2023.04.24
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【ライオン編 #3】お口のフィットネスサービス、ドライバーの事故防止…ライオンの新規事業 誕生秘話

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、ライオン株式会社(以下、ライオン)。ライオンでは新価値創出をリードするビジネス開発センターを2020年に設置し、事業の拡張・進化を行っています。

ライオン株式会社 ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 部長 樫田 航太郎(かしだ・こうたろう)さんが語る、企業内で新規事業を創出するためのライオン流のアプローチとは?自社のアセットを活かして生まれた最新の新規事業と、今後の戦略は?ライオンの新規事業組織のリアルに迫ります。

運輸・運送業界が直面している「深刻な課題」を解決

――ライオンではさまざまな新規事業に取り組まれていると伺いました。事業化した案件の中で印象的だったものは?

特に印象的な事業が3つあるので、1つずつ紹介します。
1つ目は、睡眠を専門とする研究員からの提案で生まれたドライバーの事故を防止するための「コンディションナビ」です。

コンディションナビ 職業ドライバーの体調(睡眠/疲労感)を見える化・共有し、安全な運転業務を支援するサービス。リストバンド型デバイスをドライバーが着用するだけで毎日の睡眠状態に関する項目を測定、見える化し、サービス利用者一人ひとりのその日の体調に適した生活習慣アドバイスをスマートフォンアプリで提案。

コンディションナビは、運輸・運送業界のドライバーの体調を可視化し運行管理者と共有することで安全な運転業務を支援するBtoBのサービス。ドライバーの労働環境は、高齢化や長時間労働などさまざまな問題を抱えています。ドライバーの睡眠不足が集中力や注意力の低下を招き、交通事故に繋がるケースが多く、この課題を解決すべくコンディションナビが立ち上がりました。

このサービスを使うとドライバー自身が自分の体調の変化に気付けますし、異変があった際には運行管理者にもアラートが出ます。そうすると「このドライバーは今日疲れているから、担当を変えよう」などの対応が可能になり、事故のリスクを未然に防ぐことが出来るのです。

――運輸・運送業界をターゲットにしたBtoBビジネスは、ライオンの既存事業とは全く違うイメージがあります。

そうですね、アプローチとしては既存事業とは違う手法を取っていますが、テーマは人の健康に直結する睡眠です。睡眠の領域はライオンが長年研究を重ねている分野で、強みとしています。

この事業は、ライオン内で睡眠を専門とする研究員の提案から生まれました。現在その研究員が事業のオーナーとなり、ビジネスインキュベーションに所属し事業を推進しています。

50~60代にターゲットを絞り、「新しい習慣」の定着を狙う

――コンディションナビは技術や知見から生まれた事業なのですね。2つ目の印象的な事業はどういったものですか?

2つ目は、50~60代の方々をターゲットにした、お口のフィットネスサービス「ORAL FITです。年齢と共に出てくる「むせる」「話しづらい」「嚙みづらい」などのお悩みの要因の1つに、お口の筋力の低下があると言われています。

ORAL FITでは、お口の筋力向上を目指してトレーニングメニューを配信します。サービスに申し込むと、お口の状態を確認するためのチェックキットが届きます。キットを使ってお口の機能をチェックし、その結果をもとに選択していただいたコースに沿って、アプリ上でトレーニングが配信される仕組みです。

お口のフィットネスサービス「ORAL FIT」スマートフォンアプリケーション上で、お口の状態にあわせたトレーニングメニューが毎日配信される。自宅で手軽に行うことができ、1日10分、2ヶ月間トレーニングを続けることで、気になるお口機能の衰えの改善が期待できる。

――ORAL FITはマーケティング・デザイン領域でSSAPが支援させていただいたプロジェクトですね!この新規事業のポイントは、ターゲット層を50~60代にしている点でしょうか?

既存事業では生活用品も幅広く取り扱っているので当然今回のターゲットである50~60代も含まれていますが、ターゲット層を敢えて絞ったのは、新たなチャレンジです。事業領域はライオンが定める4つの提供価値領域のうち「オーラルヘルス」で、新規事業の戦略としては「選択と集中」の施策の1つにあたります。

高齢になると口腔機能も衰えていきます。しかし、年齢とともに変わっていく口腔機能を確認し、悩みに対応して、毎日イキイキと過ごしていってほしい。そういった想いで、50~60代の方々をターゲットにしています。

社内起業プログラム1期生、「飛び地」の新規事業

――ORAL FITはターゲット層をあえて絞った事業なのですね。では最後に、3つ目の事業は?

3つ目は、近くのお店に夕飯づくりをおまかせできるテイクアウトサービス「ご近所シェフトモ

日々の夕飯作りで、献立を何にしようか悩む忙しい子育て中の方々と、街の飲食店をマッチングさせるサービスです。これは、#1でご紹介した通り「飛び地の開拓」のアプローチとしての意味合いもある起業プログラム「NOIL」から生まれた事業で、その1期生でした。

「ご近所シェフトモ」近くのお店に夕飯づくりをおまかせできるテイクアウトサービス。献立は主菜1品、副菜2品の計3品が1人前のセットで、1日、1人前から注文できる。

――NOILから生まれた事業だったとのこと、事業アイデアを提案し、オーナーとなった社員はどのような方ですか?

ご近所シェフトモの事業アイデアを提案したのは、子育て中のライオン社員。当時、自分自身の悩みでもあった「日々の夕飯づくり」の悩みを解決すべく事業を立ち上げました。

この事業は結果的に、アイデアの段階から約2年と比較的早いタイミングでローンチに至りました。NOILとして初の案件だったこともあり、新規事業の進め方や周囲の巻き込み方は、我々の新規事業組織の開発体制作りの面でも学びが多くありました。

事業の領域としては、新たな分野へのチャレンジでしたが、ターゲット層は忙しく働く、子育て中の方々。ライオンの生活用品などは主にこういった方々に購入いただいているので、サービスの領域は違いますがターゲットは一致しています。子育て中のお客様の負担を軽減し、お悩みを解決したい。この想いが、ライオンとしてのチャレンジの意義です。

――伺った3つの領域全てが新たなチャレンジでありながら、ターゲット層となる方々の課題を捉え、ライオンの既存のアセットを活かせる分野だったように思います。

そうですね、運輸・運送業界が抱える課題や、お口の機能低下や日々の家事に関するお悩みやニーズに応えるべく、事業を展開してきました。既存のアセットの面では、コンディションナビは睡眠研究の知見を、ORAL FITはオーラルケア領域の事業・研究の知見を活かしつつ事業を推進しています。

ORAL FITに関しては、人材の面でも既存事業でのノウハウを最大限活かす体制を整えています。プロジェクトメンバーには研究職の社員に加えて歯科衛生士の方にも入ってもらって、専門的なアドバイスをもらいながら進めているところです。

>>次回 【ライオン編 #4】ライオンが狙う「歯みがき」の次の新習慣づくり につづく

ライオン編 インタビュー記事・動画一覧はこちら 

※本記事の内容は2023年4月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により650件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年2月末時点)

バックナンバー

大企業×新規事業 -Inside Stories-

ランキング