Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップに支援提供を開始しました。SSAPとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップを1社ずつご紹介します。
株式会社Fivot 代表取締役 安部 匠悟さんに、会社のミッションや事業内容をインタビューしました。
――会社のミッションを教えてください。
Fivotのミッションは「新しい産業構造に、新しいお金の流れを作る。」です。
社会における「資金の流れ」は、社会・市場・産業の可能性を決定する大きな要素であると考えています。時代が変われば、新しいお金の流れもあるべきです。これまでにない金融機関として、あるべき場所に適切な流動性を提供することにより、挑戦と成長が生まれる社会環境を生み出したいと考えています。
――Fivotではどういった事業を展開していますか?
スタートアップ向け融資「Flex Capital」と、個人向け積み立てアプリ「IDARE(イデア)」を運営しています。
Flex Capitalでは、スタートアップの状況やニーズに合わせた複数の融資プロダクトを提供しています。具体的には、DtoC(※1)やSaaS事業者向けの「Revenue Based Financing(RBF)」(※2)や、ミドル・レイタースタートアップ向け「ベンチャーデット」(※3)などを展開しています。
これらのプロダクトは、スタートアップに適した設計が特徴です。例えば、無担保・無保証、審査の回答まで約1週間と早い審査スピードに加え、API連携などのテクノロジーを活用したこれまでにない融資体験などが評価されています。また、スタートアップに特化した金融関連のデータ蓄積や、機械学習の技術を用いたデータ分析など、独自の与信モデルを構築しております。
IDAREは個人向けの積み立て型プリペイドカードです。目標額設定とそれに向けた自動積み立て機能、ボーナスポイントなどで「お金を思ったように貯められない」という個人に向けサービスを提供しています。
IDAREを使うと、残高に対して年率2%相当のポイントが毎月もらえる仕組みです。欲しいものや旅行などの個人の目標設定に合わせて自動でクレジットカードや銀行口座から積み立てを行うことができ、目標金額に到達した際には貯めた金額をVisaで決済して利用することができます。
――ビジネスアイデアが生まれたきっかけは?またビジネスとしてどのように具現化しましたか?
私は新卒で証券会社に入社し、銀行や保険会社に対してM&Aアドバイザリーや株式・債券の引受業務を担っていました。業務の過程で、海外ではチャレンジャーバンクと呼ばれる新しい銀行・金融機関を設立する動きが活発化していることを知りました。
証券会社の中で業務を行う上で、日本国内の既存の大手金融機関ではどうしても捉えきれていないニーズや、柔軟なサービス提供ができていない領域があることに課題を感じました。日本でも海外と同様にチャレンジャーバンクを立ち上げ、柔軟に新しいサービスを提供し、付加価値を生み出すことが必要なのではないかと考え、Fivotの創業に至りました。
――今後の期待や展望は?
現在提供している事業を拡大し、長期的には日本初のチャレンジャーバンクを目指しています。ミッションである「新しい産業構造に、新しいお金の流れを作る。」を大きな規模で実現しようとすると、銀行業の免許が必要です。この免許の取得は容易ではなく乗り越えるべきハードルは高いと思いますが、チャレンジャーバンクとして、日本社会の成長と挑戦を支援していきたいと思っています。
SIFは株式会社Fivotに対し2022年7月に出資を行っています。Fivotへの出資を担当しているソニーベンチャーズ株式会社 北川 純と安藤 友より、注目ポイントをご紹介します。
1. ビジネスチャンスのある市場選択
FivotはRBF(Revenue Based Financing)という、過去の売上データを分析することで将来の収益を予測し、将来発生する売上の一部を現金化する調達方法を取り入れています。日本では海外に比べて、売り上げはあっても利益実績に乏しいスタートアップへの銀行からの貸付けがなかなか進んでいない課題がありました。銀行側もこういった手法への関心を示しながらも、今までの与信モデルでは評価が出来ないという課題があります。しかし決済・会計系SaaSをはじめとしスタートアップの金銭管理をリアルタイムで把握できるインフラが充実してきた中で、RBFはこれらの課題解決の糸口として大変有望であり、ビジネスチャンスがあると考えています。
2. 攻守のバランスのとれた姿勢
前述の課題の打破に取り組むのが、代表取締役の安部さん、CFOの佐保さんのお二人です。若き経営者でありながら、信頼感と好感度が高いお人柄だけでなく、経営に際しても丁寧で抜かりなく進めていこうとする姿勢が、特にこの事業領域においてはとてもポジティブに働くと考えています。ファイナンス先のスタートアップ、事業パートナー、スマート積み立てアプリ「IDARE」の個人顧客と、全ての関係者から安心感を持ってもらえる運営を心掛けていることが伝わります。
3.プラットフォーム型のビジネスモデル
Fivotではスタートアップ向け融資「Flex Capital」とスマート積み立てアプリ「IDARE
」、2つのプロダクトを展開しています。創業初期から複数のビジネスを運営するのは大変なことではありますが、スケーラビリティを見据えて敢えて「ファイナンス」と「積み立て」の両方を行い、プラットフォームとしてのポジショニング確立を意識している点に注目しています。
さらに言えば、RBFでは国内でベンチャー企業へのデット型ファイナンスが不足している課題に、SNPL (Save Now, Pay Later)(※4)では個人の健全な資産形成に対する課題にアプローチされている点にも注目しています。
連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups 」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2023年3月時点のものです。