2023.06.05
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【資生堂編 #2】物理化学の研究員が、ゼロから「fibona」を立ち上げるまで

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、株式会社資生堂(以下、資生堂)。資生堂では研究開発拠点であるみなとみらい地区の資生堂グローバルイノベーションセンター(以下、GIC)にて、オープンイノベーションプログラム「fibona」に取り組んでいます。fibonaは資生堂の研究員と外部のさまざまな人と知の融合から新たなイノベーションを目指しています。

株式会社資生堂 fibonaプロジェクトリーダー 中西 裕子(なかにし・ゆうこ)さんが語る、研究所発でfibonaが立ち上がったワケ、クラウドファンディングで話題を呼んだ意外なプロダクト、資生堂が注目する新たな領域とは?資生堂のオープンイノベーション推進組織のリアルに迫ります。

どうやったら研究員が活躍できるか?

――オープンイノベーションプログラムをリードする中西さんにとって、これまでのキャリアで一番糧になっている経験は?

資生堂の研究所内で行われている研究提案制度でリーダーとして制度自体の企画・実行を担った経験が糧になっています。この制度は、研究員から「こういう研究をしてみたい」「PoCをやりたい」などの提案を集めるもので、ボトムアップで研究を推進する活動の1つでした。

それまで私は1人で研究をしたり、研究プロジェクトでメンバーと一緒に研究成果やプロダクトを作ったり、という日々を送っていました。自分自身の努力が成果に直結していたんです。しかし研究提案制度をリードするとなると、私はあくまでも制度を企画し、手を挙げてきた研究員それぞれが成果をあげられる場を作る役割。自分1人が頑張っても求めるアウトプットが出るわけではありません。自分が研究の主体ではなく「制度に参加する研究員がどうやったら活躍できるか?」を徹底的に考え試行錯誤しました。その経験が、fibonaというオープンイノベーションプログラムをリードする上で糧になっています。

fibonaが開催したミートアップの様子
fibonaが開催したミートアップの様子

――社内提案制度は、fibonaの活動に通ずる要素が多そうです!

はい、実は社内提案制度がきっかけとなり、今はS/PARKを舞台に活動しているプロジェクト「S/PARK Studio美活ジム」があります。これは研究員がお客さまに、スキンケアや表情づくりについてのレクチャーを行うプログラム。オリジナルの表情解析アプリや最新の研究知見などを取り入れながら、身体のストレッチや顔のセルフエステ、表情筋を鍛えるフェイスマッスルエクササイズなどを行います。近隣のホテルなどにも興味を持っていただき、出張する形でプログラムを導入した実績もあります。

美活ジムのイメージ
美活ジムのイメージ

美活ジムのアイデアは研究提案制度から生まれ、進化を続けています。研究提案制度とfibonaが私の中で繋がり、起案した研究員が活躍している姿を見ると、やってよかったな、と実感します。

2キロの保湿液を200パターンも⁉ 研究員として挑んだ新商品立ち上げ

――ちなみに個人的にもとても気になるのですが、中西さんご自身の研究分野は?

私は大学院では物理化学を専攻しました。資生堂の分野でいくと、化粧品の中に含まれる素材の物理学的特性が専門領域です。例えば「のびが良い」「みずみずしい」といった特性をどう作り出すか?水と油をどう混ぜるか?などを研究してきました。

私は物質の境界領域に興味があるんです。混ざりにくいと言われている水と油の境界もそうですし、気体である空気と、固体であるテーブルの間がどうなっているんだろう?パウンドケーキの断面の縞はどういう仕組みなんだろう?など。乳液やクリームが白く見えるのも、実は水と油の絶妙な融合の結果だったりします。純粋な興味から物理化学を専攻し、資生堂に入社後はしばらくこの分野の研究に携わりました。

――資生堂の商品はあらゆる側面からの研究を経て生まれているのですね。携わった商品の中で最も印象的だったものは?

現在はリニューアルをされているのですが、ローンチ時の立ち上げに携わった「SHISEIDO フューチャーソリューションLX」という保湿液が思い出深いですね。これはデパートなどで販売している黒いパッケージのもので、今は「コンセンティッド バランシングソフナーe」と呼ばれています。私がかかわった当時の保湿液は保湿力が高い製品で、みずみずしさと馴染みの早さを両立していて、なめらかでもっちりとしたテクスチャでした。

立ち上げ時は1年間ほど試作を繰り返して、最終的に200パターンくらい作った記憶があります。平均すると1日に2キロほどの保湿液を約10パターン作り何個かのスクリュー瓶に分けて、保管状況を変えて安定性を見たり、配合を変えてみたりを繰り返しました。

――200パターンもの試作品を作るとは驚きです。研究のご経験も今に活きていますか?

もちろん化粧品の研究をしてきた知見はダイレクトに今に活きています。
あと、私にとってはfibonaでの活動も日々実験であり研究です。例えばトップダウンでリクエストされる案件とfibonaから生まれるボトムアップのプロジェクトを繋げてみたり、逆にfibonaで出会ったスタートアップ企業と社内の研究を繋げてみたり。fibonaの組織運営も楽しみながら、一種の研究のように試行錯誤を重ねています。

妨げられない「社会や会社の変化」という壁

――組織を作り拡大する過程で、立ちはだかった壁はありましたか?

立ち上げる時には壁はあまりありませんでした。しかし、fibonaを立ち上げた2019年から今に至るまで、これで良いのか?と思うシーンはたくさんありました。社会や会社の変化と共にfibonaが求められることも逐一変わります。例えばコロナ禍で社会は一変しましたし、会社からのリクエストも常にアップデートされています。
その変化が壁と言うか、重要なポイントでした。

――社会や会社の変化という一種の壁を、どうやって乗り越えたのでしょうか。

変化は妨げられないので、じゃあその変化にfibonaをどうアジャストするか?を考えました。周囲の変化を先回りして捉えて、前以って組織を続けていくための手を打つのです。このサイクルが回り始めると、変化を予測することもインサイト発掘みたいで面白くなりました。とはいえ打った手が当てはまらないことも多々あるのですが、そのマインドで日々コミュニケーションをするようにしています。

――壁を予測しアジャストする。それを「面白い」と表現される中西さん、常に前向きに楽しんでいらっしゃる印象を持ちました!

ありがたいことにfibonaに関心を持って下さっている方がいて、それがfibonaの拡張に繋がっています。例えば、研究所内の製造施設で製造が可能になったという実績が出ると、社内の他部署との連携が進みました。また、fibonaを海外でも展開するのはどうか?という話から、昨年には中国の研究所でチームが結成され「fibona China」が誕生しました。fibona Chinaでは日本と同様にスタートアップ企業どの協業なども行っており、現在PoCを数件行っています。これらも広がりは、最初は予測もしていなかったことなので、自分でも驚きつつありがたく思っています。

中西さんの画像

>>次回 【資生堂編 #3】顔色めざめるフィルム型サプリ、香料研究から生まれた4種のスティック状クリーム につづく

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※本記事の内容は2023年6月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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