2023.01.23
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【凸版印刷編 #3】凸版印刷のアセット×地元企業のインフラ×スタートアップ企業の技術・アイデア

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)。凸版印刷では、事業領域の拡大と新たな価値の創出を図るべく、福岡を拠点とする新規事業組織を2017年に設立。スタートアップ企業などの事業アイデアと凸版印刷の経営資源を融合させ新規事業を共創する、公募型のオープンイノベーションプログラムなどを実施しています。

凸版印刷株式会社 九州事業部 ビジネスイノベーション営業本部 DX推進部 部長 高 博昭(たか・ひろあき)さんが語る、福岡を拠点に新組織を立ち上げたワケと福岡ならではのメリットとは?これからの凸版印刷が注力する領域と、高さんご自身のターニングポイントとなったある事業とは?凸版印刷の新規事業組織のリアルに迫ります。

BtoBのネットワークを活かした意外なヘルスケアアプリ

――凸版印刷ではさまざまな新規事業に取り組まれていると伺いました。具体的にどのようなジャンルの事業がありますか。

SNSマーケティングのためのWebサービスや、物流領域のBtoBビジネスとして倉庫内の在庫数量を自動計測するIoT重量計 、地方創生を目的とした観光促進のためのトータルソリューションの提供など、多岐に渡ります。

――事業化した案件の中で特に印象的だったものは?

今の新規事業組織が出来る前の話ですが、僕自身が初めて立ち上げたデジタル印刷事業は現在進行形で成長を遂げています。この事業は、軟包装分野で小ロットかつ多種多様なパッケージを実現するトータルソリューションで、トッパンFP(Flexible Packaging)デジタルソリューションと呼ばれています。従来はお菓子や食品など軟包装を用いた商品パッケージは1種固定のデザインで印刷されることが多かったのですが、このソリューションを使うことで、地域や季節、メッセージなどのバリエーション展開を実現できるのです。例えば「観光名所や季節の行事ごとにパッケージデザインを変更し、商品にオリジナリティを出したい」「テストマーケティングのために、複数の候補商品を少量で生産して販売したい」などの顧客のニーズに応えています。

それぞれ赤・緑・青をイメージした、カラフルなパッケージの袋
「トッパンFPデジタルソリューション」を用いて生産した製品サンプル(色やデザインのバリエーションを実現できる)

最近ではこの事業の派生サービスとして、顧客のニーズに応える形でWEB通販パッケージ印刷サービス「EASY ORDER PACK™」も誕生。これは最小ロット1,000枚からオリジナルのパッケージをWEB上で注文できる画期的なサービスです。新しく、現在進行形で規模を拡大中の事業という意味で、やはりこの事例は僕の中で印象的ですね。

軟包装パッケージをWEBで受注する「EASY ORDER PACK™」 最小ロット1,000枚からオリジナルパッケージのWEB注文が行える、WEB通販パッケージ印刷サービス。レトルト食品や健康食品、お菓子、ペットフードなど軟包装を用いた商品パッケージに対応。

――高さんが立ち上げに携わった事業は現在も拡大中なのですね。現在の新規事業組織から生まれた事業は、どういったジャンルなのか気になります!

我々の組織から生まれた事例でいくと、1つはBtoBのヘルスケアアプリ「たまると™でしょうか。ヘルスケアアプリというとBtoCのサービスをイメージされる方が多いかもしれませんが、我々が開発したのは会社の人事系の部署に導入し、福利厚生業務に活用できるアプリ。凸版印刷の社員も一部、このアプリを活用しています。

福利厚生業務に活用できるヘルスケアアプリ 「たまると™」 社員の健康増進機能、コミュニケーション活性化機能、モチベーションケア機能、総務系業務の効率化機能を持つアプリ。 コロナ禍におけるリモートワーク推進による社員同士のコミュニケーション不足や、在宅勤務増加による運動不足を解消できる。

我々にとってもそうですが、全ての企業にとって社員は宝です。そんな社員にどのように心身共に健康に働いてもらうかは、とても重要な課題。これらをデータで可視化し行動変容を促せるのが、このヘルスケアアプリです。例えば歩いた歩数に応じて社員にポイントを付与できる他、日々の感情や体の具合を登録することでモチベーションをケアする機能、社員間のコミュニケーション促進の目的で、業務上でサポートしてもらった人にアプリ内のポイントをお礼として送り合う機能など。社員の健康増進やコミュニケーション活性化などの機能を持ちます。

凸版印刷が、アジア地区のスタートアップ企業の玄関口に

――高さんの組織で行っているオープンイノベーションプログラム「co-necto」からも、いくつか事業が生まれていると伺いました。まず、このプログラムについて教えてください!

我々は凸版印刷と地域のパートナー企業とスタートアップ企業の3社での事業立ち上げを目的としたオープンイノベーションプログラム「co-necto」を毎年行っており、この事例はプログラムから生まれた事業です。今年度は、交通系、インフラ系、テレビ、金融機関など、地域の経済の中で重要なインフラを持っている企業24社が参画しています。対象エリアは、九州から関西地区まで拡大してきています。

シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの4色を取り入れたロゴデザイン
co-nectoのキービジュアル

――co-nectoから生まれた事業はありますか?

