2023.10.10
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

みんなのマーケット株式会社|「正直者が馬鹿を見ない」日本最大級のサービス特化型マーケットプレイス

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、みんなのマーケット株式会社 代表取締役 浜野 勇介さんと、ソニーベンチャーズ株式会社 北川 純と安藤 友の対談インタビューをお届けします。

みんなのマーケット株式会社 代表取締役 浜野勇介さん
ソニーベンチャーズ株式会社 シニア インベストメント ダイレクター 北川純
ソニーベンチャーズ株式会社インベストメント マネジャー安藤友

目指すのは「正直者が馬鹿を見ない世界」

――まず、みんなのマーケット株式会社の事業概要を教えてください。

浜野さん:みんなのマーケット株式会社(以下、みんなのマーケット)は「正直者が馬鹿を見ない世界をつくる」をビジョンに掲げ、生活関連のサービスを中心とした日本最大級のインターネット商店街「くらしのマーケット」を運営しています。「くらしのマーケット」は、ハウスクリーニングや家事代行、家電の取り付け、リフォームを始めとする300以上のカテゴリの出張・訪問サービスを口コミや料金で比較して、オンラインで予約することが可能なサービス。2011年にサービスを開始して以降、おかげさまで順調に成長してきています。

くらしのマーケットのアプリ操作イメージ
くらしのマーケットのアプリ操作イメージ

――「正直者が馬鹿を見ない世界をつくる」というビジョンには、どういった想いが込められているのですか?

浜野さん:インターネットを活用しテクノロジーが進化すると、世の中の「不透明さ」が解決されると考えているんです。そうすると人々は“馬鹿を見ることなく”、必要なサービスを購入できます。
例えば飲食店を比較できるグルメサイトが普及する前は、口コミなどを下調べすることも出来ず「入ったお店がぼったくりの居酒屋だった」ということが少なからずあったと思います。私たちはこういった不透明さを解消し、正直者が馬鹿を見ない世界を目指しています。

――実は筆者もくらしのマーケットをユーザーとして使ったことがあり、まさに業界の不透明さを解消してくれる画期的なサービスだと思いました。ビジネスモデルを簡単に教えてください!

浜野さん:くらしのマーケットはいわゆるマーケットプレイスで、下の図のように事業者(出店者)と消費者(ユーザー)を繋ぎます。

サービス概要図
サービス概要図

手数料モデルのビジネスで、事業者側には消費者から支払われる売り上げのうち80%、みんなのマーケット側には20%が支払われています。事業者からサービス掲載の初期費用や掲載料はいただかないので、リスクゼロでくらしのマーケットの利用を開始できるのも1つの特徴ですね。

一方で事業者の出店にあたっては独自の審査を行い、出店後にはセミナーに参加していただいています。これによって、サービスの品質担保を実現しています。

「事業者」と「消費者」、双方を魅了する“ある仕組み”

――くらしのマーケットの競合はどういった層になるのでしょうか?

浜野さん:まず消費者視点で見ると、カテゴリごとに競合があります。例えば引っ越しであれば、皆さんがパッと名前を思いつく大手が何社かありますよね。消費者はそういった大手に頼むか、くらしのマーケットを使って中小企業などに頼むか?の選択になると思います。

安藤:大手が競合の場合、「くらしのマーケット」を使うと安価にサービスを受けられる点が大きなメリットの1つだと思います。一方で「安すぎて大丈夫だろうか」と捉える消費者も中にはいると思うのですが、安心感の出し方など、工夫している点はありますか?

浜野さん:そうですね、「安かろう悪かろう」という言葉があるくらいので、そういった不安を寄せられることもあります。しかし最終的に安心してご利用いただけるポイントは、やはり各サービスに対する口コミがたくさん溜まっていること。また万が一の時の保証制度も用意しています。

インタビュー風景

――事業者の視点では、どういった競合が?

浜野さん:事業者は、大手の下請け会社としてビジネスを展開しているケースが多いです。ただその場合、手数料が多く取られるという話をよく聞くので、くらしのマーケットは十分競争力のあるモデルになっていると思います。

北川:くらしのマーケットに出店する事業者を対象に年に1回開催されている「くらしのマーケットアワード」は毎年盛り上がっていますし、ビジネスのコンセプトにマッチしていて面白いですよね。

浜野さん:ありがとうございます。アワードは毎年盛り上がりますし、私自身も楽しみにしているイベントです!アワードでは、口コミ評価やリピート率などの指標をもとに出店者を表彰しています。
事業者の方々は、普段表彰されたり他人に評価されたりする機会があまり無いと聞きます。アワードを楽しみにしてくださっている方が年々増え、金賞を取ることを目標に毎年頑張っている方も多いです。

安藤:私も前回のアワードの表彰式をライブ配信で見ましたが、受賞された方々は泣いて喜んでらっしゃるんですよね。見ているこっちもウルウルするほどです。事業者それぞれがプロの方々で、全身全霊でサービスを提供されていることが伝わってきますし、素晴らしい世界観の施策だと思っています。

「くらしのマーケットアワード2022 」の様子
くらしのマーケットアワード2022」の様子 

――SIFのお二人は、みんなのマーケットのどこに注目していますか?

