Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)。凸版印刷では、事業領域の拡大と新たな価値の創出を図るべく、福岡を拠点とする新規事業組織を2017年に設立。スタートアップ企業などの事業アイデアと凸版印刷の経営資源を融合させ新規事業を共創する、公募型のオープンイノベーションプログラムなどを実施しています。
凸版印刷株式会社 九州事業部 ビジネスイノベーション営業本部 DX推進部 部長 高 博昭(たか・ひろあき)さんが語る、福岡を拠点に新組織を立ち上げたワケと福岡ならではのメリットとは?これからの凸版印刷が注力する領域と、高さんご自身のターニングポイントとなったある事業とは?凸版印刷の新規事業組織のリアルに迫ります。
凸版印刷は、もはや“古くて重い印刷会社”ではない
――凸版印刷と聞くと、「TOPPA!!!TOPPAN」のCMを想起する人が多そうです。ダイナミックなイメージのCMですが、改めて社風を教えてください。
最近は凸版印刷のCMをご覧になった方も多いようですね。CMでもキーワードになっている「すべてを突破する。TOPPA!!!TOPPAN」というブランドコピーは、凸版印刷が実現しているさまざまな領域での課題解決力をより多くの方々に知ってほしいという想いから生まれました。
「凸版印刷はどんな会社ですか?」と、周りからもよく聞かれます。僕はCMやブランドコピーの通り「突破する会社」だと思っています。
印刷会社と言うと、古くて重たいイメージがあるかもしれません。会社の規模が大きいこともあり、やはり新しい挑戦には慎重で、腰が重たい一面もまだ残っていることは確かです。
しかし個人的には凸版印刷に古いイメージはありません。今の凸版印刷には、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を推進し、会社自体をトランスフォーメーションしようという動きがあります。新たな価値を生み出すべく、闊達な雰囲気が醸成されているのです。
――歴史がありながら、闊達な雰囲気の会社なのですね。社員もチャレンジ精神のある方が多いですか?
そうですね、特にここ5、6年でそういった雰囲気が出てきました。
凸版印刷はもともとBtoBがメインの事業で、幅広い業界とのお取引がベースになっています。それもあって、従来の社風は“落ち着きがある・真面目に取り組む・技術を大切にする”イメージが強かったと思います。10年ほど前までは「新しいことをしなければならない」という危機感も、特に会社にはなかったと記憶しています。
しかし最近は「既定路線だけではなく、新たな価値創造が必要だ」という雰囲気が醸成され、国内外に多様なサービス・製品をお届けする企業になりました。例えば情報コミュニケーション領域ではメタバースやマーケティングDXへの取り組み、生活・産業領域では製造DXサービスの提供やGLフィルム(※)などの環境素材開発、エレクトロニクス領域では調光フィルムの開発などなどを行っています。
――ここ数年で社員の意識も変わったとのこと、何か特別な取り組みがあるのですか?
九州エリアでは、中堅社員を対象とした人材育成のプログラムにも力を入れています。これは、新規事業を創出するべく、社員が約半年間でアイデアを生み出しビジネスモデルを作り、役員に提案する仕組み。筋の良い案件があればその場で予算を付けるようにしています。
管理職やマネージャーは社員に、このような新しいことへの挑戦の機会を提供することも大切な仕事の1つ。本人達にやる気や意思があれば、期限や予算の上限は設けつつも、枠組みを整えて精一杯サポートするようにしています。
新規事業にチャレンジしなければ、この先の未来は描けない
――高さんがリードされている新規事業組織は、どのようなきっかけで立ち上がりましたか。
きっかけは2016年の冬に行った中期戦略を検討するミーティングでのこと。当時の九州・西日本エリアの幹部が集まる合宿で「3年、5年先を見据えてこれから何をすべきか」をテーマに議論を行ったのです。僕は当時、企画販促の部署でマネージャーをしており、そのミーティングのファシリテーションを行っていました。
ファシリテーションをしながら九州事業部全体として取りまとめた結論の1つが、「新たな事業開発にチャレンジしなければ、この先の会社の将来は描けない」ということ。それをそのまま形にしたのが、この新規事業の部隊です。
――高さんが出した1つの結論から生まれた組織なのですね。
僕が言い出したから、僕がやることになりました(笑)。このミーティングが行われたのが冬で、その数か月後の4月には部署が設置されました。当時の名称は、ビジネスイノベーションチーム。メンバーは僕も含めてわずか3人からのスタートでした。この組織の立ち上がりは、特に九州・西日本エリアの凸版印刷にとって、ターニングポイントでしたね。
――組織ではどのような活動をされていますか。
活動内容は、組織の立ち上げ期からフェーズによって段々と変化してきました。
最初は3人で「何から始めよう?」という議論をすることからスタート。それから新規事業創出のための仕組みを確立していって、2017年からはオープンイノベーションプログラム「co-necto」を開始。このプログラムは今年で6回目となり、凸版印刷と地域のパートナー企業、スタートアップ企業で共創する”実証型”プログラムとして、3社で新たなサービスやソリューションを生み出す取り組みを行っています。
活動の目的は変わっていませんが、組織の名前は活動内容によって変化してきています。「ビジネスイノベーションチーム」から「事業開発部」になり、現在は「DX推進部」に。今は特にDXを起点とした製品サービス・事業開発を大きなミッションとしています。メンバーは徐々に増え、現在は約20人で活動しています。
本社がある東京でなく“福岡”を拠点にしたワケ
――新規事業組織は、本社がある地域を拠点にする企業が多いと聞きます。凸版印刷さんの場合、本社は東京ですが敢えて福岡を拠点に組織を展開することにした理由は?
組織の立ち上げ当時は、ちょうど福岡で行政もスタートアップ支援に力を入れ始めたタイミングでした。国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」として、スタートアップ企業やIT企業の誘致、税制優遇や各種手続の簡素化が進んだり、凸版印刷の九州事業部オフィスから約10分の距離に、官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」が出来たり。
このような外的な環境もあって、新規事業を推進する手段の1つに「スタートアップ企業との事業共創がハマるんじゃないか?」と考えました。そしてスタートアップ企業との協業を行っていくのであれば、福岡を拠点にすることが得策だったのです。加えて、凸版印刷の九州事業部は他エリアと比べても特に、地元の企業と古くからの密接なお付き合いがあり、知名度も高いことが特徴。
手探り状態からのスタートでしたが、こういったさまざまなチャンスを捉え、福岡を拠点にすることを決定。スタートアップ企業などの外部リソースも上手く活用して新規事業創出のスピードと数を上げることにしたのです。
――実際に福岡で活動をしてみて、どうですか?
行政の動きもありましたし、我々も他企業との関係性を地道に構築してきて、ネットワークがより広がってきています。福岡を拠点にしたからこそ生まれた事業もたくさんあります。
付け加えると、福岡の県民性が新規事業の創出に合っているのかもしれません。「困っている人がいたら助けよう」という気質があったり、他社に勝って1社で先を走ろうというよりは「横連携で一緒に頑張ろう」という空気があったり。オープンで柔らかい雰囲気があるからこそ、僕らが新規事業の活動を始めた時にも、地元ではすんなりと受け入れてもらえました。
>>次回 【凸版印刷編 #2】 初めての新規事業を成功に導いたのは “基本”と“熱量”だった につづく
凸版印刷編 インタビュー記事・動画一覧はこちら
※本記事の内容は2023年1月時点のものです。