2023.10.30
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

NEW STANDARD株式会社|ミレニアル・Z世代のスペシャリストが手掛ける、ユーザー起点のブランドDX

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、NEW STANDARD株式会社 代表取締役 久志 尚太郎さんと、ソニーベンチャーズ株式会社 松島 弘さんの対談インタビューをお届けします。

NEW STANDARD 株式会社 代表取締役 久志 尚太郎さん
ソニーベンチャーズ株式会社 松島 弘さん

ミレニアル・Z世代を知り尽くすNEW STANDARD

――まず、NEW STANDARD株式会社の事業概要を教えてください。

久志さん:僕たちは、ミレニアル・Z世代のスペシャリストとして新しい価値(イミ)創造をユーザー起点でアジャイルに実現する、ブランドDXカンパニーです。「ブランドDX」とは、NEW STANDARD株式会社(以下、NEW STANDARD)独自のケイパビリティで企業やブランドを若返らせる・進化させること。
NEW STANDARDの事業構成は「ブランドコンサルティングファーム」「マーケティング&クリエイティブエージェンシー」「シンクタンク」の3本柱(下図:左)で、これらの事業を実現するために活用しているのが、累計数千万人のミレニアル・Z世代のユーザーやトレンドのデータベースやAIツールなどの「ケイパビリティ」(下図:右)です。

事業構成とケイパビリティ
事業構成とケイパビリティ

――3つの事業を支える「ケイパビリティ」について、詳しく伺えますか?

久志さん:そもそもの前提からお話すると、NEW STANDARDの事業の基盤となっているのは機械学習を用いた「AIキュレーションツール」です。このツールを用いて世界の新しい基準や価値観をデータベース化し、事業に活用しています。

NEWSTANDARDでは創業当時からライフスタイルメディア「TABI LABO」を運営していますが、データベースとLLM(※)をかけ合わせ、メディア運営をAIで自動化をできるところまで、AIの活用は進んでいます。     

このようにAIで集めた世界中の情報が「トレンド」のデータベースとして蓄積されています。そして、TABI LABOを通じてコンテンツを出すことで、月間数百万人のミレニアル・Z世代ユーザーがメディアを訪問します。これにより「ユーザー」のデータベースと、更にユーザーの行動や反応をもとに「アイデア」に繋がるデータベースも蓄積されます。このように僕たちはトレンド、ユーザー、アイデア、3つのデータベースを持っているわけです。これらがNEW STANDARD独自のデータベースです。

※巨大なデータセットとディープラーニング技術を用いて構築された言語モデル
インタビュー風景

――「AIツール」と「データベース」が鍵なのですね。なぜここに注目したのですか?

久志さん:TABI LABO を始めて、広告事業などを展開する中で、クライアントに不足している2つのことに気付いたんです。1つが「等身大のユーザー」。もう1つが「ミレニアル・Z世代特有の新しい基準や価値観」。

まずユーザーに関しては、定量的な机上のデータはあっても、データに裏付けされた定性的な情報を持っている企業は少ないです。また、ミレニアル・Z世代の新しい基準や価値観に精通している方も多くありません。例えばLGBTQやプラントベースフードは、今や社会で当たり前に浸透していますが、10年前は今のように多くの人の理解が得られるものではありませんでした。この様に、未だ日本に定着していない新しい基準や価値観、新たなトレンドは多くあります。このような状況を理解し解決するためには、人の感性や能力に頼るだけではなく、ツールやデータ化が必要だと考えました。

松島:ミレニアル・Z世代をターゲット層とした商品・サービスは世の中に沢山あり、そこに課題を感じている企業は多いです。このあたりの情報を、主観でなくデータドリブンに持ってらっしゃる点は他社には無い強みだと思います。久志さんの考えを伺いたいことが1つあって、競合他社がこういったツール・データ化を実現できない理由は何だと思いますか?