北川:浜野さんがおっしゃった内容も含めさまざまな要因から、事業が継続して成長していると考えています。その中でも特に注目するポイントはこの3つでしょうか。

注目ポイント 1.マーケットの大きさと成長性  2.事業者と消費者を繋ぐ「マーケットプレイス」としての実績 3.社員一丸となり行う、ユーザー視点でのPDCA

1つ目の「マーケットの大きさと成長性」。事業者・消費者ともにペインが明確です。事業者には「集客が上手くいかない」という課題、消費者には「良い事業者に辿り着けない」という課題があり、くらしのマーケットはその両方をサポートするモデルです。

生活関連サービスでもまだマーケットの余白はありますし、それ以外でも最近は例えば出張撮影・カメラマンの領域も開拓されました。このように、新たなカテゴリへの参入とそれぞれの成長性という意味でも可能性を感じています。

安藤:ポイントの2つ目は「マーケットプレイスとしての実績」。マーケットプレイスを展開する上でポイントになるのは、事業者と消費者をバランス良く増やしていくこと。それが崩れるとビジネスが成り立たなくなります。くらしのマーケットは2011年のサービス開始から時間をかけて、事業者・消費者の両方を育てて来られた実績と信頼があります。SIFが投資させていただいた2019年の時点で、既にそれらをお持ちでした。このポイントは、後から類似のサービスが出てきても他社が真似しきれない、確かな基盤でもあります。

北川:3つ目は「ユーザー視点でのPDCA」。これは投資する前のデューデリジェンスの際から注目し、今も常々感じるポイントです。みんなのマーケットには専門性が高い上に誠実にサービスに向き合う、職人のような社員の方々が集まっている印象があります。事業者や消費者からのフィードバックにアンテナを張り、愚直にそれを日々改善し、チューニングしておられます。

「くらしのマーケット」誕生までの意外な経緯とは?

――みんなのマーケットを創業したきっかけを教えてください!

浜野さん:実は私は、大学在学中に学生ベンチャーを一度起業しました。卒業後、その会社を辞めて創業したのがみんなのマーケットです。

1社目では、学生向けの媒体を作って、そこに広告主を集めるビジネスを展開していました。しかしこの分野には大手広告代理店などが競合として存在しなかなかホワイトスペースが無いことを実感し、2社目では「急成長している巨大なマーケットを狙うビジネス」に挑戦したいと考えるようになったのです。

――2度目の起業だったのですね。成長しているマーケットは当時いくつかあったと思うのですが、その中でも今の領域に注目した理由はあるのでしょうか?

浜野さん:そうですね、「インターネット」と「サービスの売り買い」を掛け合わせたビジネスが当時まだ他に無かったという点が大きいです。物をネットで買う時、楽天やAmazonなどの大手ショッピングサイトを利用する人が多いと思います。一方でサービスを売り買いできる場所は2011年当時存在せず、無いんだったら作ろう、と決めました。

安藤:生活関連サービスに狙いを定めたのも鋭い視点だったと思っています。まだ大きなプレーヤーがいない領域を見つけに行ったのですか?

浜野さん:旅行や飲食予約は既に大きなプレーヤーがいましたが、それ以外の生活関連サービスはプレーヤーが不在ですっぽり空いていたという感じです。
あともう1つアイデアの着想となったのは、実家のベランダのリフォームです。タイル張りだったベランダをウッドデッキにすることになり私が事業者を探したのですが、どこに頼めば一番安く質の良いサービスを受けられるのか、比較検討する手段が当時はほとんどありませんでした。情報の非対称性に課題を感じたと共に、ビジネスチャンスだと捉えたのです。

インタビュー風景

石の上にも3年、事業の開花とブランド認知

――起業後は、会社をどのように成長させてきましたか?

浜野さん:そうですね、創業当時からやっていることは変わらず、新しいカテゴリを作って事業者を集め、そこに消費者を集めるという順序でコツコツと積み上げてきました。どのカテゴリに注力するかは、市場調査を行った上で決めています。検索エンジン上でキーワードの検索ボリュームがわかるので、競合が少ない領域が狙い目。そのカテゴリで事業者が集まりだすと検索エンジンでくらしのマーケットが上位表示されるようになり消費者も増える、このサイクルを生み出すようにしてきました。

――これまで一番苦労したことは?

