Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、日本航空株式会社(以下JAL)。JALでは、人財とテクノロジーを融合し、JALならではのサービス・価値を生み出すことでさらなる事業成長を図るべく、2017年より新規事業組織を設置。業務のデジタライゼーションに加え、CVC(Corporate Venture Capital)として投資も行いつつ、社内外のイノベーションを促進するための活動を行っています。
日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 イノベーション推進部 部長 斎藤 勝さんが語る、新規事業組織をゼロから1人で立ち上げた裏話、航空会社が取り組む意外な新規事業とは?JALの新規事業組織のリアルに迫ります。
スピーディーな事業創出のため、進化し続ける体制
――JALの新規事業組織では、どういった体制で事業創出に取り組んでいますか?
JALの新規事業組織であるデジタルイノベーション本部には、新規事業を生み出す仕組みを作る機能、業務のデジタライゼーションを行う機能、CVC(Corporate Venture Capital)を持ち投資を行う機能などがあります。また、これらの活動から生まれたエアモビリティ(※)事業については、より本腰を入れて事業化すべく、スピンアウトする形で新たに部署を設立しました。
――CVCの機能も持ち、事業創出に取り組まれているのですね。
日本のレガシー企業では「スタートアップに投資したい」と言っても、社内の決裁をとることに時間がかかることが多いとよく聞きます。リスクやリターンを考慮する必要がありますから仕方がないことではありますが、最終判断が下りるまで1年かかったりすることもあるんです。しかしスタートアップの市場は変化が速いですから、1年経つと状況も一変しており「もう大丈夫です」となってしまうケースが多い。そういった背景から、社内にCVCを作ることにしました。
CVCを作ることで、他社とパートナーシップを組み事業シナジーを生み、よりスピーディーに事業創出を目指せるようになりました。
JALで「ドローン物流」と「空飛ぶクルマ」に挑むワケ
――なるほど、因みに力を入れていらっしゃるエアモビリティ事業について、詳しく伺えますか?
エアモビリティ事業は、「ドローン物流」と「空飛ぶクルマ」の2つの軸で、それぞれ実証実験中です。
まず「ドローン物流」。2023年度の事業化を目指し、現在は主に物流が難しい過疎地などで物資を運搬する実証実験を行っています。
「空飛ぶクルマ」は、2025年に開催される予定の大阪・関西万博での実用化に向けて、お客さまを空飛ぶクルマで運ぶためのチャレンジをしています。
――「ドローン物流」や「空飛ぶクルマ」を軸に、エアモビリティ事業に力を入れてらっしゃるのですね。
エアモビリティは、多くの社会課題の解決に繋がります。お客さまに物が届くまでの区間である「ラストワンマイル」をいかに縮めるか?という課題があるように、山岳地帯などでも道路を整備することなく、短い期間で物を運ぶことが求められています。
この市場では、エアモビリティの技術が普及していく必要がありますが、普及までの過程で出てくるテーマは「安全性の担保」でしょう。安全性が担保されず、一度でも事故が起きればサービスが定着することもないと思います。
我々はエアモビリティの事業自体も行う予定ですが、同時にそれらの安全を支える"システム"や"オペレーションのノウハウ"の展開も行っていく予定です。航空事業で長年培ってきた技術やノウハウでこそ、この領域で価値を提供できると考えているのです。
成田に観光農園!?見出された可能性と課題感
――実証実験を行った案件で印象的だったものがあれば、可能な範囲で教えてください!
旅をバーチャルで体験できる「JAL xR Traveler」の実証実験を行いました。お客さまにはVRゴーグルを掛け、ロボットの手を握ってもらいます。そうするとバーチャルで現地のガイドや客室乗務員の映像が見えて、観光地をガイドしてくれるのです。ロボットにはウォーキングマシンや匂いのデバイス、さらには送風装置も付いており、例えばハワイに行ってバーベキューの香りがしたり、魚市場に行くと磯臭かったり、風や波しぶきを肌で感じられたり。お客さまはあたかも本当に現地で手を引かれて街を案内されているかのような体験ができるのです。
実証実験も上手くいったので、市場に展開していこうと思っていましたが、コロナ禍でVRの装着やロボットとの接触の制限が生まれ、現在は一旦ストップしています。
――xR Traveler、とてもユニークですね!事業化した事例はどういったものがありますか?
投資を行っている中で面白いものは、成田空港の近くで観光農園などを行う「JAL Agriport株式会社」でしょうか。果物・野菜の収穫体験や、地産地消を目指したレストランやオンラインショップの運営を行っています。
現地には空港で業務を行っていたメンバーや本社の間接部門のメンバーが手伝いに行き、レストランで働いたり、観光農園で収穫した芋で芋焼酎を作って売ったり、地元の食材を使ってレストランで料理を提供していたり、土のpH(※)について議論したりしていますよ。
コロナの影響もあり観光事業は厳しい側面もあり、私たちがいかに航空事業以外のビジネスモデルを知らないかを思い知るきっかけにもなりました。農園は天候にも左右されるので、強風によってハウスが飛んでしまったり、雨が続いて客足が落ちたりと、予想外の出来事への対応も必要です。
航空事業は、基本的にオペレーションを分担して行うことが多く「工程をいかに上手に進めていくか?」が最も重要。そのため新規で事業を立ち上げビジネスとして回すためのノウハウが不足しているのだと感じています。会社としてもこれらを身に着けていかなければならないと痛感しています。
>>次回 【JAL編 #4】コロナ禍で気付かされたリスクと可能性、JALが見据える未来とは?につづく
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※本記事の内容は2022年9月時点のものです。