色々と生み出してきましたが、体制の面で面白いのは、台湾のスタートアップ企業と一緒に事業を展開した事例でしょうか。

肌測定デバイスと専用アプリによるパーソナルスキンケアサービス「SkinCatch」というものです。

軟包装パッケージをWEBで受注する「EASY ORDER PACK™」 最小ロット1,000枚からオリジナルパッケージのWEB注文が行える、WEB通販パッケージ印刷サービス。レトルト食品や健康食品、お菓子、ペットフードなど軟包装を用いた商品パッケージに対応。

このスタートアップ企業はもともと台湾でサービスをローンチしており、我々との協業は日本でのビジネス展開を検討するフェーズで始まりました。海外のサービスを日本に持ってくる際には輸入許可や電波法の規定、販売する際には雑貨か医療機器かの定義など、調整すべき点が数多くあります。

また日本人同士のコミュニケーションであれば暗黙の了解で進むようなシーンでも、海外との協業となると即座にYesかNoを求められます。既存事業ならまだしも、新規事業で国境を越えて連携をすることは苦労の連続でした。

――海外のスタートアップ企業との協業事例もあるのですね。

co-nectoには海外からの応募者が多いです。福岡は地理的に、台湾などの地域や韓国、シンガポールなどの東アジア諸国から距離が近いこともあり、アジア地区の玄関口として機能出来ているのではないでしょうか。また、福岡市と台湾は行政同士で情報交換をしていたり、海外のインキュベーション施設と連携協定が結ばれていたりするので、そういった基盤を活用して僕らも出張ベースでネットワークを広げています。

――福岡特有の海外との接点があるのですね。ちなみにco-nectoから生まれた事業をパートナー企業との連携でサポートするとのことですが、24社ものパートナー企業との連携は上手く行っていますか?

最初にこのプログラムを始める時には、周りから「外部の企業が24社も入ったら上手く行かないのでは」「まとまらないと思うよ」などと言われました。でも、これが上手く行っているのです。これは企業間の横連携が強い福岡ならではだと思います。

会社の中からも「なぜ九州だけ、他社との協業がうまくいくのか?」とよく聞かれます。東京や他の地域だと連携がしにくいということもよく聞きます。

僕が思う要因の1つは、福岡において凸版印刷の事業は、どの企業とも競合状態にないこと。もとは印刷会社なので、交通インフラや銀行などとはもちろんライバルにはならず、中立的なポジションで他社をまとめることができるのです。

他にも、地元企業では僕らと同様に新規事業組織が徐々に立ち上がり始めています。その中で何か成果を生み出さなければならない企業が多く、パートナー企業の方々にはco-nectoのプログラムを手段として使っていただいているケースもあります。プログラムを通じて最終的に製品・サービスを生み出すことが共通目標です。

生まれた事業を撤退させる基準やタイミングは…?

――多くの事業が生まれていますが、これらには凸版印刷のどのようなアセットが活かされていますか?

凸版印刷の仕事は、ご存知の通り従来は印刷を核にしていました。印刷事業で行われていたのは「課題解決型営業」。お客様に課題を聞いて、それを持ち帰って課題を解決するソリューションを考え、ビジネスにしていたのです。その過程で、時代の流れに合わせてマーケティングやIT開発、製品・サービスの導入や運用を行う組織が構築されてきました。

これらの一連のアセットは、まさに新規事業を生み出し拡大する過程で必要なもの。逆に言うと、これらの流れに沿わない新規事業は無いといえます。既存事業で必要とされてきたアセットを、そのまま新規事業に展開し活用できていると思います。

――なるほど。ちなみに、どの企業でも生み出した事業全てが成功するわけではなく、撤退するタイミングや基準の判断が難しいと聞きます。新規事業を数多く生み出してきた高さんの組織でのルールなどはありますか?

明確に「●年で●●まで到達できなかったら撤退する」というルールは敢えて設けていません。しかし、限られたアセットの中でどの案件に注力すべきかを冷静に判断するようにしています。

新規事業を世に出し、それを拡大するまでのプロセスは長いですから、その件数が多くなれば、どこかのフェーズでスタックする案件が出てきます。その時に他に注力したい案件が出て来ていれば、スタックした案件は撤退するということは、正直やっています。

一度始めた案件はできるだけ終わらせたくはないですが、新規事業は製品・サービスを作って、ニュースリリースを出すことがゴールではなく、ローンチした後からが本番

僕自身は、生まれた事業を本当にビジネスとして回して、お金を稼ぐことが新規事業の醍醐味だと思っていますから、「リリースを出したら会社から飛びしたっていい」くらいの気持ちでいつも新規事業を見ています。

笑顔でインタビューに答える高 博昭さんの写真

>>次回 【凸版印刷編 #4】新規事業の山頂に、改善型のアプローチで登りつめる につづく

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※本記事の内容は2023年1月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により270件以上の支援を22業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2022年12月末時点)

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