Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、ソニーグループ株式会社でスタートアップの創出と事業運営を支援するSSAP。
SSAPの責任者 小田島 伸至が新規事業組織の立ち上げの過程でぶつかった数々の“壁”、新規事業には意外にも関係が無かったポイントとは?これまでに19の事業を創出してきたSSAPの過去と今、そして未来に迫ります。
当たり前だと思われていた"常識"が覆された瞬間
――SSAPから、これまでに19の事業が生まれています。特に印象的だった事業はありますか。
どの事業も、生まれた瞬間は今でもはっきり覚えていますし印象的でした。特徴的な事業という意味では2つ、スマートウォッチ「wena」とスマートロック「Qrio Lock」でしょうか。
――まず、スマートウォッチ「wena」は、どのような点が特徴的ですか。
wenaは、「新規事業に“年齢”は関係ない」ということに気付かされた事業です。

SSAPが立ち上がった当初、「新規事業はある程度キャリアを持った人が自らのノウハウや経験をベースに立ち上げるべきだ」と、ソニー社内ではよく言われていました。しかしwenaのアイデアの発案者は、当時ソニーに新卒で入社したばかりの、入社1年目の新人。彼がwenaのアイデアを発案し、事業化の過程でさまざまな人を巻き込み、最初の製品をお客様の手元に届けた時には多くのファンが生まれました。wenaはソニーの新規事業の1つとして価値を創り出し、実際にたくさんのお客様に喜ばれたのです。この時に私は「新規事業に年齢は関係ない」と確信しました。
そうは言っても、新人には社内外のネットワークや専門スキルが足りない時もあります。その際には、SSAPに在籍する各分野のアクセラレーターでスキルの補填が出来ることがわかりました。この事業が生まれ成長していく過程は私にとっても学びが多く、また再現性がある事例でした。
――新入社員が社内で新規事業を立ち上げるとは、インパクトが大きいですね。次に、Qrioはどのような特徴が?
Qrioは、ソニー内かソニー外かという「企業の垣根は関係ない」と気付かされた事例です。

Qrioはソニー外の企業から持ちこまれたアイデア。当時、スマートロックのポテンシャルにいち早く気づいた発案者から相談いただき、ハードウェアを作るノウハウや暗号化技術を持つソニーと一緒にジョイントベンチャーを作る形で商品化・事業化が実現したのです。
Qrio が事業化するまでは、新規事業を創るために社外と組むことに対して「企業文化が違うと上手くいかないのでは?」と言われていました。しかし実際に社外との協業に挑戦し生まれたQrioは事業化し、今でも事業を拡大中です。
この事例で私は、「企業の垣根」は関係なく、むしろ「アイデア」と「やる気」があれば垣根を越えたコラボレーションも1つの鍵になることを確認しました。
――"年齢"は関係ないことを証明した「wena」、"企業の垣根"は関係ないことを証明した「Qrio」。これらに共通していたことはありますか。
そうですね、どちらの事業もまず「アイデアとやる気」があり、目標と目的が明確でした。目標と目的はプロジェクトの中でも、またプロジェクトと組織のマネジメントである私の間でも、共通認識として摺合せが出来ていました。この条件が満たされれば、年齢も企業の垣根を問わずに新規事業を創ることができると思います。

ソニーでは、「誰でも事業を立ち上げられる」
――なるほど。wenaやQrioが生まれた後、似た事例は生まれたのでしょうか。
まず、プロジェクトリーダーやメンバーの年齢を気にしなくなりました。wenaの後、SSAPからはロボットトイ「toio™」などが誕生。プロジェクトリーダーとして活躍した人の多くは、ソニーの平均年齢よりも随分と下の若手社員でした。
社外との協業の可能性に気付いてからは、2015年に株式会社ZMPと共にドローンソリューションの開発・実用化に取り組む「エアロセンス株式会社」を立ち上げ、2018年からはSSAPの新規事業プログラムの社外への提供を開始。これらはQrioでの実体験がきっかけです。
――SSAPをハブに新規事業が生まれ、ソニー社内で何か"変化"はありましたか。
「誰でも新規事業を立ち上げられる」という意識ができたように感じます。そして事業を創ることが、社内で当たり前になってきました。
機会を提供することと環境を整え文化を創っていくことが大切で、SSAP自体も日々改善を重ねています。
異業種の協業が、斬新なアイデアを生む
――SSAPは2018年より、社外に新規事業全般を支援するサービスを提供しています。
SSAPを社内で始め、"年齢"と"企業の垣根"は関係ないことに気付きました。一番大切なのは、共通の目標・目的を持てるか?そして優れたアイデアとやる気がある人たちがいるかどうか?という点。ありがたいことに大企業で新規事業を創出するという目的に対して力を貸してほしい、ノウハウを提供してほしいという声を多数いただいたこともあり社外にサービスを提供していますが、同時に積極的に協業する機会も模索しています。組む相手の属性やバックグランドは問いません。
――社外はどのような層にサービスを提供していますか?
現在、20業種(※)の企業、NPO・教育機関などの方へサービスを提供したり、協業したりしています。領域は幅広く、医療ヘルスケア、教育、エンタメなどさまざま。
社会人だけでなく学生を含むZ世代とも連携し、我々だけでは思いつかないアイデアで、事業創出に挑戦しています。例えば先日は、東京大学とSSAPの社会連携講座で学生のピッチを聞きましたが、若い人ほど社会貢献のマインドが高く、以前にもまして社会課題解決に繋がるアイデアが多いことを実感しました。
京セラ株式会社や株式会社LIXILをはじめとする大企業や、グレースイメージング社などのベンチャー企業にもサービスを提供しており、日々新規事業の創出に取り組んでいます。

>>次回 【ソニー編 #4】新規事業は私のライフワーク につづく
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※本記事の内容は2022年4月時点のものです。