2022.09.22
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【JAL編 #2】最初の壁は「いかに社内の信頼を勝ち得るか?」だった

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、日本航空株式会社(以下JAL)。JALでは、人財とテクノロジーを融合し、JALならではのサービス・価値を生み出すことでさらなる事業成長を図るべく、2017年より新規事業組織を設置。業務のデジタライゼーションに加え、CVC(Corporate Venture Capital)として投資も行いつつ、社内外のイノベーションを促進するための活動を行っています。

日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 イノベーション推進部 部長 斎藤 勝さんが語る、新規事業組織をゼロから1人で立ち上げた裏話、航空会社が取り組む意外な新規事業とは?JALの新規事業組織のリアルに迫ります。

新規事業組織を"仲間"だと思ってもらうために

――新規事業組織を作る際、もしくは作った後に立ちはだかった壁はありますか?

最初の一歩から壁でしたよ。組織で「何をやれば良いか?」を考えることからスタートしましたから。新規事業組織では既存事業以外の新しい領域での事業はもちろん、本業である航空事業のビジネス変革もスコープにありました。

組織が少しずつ形になり始めた頃にはメンバーが数人に増えたこともあり、まずはメンバー全員で、社内のいろいろな部署に新しいことをやろうと提案してまわったんです。しかし他部署には話を聞いてもらえませんでした。「こんなことをやったら良いと思うんだけど」と提案しても、「あなたたちにやってもらわずとも自分たちでやるから大丈夫」と言われるんです。

当時の私たちは「新しいことをやる」「イノベーションを起こす」というミッションだけを持っていて、権限やアセットは一切ありませんでした。だから大変だったのです。そのため、まずは空港などの現場に新規事業組織のメンバーがべったり張り付くことから始めました。他部署の人たちに「この人たちは仲間だ」と思ってもらうことが狙いです。そうやって地道に信頼を勝ち得ていきました。

JAL Innovation Lab内のコルクボード(JAL Innovation Labのオープン時、新規事業組織の立ち上げメンバーや役員が集まり、写真と共にオープンイノベーションへの意気込みを書いてもらった。)
当時の斎藤さんの写真

――はじめの第一歩は、社内の信頼を勝ち得ることからだったのですね。具体的に、どうやって味方を増やしていったのですか?

例えば、航空機や部品の整備業務を担う部署にVRを活用した訓練教材を導入したことがあります。整備作業にはエンジンの試運転などを含めて綿密な訓練が必要で、VR教材を訓練過程に入れることで、操作の習得向上を狙っていたのです。

しかしこのケースでも、最初はなかなか話を聞いてもらえませんでした。そのため新規事業組織のメンバーの1人が3か月ほど現場に通い詰め、整備訓練の教官の方々と「ああでもない、こうでもない」とみっちり話し込んだのです。その結果、はじめは門前払いされていたにもかかわらず、3か月後にはそのメンバーは教官に可愛がられるレベルまでの関係性を構築。VRを活用した訓練教材も、現場の声を取り入れつつ一緒に創り込むことに成功しました。

整備分野での実証実験の様子

生まれた成果は現場に譲る

――新規事業組織が立ち上がったばかりで、まだ権限やアセットが十分に無い段階でのアプローチとしてとても参考になります。

いろいろな事例を重ねて私自身が感じたポイントはもう1つあります。現場にべったり張り付いた上で、「生まれた成果は現場に譲る」のです。

これは難しいことですが、仕事を通じて生まれた"成果"は、関係者全員が自分や自分の組織のものだと言いたくなります。そのため、私たち新規事業組織は、「成果は現場にお渡しします」という姿勢を取るようにしています。あくまでも私たちが行ったのは現場のサポートだ、という考え方をするのです。
一方で傍から見ると「お前らは何もやってないのか」と思われてしまうので、現場の方々には「次に繋げるためにも、周囲には一言"新規事業組織のおかげだ"と言ってもらえれば」とお願いはしています(笑)。このバランス感が大切ですね。

――なるほど、現場とのバランス感覚ですね。本社のマネジメント層や間接部門の方々とのコミュニケーションのポイントはありますか?

