Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
KAERU株式会社 Chief Executive Officer 岡田 知拓さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
我々は、「誰もがお買いものを楽しみ続けられる世の中にする」ことを会社のビジョンとして掲げています。
日本は継続的に高齢化が進んでいます。人々の認知機能の低下が起きたとしても、幸せに、自分らしく生活できるような社会インフラの整備は重要性を増しています。視力が下がったらメガネをかけるように、足腰が弱ったら杖をつくように、認知力が弱ったら「KAERU」を使うことでお買いものを楽しみ続けられる、そんな世界を目指しています。
――KAERUではどういった事業を展開していますか?
ご高齢の方とサポートする方の双方が安心して利用できるキャッシュレスサービス「KAERU(かえる)」の企画・開発をしています。
「KAERU」はスマートフォンとプリペイドカードを組み合わせて利用する決済サービスです。認知力に不安のある方でも安心・便利にご利用いただけるように、短期記憶のサポート、高額決済のコントロール、紛失時の即時停止機能、ご家族によるサポート機能などさまざまなアシスト機能を有しています。認知力の低下度合いやIT機器への慣れといったその方のご状況に応じてご自身のみで利用するユースケースだけでなく、ご家族や介護スタッフなどあらかじめ設定したパートナーからの操作補助を受けながら利用することも可能です。
高齢の方、認知症のある方、そのご家族の方、支援をする介護従事者の方など多くの方へのヒアリングや実際の利用トライアルを通じて一次情報を集め、課題を深堀りしながらサービス開発を進めております。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
共同創業者の福田と2人で起業するにあたり、自分たちの強みと市場の大きな流れが発生しているところの掛け合わせをテーマにしようと議論をしていました。
私自身はLINE株式会社でLINE Pay、福田は株式会社メルカリでメルペイのサービス開発に携わった経験があり、共に決済サービスのバックグラウンドを持っています。我々の強みである決済の知見を用いて、ある特定の領域のお客さまに対し、その方々の課題を深く解決してお金をいただける決済サービスの開発に関心がありました。
日本は世界で最も高齢化が進む国であり、人口動態を考えてもこの傾向は継続します。超高齢社会を前提にした社会インフラづくりは日本における大きな社会課題です。強みである決済×超高齢社会を重ね合わせて、現在のKAERUというアイデアにたどり着きました。
――今後の期待や展望は?
まずは何より実際に使ってくださる利用者さま、そのご家族が安心してお買いものを楽しみ続けられる決済サービスになれるようサービスを改善していきたいと考えています。
2025年にはいわゆる団塊の世代800万人が後期高齢者になると言われており、より一段高齢社会への注目が集まっています。サービス改善と認知拡大を通して、2025年には高齢者向け決済領域で第一想起のサービスになることを目指しています。
また高齢者とご家族の間での利用だけでなく、その他の場での活用についても現在実証実験を進めています。社会福祉協議会や成年後見人(※1)といった方々による権利擁護や、介護施設における現金管理の見える化、自治体において進めている介護ボランティアのデジタル化など、幅広く応用の場を模索していきます。
SIFはKAERU株式会社に対し2022年2月に出資を行っています。KAERUへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 北川 純と安藤 友より、注目ポイントをご紹介します。
1.「高齢者のお買い物」というテーマへの先駆けた挑戦
創業者である岡田さん・福田さん共にキャッシュレス業界での経験をお持ちで、その知見を用いて、日本の超高齢社会による課題にアプローチされています。高齢者のお買い物における課題は日本の人口動態的に今後確実に増加していくと考えられ、まだデジタル化・キャッシュレス化が進んでいない分野でもあります。そこにいち早く目をつけて取り組み、さまざまな当事者・関係者を巻き込んでいらっしゃるのが強みだと思っています。
2.課題当事者やユースケースの徹底的なスタディ
KAERUのサービス設計の段階で、認知症当事者・支援者の方々の声をつぶさに収集し、フィードバックを受けながら開発しています。またさまざまなユースケースを元に検証を重ねており、特に支援する側の利便性のみならず、支援される側の高齢者や認知症の当事者本人が気持ちよく、自律的に使えるサービスを目指す事に信念を持たれている印象があります。このようなポイントからも、今後もユーザーから愛され、信頼されるサービスを作りあげることが出来ると思っています。
3.地域や事業者との輪の広がり
KAERUが挑戦する課題は多くの共感を得ています。岡田さん・福田さんの凄まじい活動量とオープンな人柄、そして何よりこの領域に対する熱意も相まって、自治体、介護事業者、認知症コミュニティ、スーパーマーケットなど、さまざまな所で連携やサポート事例が生まれています。先日は、東京都が金融の活性化及び都民の利便性向上を目的に主催する「東京金融賞2022」の金融イノベーション部門において1位を受賞されました。
KAERUの認知度がさらに上がり、大きな支援の輪となっていくことを期待しています。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2023年5月時点のものです。