2022.06.09
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【JR東日本編 #2】アウェイ戦で培った新規事業マインド「いい汗かこう!苦しいけど」

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、JR東日本グループのCVC(Corporate Venture Capital)であるJR東日本スタートアップ株式会社(以下JR東日本スタートアップ)。ここでは、一般のスタートアップ企業のアイデアや技術とJR東日本グループの経営資源を繋ぎ、実証実験や事業化をサポートしています。

JR東日本スタートアップの代表取締役社長 柴田 裕さんが語る、会社設立の秘話やスタートアップ企業との共創に挑む理由とは?社会インフラを持つJR東日本だからこその"強み"と、その裏腹にある"苦労"とは?
これまでに92件のPoC(実証実験)を行い、そのうち41件を事業化してきたJR東日本スタートアップのリアルに迫ります。

ロンドンでの経験と同じくらい、大企業の新規事業は"アウェイ戦"?

――柴田さんはJR東日本スタートアップの社長として、数々の事業を生み出しています。これまでのキャリアで一番糧になっている経験は何ですか。

僕は新卒でJR東日本に入社しましたが、1995年から数年間、ロンドンにある証券会社に出向していた時の経験がボディブローのように今も活きています。当時のJR東日本は日本国有鉄道(国鉄)から分割民営化して、民間企業としてファイナンス面でもノウハウが必要になっていた時期。そのため証券会社でファイナンスの勉強をしてこい、と20代だった僕も出向することになったわけです。「障子を開けてみよ、外は広いぞ」という豊田佐吉の有名な言葉がありますが、僕はロンドンでこれをリアルに体感しました。

当時のロンドンでの仕事は完全なる“アウェイ戦”で、今のJR東日本スタートアップでの新規事業を創る過程とすごく似ているのです。

――具体的にどんな点がアウェイだったのですか?

ロンドンではひたすら投資家と会い交渉をしました。しかし彼らは「なぜ君は会社のストックオプションを持っていないのに頑張って働いているのか?」「なぜ運賃を値上げしないのか?」と、思いもよらない質問を投げかけてきました。正直、驚きの連続でしたね。

会議室の長机を挟んでスーツの人達が話し合いをしているイメージ写真
イメージ:出向先での交渉の数々

ロンドンにいる間、カルチャーショックを受けることが多かったです。日本では当たり前だった価値観が、ロンドンでは真逆。僕にとって“完全なるアウェイ戦”であることを実感しました。

しかし、文化も言語も考え方も違う投資家の方々にも真摯に向き合い会話を重ねれば、交渉は成立したのです。アウェイ戦だったにもかかわらず、諦めが悪い僕は「どんな状況でも粘り強くやり続ければ、結果が出る」ことを知りました。

――アウェイな環境でも交渉を成立させる。その経験が今も、ボディブローのように活きているのですね。

ロンドンでの経験を経てアウェイ戦には慣れたのだと思います。どんな人でも諦めない。どんなことでもやり続ける。スタートアップ企業とのコミュニケーションも、JR東日本本社とのコミュニケーションも、僕らはアウェイな立場になってしまうことが多いです。お互いになかなか分かり合えないことも多いですが、逆境に負けなければ最適解が見つかります。

身振り手振りを交えてインタビューに答える柴田さんの写真

マインドは「いい汗かこう!」、合言葉は「黄色い線の内側でやんちゃしよう!」

――新規事業の組織をマネジメントする上で大切にしているマインドはありますか?

「いい汗かこう!忙しいけど、苦しいけど」というマインドは、今もJR東日本スタートアップのDNAになっています。これは会社を設立した2018年、オフィスのホワイトボードに僕が書いた言葉。初期の立ち上げメンバーを元気づけるために書きました。

会社立ち上げ当時の僕らは"アウェイ戦"真っ只中でした。JR東日本スタートアップという会社を立ち上げたばかりで、誰も僕らを歓迎してくれないのです。JR東日本本社には「新規事業は必要無いから」と拒否されたり、スタートアップ企業からは「JR東日本スタートアップって一体何してるんですか?」と怪しがられたり。

アウェイ戦は大変です。ロンドンでも同じように辛い思いをしました。ただそんな時こそ、気持ちを明るくしないと、持たないですよね。上を向いていこうぜ、いい汗かこうぜというメッセージを込めたのが、この言葉です。

ホワイトボードに文字が書かれている WE ARE...『明日』創造ステーション、WE ARE...JR東日本”三河屋”、いい汗かこう!!、忙しいけど、苦しいけど、つらいかもしれないけど
当時のホワイトボードの写真

――新規事業組織のトップとして、メンバーにも逆境に負けない姿勢でいることを共有されているのですね。

僕らに限らず、新しい事業を0→1で創り出そうとしている人々の大半はアウェイ戦だと思います。しかし、そこで気を落としていたら事業は生まれません。

新規事業に取り組む上での心構えとしては、「黄色い線の内側でやんちゃしよう!」という言葉もJR東日本スタートアップの共通認識、合言葉になっています。“黄色い線の内側”は駅のホームにある黄色い線のこと。この言葉は共創するスタートアップ企業にも共有しています。

やんちゃしないと新規事業は生まれません。一方で、JR東日本は鉄道・駅などの社会インフラを取り扱う大企業で、人命を預かっています。決して超えてはならない線がある、それが“黄色い線”です。黄色い線は守るからやんちゃをさせてくれ、そういった心構えで交渉をすることもあります。

JR東日本スタートアップのオフィス内の看板の前に並んでいるメンバーの写真
JR東日本スタートアップ株式会社の現在のメンバーの皆さま(左から4番目が柴田さん)

0→1は難しい、しかし社会インフラで1→10→100に育てられる

――柴田さんが考える、新規事業に取り組む醍醐味はズバリ何ですか。

「JR東日本」と「スタートアップ企業」との共創によって、0→1を創り、それをやがて1→10に、10→100にスケール大きく育てていけることですね。それはJR東日本が社会インフラを持っているという強みがあるからこそ実現できます。
JR東日本のような歴史ある大企業では、さまざまな壁が多い上に社員の多くは既存事業で忙しく0→1を生み出すことが難しいです。一方でスタートアップ企業は素晴らしいアイデアや技術を持っているものの、彼らだけの力ではそれをスケールさせていくことが難しい。その課題を両者の掛け算で解決し、事業を10にそして100に育て上げスケールさせていくことができます。

最近、とあるスタートアップ企業では「ビニール傘の使い捨て」という問題に着目していました。雨が降る度に多くの人がビニール傘を買って、いらなくなったら破棄するサイクルが続けば、いずれ環境は崩壊してしまいます。彼らが持っていたアイデアは「傘のシェアリングサービス」。シェアリングスポットとして駅は最適でした。JR東日本が持つ駅を解放することで、社会実装が進みました。

このように、スタートアップ企業と大企業の掛け算で、社会や地域、そして未来を変えられます。よく「地図に残る仕事」と言いますが、僕たちは「未来に残す仕事」ができます。もっともっと事例を増やして、未来を変えて、いつか僕らの会社から生まれた事業の数々を、いずれ孫に自慢したいですね。

身振り手振りを交えて笑顔でインタビューに答える柴田さんの写真

>>次回 【JR東日本編 #3】動くホテル、無人コンビニ、陸上養殖?923件から選ばれた41件 につづく

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※本記事の内容は2022年6月時点のものです。

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Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から8年で、100件以上の事業化検証、19の事業を創出(2022年3月末時点)。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、新規事業支援サービスとしてみなさまにご提供しています。

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