2022.12.12
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

株式会社Kyulux|脱レアメタルの有機ELディスプレイ 発光技術

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。

株式会社Kyuluxとは?

株式会社Kyulux 代表取締役社長 中野 伸之さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。

中野 伸之さんの写真
代表取締役社長 中野 伸之さん

――会社のミッションを教えてください。

Kyuluxは2015年3月に設立された九州大学発のスタートアップ企業です。九州大学から譲渡された発光技術「Hyperfluorescence™」を軸に、有機 EL ディスプレイや照明に用いる次世代発光材料の開発に取り組んでいます。

私たちのミッションは「TADF/Hyperfluorescence™で有機ELの未来を創る」です。このミッションのもと、Kyuluxは世界の人々の豊かな生活の実現に向けて挑戦しています。またHyperfluorescence™を商業化し、世界の材料開発ベンチャーのロールモデルとなることを目指しつつ、アントレプレナー人材の輩出と新たなスタートアップ群の創成支援により、有機光デバイスシステムバレー(九州大学伊都地区)を構築したいと考えています。

※1 TADF(Thermally activated delayed fluorescence)は、一重項と三重項のエネルギー差(⊿Est)が小さくなるように設計されているため三重項から一重項へのアップコンバージョンが可能となり、一重項励起エネルギー状態から遅延蛍光として高効率な発光を実現することができる。
※2 Hyperfluorescence™は、TADF材料と蛍光材料をハイブリットすることで生まれた高効率、高純度な発色を可能にする革新的な発光メカニズム
株式会社Kyuluxの会社ロゴ

――Kyuluxではどういった事業を展開していますか?

Kyuluxのコア技術であるHyperfluorescence™は、レアメタル(希少金属)不要で、コスト競争力に優れ、高効率・高純度の発色、さらには長寿命を実現する究極の技術です。この技術は有機ELの中でも最重要とされる発光に関する技術で、現在の有機ELに置き換わるゲームチェンジャーを目指しています。

また2016年にハーバード大学からAIプラットフォームの独占ライセンスを取得し、その後独自の機能を加えたマテリアルズインフォマティクスシステム「Kyumatic™」もKyuluxの持つ技術の1つです。現在はKyumaticを用いて、有機EL材料の開発を加速しています。有機ELの発光色ごとにステップを踏み、緑色と赤色は2023年、青色は2024年の量産化を狙い事業開発を進めています。

黄色と赤色半分に光るKyuluxのロゴが表示された有機ELディスプレイの写真、黄緑色に光るKyuluxのロゴが表示された有機ELディスプレイの写真、水色と青色半分に光るKyuluxのロゴが表示された有機ELディスプレイの写真
左:KyuluxのHyperfluorescence™技術を使用した赤色発光(右)とTADF(左)の比較
中央:KyuluxのHyperfluorescence™技術を使用した緑色発光(右)とTADF(左)の比較
右:KyuluxのHyperfluorescence™技術を使用した青色発光(右)とTADF(左)の比較
黄色に光るKyuluxのロゴが表示された有機ELディスプレイが二つ並んでいる
Wisechip社が従来使用していた蛍光材料を使用したディスプレイ(右)とHyperfluorescence™を使用したディスプレイ(左)の比較
(従来のディスプレイ(右)はやや暗い黄色だが、Hyperfluorescence™を使用したディスプレイ(左)は明るく鮮やかな黄色)

――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?

2012年に九州大学の安達千波矢教授が学術誌「Nature」で、レアメタル不要で内部量子効率100%を実現することができる画期的な発光技術「TADF」を発表しました。しかし、このTADFは発光スペクトル幅が広く、色純度が低いという欠点があり、ディスプレイ向けの使用には課題がありました。

そこで2013年に、TADFの欠点を克服すべく試行錯誤を重ね、TADFと蛍光材料を組み合わせることでHyperfluorescence™の開発に成功。有機ELの未来を変える技術であると確信し、2015年に安達教授らとHyperfluorescence™の実用化を目指すべく株式会社Kyuluxを設立しました。

その後材料開発を加速させるため、Kyulux独自のマテリアルズインフォマティックスシステム「Kyumatic」の開発を担当する米国子会社を設立しました。量子化学計算、機械学習、分子自動生成及び実験データマネジメントを組み合わせることで、従来の100倍のスピードで材料物性を精度よく予測できるシステムに進化させました。さらに、発光層の材料の組み合せの最適化やデバイス構造最適化にも取り組んでおり、強い開発力を武器にパネルメーカーとの協業による事業化を目指しています。

――今後の期待や展望は?

Kyuluxは創業から7年目を迎え、事業化の実現に向けていよいよ重要な局面に入りました。有機EL用材料業界での業界マップを塗り替えることが私たちの目標であり、現在その目標達成への第一歩を踏み出そうとしています。

今後2年間で、Kyuluxの材料を使用した製品が広く市場に普及し、日常生活の豊かさの向上や顧客を含めたステークホルダーに利益を提供出来るよう、全社員で一致団結した努力を継続していきます。2025年には、Kyuluxが九州大学発ベンチャーとして初めてのメガベンチャーになることを目指しています。

Sony Innovation Fund(SIF)が注目しているポイント

SIFは株式会社Kyuluxに対し2019年5月及び2020年12月に出資を行っています。Kyuluxへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 富高 忠房より、注目ポイントをご紹介します。

ソニーベンチャーズ株式会社 シニアベンチャーキャピタリスト 富高 忠房
注目ポイント 1. レアメタル不要の有機EL発光材料開発 2. 海外のディスプレイメーカーとの順調な協業 3. ディスプレイ分野の経験が豊富な経営陣

1. レアメタル不要の有機EL発光材料開発

レアメタルは需給のひっ迫が問題視されており、脱レアメタルの技術が必要とされています。Kyuluxのコア技術であるHyperfluorescence™はレアメタル不要で、低コストを実現しています。現在はアメリカのメーカーが発光材料市場を独占していると言われていますが、その市場に挑む競争力を持った企業だと考えています。

2. 海外のディスプレイメーカーとの順調な協業

ディスプレイ分野は、スマートフォン、テレビなどを中心に大規模な市場があります。この市場においてKyuluxは、日本だけでなく韓国や中国のディスプレイメーカーとも協業を進めています。

 3. ディスプレイ分野の経験が豊富な経営陣

Kyuluxの経営陣は、ディスプレイ分野でのキャリアと実績を持つ経験豊富なメンバーで構成されています。日本のディスプレイ産業は、他国の産業の発展により厳しい競争環境に置かれていますが、Kyuluxの経営陣はこの産業における日本のプレゼンス向上に大きな影響を与えることを目標に掲げています。

連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

 

※本記事の内容は2022年12月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により620件以上の支援を23業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年1月末時点)

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