浜野さん:あまり苦労したという感じはありません。ただ最初の3年間は売り上げも全然無く、会社としては厳しい状況が続きました。3年経った頃から積み上げたものが花開きサイクルが回るようになりましたね。しかし売り上げが無い時期も、遅かれ早かれいずれサービスのマーケットプレイスのニーズが高まることを確信していたので、不安になることは特に無かったです。

――SIFは2019年12月に出資させていただきました。SIFが出資に加わることについて、当時どのように考えましたか?

浜野さん:ソニーというブランドを持つ会社からの出資によって、出店者・利用者が大きく増えました。これは、誰もが知っている大手のブランドを冠することで、事業者・消費者が安心感を持ってくださったからだと考えています。
また資金調達により予算をブランドマーケティングに投下できるようになり、例えば最近ですとテレビCMでくらしのマーケットを認知してくださる方も増えました。

インタビュー風景

職場のキーワードは「透明性」

――先ほど北川さんから、社員の専門性の高さやキャラクターに注目しているとの話がありました。浜野さんの視点では、どんな社員が多いと思いますか?

浜野さん:我々の会社には、“性格が良い人”が集まっています。「正直者が馬鹿を見ない世界をつくる」という会社のビジョンがありますから、ずる賢いタイプは少なく、真面目なメンバーが多いです。

みんなのマーケット社員の一部
みんなのマーケット社員の一部

――職場作りにも工夫されていると伺っています。具体的にどのような取り組みをしているのですか。

浜野さん:社内の情報は「透明性の高い状態」を保つようにしています。経営層に滞留しがちな情報も日々起きるちょっとした問題も、社員全員が見られるチャットツールで報告します。この透明性は自然と会社の文化にもなっていると思います。

北川:採用も一工夫されていますよね。スキルはもちろんのこと、性格も素敵な社員が揃っている印象です。

浜野さん:そうですね、特殊な取り組みで言うと、最終面接の際にオフィスツアーを行っています。ここでは、採用候補者が、会社からランダムに選ばれたメンバー5~6人と10分ずつ話すことで職場の雰囲気を肌で感じてもらいます。これは候補者に会社のことを判断いただくための機会として設けています。

オフィスの様子
オフィスの様子

誰もが日常的に使うサービスに育てる

――みんなのマーケットの今後の展望は?

浜野さん:資金調達を行ってからの3~4年でブランドマーケティングの効果も出始め、くらしのマーケットのブランドが認知されてきました。一方で、サービスを実際に使ったことがあるかと聞かれると、そうでない人がまだまだ多いです。直近の一番の目標は、くらしのマーケットを某ショッピングサイトのように“誰もが日常的に使うサービス”に育てることです。これは会社としての目標であり、私個人の目標でもあります。

また、カテゴリのバリエーション増加にも取り組む予定です。例えば自動車関連、カーナビやドライブレコーダーの取り付け、タイヤ交換なども非常に大きな市場なので、今後注力していく予定です。

――最後に、読者に向けてのメッセージを一言お願いします!SIFの北川さん・安藤さんのみんなのマーケットへの期待も教えてください。

浜野さん:まず、くらしのマーケットはどんな人にも利用いただける可能性のあるサービスなので、ぜひ一度気軽に利用してみていただきたいです!
また構想段階ではありますが、くらしのマーケットは事業者が消費者の家の情報に触れている点が1つの特徴で、例えばエアコン取り付けのカテゴリでは各家庭のエアコンの年式や状態の統計データがあります。これらのデータを匿名化した状態で、何か他社のビジネスのお役に立てることがあるのではないかと思っています。

安藤:みんなのマーケットは総合的にバランス感覚に優れた会社だと感じています。それはビジネスとしても、社員の皆様の専門性やキャラクターの面でも日々実感する点です。今後事業が拡大していってもこのバランス感覚を貫き、より大きなチャンスを一緒に掴めればと思っています。

北川:浜野さん率いるみんなのマーケットは、これまで着実に実績を作り会社を伸ばして来られました。新規の利用者やリピート率、費用単価などの掛け算での成長の可能性を秘めていると思います。
また、マーケットプレイスの規模が大きくなればなるほど、新しいビジネスモデルも生まれやすくなります。既にそういったディスカッションもさせていただいており、今後の会社全体の成長に注目しています!

左から、ソニー 安藤、みんなのマーケット 浜野さん、ソニー 北川
左から、ソニー 安藤、みんなのマーケット 浜野さん、ソニー 北川
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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2023年10月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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