企業内で新規事業を推進する上では、「役員」「中間管理職」「現場」のレイヤーをおさえておくことが必要不可欠です。どこかが抜けると失敗するんです。日本企業は特に、会社のトップが言っても中間管理職や現場が納得しないと物事が浸透しづらいことが多いと思います。役員の方々にはどういうコミットをしてもらい、中間管理職にはどう交渉して、現場にはどう納得してもらうか?を常に考える必要があります。

――ゴールを見据えて、戦略的に関係者を巻き込んでいく必要があるのですね。

これはどの会社のどういった組織でもよくあることだと思いますが、私たちのような新規事業組織の提案に対して、はじめは多くの組織から「そんなことは役に立たないよ」と反発されることが多いと思います。しかし、その提案が上手くまわり始めるとどうでしょう、一変して多くの関係者が「上手く行くと思っていたよ」「自分たちでもやろうとしていたんだよ」「大丈夫、後は自分たちでやるから」と言い始めるのです。

この状態になれば、関係者の方々は自走してくださるようになります。その時には私たちは一歩手を引き、後はお任せします。新規事業組織として次に私たちが見据えるのは「この成功事例を一般化して、社外に出して事業化できないか?」ということなのです。JAL内の既存業務の改善を1つの成功事例と捉え、そのサービス・価値を社外にも展開することによる新規事業創出を狙っているのです。

新規事業組織メンバーが実証実験を行う様子

現場と本社のリアルを見てきた、波乱万丈な30年間

――戦略的なアプローチで新規事業組織を推進されている斎藤さんですが、これまでのキャリアで一番糧になっている経験は何ですか。

私はこれまで、本当にいろいろなことをやらせてもらってきました。改めて振り返ると、キャリアの面ではデジタルやテクノロジーに一貫して携わってきたことと、空港勤務時代の現場でのリアルな経験が今に活きているでしょうか。また、経営統合と経営破綻を経験したことも、大きな起点になっています。

私は日本エアシステム(以下JAS、2002年にJALと経営統合)に入社し、最初の頃は本社の営業部門でデータベースマーケティングをやっていました。業務内容は、営業のデータを使って需要を予測したり、施策を検討して役員に提案したり。私はもともと文系出身ですが、この経験がデジタルに携わるきっかけになりました。

その後は空港で約6年勤務し、お客さまのチェックインや搭乗のオペレーションなども担当。この期間に、リアルなお客さまと実際にコミュニケーションを取り、現場を知ることが出来ました。本社オフィスにいるだけでは知りえなかった、多種多様で思いがけないニーズがあることを知りましたね。
本社の人が考えた施策が、現場のニーズを汲み取れておらず「これは何だ?」と言われてしまうケースはよくあると思います。今の新規事業組織でそういったことが起こらないよう、メンバーには「現場に根をはれ」と言っています。

インタビューに答える斎藤さんの写真

――斎藤さんご自身のリアルな経験が、まさに新規事業組織の戦略に活かされているのですね。経営統合などはその後の出来事ですか?

2002年にJAL・JAS統合で会社が統合されました。その時期に、業務の一環で国内外のITやテクノロジーを勉強しました。今から約20年前の当時先進だと言われていた技術は、今当たり前になっているものばかりです。例えばICチップをモノに入れて管理するテクノロジーは、当時欧米で実証実験が盛んに行われている段階でしたね。

その後、大阪オフィスで総務業務をやっていた頃にJALが経営破綻。「多くの人に、本当に大きな迷惑がかかってしまう」ということを痛感しました。大企業と言われている規模でも本当に潰れてしまう可能性があること、そして「自分たち発信で"新しいこと"をやらなければならない」ということも身にしみて感じました。

本社に戻りeコマースやデジタルマーケティングの統括をしていた時に、当時の社長が新しい部署としてデジタルイノベーション推進部を設立。そこから今の新規事業組織が生まれたわけです。

>>次回 【JAL編 #3】観光農園、空飛ぶクルマ、ドローン物流?JALの"強み"を活かす新規事業 につづく

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※本記事の内容は2022年9月時点のものです。

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Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から9年で、120件以上の事業化検証、20の事業を創出(2022年6月末時点)。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、新規事業支援サービスとしてみなさまにご提供しています。

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