久志さん:そうですね、一番はビジネスの成り立ちの違いだと思います。例えば大手の広告代理店やコンサルティングファームは人ありきと言いますか、とても属人性の高いモデルです。一方でNEW STANDARDは、デザイン思考、AIツール、データベースを用いてユーザーを深く理解し、ユーザー起点の新しい価値創造を行っています。これを僕らは「アジャイル・メソッド」と呼んでいます。

NEW STANDARD アジャイル・メソッド
NEW STANDARD アジャイル・メソッド

「ASAHI WHITE BEER」と「LEXUS」の意外な裏話

――今の話に関連して、松島さんはNEW STANDARDのどこに注目していますか?

松島: 注目しているポイントは3点あります。

注目ポイント 1.「TABILABO」を利用したミレニアル・Z世代の分析 2.データを用いた価値創造・貢献 3.大手クライアントへのサービス提供実績

1つ目は「ミレニアル・Z世代の分析」。メディアを自社で保有し運用しているため、その世代が関心を持つ領域でどのような情報が消費されているかの知見があります。また、Aを見ている人はBにも関心がある、といった情報の関連性にも知見があり、従来の広告代理店には無いミレニアル・Z世代のインサイトを定量・定性データで的確に分析しています。

2つ目は「データを用いた価値創造・貢献」。例えばミレニアル・Z世代を対象とした新作ビールのプロモーション・ブランディングを行う場合は、彼らが何を求めているか、従来の製品をどう捉えているかを分析した上で、具体的な施策を提案できます。逆に既存の商品デザインやPRコンセプトでミレニアル・Z世代を取り込めていない場合は、その背景を分析することもできると認識しています。

最後は「大手クライアントへのサービス提供実績」。現時点で、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、トヨタ自動車株式会社、アサヒビール株式会社、大正製薬株式会社など大手のブランドが、商品・サービスのプロモーションのパートナーとしてNEW STANDARDを採用した実績があります。スタートアップ企業であるNEW STANDARDが大手の広告代理店を差し置いてこれらの企業案件を獲得した実力にも注目しています。

――クライアントの話が出ましたが、是非代表的な事例を教えてください!

久志さん:一番わかりやすいのが、アサヒビール株式会社の「ASAHI WHITE BEER」の事例 です。NEW STANDARDは、ブランド開発からパッケージデザイン、コミュニケーション戦略策定の伴走、キャッチコピーの作成やWEB CM企画・制作など幅広く担当しました。

ASAHI WHITE BEERのパッケージ・プロモーションの一部
ASAHI WHITE BEERのパッケージ・プロモーションの一部

自社のケイパビリティを活用しN1分析を進めていくと、ミレニアル・Z世代は「嗜好品や趣味を通じて自分のご機嫌取りをしている」「新しいモノ・コトを日々に取り入れることで自己充実感を保つようにしている」などの価値観を持っていることがわかりました。そこから見えてきたのは、彼らは嗜好品を楽しむ時間や趣味を通じて、自身の気持ちと向き合う時間を作ったり、自分の心を満たしたりしているという気付きです。ビールの広告では一般的に「キレ・コク・味わい」といった物性価値にメッセージの重きが置かれがちな中、情緒的な価値を丁寧に伝えることにフォーカスしコミュニケーションメッセージとキービジュアルを構築。これらを交通広告やSNSなどで展開し、多くの反響がありました。

――このパッケージや広告は、これまでのビールのイメージとは違って新鮮ですね。他にも何か事例はございますか?

久志さん:LEXUSのプロモーションも長くご一緒させていただいています。ミレニアルのインサイトを捉えたLEXUSブランドの新しい世界観提案、幅広いタッチポイントを活用したトータルプロモーションなどを行ってきました。次世代を担うアクティブミレニアルは、何に本当の「豊かさ」を感じているのか。現在を「ラグジュアリー」の価値観が変わる端境期と捉え、豪華さの消費ではなく、創造性あふれる豊かな人生をレクサスとともに探していく体験を、ブランドコンテンツとして表現しました。

松島:このプロモーションもとても面白くて好評でしたし、私自身も好きでした。ちなみにこういった案件でクライアントに提案を行う際に、意識していることはあるんでしょうか?

