シェアを持っています。複数の自律走行搬送ロボットを協調動作させる群制御技術を強みに、競合に先んじて事業の拡大を図っており、市場規模、成長性も魅力的であり、今後のグローバル展開に期待をしています。
インタビュー風景

日本から物流の未来を明るくする

――アルルさんはスリランカ出身ですが、日本でラピュタロボティクスを創業したきっかけを教えてください。

アルルさん: 当時、日本はホンダのアシモやソニーのアイボなどロボット開発が盛んで、世界的にもロボット大国と言われていました。そうした憧れから日本の文部科学省奨学金を得て日本への留学を選びました。

私は大学でロボット工学を学び、卒業後に同じく奨学金を得て日本に留学したガシャンと再会し、彼がチューリッヒ工科大学に在学中に開発した「Cubli」という自分で立ち上がって角でバランスを取ることができる立方体型のロボットを見て、その高度な制御技術に驚愕しました。その技術を使って社会課題の解決に貢献したいと思い、ガシャンと共に起業を決意しました。

日本での起業を選んだ理由は、日本への想い入れが強かったこと、そして人口減に直面する日本ではロボットのニーズが高いと考えたことが大きいです。インターネットインフラの整備状況も日本の強みでした。

――創業されたのが2014年、今年10年目ですが会社を創業して苦労したことは?

アルルさん:我々はハードとソフトの両面で技術開発が必要なスタートアップです。研究開発に時間と資金がかかるビジネスモデルなので、投資家からの資金調達が非常に重要です。

最も苦労したのは、プラットフォームの事業化そのものに焦点を当て、ドローンの自動制御ソリューションを手掛けましたが、市場ニーズとフィットせず課題があったことです。2018年頃に事業の行方が見えず大変な時期がありましたが、物流現場の課題解決に可能性を見出し、現在の物流用ロボットへ舵を切りました。投資家や周囲のサポートを得て、開発マネジメント体制を立て直し、試行錯誤を重ねてようやく軌道に乗せることができました。起業から10年、試行錯誤を経ながら着実に事業を拡大できていることに感謝しています。

挫折の経験は私にとって非常に勉強になりました。マーケットニーズを見極め、顧客起点の製品開発が成功の鍵だと学びました。技術志向から市場志向への転換が、現在の自社製品の成功につながっています。今でもその経験を活かしながら、事業を発展させています。

先進的なKAIZENでインフラを支える

――海外展開について教えてください。日本と海外で物流現場における課題は違いますか?

アルルさん:海外においても物流現場の自動化はまだまだ初期段階で、20%程度の導入率にとどまっています。海外も同様の課題を抱えているので、大きな可能性があります。

日本と海外との違いですが、日本の物流品質は圧倒的に高い反面、人件費は海外の半分以下と非常に安く抑えられています。このバランスは長期的には維持できないでしょう。物流施設の稼働時間においても、日本は10時間程度で、アメリカは20時間近くと大きな開きがあります。

日本の生産性改善の余地は大きく、我々の自動化ソリューションが2024年問題と言われる物流業界の課題解決に役立つと考えています。トラックの走行時間と倉庫内作業の連携が課題となっていますが、自動化により夜間作業を効率化し、次の日の作業を事前に準備できるようになります。

海外市場では、長時間稼働のメリットもあり、自動化ソリューションの導入がより容易になる可能性があります。日本のものづくり技術と自動化ソリューションを組み合わせ、今後グローバル市場での拡大を目指していきます。

――開発体制についてはどのように考えていますか?

アルルさん:ハードウエア開発は日本で行い、ソフトウエア開発はインドで強化するなど、各国・各地域の強みを活かした開発体制を敷いています。ハードウエア分野では、日本のものづくり力が活かせるパートナー企業との協業が鍵となります。知財戦略においても、特許を取得するなどして技術を守りながら、事業拡大を図っていきたいと考えています。

――ソニーやSIFに期待することを教えてください。

アルルさん:当社は現在、事業のスケールアップ段階です。顧客へのリーチを重要視しているので、ソニーの大規模なネットワークを活用できるとありがたいです。また、ハードウエア製品のグローバル展開、知財戦略のアドバイスも重要だと考えています。

インタビュー風景

――今後の目標について教えてください。

アルルさん:主に物流分野に注力し、事業を拡大していく考えです。現在3つの主力製品を市場に投入していますが、今後も新しいソリューションを市場に投入し、グローバルで物流自動化のリーダーを目指していきたいと思っています。

地域的には、現在は日本とアメリカに注力していますが、次にヨーロッパ市場に参入することを検討しています。人件費の高騰が自動化導入の追い風となるため、これらの地域を中心にグローバル展開を図っていきます。

以上が我々の中長期的なビジョンです。ソフトウエアプラットフォームを核とし、物流分野の課題解決と生産性向上に貢献したいと考えています。

――読者へのメッセージをお願いします。

アルルさん:新規事業の道のりは険しいものがあります。私たちも起業後、試行錯誤を重ねて今日に至っています。その過程で大切にしてきたのは、顧客起点の製品開発、現場主義、スピード感のある行動です。

技術シーズも重要ですが、それ以上に現場が本当に求めている課題解決を考えることが不可欠です。現場に入り込み、顧客との対話を大切にする。小さくスタートし、フィードバックを得ながらスピード感を持って改良を重ねる。この姿勢が成功への近道だと私は信じています。

ロボット開発には、モーター、センサー、基盤、各種機構部品など、多岐にわたる技術とノウハウが求められます。1社で全てを完全内製するのは非効率です。オープンイノベーションの推進が必要不可欠と考えています。ぜひ当社プラットフォームを活用して物流現場の課題解決を検討いただければ幸いです。

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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2024年4月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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