Sony Acceleration Platformによるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、Sony Acceleration Platformの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、株式会社オカムラ。戦後、航空機の技術者たちが、資金、技術、労働力を提供し合って創業したオカムラは、1945年からモノづくりを通して日本の発展に貢献する、オフィス家具メーカー。新たな協業や市場の開拓など、オカムラの意外な新規事業とは?モノづくりが起点となる新規事業組織のリアルに迫ります。
オフィスでいちご栽培。コミュニケーション不足を解消したソリューション
――「事業部や外部企業との連携」で生み出された事業を教えていただけますか?
事業部や外部企業と組んでアイデアを形にした例としては「City Farming(シティファーミング)」という取り組みがあります。
いちごの植物工場と働く場を掛け合わせた新しいコミュニケーションパッケージを、日本出版販売株式会社とオカムラで共同開発しました。このシティファーミングは従業員同士が協力し合い、オフィス内でいちごを栽培するという仕組みです。部署の枠を超えた従業員が集い、いちごの雄しべと雌しべを受粉させて果実を実らせ収穫します。一見、オフィス内でのいちご栽培にどんな効果があるのかと疑問に思うかもしれませんが、展覧会でいちご栽培用のショーケースを見た時に、私の中で「これだ!」とアイデアが芽生えました。
――オフィス家具メーカーのオカムラがシティファーミングに取り組んだ理由は何でしょうか?
私はオフィス環境事業の営業に長く関わっていたので、オフィスでのコミュニケーション不足を解消するためのソリューションをずっと考えていました。よくあるコーヒーを淹れる40秒で会話が生まれるという方法も上手くいかない場合があります。部署が違う人だと共通の話題が見つけられないこともありますし、仕事のことを考えていたらそもそも話しかける余裕はありません。それを解決するのがオフィス内でのいちご栽培です。目的を設けて、共同作業にしてしまえば、学校の委員会のように会話が生まれるのではと思ったのです。
――意外にも「学校の委員会」にヒントがあったのですね。オフィスの中でいちごを育てるという、既存の枠組みでは決して想像もしなかったアイデアが具現化されるまでに、どのようなプロセスがあったのでしょうか?
シティファーミングは、もともと生活空間にいちごの植物工場を提供するという目的で構想されていました。いちごを栽培するファームケースの製造パートナーとして、オカムラの商環境事業本部が製品開発に関わっていましたが、私がシティファーミングのオフィス環境への展開を提案したことで、オフィス向けのサービスパッケージの共同開発が始まりました。
いちご栽培というソリューションを持ち込むことで、オカムラの既存のお客様にも新しい価値を提供できるようになりました。私たちがシティファーミングの魅力を伝えれば伝えるほど、ファームケースの製造工場は稼働し、日本出版販売の事業は推進されます。まさに三方よしの仕組みとなりました。社内だけで知恵を絞っていても生まれない価値だったと思います。
まずは試験的に、オカムラの渋谷のラボオフィス「CO-EN LABO」にシティファーミングが導入されました。今では部署を超えて、従業員たちが栽培の様子を社内SNSへアップし、収穫したいちごをオフィス内で配って歩く姿が日常の風景となり、オフィスでのコミュニケーション不足を解消するソリューションになっています。
プロダクトの魅力を信じることで生まれる可能性
――既存製品を活用した市場創出では、どのような事業をされているのでしょうか?
自動荷物預かりシステムとして開発したのが「BAGGAGE KEEPER(バゲッジキーパー)」です。スーツケースなどの重く大きな荷物を高さ方向も活用して効率的に収納し、無人受付で荷物預かり業務の省人化を実現する製品です。もともと私たちの既存事業領域では、ホテルがメイン市場となっていました。現在は既存の事業領域にはなかった新しい市場に向けた提案にチャレンジしています。
実はバゲッジキーパーの開発当時、東京オリンピック前の需要を見込んでいました。しかし、コロナのタイミングもあり、当初予定していたほどの需要が見込めなくなり、セールスにも苦戦していたんです。
プロダクト自体はとても魅力があるものでしたので、必ずどこかに価値が生まれると信じて、まずはバゲッジキーパーを広めたかった理由に立ち戻り、整理をはじめました。そこで私たちが再設計したのは、「手ぶら観光の実現」というゴールです。
2030年に訪日外国人は6000万人になると言われています。それと同時に叫ばれているのが、ホテルをはじめとする観光地での人材不足です。荷物預かり業務の省人化を実現するバゲッジキーパーの魅力を見逃さず、発想の転換により新たな市場開拓が視野に入りました。
そう考えると当初の顧客ターゲットであったホテル以外にも、空港、駅、遊園地、テーマパークなどさまざまな可能性が見えてきたんです。「手ぶら観光の実現」に向け外部企業と協業して新しい事業モデルの創出にもチャレンジしています。
新しく開発した商品だけでなく、金融店舗で必要とされてきた大きな金庫扉の製造など、金融店舗の統廃合により需要が縮小しはじめた分野についても、発想の転換で新たな価値が生み出せないか工夫を続けています。プロダクト自体に魅力があれば、新しい場所でまた輝けるかもしれない。まだまだ考え尽くしていない余地があれば、地道にトライを続けています。
4社で実現したオープンイノベーション
――その他にモノづくりから始まった新規事業はありますか?
他社からの提案に可能性を感じつくり出した新たな製品もあります。オフィス内や公共施設内で静かで快適な仕事環境を実現する、フルクローズ型のワークブース「TELECUBE(テレキューブ)※」です。一人用で外寸幅120cm×奥行き120cmというコンパクトな空間でありながら、内部にはテーブルとソファがあり、タブレットやノートパソコンなどで快適に仕事を行なうことができ、オフィスの屋内空間から駅構内などの半屋外まで、さまざまな場所に設置できる「最小限のワークプレイス」です。
※オカムラの製品名は「TELECUBE by OKAMURA(テレキューブ by オカムラ_)」
テレキューブ開発の始まりは、WEB会議サービスを手がけるブイキューブさんからの打診がきっかけです。ブイキューブさんは、WEB会議もできる世界初の家具として可動型ワークブースを木製の独自のブースとして企画開発発表し、日本中に2万台設置したいというビジネスプランを考えていました。当時、働き方改革で働き方が変わりつつあるタイミングでもあったので、この企画には大きなニーズにつながる可能性があると感じました。
こうして、四方を囲まれた完全個室でありながら、設置や運搬に置いて高い自由度が求められるプロダクトの開発が始まりました。しかし、国内にほぼ前例のない革新的な製品のため、法規などいくつものハードルがあり、社内に特別な開発チームを結成することになりました。また、企画の実現に向け、オープンイノベーションの形でコンソーシアムが立ち上がりオカムラも参画しました。ビジネスモデル構築など、事業全体を設計し、各種実証実験を実施したのち、テレキューブ株式会社、株式会社ブイキューブ、三菱地所株式会社、株式会社オカムラの4社による共同出資で新会社「テレキューブサービス株式会社」を設立するまでに至ります。
現在では一人用の他にも二人用、多人数用なども展開し、オフィス内への設置をはじめ、「テレキューブ」はオフィスビルエントランスや空港、駅構内などの公共空間へも数多く設置されています。
>次回「会社を動かし、アイデアを具現化できる人材を育てるマネジメント」へ続く
※本記事の内容は2024年7月時点のものです。