2022.06.16
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【JR東日本編 #3】動くホテル、無人コンビニ、陸上養殖?923件から選ばれた41件

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、JR東日本グループのCVC(Corporate Venture Capital)であるJR東日本スタートアップ株式会社(以下JR東日本スタートアップ)。ここでは、一般のスタートアップ企業のアイデアや技術とJR東日本グループの経営資源を繋ぎ、実証実験や事業化をサポートしています。

JR東日本スタートアップの代表取締役社長 柴田 裕さんが語る、会社設立の秘話やスタートアップ企業との共創に挑む理由とは?社会インフラを持つJR東日本だからこその"強み"と、その裏腹にある"苦労"とは?
これまでに92件のPoC(実証実験)を行い、そのうち41件を事業化してきたJR東日本スタートアップのリアルに迫ります。

事業化した41件、"無人コンビニ"から"駅そばロボット"まで

――JR東日本スタートアップでは、これまで41件の事業が生まれています。特に印象的だった事業はありますか?

41件全部が印象的だったので本当は全部紹介したいのですが(笑)、時間が限られているのでピックアップしてご紹介します。

まずは「生活サービス事業」。無人AIレジ店舗「TOUCH TO GO」はいわゆる無人コンビニです。
駅ナカという社会インフラと、スタートアップ企業が持っていたセンシング機能を掛け合わせて、非対面非接触の無人決済システムを創り上げました。実店舗の省人化とコロナ禍での不必要な接触回避を実現。お客様は商品を持ったら、出口でタッチパネルの表示内容を確認し支払いをするだけでお買い物ができます。

無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」 サインポスト株式会社がJR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」構内に開業した、無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」

他にも、駅にあるそば屋でロボットがそばを調理する「駅そばロボット」もメディアに取り上げられ話題になりました。ロボットアームが生そばを番重から取り出した後、茹でる・洗う・締めるという一連の調理工程を行います。駅そば専門店の人材不足問題に対応できます。

「駅そばロボット」 調理ロボットサービスを開発しているコネクテッドロボティクス株式会社による駅そばロボット。

また、「新幹鮮魚」と名付けたサービスもあります。これは水産流通のIT化に取り組む株式会社フーディソンと、JRの持つ新幹線という高速輸送を掛け合わせて創り上げた新規事業です。この両者の掛け算によって、東北や佐渡の海産物を、鮮度そのままに、首都圏のお客様にお届けすることができるようになりました。

JR東日本の本丸である「鉄道事業」でも、新しい事業が生まれ始めています。鉄道メンテナンス現場の業務の効率化・安全性向上を目指すドローンや、音声コミュニケーションデバイスが代表的な事例ですね。

また、無人駅を活用した「無人駅グランピング」という新たな事業も立ち上げました。群馬みなかみにある無人駅をグランピングの聖地にしようというチャレンジです。グランピングの運営ノウハウのある株式会社VILLAGE INC.との事業共創で、地域の魅力を引き出す新たな旅として、多くの方に足を運んでいただいています。
こうした「地域活性化」「SDGs」もJR東日本の重要なミッションです。

SDGsの文脈では、知的障がいや身体障がいのある人が描くアート作品で駅や列車を彩るステーションミュージアムを開催。展示後回収したアート作品をアップサイクル(再利用)して収益化するなど、福祉、アート、駅を組み合わせた新たな価値創出を行う事例です。

地域福祉連動型のアートステーション CSR・CSV・SDGsを軸とした規格のブランディング及びプロデュースを行う株式会社ヘラルボニーによる、福祉アート作品を活用した駅ミュージアムとアップサイクル(再利用)化の実現。

実証実験中、"動くホテル"から"エビの養殖"まで

――今年度の「JR東日本スタートアッププログラム」で採択された案件は、今PoCを実施している段階ですか?

今年は13件のスタートアップ企業を採択し、いずれも実証実験を行っています。①地域共創 ②デジタル共創 ③地球共創(SDGs)、3つをテーマに設定して募集しました。

――可能な範囲で構いませんので…、今取り組んでいらっしゃる実験でイチオシのものがあれば教えてください!

今まさに取り組んでいる事例は記憶に新しいですし、全力でコミットしているのでぜひ紹介したいです。3つの募集テーマに沿ってご紹介しますね。

①地域共創

ウッド調の内装にソファーやローテーブルを設えたVANの中から海岸を眺めている写真と、海岸線の線路に並走するVANの写真

YADOKARI株式会社とチャレンジするのは、モビリティ(VAN)で地域を巡る旅、いわゆる「動くホテル」です。モビリティの特性を生かして、お客様の好みに合わせた場所をめぐり、機動性に富んだカスタムメイドの旅を提供します。実証実験の場所は、東海道線根府川駅という絶景の無人駅です。普段一般の方は立ち入れない保守用地も開放して、特別な旅を提供しました。地域には、駅や鉄道用地も含めて、まだまだ魅力のあるコンテンツがたくさん眠っています。展開余地は大きいと思っています。

②デジタル共創

線路内で作業員が足元をライトで照らし確認作業をしている写真と、白いボックス型の装置の写真

メトロウェザー株式会社が開発した「ドップラーライダー」という風力計測デバイスを活用して、線路内の支障物検知を行います。これは「風力計測で用いるレーザー光の解析技術を、リアルの物体捕捉に応用できるのでは?」と考えたものです。現在、線路内工事では毎回人が夜間線路内を歩き、工具の置き忘れがないか検査していますが、このデバイスを使うことで作業の安全性向上と生産性向上が実現できるものと期待しています。スタートアップの技術とリアルな鉄道現場の課題がぶつかることで、カタチになるいい例だと思います。

③地球共創(SDGs)

海岸の駅に併設された小さな建物の屋根にソーラーパネルが設置されているイメージ写真と、養殖されているエビの写真

株式会社ARKは、超小型の閉鎖循環式陸上養殖システムを開発するスタートアップ企業です。彼らとチャレンジするのは、日本初の駅での陸上養殖。駅の遊休スペースを活用してエビの養殖を行います。実証実験の場所は、常磐線浪江駅です。ここで新たな産業をつくり、地域活性化、震災復興を後押ししたいと思っています。
また、このシステムは再生可能エネルギーを使用し、「海を休ませる」「未来のタンパク質を確保する」といったSDGsを推進する目的もあります。小さなスタートですが、大きく広げていきたい大切なチャレンジです。

――鉄道事業に加え、地域共創、DXなどの分野でも事例が生まれているのですね。

いずれも最初は小さな事業の種でした。しかし社会インフラを解放すると、一気に社会実装が進みました。実験場が駅や鉄道などのリアルな場であることが多いので、直接エンドユーザーとなるお客様の笑顔を見たり、自らの目で売上を確認したりすることができますから。これこそが、JR東日本スタートアップが創出する新規事業の特長であり強みです。

笑顔でインタビューに答える柴田さんの写真

>>次回 【JR東日本編 #4】コロナ禍の大打撃はチャンス、新規事業は僕の「青春のリベンジ」 につづく

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※本記事の内容は2022年6月時点のものです。

あらゆる人に起業の機会を。

Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から8年で、100件以上の事業化検証、19の事業を創出(2022年3月末時点)。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、新規事業支援サービスとしてみなさまにご提供しています。

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