Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、株式会社ニチレイ(以下ニチレイ)。ニチレイではグループ全体で新たな価値を持続的に創り出すべく、2022年4月より新価値創造部を設置し新規事業を生み出す仕組み作りや事業開発を行っています。
株式会社ニチレイ 戦略本部 新価値創造部長 柴田 雅浩さんが語る、食のフロンティアカンパニーで新規事業を行う理由とは?課題解決にこだわるニチレイ流の、事業創出の意外なアプローチとは?
ニチレイの新生・新規事業組織のリアルに迫ります。
「真面目」から一歩ハミダス挑戦
――まず、ニチレイのミッション・ビジョンや事業領域を改めて教えてください!
ニチレイは企業経営理念として「くらしを見つめ、人々に心の満足を提供する」というミッションを掲げています。
ニチレイグループは、持株会社である株式会社ニチレイと、事業ごとに分社化された各社で構成されています。
――ニチレイと言えば冷凍食品などの加工食品のイメージを持つ方が多いと思いますが、企業としての風土や雰囲気は?
そうですね、風土としては周りのお客様にはよく「真面目だね」と言われますし、私自身もそうだと思っています。遵守すべきルールが多くリスクマネジメントに長けているからかもしれません。この「真面目さ」は食に携わる企業として必要不可欠。しかし真面目になりすぎると新しいチャレンジができないという側面もありますね。
そのためニチレイでは、よりチャレンジしやすい風土にするべく活動を行っています。例えば事業会社である株式会社ニチレイフーズでは2011年から社内風土改革「ハミダス活動」を行っています。「みんなでどんどんチャレンジしていこう」「好きなことをやっていこう」という、社員が“ハミダス”気持ちを形にしていく風土を作ろうとしているのです。
はじめの第一歩は、過去の挑戦事例の徹底分析
――真面目だと言われることが多いというニチレイ。新規事業はどのような組織で推進されていますか?
ニチレイは2022年4月から、ホールディングスである株式会社ニチレイに新価値創造部を設置。私はこの部署の部長として組織をマネジメントしています。
――新規事業組織「新価値創造部」はどのようなきっかけで作られたのでしょうか。
ここ最近、ニチレイの中で「新しいイノベーション・事業・チャレンジをどうやって起こしていけば良いのだろう?」という議論が何度も行われていました。長期経営目標「2030年の姿」の実現に向けて何が必要なのかを検討する過程で、1つの答えとなったのが、新価値創造部という新規事業組織を作ることだったのです。
ニチレイは戦後創業された企業で、長い歴史があります。さまざまな事業開発や商品開発をしてきた背景には、数多な失敗があるわけです。実は新規事業組織を立ち上げる過程で、過去の挑戦の歴史を遡り、数十の挑戦事例に対して、ニチレイが新しい挑戦をするときの成功パターン、やってしまいがちな癖について分析しました。そのために実際に携わった約50人にヒアリング。「ニチレイらしいチャレンジの仕方は?」「何をやれば上手くいくのか?」「どういった壁があり、それにどう躓いたか?」を徹底的に洗い出しました。
そこから編み出されたのは、ニチレイの体質や勝ちパターン、そして躓きやすいポイント。これらの分析結果をベースに、「ニチレイらしい新しい価値」を創り、推進するための組織として新価値創造部が立ち上がりました。
――ニチレイのこれまでのノウハウも可視化した上で設立された組織なのですね。具体的に、組織ではどのような活動をされていますか?
新価値創造部には大きく2つのグループがあります。1つはIMS企画グループ、もう1つは事業開発グループです。
IMS企画グループでは、主に新しいアイデアを社内から集める活動を推進。ちなみにグループの名称の「IMS企画」は、2019年に発行されたISO56002(※)で示されたガイドライン、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)が由来です。
一方の事業開発グループでは、社内から生まれたアイデアをインキュベーションする役割を担っています。
私は、イノベーションとは決して「凄い人がやるもの」ではなく、「日常の生活や業務の中にあるもの」だと考えています。新価値創造部では、そういった日常に転がるアイデアを拾いあげようとしています。
――社内からアイデアを集め、事業化まで行っているとのこと。ニチレイ独自の仕組みがあるのですか?
過去の挑戦事例分析から、価値創造に必要なスキルを学び事業化に挑戦できる場が必要ということになり、価値創造のプラットフォームとして、「ニチレイアクセラレーションプログラム MinoruN」を立ち上げました。MinoruNは「皆さんの想いが実る」「ニチレイの未来につながる実(事業)が実る」などの意味を込めて名付けました。読み方は“みのるん”です。
MinoruNには、教育プログラムと事業化プログラムがあります。教育プログラムでは「事業機会の見つけ方」「ビジネスモデルのつくり方」などを基礎から学べる環境を整えています。事業化プログラムで重視していることは、スピーディーに仮説検証を回し、事業の立ち上がりの蓋然性を上げていくこと。そのために様々な部署の支援をいただきながら、独自の仕組みを構築中です。
立ちはだかる数多の壁、乗り越えるカギは社内の連携
――組織を作る際、もしくは作った後に立ちはだかった壁はありますか?
本当にいろんな壁がありましたね。そして現在進行形で壁にあたりつつも進んでいるところです。
まず、ニチレイの風土はとても真面目。それに加え、私達は食の領域で事業を展開していますから、品質保証や法律の問題やさまざまなリスクを考慮する必要があるんです。
一方で新規事業は、まずは小さく始めスピード感を持って仮説検証を繰り返す必要がある。最初からがちがちに型にはめると動きが遅くなります。
――守るべきラインと新規事業に求められるスピードとのバランスを取ることが、1つの大きな壁なのですね。
そうですね、さまざまなリスクを考慮しつつ新規事業を推進するためには、社内の知財や法務、経理などの色々な部署の方の協力が必要不可欠でした。「このくらいの規模であれば、このくらいのリスクを許容してやってみよう」という会話を重ね、それらを経験値にしつつ、事業を生み出そうとしています。
>>次回 【ニチレイ編 #2】チームで事業を創る必勝法 につづく
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※本記事の内容は2022年7月時点のものです。