久志さん:それがまさに先ほどご紹介した点で、私たちはアジャイル・メソッドに則って、アジャイルにリサーチを行い、データを用いたユーザー起点の提案を可能とします。あと、僕らは本当に価値のあるアウトプットを出すことにこだわり最適なプロセスを踏みたいので、クライアントに忖度せず、建設的な議論をさせていただくようにしています。

松島:なるほど、提案する段階でデータに基づいたロジックがあれば説得力が増すことはもちろん、クライアントも社内での議論などに活用しやすいでしょうし、多くのメリットがありそうですね。

インタビュー風景

ヒッピーな社長が起業したワケ

――NEW STANDARDを創業したきっかけを教えてください!

久志さん:僕の父親がIT起業家だったことと、アメリカ留学時代や世界を旅して学んだヒッピーカルチャーがきっかけになっています。

松島さんには話したことがあるんですが、僕、ヒッピーなんですよ(笑)。欲しいものは自分たちで創り出し、自分たちで道を切り開くことを、僕はヒッピーカルチャーから学びました。中学卒業後アメリカに留学し、16歳の時に飛び級で高校を卒業しました。その後大学へ入学したもののすぐに9.11テロが起こり、時代が急激に変わり始めたことを感じ、退学。テロによって、これまで正解だったものが正解でなくなる、新しい道を自分で切り開かなければならないと思ったのです。その後、アメリカを放浪しながら、古着に関するECショップ事業をやっていました。しばらくしてから、日本に帰国し19歳でDELLに入社してからは法人営業を担当し、エンジニアリングの知識があったお陰でトップセールスマンになりました。

――ユニークなご経歴ですね!その後すぐにNEW STANDARDを立ち上げたのでしょうか?

久志さん: 21歳で一度DELLを退職して、2年間で世界25か国を放浪しました。その後またDELLに戻って、セールス部門のマネージャーとして働き、ビジネスやマネジメントのいろはを学んだ後、今度は宮崎県でソーシャルビジネスに従事。2014年、30歳の時に今の会社を創業しました。

会社の危機を救った「経営システム」

――会社を創業してからこれまで一番苦労したことは?

久志さん:2018年頃ですね。今だから言えますが、当時会社も自分も社員もすごく嫌だなと思ったことがあるんです。自分で作った会社なのに、です。振り返るとその時って、暗黙知やカルチャーだけで経営していたんですね。
クリエイティブなメンバーを集めて会社を作ったので、敢えて縛りを設けず、メンバーを80人ぐらいまで増やしました。しかし、それでは上手く行くはずがなくって。僕がメンバーに権限委譲し始めたタイミングで組織崩壊が起こりました。その時が一番大変でしたね。     

ただ、そこから経営システム作りに注力したので、当時と比較して今は驚くくらい良い仕組みが出来ました。コロナ禍で苦労して売り上げが激減したこともありましたが、その時にも崩壊せず乗り越え進化して来られたのも、仕組みのお陰です。

――経営システムと仰っているのは、具体的に何を指していますか?

久志さん:先ほどご紹介したアジャイル・メソッドやケイパビリティ、マネジメントデザインと呼ばれる独自の目標管理システムやそれに紐づく評価システム。行動指針やコーポレートアイデンティティなどです。コーポレートアイデンティティはNEW STANDARDが目指す姿を抽象度高く落とし込んだもので、社員を巻き込みながら作り込みました。特に、行動指針は完全に定着しています。例えば「仕組みで解決」は、失敗の原因は個人でなく仕組みだから仕組みを改善しよう、ということを書いていますが、クリエイティブ業界だと珍しい考え方だと思います。

NEW STANDARDの行動指針
NEW STANDARDの行動指針

――SIFは2023年7月に出資させていただきました。SIFが出資に加わることで何か変化はありましたか?

