Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF) と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
株式会社Hacobu 代表取締役社長CEO 佐々木 太郎さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
Hacobuは、「運ぶを最適化する」をミッションに掲げています。企業間物流市場は30兆円規模(※1)とも言われ、倉庫内作業者やトラックドライバー不足など慢性的な人材不足が課題となっています。加えて、目前に迫る物流の2024年問題(※2)に向けて、物流DXの加速や業務改善が急務と言えます。
物流現場では、電話やFAX、紙帳票に手書きするなど旧態依然としたアナログな業務が中心で、非効率な部分が多く残っています。業界自体のデジタル化を推進し物流情報をビックデータとして蓄積することで、そのデータを活用して企業間物流を最適化し、業界全体の効率性や労働環境、人材不足といった課題の解消を目指します。
――Hacobuではどういった事業を展開していますか?
私たちは、SaaS型の物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」を展開しています。
MOVOは複雑な物流現場の課題を解決する複数のアプリケーションで、日本を代表するメーカー、小売、物流企業などを含む約1万の事業所でご利用(※3)いただいています。
中でも、トラック予約受付サービスでシェアNo.1(※4)の「MOVO Berth(ムーボ・バース)」は、累計利用ドライバー数は42万人を突破しました。これは、国内ドライバー数の約半数に相当します(※5)。
2023年2月には、BIPROGY株式会社と資本業務提携を発表しました。これにより、BIPROGYのトラック予約受付サービス「SmartTransport(スマートトランスポート)」が、Hacobuのトラック予約受付サービス「MOVO Berth」に切り替わります。MOVO Berthのネットワークはさらに広がり、センター、ドライバーの皆様の利便性向上に寄与してまいります。
また、さまざまなステークホルダーにMOVOを活用いただくことで、物流に関するデータが蓄積されていきます。物流情報ビッグデータを構築することで、企業間物流の課題を解決することに取り組んでいきたいと考えています。このゴールを実現するため、私たちは最新のクラウドテクノロジーをフル活用しつつ、全社的にアジャイル型の開発組織を持つことで、スピーディーなプロダクト開発やデータ分析を実現できる体制を整えています。
「組織と技術が一体化したチーム」こそが、Hacobuの強みと考えています。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
私自身は、アクセンチュア株式会社、株式会社博報堂コンサルティングなどでの勤務を経て、起業しました。グロッシーボックスジャパン、食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」に続き、3社目に起業したのが、Hacobuです。
2社目に起業した「FRESCA」で大手乳業メーカーのコンサルティングプロジェクトに参画する機会があり、そこで企業間物流の現場を知り、業界の大きな課題に気付きました。
アナログかつ非効率な現場を目の当たりにし、「運ぶ」ことがビジネスのボトルネックになっていると痛感したのです。そこで、Hacobu を創業し物流に特化した事業をスタートしました。物流の課題を解決する鍵となる「個社の枠を超えた物流ビッグデータ」を取得するために、物流拠点と各プレイヤーを繋ぐ物流情報プラットフォームの存在が不可欠であると考えました。公共性を担保した共創型プラットフォームの構築を目指して、ソニーグループをはじめ提携先企業と連携しながら取り組んでいます。
私は、社会の骨格となり得るデジタル物流インフラを作ることこそが自分がやるべき事業であり、そこに大義があると考えています。
――今後の期待や展望は?
物流に関するデータが集まれば、事実を共有し事実を見つめ直し、業界全体で最適化に取り組めるようになります。私たちは、そのような世界を"Data-Driven Logistics"と定義し、実現を目指しています。これによって、例えば「10台必要だったトラックが半分の5台で済むようになる」「積載効率100%の配送ができる」など、ドライバー不足を解消することも夢ではありません。
そのために、足元の戦略として、ネットワークの拡大に力を入れています。まずはビッグデータの土台を固める段階で、2025年度には「Hacobuが提供するアプリを利用する事業所が3万か所に到達すること」をマイルストーンに置いています。物流現場のニーズに答えるため、ハードウェアを使ったサービスの拡充や他社とのコラボレーションを通じた課題解決の可能性についても深堀りをしていきたいと考えています。
SIFは株式会社Hacobuに対し2017年9月、2019年4月、2022年11月に出資を行っています。Hacobuへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 北川 純より、注目ポイントをご紹介します。
1.コンサル出身者で構成される優れた経営チーム
CEO佐々木さんに初めてお会いしたのはSony Innovation Fundが設立された直後の2016年8月で、当時のHacobu の社員数は10名未満のまだ非常に小さな会社でした。しかしコンサルティングファーム出身かつ起業経験もある佐々木さんのビジョンの大きさと市場のペインを見つけ出す洞察力、実行力を強く感じたことを覚えています。COO坂田さん、CFO濱崎さんもコンサル出身で高い課題解決力をお持ちで、この3名がいたからこそ、業界の大手荷主企業、3PL(3rd Party Logistics ※6)を多数巻き込んだ現在の顧客構成、株主体制を実現することができたと認識しています。
2.巨大な企業間物流マーケット
一般的に物流というとラストワンマイル(倉庫から個人宅など)をイメージされるケースが多く、その市場規模は2~3兆円程度と言われています。しかしHacobuがターゲットとしているのは「企業間物流」であり、この市場は非常に大きく30兆円程度の規模があると言われています。そして多くの現場では、紙、電話などが中心のアナログな情報伝達、管理が多数存在しており、業務のデジタル化に対する顕在、潜在的ニーズがあることがHacobuにとっての大きな事業機会になっています。
3.SDGsの観点から見た社会的意義
物流DXの観点は、Eコマースの成長に伴い負荷が増大する物流網への対応だけではなく、「トラックドライバー不足」や「2024年問題」といった社会的課題の解決の面でも非常に大きな意義があります。さらに昨今では、荷主企業・物流事業者はCO2排出量の見える化、削減が求められており、そうした観点でも、Hacobuに対する荷主・物流事業者からの期待が非常に高まっている状況です。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2023年5月時点のものです。