Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、ライオン株式会社(以下、ライオン)。ライオンでは新価値創出をリードするビジネス開発センターを2020年に設置し、事業の拡張・進化を行っています。
ライオン株式会社 ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 部長 樫田 航太郎(かしだ・こうたろう)さんが語る、企業内で新規事業を創出するためのライオン流のアプローチとは?自社のアセットを活かして生まれた最新の新規事業と、今後の戦略は?ライオンの新規事業組織のリアルに迫ります。
異変が起きたら立ち返るデザイン思考の「プロセス」とは?
――新規事業組織を推進する過程で、立ちはだかった壁はありますか?
ライオンは生活用品分野で知名度があるため、これまで既存事業を軸に事業を展開してきました。そういった背景もあり、「飛び地の開拓」の戦略に則った新規事業においてはやることのほぼ全てが手探り。新規事業を着実に生み出し拡大していくための過程そのものが、我々にとっては高い壁でした。
現在も試行錯誤をしながら壁を乗り越えようとしている最中です。ビジネス開発センターが発足して3年経ち、最初に定めたルールや仕組みをもう一度見直すタイミングに来ています。よりスピーディに事業を開発していくために日々仕組みやルールをアップデートしながら取り組んでいて、私自身は過去の経験が活きることが多いです。
――過去のキャリアが活きているのですね!これまでで一番糧になっているご経験は?
私は新卒で入った会社では主に営業に携わり、その後ライオンには中途で入社しました。ライオンに入社した後は、商品企画を経てオーラルケア事業部でUXデザインに携わり、2021年から今の組織を統括しています。
一番糧になっている経験と言えば、今の組織に参画する前に取り組んでいた、UXデザインの仕事でしょうか。
私は当時、オーラルケア商品を広く扱う事業部に所属し、この領域での新規事業創出に取り組んでいました。事業部内にあるいくつかの新規プロジェクトに対して、私はUXデザイン面でサポートを行いました。
商品・サービスを使うお客様の視点に重きを置き、どういった体験をしてもらいたいか?そのためにはどういった仕掛けが適切か?常にお客様の体験を一番に考えることが、事業創出の近道でした。
UXデザインに携わる中で知った「デザイン思考」に基づくプロセスも、今の組織をリードする上での基本になっています。未知の課題に対しては、常に現場でお客様となる層の行動観察をして、本質的な課題を発見する。そして完全形でなくても良いのでプロトタイプを作り改善を繰り返しながら、アイデアを精緻化していく。このプロセスは頭では理解できていても、当事者となり実行するのは意外と難しいです。プロジェクトに何か異変が起きれば、すぐにこのプロセスに立ち返り、適切な対処を行うようにしています。
「ガリガリ君香味のハミガキ」と画期的な「Y字型デンタルフロス」
――お客様を起点に考えるプロセスはどの新規事業にも共通するのですね。ちなみに、樫田さんがこれまでに携わったライオンの商品を教えてください!
強く記憶に残っている商品が2つあります。1つは、「ライオンこども ハミガキ」シリーズの、アイスキャンディー「ガリガリ君(※1)」の香味を再現した数量限定品。これは子どもに自発的に楽しんで歯みがきをしてもらえるように、という狙いで企画したものです。
歯みがきが好きではない子どもが多く、それを課題に感じる親御さんが多いことがわかっています。この課題を解決するために、どうやって子どもの歯みがき時間を楽しくするか?を徹底的に考えました。そこで出てきた答えが、歯磨き粉の匂いや香味、パッケージに描かれるキャラクターを工夫すること。子どもに人気のある匂いや香味は?馴染みのあるキャラクターは?リサーチと検討を重ね、赤城乳業株式会社の代表的な商品である「ガリガリ君」とのコラボレーションが実現しました。2012年の発売から、毎年少しずつ香味を変えて発売しており、これまでソーダ香味、パイン香味、レモンスカッシュ香味、コーラ香味などを展開してきました。毎年夏に限定で発売していますが、毎回今年も販売されるのかという問い合わせが来るほど、根強いファンが多い人気商品です。
もう1つは、「クリニカアドバンテージ デンタルフロスY字タイプ」です。これは歯間みがき用のデンタルフロス。この商品の最大の特長は、初心者でも使いやすいよう、Y字形状になっている点です。
従来のデンタルフロスは糸巻タイプや平面のタイプが一般的で、慣れないうちは奥歯と奥歯の隙間までフロスが届かなかったり時間がかかってしまったりと、課題が多くありました。これらの課題を解決すべく、形状をY字にすることで使いやすさを追求したのです。この商品の企画にあたって、研究職から生産の部署の方々まで多くの方々との連携を経て、発売に至りました。
――ターゲット層や課題の異なるさまざまな商品の開発に携わってらっしゃったのですね!
商品企画と今取り組んでいる新規事業、この2つに共通しているのは「答えはお客様の中にある」ということです。商品や事業そのものの価値はお客様が決めるもので、我々が決めるものではありません。
プロセスや思考法という意味ではUXデザインの経験が、商品の企画から販売に至るまでの一連の事業開発フローに携わった点では子ども向け歯みがき粉やY字デンタルフロスの経験が今に確実に活きています。
>>次回 【ライオン編 #3】お口のフィットネスサービス、ドライバーの事故防止…、ライオンの新規事業 誕生秘話 につづく
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※本記事の内容は2023年4月時点のものです。