Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、日本航空株式会社(以下JAL)。JALでは、人財とテクノロジーを融合し、JALならではのサービス・価値を生み出すことでさらなる事業成長を図るべく、2017年より新規事業組織を設置。業務のデジタライゼーションに加え、CVC(Corporate Venture Capital)として投資も行いつつ、社内外のイノベーションを促進するための活動を行っています。
日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 イノベーション推進部 部長 斎藤 勝さんが語る、新規事業組織をゼロから1人で立ち上げた裏話、航空会社が取り組む意外な新規事業とは?JALの新規事業組織のリアルに迫ります。
コロナ禍で気付かされたリスクと可能性
――コロナ禍で何か変化はありましたか?
コロナの影響は、JALとしては相当な痛手でした。しかし、悪かったことばかりではなく良かったこともあります。
良かった影響の1つは「今まで想定していた以上のリスクがある」と気付けたことです。航空事業で、1社だけでなく全ての航空会社がリスクにさらされることは誰も想像していなかったと思います。加えて何か問題があったとしても一時的で、数年単位でこんなにも長く事態が続くとも思っていませんでした。想定していないことが当たり前に起こってしまうこと、事業構造を変革していかなければならないこと。この先、生き残り成長していくために全社員が感じたことではないかと思います。
――なるほど、コロナの影響は想像以上に長期戦になりました。新規事業組織への影響はありましたか?
コロナ禍で、新規事業に対する積極的な投資は出来なくなりました。一方で、飛行機の便が減ったことにより、航空業務に携わる人財に余裕ができました。私たち新規事業組織にとっては、彼らと接点を持てる機会が増えた点では、ありがたい影響ではありました。
パイロットや客室乗務員をはじめとする彼らは、通常とても忙しい。そのためなかなか話を直接聞いたり、一緒に新規事業について考えたりすることは出来ません。
積極的な投資が出来なくなった状態で、今自分たちが持つリソースをフル活用し、頭を使って新規事業に向き合う必要がありました。そういった状態になると、いろいろなことが研ぎ澄まされます。取り組むことも最小限に本当に必要なことだけ。社内外のパートナーとの関係性も然りで、誰が本当に味方なのかが浮き彫りに。受発注の関係だけでなく「一緒に新たな価値を創ろう」というモチベーションがあるパートナーの方々は、引き続き協力してくださいました。
コロナ禍の約2年間、新規事業組織ではたくさんの実証実験を行いました。今後の大きな進歩に向けて、足腰を鍛えることができた期間だったと思っています。
3か月ルールの中で、ゴールに近付けるか?
――斎藤さんが新規事業組織を推進する上で大切にしている考え方は?
私たちは「地に足のついたイノベーション」をキーワードにしています。格好良い先進的な技術を導入すると、新しいことをやっている感じがしますし、気分も良いです。ただそれだと意味が無く、「本当にお客さまの役に立つのか?」「社会課題の解決に繋がるのか?」を考えるのです。お客さまのためになる価値を、社内に閉じずオープンに、いろいろな会社の人たちと創っていきたい。「地に足のついたイノベーション」にはそういった意味が込められています。
――組織のトップとして、メンバーの方々と共有しているルールなどがあれば教えてください。
新規事業プロジェクトの進め方として、「3か月ルール」を設けています。プロジェクト1回を3か月で区切りにするように言っているのです。そうすると単純計算で、1年間で1人につき4つのプロジェクトを推進できますよね。新規の領域は全部成功するわけではないので、とにかくたくさんチャレンジしなければ打率があがりません。3か月という期限を区切ることで、やるべきことが研ぎ澄まされます。余分なことをやっている暇は無いので、より効率的に動けるようになるのです。
また3か月ルールの中で、プロジェクト開始時にメンバーにお願いしていることが2つあります。それは「将来のゴール」と「足元のゴール」を明確にすること。将来のゴールが無ければ関係者を巻き込めませんが、バックキャストで将来だけを見ていると現実味がなくなる。だからこそ足元で、まずは3か月で何をやるのか?を言語化してもらいます。
未来の成功はいきなりは握れませんが、PoCや話し合いを積み重ねる中で、いずれ将来のゴールが近付いてきます。
――組織のメンバーの方々は、常に多くのチャレンジを行っているのですね。
そうですね、モチベーションが高いメンバーが多いです。新規事業をやっている方はみなさんそうだと思いますが、立ちはだかる壁の数も多いですし1つ1つのハードルも高いです。その割に、少人数で乗り越えなければならないことばかり。モチベーションが高くないと続かないですよね。
「どうしてもこれを解決したい」「このテーマに興味があるから挑みたい」「テクノロジーが面白いから活用したい」。どんな理由でも良いですが、私は新規事業を推進する本人が「心底高いモチベーションを保てるか?」を大切にしています。中にはサウナが大好きで、JALの中でサウナの新規事業にチャレンジしているメンバーがいますよ(笑)。
その上で、「本当にお客さまの役に立つのか?」「社会課題の解決に繋がるのか?」を問うようにしています。ポイントはこの掛け合わせですね。
人生の中で1つ、輝くものを世に残したい
――JALの新規事業、今後の展望や戦略は?
足元では、事業構造改革があります。例えば私たちはマイレージを中心にお客さまのデータを管理させていただいています。これはアセットであり、私たちの強み。これらのデータを、個人情報を守った範囲でオープンに展開し、事業の幅を広げることを狙っています。社内に閉じず社外とのパートナーシップを使いつつ新しいサービスや事業に繋げることを、大きな戦略として掲げています。
もう1つは、エアモビリティ事業。社会の役に立てるように、私たちが持っている技術やノウハウを通じて、事業を作り出していく戦略があります。
――なるほど、未来を見据え組織を推進する斎藤さんにとって、ズバリ"新規事業"とは?
"成長"です。新規事業を通じて本当に新しい価値を創ろうと思ったら、リスクを背負う必要があります。そのためにはやはり、成長のモチベーションが大切で「チャレンジしたい」「進化させたい」と思えるかどうかがポイント。
仕事に取り組む姿勢には大きく2種類あって「責任感で仕事をしている人」と「チャレンジしたくて仕事をしている人」がいると思います。与えられた責務を全うしたいという責任感だけでは、新規事業は生み出せない。世の中がこれだけ目まぐるしく変化する中で事業を創るには、挑戦心を持ち成長していくことが必要です。
――最後に、企業で新規事業に関わる方々に向けて「これだけは伝えたい!」ということはありますか?
新規事業は大変なことばっかりです。辛いことの方が多いですよね。
しかし一方で、私は大企業の中で新規事業に携われることは"幸せなこと"かな、とも思います。責任を全うすることも大切ですが、まずはチャレンジしてみることがこれからの時代では重要だと思います。大企業に勤めるサラリーマンですからある意味、安心感はあります。その条件のもとでさまざまな領域を舞台に新規事業を創れることは貴重な機会です。
スタートアップで新規事業に挑むとなれば、最初は1つのテーマに集中しなければなりませんよね。企業内の新規事業では、そういった方々に投資をしてパートナーシップを組むこともできます。そして、自らのチャレンジが、組織の成長、企業の成長、日本の成長に繋がっていきます。
私も新しい価値を世に残せたら、と思っています。組織としてはもちろん、私自身の人生の中で1つ、輝くものを残したい。そんな未来を目指しています!
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日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 イノベーション推進部 部長 斎藤 勝さんに迫った今回の「大企業×新規事業 -Inside Stories-」。
インタビューのハイライトをまとめます。
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※本記事の内容は2022年10月時点のものです。