Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
株式会社AIメディカルサービス 代表取締役 CEO 多田 智裕さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
AIメディカルサービスは「世界の患者を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ~」をミッションに掲げています。我々が取り組む食道・胃から大腸・肛門に至る消化管のがんは、全がん死亡者の約3割を占め、最も死亡者数が多いがんです。我々が開発する内視鏡画像診断支援人工知能(AI)により、医師とAIが協働して内視鏡検査を行うことで消化管がんの見逃しを減らし、がんを早期のうちに見つけ、世界の患者を救うことを目指しています。
――AIメディカルサービスではどういった事業を展開していますか?
内視鏡検査中にリアルタイムで医師による消化管がんの診断を支援する、画像診断支援人工知能(AI)を開発しています。
消化器内視鏡の分野においては、日系メーカーが世界シェアの約9割(※1)を占めると言われています。内視鏡医療は他国と比較しても日本がリードしており、質・量ともに世界最高水準の検査データが蓄積されています。その中で、当社は日本のみならず世界を代表する100施設以上の医療施設と共同研究・製品開発を進めてきました。
当社ではまず、早期発見の難易度が高いと言われている胃の領域から内視鏡AIの開発を始め、現在製品化に向けて取り組んでいます。医師によっては早期胃がんの約2割程度が見逃されているという報告もある中、当社は、胃の腫瘍性病変を拾い上げるAIや、腫瘍性・非腫瘍性を判別するAIなどの製品化を進めています。今後はソフトウェアのアップデートを重ねて機能や精度の向上を追求し続けるだけでなく、胃以外の大腸や食道といった他の消化器にも製品展開を拡大していく予定です。
また当社は累計50本以上(2023年4月現在)の論文を発表しており、内視鏡領域におけるAIのエビデンスを蓄積するとともに、内視鏡AI研究のトップランナーとして国内外で認知されています。今後も多角的な内視鏡AI研究を進め、医療におけるAI活用の有用性を科学的に証明していきます。さらに、アメリカとシンガポールに子会社を設立し、各国・各地域の法制度や医療現場のニーズに合わせて、日本発の内視鏡AIを世界展開するための準備も進めています。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
ビジネスアイデアが生まれたきっかけは、2016年に東京大学・松尾 豊先生の講演会で「AIの画像認識能力が人間を上回り始めた」というお話を伺ったことです。当時、私自身が現役の内視鏡専門医でした。「内視鏡検査にAIを活用することで、現場の苦しみを解決できるかもしれない」と考え、膨大な数の画像を一枚一枚精査してデータベースを構築し、ディープラーニング(深層学習)を活用した研究を積み重ねた結果、専門医の平均を上回る判別精度に到達しました。
ピロリ菌の感染有無を判定する内視鏡AIの研究が世界的に認められたことを受けて、がんの見逃しをゼロにできるかもしれない、研究を進めて実用化に繋げたいという思いが強くなり、2017年にAIメディカルサービスを創業しました。
現在は、エンジニアや薬事など各分野のスペシャリストが集まり、日本のみならず世界に向けた内視鏡AIの製品化プロジェクトを進めています。
――今後の期待や展望は?
「世界の患者を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ~」の実現に向けて1日でも早く臨床現場に当社が開発する内視鏡AIをお届けするために邁進してまいります。内視鏡AIでがんの早期発見に寄与することで、究極的には消化管のがんで亡くなる人をゼロにしたいと考えています。
また、日本が誇る内視鏡医療の叡智の結晶である内視鏡AIをグローバルに展開することで、日本のみならず世界における医療の質の均てん化(※2)を目指します。将来的には世界中の内視鏡室をクラウドで繋ぎ、世界のどこにいても質の高い内視鏡検査を受けることが可能となる未来をつくっていきたいと考えています。
SIFは株式会社AIメディカルサービスに対し2019年10月に出資を行っています。AIメディカルサービスへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 北川 純より、注目ポイントをご紹介します。
1. 創業者CEOの実績・バックグラウンド
AIメディカルサービスの創業者・CEOの多田先生は東京大学医学部出身の消化器内視鏡専門医であり、日本国内はもちろん世界的にも非常に著名な方です。医師としての知見をプロダクトに反映させることができることはもちろん、多田先生が国内外でお持ちの多くの医療機関や医師同士のネットワーク、またそれらからの厚い信頼によって、円滑に共同研究などが進められています。
2.世界最先端の内視鏡AIのリーディングプレイヤー
世界の内視鏡市場における日系メーカーの市場シェアが高く、医師のレベルも含めて、日本の内視鏡技術は世界一と言われています。こういった背景からも、日本はAIの精度確保や向上のための良質かつ豊富な教師データを有しているという強みがあります。AIメディカルサービスには、これらを活かして日本発で世界の市場へ展開していくことができる強みがあります。
3.顕在化した課題解決による社会的インパクト
消化器内視鏡市場は世界で拡大していますが、その一方で、熟練した専門医不足による医師の労働環境悪化や、検診でのがん疑いの見落としは大きな問題として既に顕在化しています。命に関わる領域の課題を、テクノロジーの活用によってグローバルの市場で解決していくという大きなチャレンジは社会的にも高いインパクトがあると認識しています。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2023年6月時点のものです。