Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、ライオン株式会社(以下、ライオン)。ライオンでは新価値創出をリードするビジネス開発センターを2020年に設置し、事業の拡張・進化を行っています。
ライオン株式会社 ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 部長 樫田 航太郎(かしだ・こうたろう)さんが語る、企業内で新規事業を創出のためのライオン流のアプローチとは?生まれた最新の新規事業と、今後の戦略は?ライオンの新規事業組織のリアルに迫ります。
事業収束を「失敗」で終わらせない方法
――どの企業でも生み出した事業全てが成功するわけではなく、撤退するタイミングや基準の判断が難しいと聞きます。樫田さんの組織で、事業撤退の判断を行うことはありますか?
全ての事業が上手くいくわけではないので、もちろん撤退の判断を行うこともあります。私が一番気を付けているのは、事業がズルズルと続かないようにすること。事業を育成する過程でいくつかのゲートを設け、次のゲートに進む基準に達しない場合は、撤退またはピボットをするように管理しています。
その判断の結果、残念ながら終わってしまう事業はありますが、それは失敗ではなく学びだと捉えています。その学びは唯一無二なので、それを次に活かせる仕組みを作り、ノウハウとして社内の事業に活かしています。
――プロジェクトの撤退が決まった時、プロジェクトとの向き合い方で意識していることはあるのでしょうか。
シンプルに「失敗ではない」という認識でいることです。新規事業の立ち上げや推進を通じて学んだことをどう次に活かすかが大切です。事業が収束する時には、プロジェクトメンバーには振り返る時間を設け、それを知見として社内にシェアしてもらっています。そして、そのメンバー自身もまた、新たな新規事業などの領域で活躍しています。
答えはいつもお客様の中にある
――樫田さんが新規事業の組織をマネジメントする上で、大切にしているルールや考え方はございますか?
ビジネスインキュベーションに所属しているメンバーは、新規事業のオーナーとして100%専任で事業開発をしています。だからこそ、メンバーの主体性やそれぞれの想いを大事にしたいと思っています。
また、もう1つ大切にしているのはご説明したように「答えはいつもお客様の中にある」ということ。新規事業を推進していると、プロジェクトがなかなか前に進まなかったり、議論が平行線になったりすることもあります。そういった時はお客様になり得る層へのヒアリングなどで、その答えを導き出すようにしています。
――新規事業推進の過程で一貫して「お客様」の視点を持ち続けることは、難しいからこそ重要なのだと思います。樫田さんは今後どのような新規事業に挑戦したいですか?
個人的に特に注目しているのは、ウェルビーイングの領域。ウェルビーイングは「幸せ」とも翻訳されますが、日々の生活の中にある幸せは、心身共に良好でゆとりがないと見落としてしまいがちです。ウェルビーイング領域での新規事業の提案を通じて、そういった幸せを感じ取れる機会をお客様に届けたいですね。事業アイデアとして考えられるテーマも、心やマインドに訴えかける方法や、身体に対するアプローチなど、さまざまな可能性があると思います。
目指すのは歯みがきの「次」の新習慣
――樫田さんにとって「新規事業」とは?
「新しい価値の提案」です。これまでにない新しい価値をお客様に受けて入れてもらい、徐々にそれが習慣になっていくことが、我々にとっての新規事業です。
歯みがきの習慣は今でこそ当たり前で、食後に毎回歯みがきをする方もいらっしゃると思います。しかし以前は、歯みがきは夜1回だけ行うのが一般的でした。当社は、様々なテレビCMや小学生歯みがき大会などを通じて、長年「食後の歯みがき」という習慣を提案してきました。今や、子どものむし歯が少なくなってきているというデータもあり(※)、歯みがきという1つの習慣の提案が、人々の健康やより良い生活につながっていったと考えています。新規事業を通じて歯みがきと同じくらいインパクトがある次なる価値を提案し、それを習慣にしたい。私はそう考えています。
――企業で新規事業に関わる方々に向けて「これだけは伝えたい!」ということはありますか?
我々も試行錯誤しながら、新規事業開発に取り組んでいます。新しい試みを、幅広い組織のさまざまな方々と一緒に創り上げていきたいです。
ライオンもそうですが、自社だけで出来ることは限られていると思います。この記事を読んでくださった社外の方々と一緒にコラボレートするきっかけが生まれれば、と期待しています。我々の組織ではこれまでも他社とのコラボレーションの実績があり、互いに足りない箇所を補い合うだけでなく、強みを掛け合わせることで相乗効果が生まれ、アウトプットの価値が膨らみました。1+1=2ではなく、それ以上です。
主語は「ライオンが」「他社さんが」ではなく、常に商品・サービスを手にする「お客様」。それはコラボレーションをする際にも大切にしたいポイントです。
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ライオン株式会社 ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 部長 樫田さんに迫った今回の「大企業×新規事業 -Inside Stories-」。
インタビューのハイライトをまとめます。
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※本記事の内容は2023年4月時点のものです。