久志さん:実は松島さんとは、株式会社Sun AsteriskのCEOの紹介で出会いました。松島さんに興味を示していただき、ファイナンス面でももちろんですが、幅広いネットワークをご紹介いただけた点も感謝しています。そのお陰で、東京大学大学院工学系研究科と共同研究契約を締結し、現在はNEW STANDARD独自のメソッドに、東京大学の柳澤秀吉准教授が提唱する「感性設計学」を応用し再現性の高い独自理論の発展を目指しています。

松島:株式会社Sun AsteriskもSIFが投資したスタートアップ企業の1つで、CEOのビジョンは素晴らしいものがありました。久志さんからお話を伺うと、NEW STANDARDが展開する事業もこれからの日本で必要とされるなと感じる一方で、まだ誰もやっていない領域でした。投資家として絶対投資したいと思いましたし、今後のソニーにもぜひ機会があればNEW STANDARDを活用してもらいたいと考えました。

インタビュー風景

――NEW STANDARDの今後の展望は?久志さん個人の目標や夢があれば是非教えてください!

久志さん:僕は今「創作」「経営」「研究」の3本柱の掛け合わせで、仕事をしています。その領域毎に、巨匠と呼ばれる人がいるのですが、巨匠というのは、最後までその領域の最先端に立ち続け、素晴らしい偉業を成し遂げる人のことです。僕はその姿勢に共感しており、若くして成功して姿を消すのではなく、最後の最後まで挑戦し続けることにモチベーションを感じます。3本柱それぞれに巨匠と呼ばれるぐらい自分を進化させ続けることを想像するとワクワクするんですよね。僕の人生のピークは88歳ぐらいに訪れるのだと思います(笑)。

次に、NEW STANDARDの未来について。その仕組みさえあれば、会社が勝手に大きくなっていくような、経営システム構築を目指しています。スタートアップも成熟していかなければならないですし、経営システムが強くなければ継続して成長することはできません。ITサービスのライフサイクルは早すぎるので、「一発当てる」ことではなく、非連続な成長を実現する為の仕組み作りにこだわりたいと思っています。ここ数年は、経営システムを考えることで、経営が面白いと思えるようになりました。     

松島:久志さんのおっしゃる通りで、まだ多くのスタートアップ企業が道半ばの領域だからこそ、本当に実現していただきたいですね。因みに経営が面白くなったというのはいつからですか?

久志さん:コロナ禍で事業が苦しかった時期を経て、180度経営者としての考え方が変わりました。僕も含め、社員全員が相当強くなったと思います。

――最後に、読者に向けてのメッセージを一言お願いします!SIFの松島さんのNEW STANDARDへの期待も教えてください。

久志さん:ビジネスにおいて「仲間」ってすごく大事だなと思っています。松島さんは初めてお会いした時から、本当に仲間として接してくれています。これは投資家との関係性もそうですし、社員も、社外のパートナーも、クライアントも同じだと思っています。「良い仲間がどれだけいるか」がとても重要です。     

NEW STANDARDが企業のブランディングやプロモーションを担当させていただく際も同じ考え方で、下請けや外注先でなく「チーム」「パートナー」として仕事を行います。同じ方向を向いて、新しい価値を創造するために不可欠な姿勢です。     

松島:今後も世の中には新たな商品・サービスが生まれると思います。一方でミレニアル・Z世代をターゲットとした商品開発やプロモーション・ブランディングには、個人的に課題を感じるシーンが多いです。変化のサイクルが早い層だからこそ、既存のテレビCMや雑誌掲載などのマスプロモーションだけでなく、世代特有のトレンドを踏まえた柔軟なアプローチも必要になってくると思います。NEW STANDARDはミレニアル・Z世代へのリーチに苦労している企業をサポート出来ますので、今後も日本のトレンドと共に新たなマーケットを作り拡大していただきたいと強く願っています!

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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2023年10月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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